著者
上平 幸好
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.1-9, 2016 (Released:2018-04-27)

九州本島をほぼ網羅する255 地点で, 日本固有種である Metaphire sieboldi( シーボルトミミズ)の分布調査を行い,31 地点でその生息を確認した. 九州北東部と南部で出現頻度は低く,東部で高いことが判明した.出現頻度の違いから本種の分布は偏在しているように推察されたので,著者の結果に他の研究者による本種の出現報告と情報提供の結果を加え再度検討したが,分布状況に大きな違いは認められなかった.この偏在する分布の原因を解明するため土壌型との関連を調べた.地史的に古い土壌である黄褐色森林土と赤黄色土での本種の出現頻度は高く,新しい灰色低地土では低かった.この灰色低地土は河海成の若い土壌であるが,森林土への遷移が進みつつある地域では,隣接する土壌域から本種が進出しつつある例を観察した.阿蘇-4 大噴火を起因とする広い溶岩台地を覆う黒ボク土に本種は出現せず,また,姶良カルデラの生成に起因するシラス台地でも,その出現はごく稀であった.それぞれの台地を覆っている新しい火山灰性土壌は,その特徴的な性状で本種の台地への進出を妨げ分布の障壁になっていた.出現地点と植生図との照合により,最終氷河期以後の九州本島における本種の生息地は照葉樹林帯であると結論したが,2 万年前の最終氷期に,九州本島全域は冷温帯夏緑樹林に覆われていたとする研究報告を考慮すると,本種は照葉樹林内でなければ生息できないとはいえないことを,本州における観察例をあげて指摘した.
著者
谷地 俊二 大高 明史 金子 信博
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.13-24, 2012
参考文献数
45

神奈川県鎌倉市にある冬期湛水型の有機農法水田における水生ミミズ類の種組成,個体数密度,バイオマスを,冬季を除いた2010年6月から2011年5月まで調べた.水生ミミズ類の種構成は8種類からなり,他の水田や富栄養湖に優占するL.hoffmeiteriとB.sowerbyiが優占していた.鎌倉水田における水生ミミズ類の個体数密度は2,822m^<-2>であり,似た種構成を記録した北日本(50,000m^<-2>)やフィリピン(8,200m^<-2>)の水田と比べ低かった.また,渓流性のE.yamaguchiiが生息していた.
著者
中森 泰三 藤原 直哉 松本 直幸 岡田 浩明
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
no.84, pp.5-9, 2009-03-31

持続可能な農業に向けて農業生態系の生物多様性に関心が高まっている.日本では農業生態系におけるトビムシの多様性に関する知見は限られている.そこで,我々は慣行および保全型畑地に加えて森林土壌およびリター堆肥におけるトビムシの種組成を明らかにした.総個体数および種数ともに慣行畑地より保全型畑地において多かった.また,畑地土壌からMesaphorura silvicola(Folsom)が日本から初めて得られたので合わせて報告する.
著者
佐藤 秀樹
出版者
日本土壌動物研究会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
no.23, pp.37-48, 1981-05
著者
陰山 大輔
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.7-14, 2014-11-14 (Released:2017-07-20)

地球上のほとんどの微生物は,栄養要求が複雑なため培養が困難だったり培養がほとんど不可能だったりする.分子生物学的技術の進歩により,人工培養せずに微生物の同定が可能になったことから,地球上に生息する微生物の多様性を明らかにするという,以前は不可能であった問題にも取り組めるようになってきた.このようなことから,多様な共生微生物を体内に住まわせている無脊椎動物にも興味が注がれている.ワラジムシ類は元々海洋に起源を持つが,多くの種(特にワラジムシ亜目)は陸上での生活に適応している.ほとんどの種が陸上で生活をする昆虫類に比べて,ワラジムシ類における共生微生物の研究はあまり十分にはなされていない.本稿では,ワラジムシの共生微生物について現在知られていることを紹介した.陸上への進出に共生微生物が関わったとする興味深い仮説もあり,今後の研究が期待される.
著者
新島 溪子
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.43-46, 2001-08-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1

