著者
元木 葉子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-S22-3, 2021 (Released:2021-12-17)

2019年末に始まった新型コロナウイルスによる感染症は、2020年3月にはWHOによりパンデミック状態と宣言された。日本においてもこの間目まぐるしく状況が変化した。ダイヤモンドプリンセス号、国内での感染者発生と感染者数の拡大、病院における大規模クラスターの発生、緊急事態宣言。人類が経験してきたパンデミックのなかでも、これほどリアルタイムに医療情報があふれ、人々が行動変容を求められたことはなかったのではないか。つまり新型コロナウイルス感染症の流行は、全世界の個人に対しHealth Literacyについてリアルタイムに問い、迅速な行動変化を起こすことを要求したのである。 あふれる医療情報はやがて解決手段として、治療薬、医療機器、予防薬の要求へと人々を向かわせた。そこで人々が目の当たりにしたのは、日本では、他の国で次々と行われるような対応-PCR検査の大規模実施、検査キットの販売、人工呼吸器の生産、新薬の緊急承認やワクチンの治験など-が行われないという事態である。なぜ市民が熱望する医薬品や医療機器を、迅速に手に入れられないのか。多くの国民がワイドショーに出演する「専門家」が「国が悪い」「陰謀だ」、と主張する言葉にうなずき、憤ったことだろう。行政への怒りは、今やVaccine hesitancyにつながり、我々の目指す新型コロナウイルス感染症対策を難しくする一要因ともなっている。 なぜ私たちは望む医薬品や医療機器を手に入れられないのかという点に関して、医薬品や医療機器開発に対する市民の理解と、実際に取りうる行政対応にはギャップがある。医薬品や医療機器は、ワクチンも含めすべて企業の作り出す「製品」であることから、行政が法の枠組みで取りうる対応は限られるからである。しかし、行政の目的は国民のニーズを満たすことであるから、行政にも国民のニーズを受け止め行政に反映する改善努力は求められる。そしてニーズを生み出す側の市民も重大で切迫した健康危機を理解し、何を望んでいるのかを発信する必要もあり、そこにはやはりHealth Literacyが必要なのである。医薬品や医療機器開発の最終的な受益者である市民は、誰と何を議論すべきなのか。本講演では、医療現場で勤務する医師として行政に飛び込んで得た知見から、行政と市民双方に求められるHealth Literacyを議論する。
著者
原田 和博
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
臨床薬理 (ISSN:03881601)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.79-83, 2017-03-31 (Released:2017-04-22)
参考文献数
2
著者
莚田 泰誠
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-S25-1, 2021 (Released:2021-12-17)

ファーマコゲノミクスは、薬効や副作用などの薬物応答性に関連する遺伝的要因 (ゲノムバイオマーカー) を見出し、個人個人に合った薬を適切に使い分けることを目指す研究分野である。がん治療においては、医薬品の適応判定を目的としたコンパニオン診断薬として、がん遺伝子検査と次世代シークエンサーを用いたがんゲノムプロファイリング検査が、現在約30薬剤について保険収載されている。これらのコンパニオン診断薬のほとんどは、がん組織を用いる体細胞遺伝子検査であるが、2019年より、従来、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診断に用いられてきたBRCA1/2検査が乳癌・卵巣癌・前立腺癌・膵癌治療薬オラパリブの選定のために行われている。一方、薬物血中濃度や重症副作用を予測する遺伝子検査 (薬理遺伝学検査) では、抗がん薬イリノテカンによる副作用の発現リスクを予測するUGT1A1検査、炎症性腸疾患、リウマチ、白血病、自己免疫性肝炎等の治療におけるチオプリン製剤 (6-メルカプトプリン、アザチオプリン) の至適投与量を予測するNUDT15検査、多発性硬化症治療薬シポニモドの投与可否・投与量を判断するためのCYP2C9検査 (いずれも保険収載)、ゴーシェ病治療薬エリグルスタットの用法・用量調整に用いられるCYP2D6検査 (先進医療) のわずか4種類 (5薬剤) が臨床応用されているに過ぎない。このように、臨床導入が限定的である薬理遺伝学検査の社会実装を推進するためには、臨床的有用性 (clinical utility) を示す信頼性の高いエビデンスを示すとともに、結果返却に関するプロセスを含むゲノム医療の提供体制の構築に関する検討が必要であると考えられる。
著者
福島 若葉
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-S47-1, 2021 (Released:2021-12-17)

