著者
髙坂 康雅 小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.225-236, 2015

本研究の目的は,髙坂(2011)が提示した青年期における恋愛様相モデルにもとづいた恋愛様相尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証することであった。18~34歳の未婚異性愛者750名を対象に,恋愛様相尺度暫定項目,アイデンティティ,親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係の影響などについて,インターネット調査を実施し,回答を求めた。高次因子分析モデルによる確証的因子分析を行ったところ,高次因子「愛」から「相対性―絶対性」因子,「所有性―開放性」因子,「埋没性―飛躍性」因子にパスを引き,各因子から該当する項目へのパスを引いたモデルで,許容できる範囲の適合度が得られた。また,ある程度の内的一貫性も確認された。「恋―愛」得点について,アイデンティティや親密性,恋愛関係満足度,結婚願望,恋愛関係のポジティブな影響と正の相関が,恋愛関係のネガティブな影響と負の相関が確認され,また年齢や交際期間とは有意な相関がみられなかった。これらの結果はこれまでの論究からの推測と一致し,妥当性が検証された。また,3下位尺度得点には,それぞれ関連する特性が異なることも示唆された。
著者
浦上 萌 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.175-185, 2015

心的数直線の形成は,数量概念の発達において非常に重要であると考えられている。その過程は大別して2つの立場から捉えられてきた。一つは,対数型から直線型へという質的変化を重視する移行の立場で,もう一つは,数量を見積る方略や基準点に着目する比率判断の立場である。本研究では,これらの立場では捉えきれなかった,関数に適合する以前の数表象の実態を検討するとともに,心的数直線の質的変化と基準点の使用との関連や見積る際の方略を検討した。分析対象者は,0–20の数直線課題が4–6歳児58名,0–10の数直線課題が4–6歳児27名であった。分析の結果,関数に適合する以前の数表象として,大小型などの5つの型が見出された。また,移行と比率判断との関連や方略を検討することにより,直線型であっても数直線の両端と中点を基準点として使用し,比率的に見積っているとは限らないことなどが明らかになった。これらの知見を踏まえて,幼児期における心的数直線の形成過程を考察した。
著者
松本 拓真
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.186-196, 2015

自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの受身性は,Wing & Gould(1979)から指摘され,思春期以降のうつやカタトニアの要因として注目され始めているが,それ以前の時期では適応の良さとして軽視されがちだった。本研究では思春期以前に受身性が固定化する要因を明確にすることを目的に,自閉症スペクトラム障害の子どもを持ち,受身性を意識している親11名に半構造化面接を行った。データを修正版グラウンデッドセオリーアプローチにより分析したところ,15概念が生成され,6カテゴリーが抽出された。【支援への受身的な状態】から「意志表出主体として認められる」ようになる間に【意志か社会性かの揺れ動き】という独特の状態が介在し,受身性の固定化への影響が示唆された。このカテゴリー内には,【やるけどやらされてる感】という特殊な状態があり,親の求めに応じられるがゆえに受身的になる特徴が見られ,自己感の問題が推測された。その状態は親に強要か適切な指導かという葛藤や子どもの人生全てを背負うかのような責任感という苦悩をもたらしていた。また,受身性から脱却する変化の前に親が深刻な悲嘆や強い後悔を体験することも見い出され,子どもの受身性により生じた親の苦悩が受身性の固定化の一因となる相互作用が示唆された。本研究で得られたモデルはサンプルの偏りなどの点で限定されたものではあるが,更なる検討により精緻化が可能だと考えられる。
著者
畑野 快 原田 新
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.98-106, 2015

本研究の目的は,大学新入生の前期課程に着目し,アイデンティティを中核的同一性,心理社会的自己同一性に分離して捉えた上で,大学生の心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を明らかにすることであった。そのために,大学1年生437名(男性221名,女性212名,性別不明4名)を対象に4月と7月の2時点で縦断調査を実施した。まず,中核的同一性,心理社会的自己同一性および主体的な学習態度の可変性について確認するため,2時点における平均値の変化を<i>t</i>検定によって確認したところ,全ての変数の平均値は有意に低下していた。次に,3つの変数の2時点における相関係数を算出したところ,中核的同一性では高い相関係数が得られたことに対して,心理社会的自己同一性,主体的な学習態度の相関係数は中程度であった。さらに,潜在変化モデルによって中核的同一性,心理社会的自己同一性と主体的な学習態度の変化の関係を検討したところ,中核的同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間には有意な関連が見られなかったものの,心理社会的自己同一性の変化と主体的な学習態度の変化との間に有意な正の関連が見られた。最後に,心理社会的自己同一性を向上させるための支援の方策について議論を行った。
著者
寺坂 明子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.298-307, 2011