The outbreak of Oxidus gracilis (Diplopoda: Polydesmida) happened near Hiraiwa Station, Oito Line, Niigata Prefecture and stopped the special express train `Resort Hakuba Alps' for 2.5 hours on 29 July 2000. The millipedes were swept down from the rail and killed by insecticide. A park was constructed on both sides of the outbreak section three years before. Lawn and redclover with organic fertilizer of the park seemed to provide favorite habitat for the millipede.
著者
Zoltan Korsos Eszter Lazanyi
出版者
The Japanese Society of Soil Zoology
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.1-16, 2013-07-30 (Released:2017-07-20)
参考文献数
11

台湾と日本から初めて記録されたNepalmatoiulus属クロオナガヒメヤスデ属の3新種を命名記載した.台湾 : N.taiwanensisタイワンクロオナガヒメヤスデ(新称)N.formosaeウルワシクロオナガヒメヤスデ(新称),日本(琉球列島の西表島,石垣島,小浜島) : N.yaeyamaensisヤエヤマクロオナガヒメヤスデ(新称).本属は,これまでヒマラヤ,中国からベトナム,マレーシアにかけてその分布が知られていたが,かなり東地域にも広がっていることが判明した.これら3種が東アジアの台湾および琉球列島の島々から発見されたことは,かつて島々が互いに繋がっており,かつ中国大陸とも繋がっていた地理的な証拠を示すものと考えられるだろう.
著者
岩島 範子 金子 信博 佐藤 邦明 若月 利之 増永 二之
出版者
日本土壌動物研究会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.43-53, 2011
参考文献数
32

キシャヤスデとミドリババヤスデは周期的にかなり大きなバイオマスで出現する大型土壌動物であり,それらが摂食活動を通じて生態系の物質循環に及ぼす影響を調べた.これら2種の成虫のヤスデについて,餌の違い,種の違い,生育密度の違いが,糞の化学性に及ぼす影響について室内の飼育実験により比較した.八ヶ岳土+針葉樹リター+キシャヤスデ(キシャY),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+キシャヤスデ(キシャS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(ミドリS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(高密度)(ミドリS密)の4系で1週間飼育後,糞を採取した.糞,土壌及びリターの全炭素・全窒素,強熱減量を測定し,糞と土壌については培養による二酸化炭素発生量,無機態窒素も測定した.その結果,以下に示すようなことがわかった.1)いずれの成虫も土壌とリターを摂食した.2)キシャヤスデにおいては生息地以外の土壌とリターに変えても土壌とリターの混食を行った.3)キシャヤスデは針葉樹リターも広葉樹リターも摂食し,リターの摂食割合もほぼ同程度であった.4)ミドリババヤスデの方がキシャヤスデよりもリターの摂食割合が多かった.5)ミドリババヤスデは高密度にすると土壌を食べる割合が大きくなった.餌や種,また,密度の変化に伴う糞の化学性及び有機物分解の促進と無機態窒素の放出特性の変化は,1)リターの摂食割合の増加は,糞中の全炭素・全窒素及びCN比を増加させた,2)糞中のリター由来の有機物の増加は,8週間培養における糞の二酸化炭素発生量を促進させた,3)CN比の増加は糞中の無機態窒素の有機化を生じさせ,無機態窒素の放出を遅らせた.
著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009-08-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.
著者
藤川 徳子 西 ヨシ子
出版者
The Japanese Society of Soil Zoology
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.17-23, 2013-07-30 (Released:2017-07-20)
参考文献数
17

熊本県球磨地方でも食用筍出荷のための竹林の育成管理が盛んである.竹林内の古い孟宗竹の切り株の中の竹の皮,その腐植物や苔などからコンボウイカダニ属に属する新種タケノウチイカダニFissicepheus(Fissicepheus) takenouchiensis sp. nov.を採集し記載した.後体部中央部分に存在する横に太く帯状に伸びる肥厚模様と後体部前縁外側の大きく長い瘤状突起の形が特異的であり,また,口下片表面の横皺状の模様やすべての脚の〓節に突起のあることなどにより同属の他種から区別される.
著者
中森 泰三 一澤 圭 Pham Hoang Nguyen-Due 寺嶋 芳江
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.11-18, 2020

