著者
増田 明子 松井 剛 津村 将章
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.25-32, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本論文では,鹿児島県志布志市が公開したネット動画の炎上事例をもとに,消費者がストーリーについて表明する多様な解釈,すなわちナラティブが,どのようにうねりを持って集合現象になるのかを,消費文化理論の観点から検討した。3種類の定性データを分析した結果から,理論的示唆として,多様なナラティブの発生によって論点が細分化,同質化,差別化して論点が収束・発散するプロセスは,社会が抱える矛盾を解消するロジックを見出す神話的プロセスであることが明らかになった。本事例から導かれた3つの神話的プロセスとは「反セクシズム神話」,「反反セクシズム神話」,「メタ的神話」である。
著者
松原 優
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.31-40, 2022 (Released:2022-09-29)
参考文献数
38

本研究の目的は,消費者のブランド・スイッチングと消費者のアイデンティフィケーションおよび幸福感の関係を縦断調査に基づき明らかにすることである。2時点の調査に基づく検証の結果,ブランドを通して得られる消費者の幸福感(ブランド・ハピネス:Consumer Happiness through Brand)がブランド・スイッチング行動を抑制する要因であることが明らかとなった。本研究は消費者の幸福度がブランド・スイッチング行動に及ぼす影響を縦断的な調査によって検証した初めての研究であり,本研究により得られた結果は,既存の消費者の幸福感およびブランド・スイッチングに関する知見を拡張するものである。
著者
寺﨑 新一郎
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-32, 2017 (Released:2019-10-29)
参考文献数
55

本研究の目的は急速かつ不可逆的なグローバル化に起因する,外国に対する肯定的な消費者態度を社会的同一性理論に基づき整理した上で,消費者行動研究にとって有用な消費者アフィニティ,消費者世界志向,消費者コスモポリタニズムに焦点を当てレビューすることである。レビューの結果,セグメントの特徴,各態度が単独で消費者反応にもたらす効果に関する先行研究が多くみられること,他の理論との複合的な効果や,製品ではなくサービスを対象とした研究は限られていることなどが明らかになった。また,外国に対する肯定的な態度を,否定的なそれと分けて考えるのではなく,統合的に捉えることで,この研究領域に新しい理論的貢献が期待できることが示唆された。
著者
藤井 誠 関 隆教
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.57-63, 2018 (Released:2019-10-29)
参考文献数
41

本稿では,サービス組織における現場従業員(Front-Line Employees:FLE)のクリエイティビティがもたらす負の側面について,探索的事例研究を行う。具体的には,塚田農場の事例を通じて,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティが引き起こす負の1つの側面を見出した。今後の研究の展望として,FLEのクリエイティビティを財務成果へと着実に結びつけるには,FLEのクリエイティビティがどのような局面において財務成果に正の影響を与えるのかを深耕していく研究が必要となることを提起した。
著者
中川 正悦郎
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.41-50, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
53

本稿の目的は,動画配信サブスクリプションサービスを対象に,コンテンツの知覚多様性が同サービスに対する消費者のロイヤルティを高めることに寄与するかを検証することである。検証にあたり日本における主な動画配信サービスの利用者を対象に調査を行った。分析の結果,コンテンツの知覚多様性は,サービスの知覚された有用性および知覚された楽しさを介して,ロイヤルティに正の影響を及ぼすことが確認された。ただし,知覚された有用性および知覚された楽しさがロイヤルティに及ぼす影響は,知覚された使用容易性によって調整されることも確認された。この結果は,知覚された使用容易性の高まりに伴い,ロイヤルティ形成において重要な先行要因が知覚された有用性という功利的ベネフィットから知覚された楽しさという快楽的ベネフィットへとシフトするものと解釈できる。
著者
福田 怜生
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.19-30, 2022 (Released:2022-09-03)
参考文献数
61

本研究では,ソーシャルネットワークサービスの普及により重要性が増しているバイラル・マーケティングを背景として,物語広告が推奨意図に及ぼす影響に対する感情的BCと計算的BCの調整効果を検討した。60秒の動画広告を材料とした実験の結果,感情的BCは物語広告が推奨意図に及ぼす影響を強化する一方で,計算的BCはその影響を弱化することが示された。またこのような調整効果が生じるメカニズムをより具体的に検討するため,物語に入り込んだ状態である「移入」を媒介変数とした調整媒介分析の結果,物語広告が移入に及ぼす影響,移入が推奨意図に及ぼす影響に対しても各BCは同様の調整効果を有する傾向があった。ただし,移入が推奨意図に及ぼす影響に対する感情的BCの調整効果のみ認められなかった。これらの結果から,オンライン上で物語広告を露出すべき初期ターゲットについて議論された。
著者
日高 優一郎 加藤 亜紀美
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.51-57, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
56

