著者
塩川 和彦 高倉 公朋 加川 瑞夫 佐藤 和栄
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.169-175, 1995 (Released:2009-03-27)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

くも膜下出血411例について,その発症に影響する因子をretrospectiveに解析し,労働との関連について検討した.発症時間では7時と16-17時の2つのピークがみられた.就労中発症は全くも膜下出血例の15.1%に見られ,運動,性交なども含めて,何らかの外的ストレスの関与が示唆されるものは66.7%に見られた.職務内容では,就労中発症例はその他の発症例に比較して,管理職を除く男性会社事務と肉体労働に多かった.就労中発症例はその他の発症例に比較して,高血圧症,喫煙歴,不眠の既往に有意差はみられなかったが, 40-59歳男性の就労中発症例(特に事務労働中発症例)はその他の発症例に比較して,有意に喫煙歴が高かった.労働そのものがくも膜下出血発症の原因になるか否かは未だ不明の点も多いが,就労中発症の機転として外的ストレスによる-過性の血圧上昇が示唆され,肉体的および精神的ストレス(外的ストレス)に対する個人の反応性が問題と考えられた.したがってその予防には新しい健康診断方法や健康管理が必要と思われる.
著者
高橋 謙 大久保 利晃
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.237-243, 1995 (Released:2009-03-27)
参考文献数
17

本稿は,特に安全衛生に関連した最近の国際労働条約を取り上げ,その特徴を明らかにした上で,総括を試みた.同分野に関連し, 1960-93年の期間中に採択された条約数は13である.これらの条約は,異なる目的をもって安全衛生分野の各領域を網羅しているため,対比的に記述した.条約は批准される必要があるため,日本の批准状況をILOおよびOECD加盟諸国と統計的に比較した.日本は, 1993年6月現在,このうちの3条約を批准したが,この水準はILO加盟国平均をわずかに上回るが, 24のOECD加盟国中11位の批准割合であった. ILO条約のうち,日本の批准割合の相対的水準は,安全衛生分野の方がそれ以外の分野よりも高かった. ILO条約は,引用や参照によって相互に関連しているため, 155号(労働安全衛生)や148号(作業環境)条約などの基本的条約の批准努力が安全衛生分野における他条約の批准を容易にすることが考えられる.
著者
大塚 俊昭 川田 智之 矢内 美雪 北川 裕子 菅 裕彦
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.78-78, 2011 (Released:2011-06-04)
参考文献数
30
被引用文献数
10 13

一職域男性集団におけるメタボリックシンドロームの発症率およびメタボリックシンドローム発症に関連する生活習慣因子の検討:大塚俊昭ほか.日本医科大学衛生学・公衆衛生学講座―目的:メタボリックシンドローム(MetS)の予防は職域健康増進活動における主要課題の一つである.そこで今回,我々は一職域男性集団におけるMetSの発症率およびMetS発症に関連する生活習慣因子の検討を行った. 対象と方法:対象は,神奈川県内の精密機器開発事業所における2005年度定期健康診断を受診し,本邦におけるMetSの診断に非該当であった男性社員948名(平均44歳)である.対象者の2006年度から2009年度の定期健康診断データを追跡し,MetSの新規発症の有無を調査した.2005年度の健康診断結果から,対象集団を腹部肥満の有無とその他のMetS構成因子(血圧高値,脂質代謝異常,空腹時血糖高値)保有数の組み合わせで分類し,各群におけるMetS発症率を算出した.また,生活習慣因子(食事内容,喫煙,睡眠,運動,飲酒)の相違によるMetS発症率を比較した.コックス比例ハザードモデルを用い,上記各因子からMetS発症リスク上昇を規定する因子を求めた. 結果:平均3.7年の追跡において,76人にMetS新規発症を認めた.MetSの年間発症率は2.2/100人年,カプラン・マイヤー法による4年発症率は8.5%であった.対象を腹部肥満の有無とその他のMetS構成因子保有数の組み合わせで分類すると,腹部肥満を認めずその他の構成因子を二つ以上保有する群で最も高い発症率(37.9%)を示し,これに腹部肥満を認めその他の構成因子を一つ保有する群が続いた(24.6%).年齢で調整したコックス比例ハザードモデルでは,「腹部肥満の保有」および「その他の構成因子数の1増加」はともにMetS発症に対する有意なハザード比の上昇を示した(5.23および4.79,ともに p<0.001).同様に,睡眠時間5時間以下,現在喫煙,およびエタノール摂取量300 g/週以上がMetS発症に対する有意なハザード比の上昇を示した.結論:本検討においては,腹部肥満を有する者のみならず,腹部肥満を有さずともその他のMetS構成因子を複数認める者においてMetS発症率は高率であった.また,睡眠不足,喫煙,および過剰飲酒がMetS発症リスク上昇に関わっていた.職域におけるハイリスク・ストラテジーに基づいたMetS発症予防対策を行うにあたっては,これらの病状や生活習慣を有する者を優先した活動の有用性が期待される. (産衛誌2011; 53: 78-86)
著者
下村 智子 若林 一郎
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.21-21, 2010 (Released:2010-02-05)
参考文献数
10
被引用文献数
1 3