秋田県において菌類の子実体から得られた<i>Ceratophysella mediolobata</i> Nakamori, sp. nov. を記載した.また,沖縄県から本邦初記録となる<i>Ceratophysella liguladorsi</i> (Lee, 1974) が菌類の子実体から得られた. これらの2 種および<i>Ceratophysella tergilobata</i> (Cassagnau, 1954) は腹部第5 節に突起をもつ点で類似するが,<i>C</i>. <i>tergilobata</i> は他の2 種と上顎外片に1 本の副片毛をもつ点で区別でき(他の2 種は2 本),<i>C</i>. <i>mediolobata</i> sp. nov. は<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> と腹部第4 節背面の後列の第3 毛を欠く点で区別できる(<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> は第3 毛をもつ).DNAバーコードによる同定を可能にするために,<i>C</i>. <i>mediolobata</i> sp. nov. および<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> のミトコンドリアのチトクロームC オキシダーゼサブユニットI 遺伝子および16S リボソームRNA 遺伝子の一部分の塩基配列を決定した.
著者
金子 信博 井上 浩輔 南谷 幸雄 三浦 季子 角田 智詞 池田 紘士 杉山 修一
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.31-39, 2018

人間によるさまざまな土地管理は,そこに生息する土壌生物にも大きな影響を与え,土壌生物群集の組成やその機能が,さらにそこに生育する植物の生長にも影響している.農業においても保全管理を行うことで土壌生物の多様性や現存量を高めることが必要である.日本におけるリンゴ栽培は,品種改良と栽培技術の向上により,世界的に高い品質を誇るが,有機栽培は困難であると考えられている.青森県弘前市の木村秋則氏は, 独自の工夫により無施肥, 化学合成農薬不使用による有機栽培を成功させている.その成功の理由については地上部の天敵が増加することや,リンゴ葉内の内生菌による植物の保護力が高まることが考えられているが,土壌生態系の変化については十分調べられていない.そこで,2014 年 9 月に, 木村園(有機) と隣接する慣行リンゴ園, 森林の 3 箇所で土壌理化学性,微生物バイオマス,小型節足動物,および大型土壌動物の調査を行い,比較した.有機の理化学性は,慣行と森林の中間を示したが,カリウム濃度はもっとも低かった.AM 菌根菌のバイオマス, 小型節足動物, 大型土壌動物の個体数は有機で最も多く, 慣行で最も少なかった.特にササラダニの密度は有機が慣行の 10 倍であった.落葉と草本が多く,土壌孔隙が多いことが,有機での土壌生物の多様性および現存量を高めており,植物に必要な栄養塩類の循環と,土壌から地上に供給される生物量を増やすことで,天敵生物の密度を高めることが予測できた.
著者
阿部 進
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.29-37, 2014-03-07 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

ミミズ(Oligochaeta)やシロアリ(Isoptera)のような土壌無脊椎動物は土壌生態系改変者と呼ばれ,土壌物理環境を改変・撹乱することによって他の生物への資源の有効性に影響を及ぼしている.土壌生成過程における物理学的,化学的,生物学的な影響に対する関心が高いのに対して,生態系改変者が土壌鉱物の風化において直接的および間接的に重要な影響を及ぼしていることはあまり認識されていない.その直接的な影響は鉱物粒子の物理的破壊であり,分泌物質による化学的変質である.一方,土壌無脊椎動物の共生微生物によって生成される有機酸やキレート成分による鉱物の溶解など間接的な影響もある.本稿では,土壌生態系改変者が土壌鉱物の風化に及ぼす影響に関する既往の文献を総括し,このトピックにおける研究課題と将来の展望について議論する.
著者
金子 信博 橋本 みのり
出版者
The Japanese Society of Soil Zoology
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.21-25, 2010-05-28 (Released:2017-07-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ミドリババヤスデは中部から西日本にかけて広く分布しているヤスデである.島根県三瓶山周辺では成虫の群遊がたびたび観察されていたので,このヤスデの生活史について1997年12月から1999年10月まで調査を行った.1999年10月には成虫の群遊が観察された.これらの個体群内の齢構成は単一で,一世代が3年であると推定された.この現象は中部地方で8年に一度の周期発生を起こすキシャヤスデに似ている.生活史が3年である理由について気候条件との関係で議論した.
著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.