著者
大島 希巳江
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.14-24, 2011-07-23 (Released:2017-07-21)

欧米などの低コンテキストな多民族社会と、日本のような高コンテキスト社会では人々の間で語られるジョークや笑い話の種類およびスタイルが異なる。コミュニケーションにおいて必要とされる要素がそこにはあらわれると思われる。そこで2010年4月から2011年3月の1年間で「日本一おもしろい話」プロジェクトを運営し、サイト上で日本各地からおもしろい話を募集した。毎週、投稿された話をサイトに掲載し、おもしろいと思う話に投票してもらうというシステムをとり、日本人がおもしろいと感じる話を分析することを試みた。その結果、560の有効な投稿があり、1949票の投票がされた。投票により、毎月のトップ10までを決定し、それらの話の分類と分析を行ったところ、多くが投稿者の体験談であることがわかった。全体としては言い間違いや同音異義語を使った、言葉に関する話が最も多かった。また、年代でみるとおもしろい話の多くは40代、50代、30代からの投稿であった。性別でみると、女性は突発的な偶然から起きる言い間違い・聞き間違いなどに関する話が最も多く、男性からの投稿は作り込まれた言葉遊び、文化・社会を反映した笑い話などが多いことがわかった。今回のプロジェクトで日本人のユーモアの傾向が一部明確になり、また今後の研究の貴重な資料になると考えている。
著者
矢島 伸男
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.83-97, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

本稿は、NHK総合で放送されていたテレビ番組、『爆笑オンエアバトル』の番組内容とそのシステムについて紹介したものである。『爆笑オンエアバトル』は、自由・平等・公平という3つの理念の下、制作者によって「お笑いネタの復権」という理想が掲げられて始まった。番組の特徴である「最低限のネタチェック」「一般審査員への全権委任」「消極的な言葉狩り」は、いくつかの問題を抱えながらも、純粋に面白いネタを見たいと願うお笑い好きの視聴者と、自分の芸風が純粋に受け入れられたいと願う若手芸人によって支持された。15年間の放送を通し、『爆笑オンエアバトル』はコンセプトを崩すことなく、また「お笑いブーム」の有無に左右されず存在した。この変わらざる番組の姿勢によって蓄積された15年分のアーカイブスは、21世紀以降の若手お笑い界の動向を捉える指標となるだろう。
著者
松村 雅史 辻村 肇
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.55-61, 2013-08-31 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1

本研究の目的は、能動的な笑いにより、介入前・後の嚥下時間間隔を評価することである。本研究では、先行研究で開発した嚥下回数自動検出システムを用いることにより無意識・無拘束にて、嚥下音を検出し嚥下時間間隔を計測した。対象者は、介護老人保健施設の入所者28名である。その結果、能動的な笑いにより、介入前より介入後の嚥下時間間隔が減少し、有意差が認められた。笑いの介入により嚥下機能が向上したことが示唆された。また、笑いの介入の実施後の感想から、「ぜひ行いたい」、「また行いたい」と回答した対象者が全体の約90%を占め、笑いの介入をまた体験したいという人が多いことが認められた。以上より、能動的な笑いにより、嚥下機能向上に効果的であったことが示唆された。
著者
青砥 弘幸
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.56-71, 2018 (Released:2018-12-27)

本研究では、教育現場で日々子どもたちのユーモアや笑いに接している現職教員への調査・分析を通して、現代の子どもたちが関連して抱える問題や課題を明らかにした。次の8つの問題や課題をもつ可能性がが導かれた。(1)他者を攻撃するユーモアや笑いを好む傾向があること、(2)ユーモアや笑いの内容についての適切さを判断する力が不足していること、(3)状況とユーモアや笑いとの関係を適切に判断する力が不足していること、(4)真剣さ・誠実さから逃避するためにユーモアや笑いを用いることがあること、(5)仲間との関わりの中で「おもしろければ何をしてもよい」という雰囲気があること、(6)仲間との関わりの中で「おもしろいことをしなければならない」という雰囲気があること、(7)他者を排除するようなユーモアや笑いを表現することがあること、(8)ユーモアや笑いに対して過敏に反応しすぎることがあること。さらに本稿では、それぞれの問題や課題を克服するための指導事項について提案を行った。このような指導内容に基づいた指導を展開し、ユーモアや笑いを適切かつ活用することができるような資質・能力を育成していくことが、現状の課題の克服はもちろん、子どもたちの「ユーモア能力」の育成にもつながっていくと考えられる。
著者
鵜子 修司 高井 次郎
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.120-135, 2018 (Released:2018-12-27)