本研究は,消費者行動におけるモノの処分(Disposition)が自己構築に果たす役割を検討する上でのアプローチと課題を検討する。モノの処分は,消費者行動研究において消費者行動の一部と位置づけられながら,その数は長年限定的なものに留まってきた。しかし近年,所有者の自己構築との関連のもとモノの処分の役割を問う研究の蓄積が進みつつある。本研究は,所有者の自己構築とモノの処分の関係を明らかにしてきた既存研究を整理し,今後の研究の方向性を示す。取得や所有の局面で付与された過去の意味の清算という役割に加え,処分の意思決定過程を儀礼と捉えてその過程の中での新たな自己構築の様相に照射する研究や,その作用を長期的に考察する研究の重要性を示す。
著者
朝岡 孝平
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-8, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
49

本論文では,消費文化理論(CCT)の諸文献をレビューし,CCT研究の射程の広がりや消費者行動/マーケティング研究者や実務家にとってCCTが持つ意義を検討する。CCTとは,製品やサービスにまつわる様々な文化的側面を持つ消費者の行為とそれに関わる現象について,それが生じるメカニズムや消費者にとっての意味を明らかにし理論化しようとする研究領域である。本論文ではまず,既存研究で整理されたCCTの4つの研究プログラムについて概観する。次に,近年のCCT研究の射程の広がりとして,(1)市場システムダイナミクス,(2)消費のポリティクス,(3)技術への注目という3つの研究群について紹介を行う。これらを踏まえて,CCT以外の研究者やマーケティングの実務家にとってCCTが持つ「消費者やマーケティング現象を理解することに役立つ」という意義を説明し,今後の研究課題についても述べる。
著者
水越 康介 日高 優一郎
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.33-39, 2017 (Released:2019-10-29)
参考文献数
70
被引用文献数
1

本稿では,ソーシャル・マーケティング研究について検討し,今後の具体的な研究指針を提示する。この試みは,近年ますます注目される社会的活動において,マーケティング活動やマーケティング研究が果たす意義を明らかにするとともに,営利企業の活動にとどまらないマーケティングの可能性を示す。具体的に,本稿では,ソーシャル・マーケティングがコマーシャル・マーケティングの応用として発展し,個人の行動変革を目的とするダウンストリームに注目してきたことを確認する。その上で,近年の新たな研究として,社会変革までを見据えたアップストリームに注目するとともに,アップストリームとダウンストリームの相互依存関係に関する実証的な研究が必要とされるようになっていることを示す。
著者
田中 祥司 髙橋 広行
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-7, 2020 (Released:2020-04-24)
参考文献数
28

本稿は,ブランドの本物感における知覚・認知の程度の違いによる階層性に注目しながら,下位ランク(階層)から上位ランク(階層)への移行に影響を与える要因の解明を試みたものである。具体的には,潜在ランク理論を用いた分析によって,ブランドの本物感の階層性(四つのランク)を見出した。同時に,その階層性と本物感を構成する要素との関連について,上位のランクになるほど,物象的から象徴的な要素へと移行することを示唆した。さらに,上位のランクに移行する際に影響を与える要因を検討した結果,企業のこだわりが一貫して重要な要因であること,最初の移行(ランク1からランク2),および,最後の移行(ランク3からランク4)においては,こだわりに加え,感情的関与も重要な要因であることを明らかにした。
著者
間島 羽奈子
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.9-16, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
46

超高齢社会において,生きがいの獲得につながる生涯学習が重視されているが,社会教育施設のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響は検討されてこなかった。本稿は,社会教育施設の一つである公立図書館を取り上げ,①図書館の提供するサービスが,高齢者の学習満足度に与える影響,および,②提供サービスと学習満足度の関係に対する利用頻度のモデレート効果を検討する。図書館のサービス品質を構成する代表的な3つの次元とともに,学習プログラムに関するサービス品質を測定する尺度を設計し,60~69歳の利用者(n = 206)を対象に質問紙調査を実施した。階層的重回帰分析の結果,「場としての図書館」と「学習プログラム」の2つの次元が学習満足度を高めていた。また,利用頻度が少ない場合に,「学習プログラム」が学習満足度をより高める傾向にあった。本研究の貢献は,サービス品質研究の対象を生涯学習の文脈に伸展させ,社会教育施設としての図書館のサービス品質が高齢者の学習満足度に与える影響を明らかにした点にある。
著者
櫻井 秀彦 丹野 忠晋 増原 宏明 林 行成 山田 玲良
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-18, 2019 (Released:2019-10-29)
参考文献数
25

本稿では医薬品卸と薬局間の医療用医薬品の納入価格の影響要因について実証研究を行った。降圧薬の薬価とその卸価格の差の薬価に対する割引率を分析対象とした。薬局に対する,ある医薬品メーカーの薬剤の割引率は,その薬局がメイン卸(最も高いシェアの卸企業)としている卸企業がその医薬品メーカーとどのような資本関係(系列関係)にあるかによって大きく影響を受けていた。強い系列卸をメイン卸とする薬局は,そのメーカーの医薬品を割引されない一方で,弱い系列や非系列の卸をメインとする薬局は大きな割引を得ていた。また,特許で保護されている薬剤には数量割引が確認された。更に,複数の薬剤を一括して取引して価格を決める総価取引は,割引率に大きな影響を与えないことが示された。