新型コロナウイルスワクチンの国内承認を契機に、報道等では毎日のようにワクチンに関する話題が取り上げられている。その結果、例えば数年前までは「ワクチン有効率70%」といえば「100人にワクチンを打てば70人に効く」と誤解されることが多い状況であったが、現在では、「非接種者が病気になる確率を1とすると、接種者ではその確率が0.3になる、すなわちリスクが70%減ることである」など、正しい知識が至るところで解説されるようになった。一方、このような「臨床的有効性」の評価手法や、各手法に潜在する困難性については、まだまだ理解されていないように感じている。ワクチンの開発段階、すなわち承認前に実施される臨床試験(治験)は、原則、無作為化比較試験で行われる。第I相~第II相臨床試験では数十人~数百人を対象として、安全性を重点的に評価するが、有効性のサロゲートマーカーとして免疫原性(抗体応答など)も評価する。発症予防効果などの臨床的有効性を直接評価する第III相臨床試験では、通常、数百人~数千人が対象となるが、想定されるワクチン有効率が高くても、アウトカムの発生割合が低ければ、数万人規模の調査が必要になることがある。承認後の市販後調査では、観察研究の手法によりワクチンの臨床的有効性を評価するが、それぞれに長所・短所がある。例えば、コホート研究は「接種者と非接種者を登録して追跡し、アウトカムの発生状況を比較する」といった非常に分かりやすいデザインであるが、接種・非接種にかかわらず「もれなく等しく」追跡するには多大な労力を要する。大規模保健医療データベースを活用したコホート研究はより少ない労力で実施できるが、接種者と非接種者の特性が著しく異なるなど、特有のバイアスが潜在することに注意が必要である。症例・対照研究の一種であるtest-negative designは、受診行動に起因するバイアスを一定程度制御できる手法であり、ワクチン有効率のモニタリングには向くものの、複数のアウトカムを同時に評価することは難しい。ワクチンの臨床的有効性評価の手法を理解することは、新型コロナウイルスワクチンに限らず、各種ワクチンの研究結果を適切に解釈することにもつながる。特に市販後調査が抱える課題については、実績が豊富であるインフルエンザワクチンの有効性研究で明らかにされてきた事項が多いため、自身の経験も交えながら紹介したい。
著者
長谷川 千尋 吉次 広如 辻 泰弘
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-A-4, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】COVID-19による世界的なパンデミックを引き起こしているSARS-CoV-2ウイルスの感染プロセスについては、呼吸器感染を引き起こす他のウイルスと類似している一方で異なる点もあげられており、例えばSARS-CoV-2ウイルスの体内での潜伏期間、又はウイルスの放出期間はインフルエンザ等の他のウイルスよりも長いことが知られている [1]。本研究では、SARS-CoV-2のウイルス動態をより理解するため、インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を行った。また、ウイルス動態を踏まえた治療開始のタイミングについても併せて検討した。【方法】数理学的モデルとして、公表されているSARS-CoV-2 [1]及びインフルエンザA/H1N1 [2]のTarget cell-limited modelを選択した。本モデルは、感染の対象となる標的ヒト内皮細胞、ウイルス、そして感染後の非感染性細胞及び感染性細胞の四つの相互関係を表現した数理学的モデルである。本モデルによるシミュレーションには、NONMEM 7.4を用いた。【結果・考察】シミュレーションの結果、SARS-CoV-2ウイルス量の経時推移はインフルエンザA/H1N1よりも緩やかであり、これまでの報告 [1]通り、SARS-CoV-2ウイルスの放出期間が長いことが示唆された。また、モデル構造は両ウイルスについて同じであることから、パラメータ値を直接比較した結果、ウイルスの死滅速度を初めとする多くのパラメータの値は両ウイルス間で同程度(5倍未満)である一方、ウイルスの感染速度はSARS-CoV-2で10倍超、感染性細胞からのウイルス複製速度に至っては1000倍超の値であった。これらの速度の違いが、両ウイルスの放出期間の違いに寄与する可能性がある。また、両ウイルスの動態については異なる点がある一方、治療開始のタイミングについては、いずれのウイルスも感染後2日以内が最も効果的であることが一部のシミュレーション結果(薬効メカニズムとして、多くの抗ウイルス剤でみられるウイルス複製の抑制を想定した場合)から示唆された。【結論】インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を実施した結果、SARS-CoV-2のウイルス動態及び効果的な治療開始タイミングについて定量的な考察を行うことが可能であった。【参考文献】[1] Patel K et al. Br J Clin Pharmacol (2020) Epub ahead of print.[2] Baccam P et al. J Virol (2006) 80, 7590-9.
著者
岡田 裕子 赤岩 奈々香 前田 恵里
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-B-1, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】 メトホルミンは、海外では妊娠糖尿病に使用可能であり、使用により母体の体重増加や妊娠高血圧症候群、児の新生児低血糖のリスクが低下したことが報告されている。一方、日本では妊婦又は妊娠している可能性のある女性に禁忌であり、現状では大規模データを使用した処方状況の調査は実施されていない。そこで本研究では、レセプトデータを用いて、妊娠中の糖尿病の合併と、メトホルミンを含む糖尿病治療薬の処方状況について調査した。【方法】 株式会社JMDCの保有する妊婦レセプトデータ(2005年1月-2017年6月診療分)107,629名分より、妊娠前に糖尿病(ICD-10コード:E10-E14)、及び妊娠糖尿病(ICD-10コード:O24)と診断を受けていた妊婦及び、妊娠中(出産日から280日遡る)に糖尿病と診断を受けた妊婦を特定し、各病態における診断状況と処方薬について調査した。処方データより糖尿病治療薬(ATCコード:A10)を妊娠中に使用していた妊婦から、処方人数、処方割合について調査した。本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認を受けて行った。【結果・考察】 妊娠前に糖尿病の診断を受けていた妊婦は 1,502人(1.4%)、妊娠中に糖尿病と診断を受けた妊婦は4,763人(4.4%)であった。妊娠前に診断を受けた群、妊娠中に診断を受けた群の両方で、1型糖尿病より2型糖尿病が多かった。全病態において、インスリン単独治療が最も多く、第一選択薬である傾向が確認できた。次に処方が多いのは、メトホルミンであり、糖尿病治療薬を処方されていない妊婦も多数確認できた。我が国における妊娠糖尿病の罹患率は7-9%であり、本研究のレセプト調査における妊娠糖尿病罹患率と比較すると、大きく差はなく、本データが概ね日本全体を反映していると考えられた。インスリン以外の治療薬が処方されていた妊婦も確認できたが、初期には妊娠に気付かず服用していた妊婦も含まれていた可能性が示唆された。また、メトホルミンに関しては、妊娠0-31日以内に治療を中止している妊婦もおり、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害の治療に処方され、妊娠が判明し処方中止した例も含まれているのではないかと考えられた。【結論】インスリン単独治療が最も多く、メトホルミン使用例も確認できた。今回、メトホルミン服用妊婦数が少なかったことから、メトホルミン服用妊婦数の多い母集団を使用し、安全性について検討することが今後の課題であると考えられる。
著者
西野 精治
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-SL2, 2021

