著者
谷 敏昭
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.727-733, 2007-07-15

抄録 日本における動物虐待の実態はまだ不明な点が多く残っているのが現状であり,さらには動物虐待と対人暴力との関連性についても知られていない。動物虐待と暴力系犯罪および被虐待歴との関連性を解析し,動物虐待の意義について検討した。少年院に収容された少年(少年院被収容者)61名と2学年時以上の中学生125名が調査対象となった。少年院被収容者においては,さらに本件事件の暴力行為性の有無によって非暴力系犯罪少年と暴力系犯罪少年の2群に分けて解析した。その結果,一般中学生では動物虐待経験率は約40%,非暴力系犯罪少年においては約55%であり,暴力系犯罪少年では約80%がなんらかの動物虐待経験を有することが明らかになった。また,動物虐待と被虐待経験との関連性は認められなかった。わが国において,動物虐待は例外的な行為ではない。今回の結果は,海外で報告されている結果と同じように,対人暴力と動物虐待との関連性を強く推測させるものである。また動物虐待行為には,生命倫理および自然体験学習としての心理発達的側面が含まれていることも示唆された。
著者
船山 道隆
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1194-1196, 2013-12-15

カプグラ症候群とフレゴリの錯覚 人物誤認の代表として,カプグラ症候群とフレゴリの錯覚がある。いずれも統合失調症に出現した典型的な症例から命名された2,4)。カプグラ症候群は,自分の周囲の既知であるはずの人たちを,そっくりであるが本物ではない人によって置き換えられたと確信する現象である。カプグラ症候群はソジーの錯覚ともいわれるが,ソジーとはフランス語である人に生き写しの他人という意味である。多くの場合,親しい既知の人物に出現する。一方で,フレゴリの錯覚は,他者を別の他者の変装であると確信するものであり,たいていの場合は自分を迫害する,あるいは恋心を抱いてくるなどという妄想を伴う。この両者が混在する症例10,14)がしばしば認められるため,両者の機序を統合して捉える立場がある。Vié15)や加藤9)は,カプグラ症候群を同一性の欠損や同一性の低下,フレゴリ症候群を無媒介な同一性や同一性の過剰と考えている。また,人物誤認全般を妄想知覚からみる考え方8)もある。 近年はカプグラ症候群,フレゴリ症候群,相互変身症候群,自己分身症候群をまとめて,妄想性誤認症候群として論じる論調があり3),その後は脳血管障害,頭部外傷,レビー小体型認知症,アルツハイマー病などの脳器質疾患によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚の報告が相次いでいる。しかし,統合失調症と脳器質疾患に出現する人物誤認では,背景にある症状がかなり異なる。本論では,この背景にある症状の違いを中心に考えていく。
著者
堀端広直
雑誌
精神医学
巻号頁・発行日
vol.37, pp.297-302, 1995
被引用文献数
1
著者
佐藤俊樹
雑誌
精神医学
巻号頁・発行日
vol.43, pp.17-24, 2001
被引用文献数
3
著者
康 純
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.755-761, 2011-08
著者
伊東 若子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.529-533, 2017-06-15

はじめに 近年,成人の発達障害が注目を浴び,精神科外来を受診するケースが増えている。筆者は,睡眠障害を対象とした睡眠専門外来を行っているが,発達障害の患者が睡眠の問題を訴え来院するケースも非常に増えている。筆者が所属する病院が成人の発達障害専門外来を有しているところも大きいかもしれないが,睡眠の問題を訴えてくる患者の中に,「発達障害もあるのではないか」と自ら相談してくるケースや,また,睡眠の問題を主に訴えてくる患者であっても,その背景には発達障害があり,その結果としての睡眠の問題であることも多く経験する。発達障害に睡眠の問題を多く認めることは以前より知られているが,その原因は単一ではない。発達障害における睡眠障害は,発達障害の病態と深く関連しているものがあり,本稿では,発達障害の中でも注意欠如・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder;ADHD),自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder;ASD)と睡眠の関係について,病態との関係から概説したい。
著者
堀口 淳
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1197-1201, 2019-10-15

抄録 通常のドパミン作動薬では症状が十分に緩和されていないむずむず脚症候群に人参養栄湯を追加投与し,1年間以上良好な治療効果を自覚している3症例を報告した。 人参養栄湯の追加投与の治療効果は,3症例とも投与開始後3週間から1か月目ごろから顕著となった。また症例3では,人参養栄湯を追加投与後,服用中であったドパミン作動薬を減量できた。 3症例の異常知覚は多彩であり,「むずむず」だけではなく,また症例2の異常知覚の発現部位は両上肢にも認められた。 本稿では,ドパミン作動薬と人参養栄湯との併用療法がむずむず脚症候群に奏功することと,むずむず脚症候群の異常感覚は多彩であり,また発現部位は「脚」だけではないことも強調した。
著者
徳井 達司 米元 利彰 岩下 覚 樋山 光教 稲田 俊也 三村 將 鈴木 義徳 川口 毅 川井 尚 栗原 和彦
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.919-929, 1989-09-15