怒りには複数の側面があり,攻撃的な行動の背景には慢性的な怒りが存在することが知られている。本研究では,児童期・思春期における怒りについて,慢性的な怒りを含めた多次元的な構造とその特徴を検討した。慢性的な怒りについては認知的側面である敵意と情緒的側面であるいらだちから捉え,怒りの多次元的測定にはMultidimensional School Anger Inventoryのうち怒り体験と怒り表出も併せて用いた。研究1では小学5・6年生を対象に調査を行い,怒りの多次元的特徴と妥当性を検討した。研究2では研究1と同集団に対する追跡調査(中学2・3年時)を行い,怒りの多次元構造と発達的変化を検討した。調査の結果から,いずれの時期においても慢性的な怒りを含めた怒りの多次元構造が示され,慢性的な怒りが破壊的表出と関連しやすいことが示唆された。また,積極的対処以外の怒りの各側面で小学生時よりも中学生時で高いことが示された。変数間の関連,教師による行動評定との関連からは,男女で表出の在り方が異なると考えられた。
著者
千島 雄太
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-12, 2015

本研究は,多くの青年が主体的に自己の変容を望んでいるにもかかわらず,変容が実現されにくい原因の一つとして,自己変容のメリット・デメリット予期に伴う葛藤を仮定し,葛藤の特徴について学校段階による比較から明らかにすることを目的とした。予備調査では,自己変容と現状維持に関するメリットとデメリットを自由記述形式で尋ね,記述を分類した。その分類結果から自己変容のメリット・デメリット予期項目を作成し,中学生,高校生,大学生・専門学校生1162名に本調査を行った。3つの学校段階と自己変容の予期得点を組み合わせた5群の連関を検討した結果,中学生では"予期低群"と"現状維持メリット予期群",高校生では"回避–回避葛藤群",大学生・専門学校生では"自己変容メリット予期群"と"接近–接近葛藤群"の割合が有意に多いことが明らかになった。さらに,学校段階と自己変容の予期5群を要因とした二要因分散分析を行った結果,葛藤は自尊感情や内省の発達に伴って変化することが示された。また,"自己変容メリット予期群"と"回避–回避葛藤群"で自己変容の実現得点が低く,内省を深め,現在の自分を肯定的に受け止めることが自己変容の契機になることが示唆された。
著者
村山 恭朗 伊藤 大幸 高柳 伸哉 松本 かおり 田中 善大 野田 航 望月 直人 中島 俊思 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.477-488, 2014

反応スタイルは抑うつの維持もしくは悪化を引き起こす要因である。本研究は小学4年生から中学3年生の5,217名を対象とし小学高学年・中学生用反応スタイル尺度を開発することを目的とした。既存の反応スタイル尺度を参考に,「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」の4因子を想定した原案16項目を作成した。探索的因子分析の結果,想定された通り小学高学年・中学生用反応スタイル尺度は4因子(「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」)で構成されることが示された。さらに各因子間に認められた相関は先行研究の知見に沿うものであった。また信頼性に関して,各下位尺度のα係数は概ね基準以上の値であることが確認された。外在基準とした抑うつおよび攻撃性との相関を検討したところ,「反すう」は正の相関,「問題解決」および「気晴らし」は負の相関を示した。これらの結果は先行研究に沿うものであり,小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の構成概念妥当性が確認された。
著者
西中 華子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.466-476, 2014

本研究では小学生の居場所感の構造を心理学的観点および学校教育的観点から検討し,居場所づくりの実践研究への示唆を得ること,および性差・学年差の検討を目的とした。まず心理学における先行研究を概観し,居場所感の要素として「被受容感」,「安心感」および「本来感」を仮定した。加えて教育分野における居場所の提言や論考を参考に,「充実感」および「自己存在感」を仮定した。これらに関する計35項目を準備し,小学4~6年生の児童,男女合計931名を対象として調査を実施した。因子分析の結果,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」の4因子が確認され,教育分野の実践においていわれている「充実感」や「自己存在感」が小学生の居場所感の一要素を表すことが明らかにされた。一方で青年期の居場所感において重要視されている「本来感」が小学生の段階では重視されない可能性が示唆された。これらのことより,小学生を対象とした居場所づくりでは,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」を促進するような介入方法の必要性が示唆され,青年期とは異なる介入の検討が必要であると考えられた。また小学生の居場所感において,「被受容感」および「充実感」は5年生および6年生よりも4年生のほうが,「自己存在感」は5年生よりも4年生のほうが高いことが明らかにされた。さらに男子よりも女子のほうが「被受容感」および「安心感」が高いことが明らかになった。
著者
河本 愛子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.453-465, 2014

学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
著者
鹿子木 康弘
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.443-452, 2014