<p>私は、大阪医科大学大学院4年在学時の1987年に、早石修学長 (当時) の早石生物情報研究所共同研究員としてスタンフォード大学睡眠研究所に留学することになった。その後34年にわたり、スタンフォード大学で睡眠研究を続けている。その間、東北大学にはヒスタミンの国際シンポジウムなどで度々訪れる機会があった。本学術総会では、ヒスタミンにちなんで脳内マスト細胞と睡眠に関する研究成果を報告する。ヒスタミン神経のみならず、マスト細胞由来のヒスタミンは覚醒系の伝達を担い、ストレス性不眠、不眠による脂肪細胞等における炎症や耐糖能異常などにも関わるという結果が動物実験で得られた。次に、新型コロナウイルス感染症と睡眠に関する疫学的調査の結果を報告したい。2000年初頭より新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るい、全世界で多くの死亡者を出す事態となった。COVID-19の広がりによって人々の生活習慣や労働様式から睡眠習慣まで大きな影響がみられ、今後、新型コロナウイルスとの共存を考える上で生活変化・職場での生産性の分析は重要である。2020年4月に行った1,000人規模の調査では、コロナ禍の下で特にリモートワークにより睡眠時間は長くなったが、就寝時間が後ろ倒しになり、睡眠の質が低下したケースも多いことがわかった。さらには、コロナ禍が約一年経過した2021年2月には調査対象者10,000人規模で睡眠状態やコロナ感染についての疫学的調査を行い、「マスクをせずに外出(OR 7.01, 95% CI: 4.50, 10.92)」などがCOVID-19のリスク因子として認められた。また調査対象者10,323名中、新型コロナウイルス感染を認めなかった8,693名のうち睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の既往歴がある者は231名(2.7%)であった一方、新型コロナウイルス感染者144名の中でSAS既往者は51名(35.4%)に及んだという衝撃的な結果が得られた(OR 4.93, 95% CI: 2.81, 8.63)。新型コロナウイルスの感染者はインフルエンザの感染リスクも高く(OR 6.30, 95% CI: 3.79, 10.49)、SAS既往者では双方の感染リスクが高いことも分かった。最後に、谷内学会会長より研究成果のみならずスタンフォードでの研究生活やシリコンバレーでの生活も紹介していただきたいとの依頼を受けたので、米国での研究室の主宰者としての研究生活についても紹介させていただきたい。</p>
著者
花岡 正幸
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-S05-1, 2021