事業所での定期健康診断における貧血有所見率の地域差:下村智子ほか.兵庫医科大学環境予防医学―貧血項目は労働安全衛生法により定期健康診断の法定項目に含まれている.本研究では事業所定期健康診断における貧血有所見率の地域差について調査し,その要因について検討した.平成14年度の全国都道府県別の定期健康診断の有所見率について,生活習慣と関連する主な7項目中で特に貧血有所見率に注目し,都道府県別の諸因子との関連性についてSpearman順位相関係数を用いて検討した.貧血有所見率には地域差(5.2-11.7%)が見られ,岩手県,秋田県,山形県などの東北地方と,福井県,島根県,長崎県などで高い傾向を示した.都道府県別の貧血有所見率は血圧,血中脂質,肝機能,心電図,血糖,尿糖のすべての項目の有所見率と有意な相関を示した.都道府県別の貧血有所見率は貧血の受療率と有意な相関を示したが,子宮筋腫患者数や子宮悪性新生物粗死亡率とは有意な相関を示さず,鉄欠乏性貧血患者数や鉄摂取量との間にも有意な相関は見られなかった.都道府県別の貧血有所見率は,女性人口比率,女性就業者比率および就業者平均年齢と有意な相関を示し,一方,大規模事業所(300人以上の従業員数)の割合(50人以上の従業員数の全事業所数に対する)とは有意な負の相関を示した.事業所定期健康診断の貧血有所見率には大きな地域差が見られるが,その要因としての性器出血を伴う婦人科疾患の頻度や食事性鉄摂取量の関与は少なく,事業所での衛生管理状態や女性就業者比率を反映する可能性が示唆された. (産衛誌2010; 52: 21-27)
著者
Maekawa Yumiko Ramos-Cejudo Juan Kanai Atsuko
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
journal of Occupational Health (ISSN:13419145)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.632-639, 2016
被引用文献数
6

<p><b>Objectives: </b>Although using mental health services is an effective way to cope with work-related stressors and diseases, many employees do not utilize these services despite service improvements in recent years. The present study aimed to investigate the interaction effects of workplace climate and distress on help-seeking attitudes, and elucidate the reasons for mental health service underutilization in Japan. <b>Methods: </b>A questionnaire was distributed to 650 full-time male Japanese employees. Hierarchical multiple regression analysis was used to investigate interaction effects of workplace climate and distress on help-seeking. <b>Results: </b>Results showed that the association between workplace climate and help-seeking attitudes differed depending on employee distress level. For employees experiencing low levels of distress, openness to seeking treatment increased with a higher evaluation of the mental health services available at the workplace. However, the same did not hold true for employees experiencing high levels of distress. Instead, openness to seeking treatment decreased with perceived risk for career disadvantage for high distress employees. Additionally, negative values for seeking treatment in highly distressed employees decreased only when services were perceived as valuable, and the risk to their career was perceived as low. <b>Conclusions: </b>Overall, these findings indicate that distress distorts the perception of social support, which may lead to underutilization of available services. Assessing employees' distress levels and tailoring adequate interventions could facilitate help-seeking in male employees.</p>
著者
Maekawa Yumiko Ramos-Cejudo Juan Kanai Atsuko
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
journal of Occupational Health (ISSN:13419145)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.632-639, 2016
被引用文献数
6

<p><b>Objectives: </b>Although using mental health services is an effective way to cope with work-related stressors and diseases, many employees do not utilize these services despite service improvements in recent years. The present study aimed to investigate the interaction effects of workplace climate and distress on help-seeking attitudes, and elucidate the reasons for mental health service underutilization in Japan. <b>Methods: </b>A questionnaire was distributed to 650 full-time male Japanese employees. Hierarchical multiple regression analysis was used to investigate interaction effects of workplace climate and distress on help-seeking. <b>Results: </b>Results showed that the association between workplace climate and help-seeking attitudes differed depending on employee distress level. For employees experiencing low levels of distress, openness to seeking treatment increased with a higher evaluation of the mental health services available at the workplace. However, the same did not hold true for employees experiencing high levels of distress. Instead, openness to seeking treatment decreased with perceived risk for career disadvantage for high distress employees. Additionally, negative values for seeking treatment in highly distressed employees decreased only when services were perceived as valuable, and the risk to their career was perceived as low. <b>Conclusions: </b>Overall, these findings indicate that distress distorts the perception of social support, which may lead to underutilization of available services. Assessing employees' distress levels and tailoring adequate interventions could facilitate help-seeking in male employees.</p>
著者
永田 昌子 堤 明純 中野 和歌子 中村 純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.29-29, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

