著者
柑本 敦子 伊東 輝夫 内田 和幸 チェンバーズ ジェームズ 椎 宏樹
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.9-13, 2017

8 歳、避妊雌のジャック・ラッセル・テリアに急性細菌性腹膜炎が認められた。開腹手術で空腸に2つの穿孔部位が見つかり、それぞれを切除し、病理組織検査と免疫染色から組織球性肉腫と診断された。術後は順調に回復し、カルボプラチンの投与を7回行い、術後185日目の慢性下痢による死亡時まで穿孔性腹膜炎や腫瘤の再発はみられなかった。本症例は犬の小腸原発組織球性肉腫の最初の報告例であるが、本腫瘍では小病巣でも自然穿孔が生じる可能性があり、それに対しては手術切除が有効であることが示唆された。
著者
井芹 俊恵
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-7, 2020 (Released:2020-08-26)
参考文献数
46

オピオイドはその強力な鎮痛効果により周術期疼痛管理に重要であることは確かだが、煩雑な麻薬管理が必要であり、大量に投与した場合の術後の疼痛過敏や術後早期の食事開始を妨げる消化管運動の抑制、あるいは人医療では医療用オピオイドの乱用などからマルチモーダル鎮痛などの鎮痛方法を組み合わせることでオピオイドの使用量を減らす試みがされている。そのため最近、局所麻酔薬を用いた局所麻酔が注目されている。強い鎮痛効果による外科的ストレスの抑制、呼吸抑制がなく、術後の消化管運動を抑制しない点などに加え、抗炎症効果による周術期の過剰な免疫応答を抑制し、また、腫瘍免疫を含む免疫機能を抑制しないことから、麻酔方法の選択が患者予後に影響する可能性が考えられる。腫瘍疾患症例動物への予後に関する臨床研究としては今後大規模な前向き研究の結果が待たれる。
著者
堀切園 裕 石垣 久美子 西村 麻紀 飯塚 恵悟 南雲 隆弘 関 真美子 枝村 一弥 賀川 由美子 浅野 和之
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3+4, pp.20-25, 2018 (Released:2019-06-27)
参考文献数
20

前胸部腫瘤を主訴に、12歳齢、去勢雄のチワワが来院した。初診時に患者は無症状であったが、約5ヶ月間で腫瘤が増大するとともに発咳を呈するようになった。第184病日に胸骨正中切開による前胸部腫瘤摘出術を実施した。腫瘤は前大静脈や気管を圧迫し、周囲組織と癒着していた。摘出した腫瘤の内部は広範囲で壊死が起こっていた。病理組織学的診断は甲状舌管遺残腺腫であり、腫瘤摘出後に患者の臨床症状は改善し、良好な経過が得られた。本疾患は犬の前縦隔腫瘍の鑑別診断として考慮する必要があると考えられた。
著者
前田 憲孝 神田 鉄平 岩本 咲 尾高 里美 貝原 美由 金安 真央 斉藤 有衣 深町 沙紀
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3+4, pp.26-32, 2018 (Released:2019-06-27)
参考文献数
16

手術時手洗い時に使用する手洗い方法・製剤による消毒効果・手指の皮膚に与える影響の違いを検討した。その結果、擦式手指消毒剤の種類、手洗い方法にかかわらず、手洗い直後、4時間後共に明らかな消毒効果が認められた。手洗い方法による皮膚の保湿性の違いは認められなかったが、フォーム状製剤の方が、ジェル状製剤に比べ手洗い2時間後の時点での保湿性に優れていた。利便性、費用、皮膚への影響等を総合的に判断すると、フォーム状製剤を用いたウォーターレス法は手術時手洗いとして非常に有効な方法であると考えられた。
著者
原口 友也 中島 敦 木村 志穂 伊藤 晴倫 小坂 周平 松木 秀多 西川 晋平 板本 和仁
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1+2, pp.8-13, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
16

腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy and endoscopy cooperative surgery:LECS)は、ヒト早期胃粘膜下腫瘍に対する胃局所切除術のための新しい術式として考案され有用性が認められているが、獣医療においては一般的な手術法ではない。本検討では、健常ビーグル犬を用いLECS予防的胃固定術の有用性を評価した。LECS予防的胃固定術は他の胃固定術と比較して、よりシンプルで容易な術式であり、周術期合併症も認められなかった。そのためLECSは、安全性が高く侵襲度が低く、予防的胃固定術の術式として有用性が高いと考えられた。しかし、本検討は実験動物を用いて行っているため、今後は症例において有用性を評価する必要があると考えられた。
著者
三浦 京夏 原口 友也 小田 康喬 西川 晋平 谷 健二 下川 孝子 下山 由美子 板本 和仁
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1+2, pp.14-19, 2018 (Released:2018-12-08)
参考文献数
12

被嚢性腹膜硬化症(Encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)とは、腹腔内臓器周囲の線維性硬化と癒着を特徴とする稀な疾患である。今回、我々はEPSを疑うイヌ3症例において画像診断を実施したところ、ヒトと同様に臓器を被覆する肥厚した被膜や、消化管の集束などの特徴的な所見が得られた。また、各症例に外科的/内科的な治療を実施した結果、その予後はヒトと同様、外科的整復の成績に左右される可能性が示唆された。
著者
座間 ともね 別府 雅彦 難波 裕之 難波 信一 枝村 一弥
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.53-58, 2016 (Released:2017-05-17)
参考文献数
24
被引用文献数
1

ミニチュア・ダックスフント、12歳、去勢済み雄が間欠的な歩様異常を主訴に来院した。画像診断ならびに病理組織学検査より第12胸椎の孤立性骨形質細胞腫 (SOP) と診断された。ゾレドロン酸、メルファランならびにプレドニゾロンに極めてよく反応したが、2年後にゾレドロン酸の副作用と思われる下顎骨の骨壊死が発現した。本症例は、SOPが発生した犬に対するゾレドロン酸の副作用についての初報である。
著者
灰井 康佑 牧野 仁 鹿野 恭平 互 梨奈 金山 智子 諸角 元二
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.21-26, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
12
被引用文献数
2

2006年4月から2015年4月にかけて、多発性頸部椎間板ヘルニアを起こした体重10 kg以下の小型犬種19例に対し、連続した背側椎弓切除を行ったところ、術後に一過性の症状の悪化は認められたものの、全例にて歩行は改善し(平均8.5±4.72日)、合併症は認められなかった。2例のみ術後約3ヶ月経過したところで頸部痛を呈したが、保存療法にて改善した。以上のことから、小型犬種の頸部多発性椎間板ヘルニアに対する連続背側椎弓切除は有効な手術手技であると思われた。
著者
鈴木 陽彦 菅野 信之 赤澤 明彦 早川 陽子 手塚 あさみ 森 啓太 松浦 功泰 奥中 麗衣 白石 陽造
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.33-37, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
8

15歳3ヶ月齢の未去勢雄のミニチュア・ピンシャーが摂食困難を主訴に来院した。口腔内検査にて舌小体付着部正中にSCCを認め、腫瘍の完全切除を目的に舌全摘出術を実施した。術後は胃瘻チューブによる補助的な飲水管理を必要としたが自力採食は可能であり、術後18ヶ月生存した。悪性度が極めて高い舌SCCに対しても舌全摘出術を行うことで局所再発を防ぎ、飼主が満足できるQOLを維持することが可能であった。
著者
大久保 雄作 三品 美夏 茅沼 秀樹 渡邊 俊文
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.31-35, 2015 (Released:2015-11-24)
参考文献数
8