<p>薬剤性肺障害は、「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの」と定義される。薬剤は医師が処方したものだけでなく、一般薬、生薬、健康食品・サプリメント、さらに非合法薬などすべてを含む。また、呼吸器系の障害とは肺胞・間質領域病変だけでなく、気道病変、血管病変、胸膜病変などが含まれ、さらに器質的障害から機能的障害まで様々である。</p><p>薬剤性肺障害の診断は、「すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり、薬剤投与中のみならず投与終了後にも発生することを常に念頭に置く」ことから始まる。すなわち、多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、肺に異常陰影の出現をみた場合、必ず鑑別しなければならない病態である。</p><p>薬剤性肺障害のうち、肺胞・間質領域に病変の主座を認めるものを「薬剤性肺炎」と呼ぶ。薬剤性肺炎の被疑薬として、抗悪性腫瘍治療薬、関節リウマチ治療薬、漢方薬などが多く、大部分は薬剤の投与開始から120日以内に発症する。中高年の男性に多い傾向があり、喫煙歴や既存の肺病変などリスク因子が存在する。国際比較により、海外よりも国内(日本人)での発生頻度が高いことが知られている。自覚症状は咳嗽、呼吸困難、発熱が多いが、その臨床病型は多彩で非特異的である。診断の手がかりは高分解能(HR)CT所見であり、画像パターンと既報告との類似性の評価が重要となる。薬剤性肺炎の画像パターンは、びまん性肺胞傷害(DAD)、過敏性肺炎(HP)、器質化肺炎(OP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎(AEP)の5つに大別される。現在までのところ診断の決め手はなく、除外診断となる。鑑別診断としては、呼吸器感染症、既存の肺病変の悪化、および心原性肺水腫が重要である。</p><p>治療の原則は被疑薬の中止であり、重症度に応じてステロイド治療を考慮する。さらに、呼吸不全やDAD型肺障害を呈する症例は、ステロイドパルス療法を含めた集学的な治療が必要となる。予後は比較的良好であるが、一般的にDAD型肺障害は治療抵抗性で予後不良である。</p><p>本シンポジウムでは、薬剤性肺炎の病態、診断、治療など臨床像を中心に解説する。</p>

1 0 0 0 OA 人工精神病

著者
小林 司
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
臨床薬理 (ISSN:03881601)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3-4, pp.213-218, 1970-12-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
8
著者
石井 明子 斎藤 嘉朗
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.3-S47-4, 2021

