- 著者
-
上田 功
ディビス スチュアート
- 出版者
- The Linguistic Society of Japan
- 雑誌
- 言語研究 (ISSN:00243914)
- 巻号頁・発行日
- vol.2001, no.119, pp.111-139, 2001-03-25 (Released:2007-10-23)
- 参考文献数
- 32
日本語において,ラ行音は獲得が比較的遅れるとされ,獲得初期に観られる音の置き換えは,多くの記述的研究で取り上げられている.それにもかかわらず,ラ行音獲得過程が,音韻論の立場から分析されることはほとんどなかった.小論の目的は,この日本語のラ行音の獲得過程の代表的なタイプに注目し,これを最適性理論から考察することにより,この現象に合理的な説明を与えるようとするものである.最初に,獲得のもっとも初期の段階のラ行音の音置換データを概観する.次にこれを最適性理論で分析した先行研究を考察し,音置換は,3つの音韻制約に基づいて記述されることを論ずる.そして,ラ行音の獲得は二種類の異なった過程を経るが,これを段階的に検討していく.この二種類の獲得過程は,音韻発達の途上において,3つの制約が,異なったパターンを示しながら上昇・下降し,これらのランキングが変化していく動的な過程であると結論する.最後に,いくつかの方言におけるラ行音の分布をを見ることにより,ラ行音に係わる音置換は,単に幼児期の音韻獲得にのみ関係するだけではなく,日本語の音韻体系そのものに深く係わる現象であり,これも音韻制約のランキングの相違に訴えることで説明しうることを示唆する.