Ruch, Kohler, & Van Thriel(1996)の作成した状態・特性快活さ尺度(State-Trait-Cheerfulness-Inventory: STCI) は、ユーモア・センスに関連する気質的基盤として快活さ、真剣さ、不機嫌さの3つを、個人の状態ないし特性として測定する尺度である。本研究ではSTCIの特性版(STCI-T)について、各項目の日本語訳を新たに作成し、信頼性・妥当性を検証した。大学生263名を対象にした調査の結果、オリジナルのSTCI-Tを構成する下位特性(facet)モデルは、各下位特性における信頼性の低さから維持されなかった。その代わり、本研究では下位尺度への修正済I-T相関に基づく項目選定から、暫定的なSTCI-T 49を構成した。このときSTCI-Tにおける、3つの下位尺度の信頼性は.73から.89であり何れも高かった。また各下位尺度とBig Five、及びwell-beingの指標の相関は、先行研究の結果を再現した。以上から、STCI-T 49はオリジナルのSTCI-Tに類似した概念を測定する尺度として、ある程度の信頼性・妥当性を有していると結論付けられた。最後に、本研究でオリジナルのSTCI-Tにおける下位特性・因子構造が再現されなかった結果の説明として、考えられる可能性について検討し、今後の課題についてまとめた。
著者
脇本 忍
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
vol.23, pp.83-93, 2016

本研究は、落語に登場する女性が男性に対してつく嘘の動機と構造について検討した。落語はフィクションであり、そこに登場する人物の嘘の是非を問うものではなく、嘘が物語を成立させるための重要な言動になることもある。Ford(1996)の報告では、嘘の動機には、罰回避・自意識維持・攻撃的行動・支配感獲得・騙す喜び・願望充足・自己欺瞞強化・他者行動コントロール・他者援助・他者の自己欺瞞援助・役割葛藤解決・自負心保全・アイデンティティ獲得の13種類があるとされてきた。本研究では、女性が嘘をつく落語作品から、「紙入れ」「星野屋」「芝浜」の3作品に注目し、それらの作品の嘘の動機と照合しながら、各作品に登場する女性たちの嘘について分析を試みた。その結果、「紙入れ」では罰回避と他者支援、「星野屋」では願望充足と他者行動コントロール、「芝浜」では他者援助と罰回避、さらに自負心保全の動機があることが考えられた。男性目線で創作され演じられてきた落語における女性の嘘には、心理的性であるジェンダーの視点から、嘘をついても許せる女性像と、理想の女性像に連関する要因が含まれていることが推察できた。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.19, pp.46-55, 2012-07-21

動物の「笑い」に関するさまざまな記述を整理しながら、動物の行動を「笑い」と認める場合の基準について議論した。ある動物が「笑っている」ということを認めるためにはまず、その行動が生じる社会的文脈が、ヒトの笑いが生じる文脈と似ているということを示す必要がある。表情や音声などの行動形態の類似から、動物が「笑っているようだ」と思ってしまう例も多いが、それが見られる文脈にヒトの笑いとの類似性が認められない場合には、それを「笑い」と見なすべきではない。ヒトの笑いと進化的に同じ起源を持つ行動なのかどうかを問う場合には、行動の類似性だけでなく、種間の系統関係との対応についても検討する必要がある。ヒトの笑いと起源が同じと考えられる行動としては、仲間同士の遊びにおける類人猿の笑い声が挙げられる。
著者
松本 治朗
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.19, pp.141-147, 2012-07-21