我々は生まれながらにして向社会的なのだろうか? より大胆に言えば,我々は生まれながらにして善なのだろうか? 近年の乳幼児研究によって,発達初期におけるヒトの向社会性が明らかにされつつある。しかしながら,発達科学からのヒトの向社会性の本質についての議論は少ない。そこで,本稿では,実証的な発達研究をもとに,向社会性の性質やその変容を明らかにすることを目的とした。まず,進化生物学の理論を考察することにより,ヒトにおいて向社会性がいかにして形成・維持されるのかを議論する。次に,乳幼児期から就学前児を対象にした向社会性に関連する一連の研究を概観し,ヒトの向社会性は,発達早期において生来的な性質を持つが,発達とともにその性質が変容することを示した。更にその変容を促す要因(社会化,認知能力の発達,暴力的な場面やメディアなどへの接触経験)を考察することにより,発達早期における向社会性がいかに変容するかを描写した。最後に,向社会性の本質の更なる理解のために,今後の方向性として,その生起メカニズムや変容の解明についての試論を行った。
著者
青木 多寿子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.432-442, 2014

本研究の目的は,米国で実施されている品格教育について,その考え方や具体例を示し,品格教育の理論と実際を心理学の用語を含めて紹介することである。そこでまず,品格教育の概要を理解するため,品格教育が目指す姿を紹介し,その中でCharacterという言葉,品格教育が重視する徳について解説した。また全米で品格教育を推進するCEPの11の原理を紹介し,品格教育が目指す教育について解説した。次に,筆者が視察した3つのセンターとその特徴を記述する中で,品格教育が実際にどのように理解され,実践されているのかを具体的に示した。最後に,ポジティブ心理学や教育心理学との関係について紹介し,日本の道徳教育との相違点を述べて,実践としての品格教育の特徴を心理学の用語を用いてまとめた。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.422-431, 2014

発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。
著者
登張 真稲
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2014

最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。
著者
一柳 智紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.387-398, 2014

本研究の目的は,社会文化的アプローチに基づき,道徳授業を通した児童の道徳性の発達過程を明らかにすることである。そこで,道徳授業において扱う資料について児童が自分の判断や気持ちを表現したワークシートの記述を道徳性を媒介する言語と捉え,その変化を小学1年生の学級において縦断的に検討した。結果,当該学級で用いられた主人公や自分の気持ちを可視化するための「心の表情カード」を記述する際,当初児童の多くは教師が提示した見本の表情をそのまま使用していたが,徐々に見本をアレンジしたりオリジナルの表情を使用する児童が増加していったことが示された。そして,後者の児童の多くは主人公や自分といった1つの視点あるいは複数の人物の視点から,異なる複数の考えを記述していた。ここから,当該学級における道徳授業を通した児童の道徳性の発達は,自分なりの表情を用いながら,様々な視点から異なる複数の考えを,その間での葛藤を伴い表現するという言語を,当該学級における「ヴァナキュラーな道徳的言語」として専有していく過程と捉えることができた。ただし,こうした道徳性の発達は一方向的に進むのではなく,授業で扱う課題の内容や「心の表情カード」の変化により,行き来しながら進んでいることが示された。
著者
村上 達也 西村 多久磨 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.399-411, 2014

本研究の目的は他者のネガティブな感情とポジティブな感情の双方に着目した"子ども用認知・感情共感性尺度"の信頼性と妥当性を検討すること,共感性の性差および学年差を検討すること,そして,共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連を検討することであった。小学4年生から6年生546名,中学生1年生から3年生646名に対して調査を行った。因子分析の結果,子ども用認知・感情共感性尺度は6因子構造であった。それらの因子は,共感性の認知的側面である,"他者感情への敏感性(敏感性)"と"視点取得"の2因子と,共感性の感情的側面である,"他者のポジティブな感情の共有(ポジ共有)","他者のポジティブな感情への好感(ポジ好感)","他者のネガティブな感情の共有(ネガ共有)","他者のネガティブな感情への同情(ネガ同情)"の4因子であった。重回帰分析の結果,小中学生で敏感性とネガ同情が向社会的行動を促進していることが明らかになった。また,小学生高学年ではポジ好感が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった一方で,中学生では視点取得が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった。
著者
鈴木 亜由美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.379-386, 2014

本研究は,幼児において道徳的にネガティブな結果をもたらした加害者の信念を推測する際には誤りが生じやすいのかどうかを検討したものである。3–4歳児,4–5歳児,5–6歳児,合計71名に対して,行為者の同一の誤信念が道徳的にネガティブ,ポジティブ,ニュートラルな結果をもたらす3条件での誤信念の理解を問い,標準誤信念課題との正答率の差を検討した。加えて行為についての道徳的判断と理由づけを求めた。その結果,ニュートラル条件とネガティブ条件においては,標準誤信念課題よりも信念質問の正答率が低くなることがわかった。また,行為の背後にある誤信念を正しく理解している幼児であっても,非意図的行為がもたらす結果がネガティブかポジティブかに影響された道徳的判断を行うことが示された。一方で判断の根拠においては,誤信念を理解しない子どもに比べて,行為の意図性に言及した理由づけが多く見られることがわかった。これらの結果より,誤信念課題に道徳的文脈が加わることにより,加害者バイアスと状況の複雑さという2つの要因が影響し,幼児にとって誤信念の推測が難しくなることが示唆された。