抄録 大麻の長期乱用による大麻精神病の6例を経験したので報告した。発病にいずれも連続大量使用かTHC高濃度の製品を使用しており,発病の契機に心理,状況的要因の関与が目立った。病像的には中毒性精神病の特徴をもち,無動機症候群,幻覚妄想状態が全例に認められた。これに意識変容,知的水準低下,気分欲動の変化,衝動異常,観念湧出,散乱等が加わり,組み合わさって経過した。精神病体験の持続は治療開始後1〜3カ月であったが,その間病状の改善は動揺を示し,フラッシュバックの挿間もみられた。陽性症状が消褪しても無動機症候群は多かれ少なかれ残遺するのが常で,3カ月以上経過後も完全に回復に至らない例もみられた。施用者の生活状態や臨床的所見から,場合によっては慢性人格障害に移行する可能性も示唆された。
著者
佐藤 晋爾 朝田 隆
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.571-574, 2013-06-15

はじめに 激越型うつ病とは,非常に強い不安と落ち着きのなさを示すうつ状態であり,うつ病の主な特徴である抑制性を部分的に認めない病態をいう。典型的な病像は7,8,9,14),一時も落ち着かずそわそわとし,椅子に座ったり立ったりし部屋の中をうろうろと歩き回り,あるいは逆に「体が動かない」と唐突に横になろうとする。一方,体のどこか,特に両手をもぞもぞと動かし,髪の毛や服などをずっといじっている。嘆息しながら苦悶様の表情で強い絶望感,不安感注1),悲哀感,罪業感,心気的訴えなどを繰り返し,話の内容も常同的といってよい状態となる。なかには訴えの内容が妄想的になり,精神病性うつ病へと診断が移行する場合もある。苦悩感が強い上に衝動的(激越発作;raptus melancholicus)13)になることがあり,臨床的には自殺企図が危惧される状態である9,14)。激越型うつ病は女性,高齢者に比較的多くみられ,いわゆる退行期うつ病(Involutionsdepression)との重複が論じられることもある4,7,14)。
著者
野中 猛
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.p725-733, 1987-07
被引用文献数
1
著者
織田 裕行 片上 哲也 山田 妃沙子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.783-787, 2011-08
被引用文献数
1
著者
中塚 幹也
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.769-774, 2011-08
被引用文献数
4
著者
柴山 雅俊
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1293-1300, 2006-12-15

抄録 夢と現実の区別困難について解離性障害の患者53名と対照群57名を対象に調査した。解離性障害にみられる夢と現実の区別困難を,①現実が夢のようである,②夢が現実のようである,③過去の記憶が事実なのか夢なのか判断しがたい,の3つに分類し,それぞれについて精神病理学的観点から論じた。解離性障害では今・ココを起点とするパースペクティヴperspectiveの成立不全が示唆される。それはまたパースペクティヴの起点・要になる私の成立不全をも意味している。同一性の拡散した私は,並立化し等質化した世界の知覚対象や記憶表象,空想表象,夢の表象との1対1の無媒介的・直接的関係を通して深く没入し,没入した世界によってあらためて私が構成されることになる。このような,知覚-表象や現実-夢などの並列化に加え,パースペクティヴの両極構造とそこにおける循環的関係は,解離性症候の基底に存在する病態構造の一つと考えられる。
著者
吉永 真理 佐々木 雄司
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.8-18, 2000-01-15

はじめに 憑依状態は狂気の歴史の中で最も古くから知られているものであり,多くの精神障害に憑依の状態像がみられることは注目すべきことである。症状発現の背景となる宗教・文化的要因への社会精神医学的な関心,特徴的な意識変容の状態像への精神病理学的な関心,あるいは分類や定義に対する診断学的な関心など,様々な視点からアプローチが行われてきた。 シリーズ「日本各地の憑依現象」は本誌「精神医学」40巻2号から41巻4号まで連載され,10編の論文が所収された。表にシリーズに掲載された全論文に関して,対象地域,憑きもの信仰の内容,著者の論点を整理した。地域は沖縄,四国,山陰,近畿,中部,北関東,北海道,および韓国と台湾である。いずれの論文においても,地域・事例固有の問題を浮き上がらせた上で,現代的な文脈における憑依現象に関して,問題提起を行っているものである。憑依の発生は世襲的に継承されて生じるか,あるいは当人の資質や状況に応じて偶発的に生じるかに分かれる。前者には当該家族や世帯,すなわち「筋」や「系」をめぐる差別や偏見の問題が起こる。後者では当人の特異的な心身状態が「病」や「障害」として精神医学をはじめとする現代科学的医療と接点を持つこととなる。そしていずれの場合にも,憑依の背景となる信仰や世界観を共有する人々が存在し,新たな「憑依」を生み出す土壌となっている。こうした問題を本論では以下の3点に整理し,それぞれ考察していく。