排尿困難を主訴として、8歳、去勢雄のゴールデン・レトリバーが来院した。肉眼的に症例の会陰部は腫脹しており、逆行性尿路造影検査では会陰部尿道内にテニスボール大の腫瘤性病変が確認された。排尿困難の改善を目的として、会陰部正中から外科的にアプローチし、腫瘤周辺の尿道の一部分とともに腫瘤を摘出し、同時に外尿道口の再建を行った。摘出した腫瘤は病理組織学的に平滑筋腫と診断され、摘出後は良好な臨床経過が得られた。
著者
伊東 輝夫 西 敦子 内田 和幸 チェンバーズ ジェームズ 椎 宏樹
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.37-41, 2015 (Released:2015-11-24)
参考文献数
14

脊椎原発骨肉腫は犬では稀な疾患であり、その治療や予後に関する報告は少ない。本報告では減容積手術を実施した3例について述べる。症例1は雑種犬、12歳、雌、体重10kgで、第3腰椎の骨肉腫による進行性の後肢麻痺がみられた。減容積手術で麻痺は一時的に改善したが、その後麻痺が進行し、術後46日目に安楽死させた。症例2は雑種犬、8歳、雌、体重15 kgで、第12胸椎の骨肉腫による急性の後肢麻痺がみられた。減容積手術と6回のカルボプラチン治療により7ヶ月以上歩行機能の維持が可能であった。症例3はウエルッシュ・コーギー・ペンブローク、10歳、雄、体重11 kgで、第5胸椎骨の肉腫による後肢麻痺を急性発症した。減容積手術を実施したが麻痺は改善せず、術後27日目に死亡した。以上の症例の治療経過から、脊椎骨肉腫の減容積切除は診断と緩和に有効であるが、予後は症例によって大きく異なることが示唆された。
著者
工藤 徹也 中野 康弘 南 毅生
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.13-18, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
8

6歳、去勢雄、体重2.0 kgのヨークシャーテリアが進行性に悪化する吸気性喘鳴を主訴に紹介来院した。頸部レントゲン検査では咽頭および喉頭に軟部組織デンシティの腫瘤陰影が認められた。口腔および喉頭検査では腫瘤性病変により喉頭を確認することはできず、気管切開チューブを使用して麻酔維持を行った。CT検査では咽頭および喉頭にそれぞれ独立した軟部組織性腫瘤を認め、咽頭部腫瘤は病理組織検査で横紋筋肉腫と診断された。気道の確保のために永久気管開口術を行い、腫瘍に対しては緩和的放射線治療を実施した。放射線治療後に腫瘍は縮小し、臨床症状は改善したが、術後26ヶ月で再度呼吸困難が認められた。CT検査では咽頭の腫瘍は消失していたが、喉頭の腫瘍が拡大していたため、2クール目の放射線治療を実施した。2クール目の放射線治療後に再度腫瘍は縮小し、臨床症状も改善した。術後35ヶ月で実施したCT検査では咽頭および喉頭の腫瘍は共に消失していた。術後40ヶ月に至る現在も、臨床症状はなく、良好に経過している。犬の咽頭および喉頭に発生する横紋筋肉腫は、遠隔転移しづらく、放射線治療に感受性がある可能性があり、今後も症例を重ねて情報を蓄積する必要がある。
著者
関 瀬利 関 真美子 萩原 聡子 八重樫 昌也 手島 健次 浅野 和之 山谷 吉樹
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-5, 2015 (Released:2015-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

頸部のオンコサイトーマと診断された10歳齢の避妊雌のスピッツが腫瘤再発の精査のために紹介来院した。胸部X線検査で肺水腫が確認され、症例はその検査時に重度の呼吸困難を呈し始めた。挿管し、陽圧換気と呼気終末陽圧を実施したところ、第2病日後に肺野の浸潤陰影が消失した。頸部腫瘤に関連した陰圧性肺水腫が示唆され、切除不可能な腫瘤によって生じた上部気道狭窄を緩和するために永久気管開口術が実施された。犬は第13病日に退院し、術後312日まで生存した。