<p>感染症ワクチンの有効性の評価においては,免疫原性(immunogenicity),臨床試験での有効率(efficacy),実社会での有効率(effectiveness)が指標となり得るが,新型コロナウイルスワクチンの評価の考え方(令和2年9月2日PMDAワクチン等審査部)では,原則として臨床試験における発症予防効果を主要評価項目とすべきとの見解が示されている.一方で,海外で発症予防効果を主要評価項目とした大規模な検証的臨床試験が実施される場合には,日本人における免疫原性及び安全性を確認することを目的とした国内臨床試験を実施することで十分な場合がある(新型コロナワクチン審査報告書)とされ,これまでに本邦で特例承認された3種類の新型コロナワクチンでは,免疫原性及び安全性の確認を目的とした国内臨床試験が行われた.さらに,変異株ワクチンの有効性及び安全性評価における考え方が補遺1として示され(令和3年4月5日),既承認のワクチンを改良した変異株ワクチンの有効性については,中和抗体陽転率,及び中和抗体価の幾何平均値を主要評価項目とするとされている. </p><p>新型コロナワクチン国内臨床試験における免疫原性の評価では,Sタンパク質特異的抗体価,及びウイルスあるいはシュードウイルスを用いた中和抗体価が測定された.ここで得られる抗体価は用いる測定系に依存する値であるため,一つの臨床試験の中で群間の比較を行うことは可能であるが,異なる測定系で得られた値を比較することはできない.今後,国内で開発される新型コロナワクチンの臨床試験における有効性評価や,既存ワクチンの2回接種後の追加接種の必要性の検討,実社会における各自の免疫状態の調査等において,抗体価の標準化が重要な課題の一つとなる.2020年12月にWHOが最初の新型コロナウイルス抗体国際標準品を策定し,中和活性に関するIU(International Unit),及び結合活性に関するBAU(Binding Antibody Unit)が定められた.今後は,この国際標準品を基準に標準化が図られると考えられるが,普及は十分でなく標準化は緒についたばかりである.本講演では,新型コロナワクチンの有効性評価に関して,特に抗体測定法と標準化の観点から現状と課題について考察するとともに,令和2年度に実施した,抗体検査キットの一斉性能評価試験の結果を紹介する.</p>
著者
矢田 充男 高橋 香 三木 祐 鵜飼 克明 小林 英嗣 小松 由佳 石田 さやか 平間 麻衣子 一戸 集平 渡辺 真衣 水吉 勝彦 澤田 真樹
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.2-P-O-6, 2021

<p>【はじめに】新型コロナウイルス感染症は、2019年12月以降、中国湖北省武漢市を中心に発生し、短期間で全世界に広がった。本邦において2021年2月14日に新型コロナウイルスワクチンとして販売名コミナティ筋注(以下「本剤」という)が特例承認となった。国立病院機構においては、投与初期における安全性確認を主たる目的としたコホート調査(以下「調査」という)を兼ね先行接種を行った。当院において、本剤先行接種に際し、医師、薬剤師、看護師、事務職員により構成された新型コロナウイルスワクチン検討チーム(以下「検討チーム」という)を立ち上げ、当院職員に対し本剤接種を安心・安全を第一に接種行うこととした。【目的】当院において2021年1月26日に検討チームの第1回目の打ち合わせを開始し、その後も随時打ち合わせを行いながらの対応となった。2月5日に本剤保管用のディープフリーザーの設置、2月12日より院内において本剤接種および調査の説明会を実施した。当院には2月18日に本剤が搬入となり、翌2月19日より接種を開始した。その後3月26日までの先行接種終了までの流れについて紹介する。【方法】当院職員を対象とした先行接種に1207名を対象に接種希望調査を実施し、1062名の職員が先行接種の希望をされ、うち2021年2月25日までに接種を受けた378名に調査にご協力いただくこととなった。ワクチン接種は院内大講堂を会場に行い、予診票等の事前確認、問診、接種、予診票等の回収という流れで行い、被接種者は接種後に大講堂若しくは職場等で観察を行い、一人で過ごすことがないような環境を整えた。【結果】本剤の接種にあたり、問診等は医師、本剤の管理・調製は薬剤師、接種は看護師、職員の接種スケジュール管理は事務、調査関係は治験管理室とそれぞれの役割を分担したことにより、接種を希望する全職員への接種は大きな問題はなく終えることができた。また調査における日誌の回収、データ入力についても関係各所に協力をいただきながら期限までに入力を終えることができた。しかしながら、各部署の担当者への負担が増加したところは否定できない状況であった。【考察】本剤先行接種に際し、各種情報が日々更新される中で、円滑に接種を終えることができたのは、医師、薬剤師、看護師、事務職員をはじめとした病院の全ての職員が一丸となり、一つのチームとして対応したことが一番の要因であると考える。</p>