神戸市にて実施されている9ヶ月の乳児検診の方式に従い、同検診を筆者の診療所で受けた母児83例を対象とした。検診時に母親の笑いの感情についてフェイス・スケールを利用して評価した。これにより笑いの感情を持つ母親52人(笑い群)および笑いの感情を持たない母親31人(非笑い群)の二群に分けた。この両群において子育て上どのような違いがあるのかについて分析を試みた。すなわち早期産の発症、母親の心配事の有無、分娩様式、出生時および9ヶ月における児の体重、喫煙の有無、あやすと初めて笑った時期、授乳方式に違いはないかについて検討した。その結果、母親がよく笑う感情を持っていることと子育ての心配が少ないこと、および育ちも健やかなこととの関連性が示唆された。
著者
田久 朋寛
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.22, pp.34-46, 2015-08-01

大道芸の盛り上がりは、演技を行う大道芸人の技量のみならず、気候や椅子の有無といった空間特性を含めた環境的要因に大きく依存すると考えられる。本稿では、どのような環境的要因が大道芸の盛り上がりにどの程度影響を与えているのか、統計解析により定量的に分析することを試みる。そのために2012年10月から12月にかけて、同一の演者による大道芸を実施し、43回分のデータを採取した。そのうち、欠損値のない39回分のデータを使用し、盛り上がり(集客数)を従属変数、環境的要因を説明変数とする重回帰分析を行った。分析の結果、5%の有意水準で盛り上がりやすいことが確認できたのは、気温が高い時、直射日光の影響を受けない時、開始直前の人数が多い時、火気を使用した時であった。また、10%の有意水準で、演技者が拠点とする関西地方の方が東海地方より盛り上がりやすいという傾向が見られた。本稿の分析結果は、大道芸の演出技術や、大道芸に関する政策に対して重要な示唆を含むものである。
著者
瀬沼 文彰
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.45-59, 2014

若い世代は、他の世代に比べよく笑っていると言われる。他の世代に比べて楽しいことも多いのかもしれないが、筆者がフィールドワークをしているとそこには少なからず不自然な笑いが見え隠れしていた。笑い合うことで仲間同士、安心し合ったり、実際は「つまらない」と感じているのにも関わらず空気を読んで笑って楽しいふりをしてみたり、まじめな話を避けるためにふざけてばかりいる若者もなかにはいた。これらの笑いは、楽しいから/面白いから笑うというよりもその場の状況や空気に合わせて笑っているように思える。感情はもっと自然であってもいいのではないだろうか。本稿では、若い世代のこうした笑いに着目し、その実態を抽出しつつ、整理し、そこから読み取れる意味を感情社会学の枠組みから考察することが最大の目的である。こうした考察を通して、現代人の笑いのあり方を問い直すことにしたい。
著者
高岡 しの
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.63-74, 2015

本研究は、他者と関わる際にストレスを感じるような場面(以下、対人ストレス場面)のシナリオを用いて、ストレス対処のために産出された具体的なユーモアについてボトムアップ的に分類することを目的とした。大学生396名を対象に、対人ストレス場面を提示し、自身がおもしろおかしく過ごすためにどう考えるかを自由記述で尋ねた。得られた回答についてKJ法を参考に分類した結果、大きく5つのカテゴリーにまとめられた。5つとは、他者を積極的に楽しませようとする「遊戯的ユーモア対処」、相手からの行動を引き出して場を和ませようとする「受動的ユーモア対処」、自らの欠点をさらそうとする「自虐的ユーモア対処」、皮肉やからかいなどの他者に対する攻撃性を含むような「攻撃的ユーモア対処」、話の内容を先読みするなど自分で楽しみを見出すような「自己中心的ユーモア対処」であった。人は場面によってユーモアを使い分けて対処していること、得られたユーモア対処のカテゴリーは、理論的に提唱されたMartin et al.(2003)のユーモアの機能的分類と類似していることも明らかとなった。