職域における広汎性発達障害者の頻度と対応:産業医経験を有する精神科医を対象とした調査:永田昌子ほか.産業医科大学産業医実務研修センター―目的:近年,産業保健スタッフが対応するメンタルヘルス不調者の中に広汎性発達障害を抱える,もしくは疑い例に遭遇する事例が報告されている.本研究は,産業医経験を有する精神科医を対象に,職域で広汎性発達障害の事例対応に遭遇する頻度や広汎性発達障害を抱えるメンタルヘルス不調者に対して行われている就業上の配慮について,職域での実態調査を行った.対象と方法:産業医科大学精神医学教室員および同門医師122名に対して,記名式の郵送法調査を実施した.回答者の産業医経験,臨床経験,臨床場面での広汎性発達障害の経験,産業医活動のなかで広汎性発達障害の診断を受けているメンタルヘルス不調者の事例対応をした経験の有無,また,事例対応開始時に主治医より受けている診断名は広汎性発達障害ではないが,回答者自身が広汎性発達障害を疑った事例の経験の有無,事例対応の経験があるものには,職場で行った具体的な配慮,困難だった事例,成功した事例等について自由記述形式で回答を求めた.結果:56名から回答が得られた.そのうちメンタルヘルス不調者の職域での事例対応経験のある医師35名の回答を分析した.広汎性発達障害の「診断」を受けているメンタルヘルス不調者の経験を有するものは7人(20.0%),広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑ったメンタルヘルス不調者の経験を有するものは15人(42.9%),両方の経験を有するものが3人(8.6%)であり,どちらかの経験も有するものが19人(54.6%)であった.今回報告された40例のうち,事例対応開始時に診断名がついていたものが12例,回答者が疑った事例が28例,そのうち調査票回答時までに診断に至っていたものが7例であった.広汎性発達障害の「診断」を受けてないものの,回答者自身が広汎性発達障害を疑った理由として多かったのは,職場での対人関係のトラブルを起こすというエピソードであった.「診断」を受けている事例は,産業医が疑った事例より具体的な配慮が行われていた.また,就業上の配慮として上司に対しての障害特性についての説明や業務内容の変更などが実施されていた.地域の社会資源の活用状況として,広汎性発達障害の診断を受けている,または疑った事例対応経験のある回答者19人のうち,発達障害支援センターや地域障害者職業センターの利用した経験を有する回答者は2人(10.5%)であった.考察:調査対象となった産業医経験のある精神科医の半数に広汎性発達障害の診断がついた,もしくは疑った事例の対応の経験があり,職域で広汎性発達障害を持つ労働者の事例対応をすることは稀ではないことが示唆された.産業保健スタッフは,広汎性発達障害の知識,職場での適切な配慮の仕方,利用できる社会資源についての理解を深める必要があると考えられた.
著者
松本 悠貴 石竹 達也 内村 直尚 石田 哲也 森松 嘉孝 星子 美智子 森 美穂子 久篠 奈苗
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.154-164, 2013-09-20
参考文献数
32
被引用文献数
2

<b>目的:</b> 睡眠は単に睡眠時間のみで良好か不良かを判断できるものではなく,睡眠の導入や維持といった睡眠の質,就寝時刻や起床時刻といった規則性まで考慮しなければならない.しかしながら,それらすべてを一度に評価できる指標は現在のところ存在しない.本研究は睡眠の規則性・質・量の3要素を評価するための質問票を独自に開発し,その信頼性と妥当性の検証を行うことを目的とした. <b>対象と方法:</b> 対象は製造業およびサービス業に従事する日勤労働者563名(男性370名,女性193名)で,平均年齢は40.4歳であった.先行研究および専門家との討議を参考に,規則性・質・量それぞれ7項目,計21項目からなる質問紙を作成・編集した.まず項目分析を行い,その後因子分析にかけて構成概念妥当性を検証した.信頼性はクロンバックα信頼性係数を算出して求めた.また,主成分分析およびクラスター分析にて標準化・分類を行い,生活習慣や日中の眠気,ストレス,持病の有無などを比較することにより,判別的妥当性の検証を行った. <b>結果:</b> 項目分析および因子分析にて,21項目中6項目が除外対象となったが,予測通り規則性・質・量の3因子構造が得られた.α信頼性係数はそれぞれ0.744,0.757,0.548であった.量因子として作成した2項目が規則性因子として抽出されていたが,それ以外は予測通りの因子として抽出された.入眠困難,熟眠障害,中途覚醒,早朝覚醒はすべて質因子として一定の負荷量を示していた.判別的妥当性については,最も点数の高いグループで健康意識が高くストレスや日中の眠気を感じていない者の割合が有意に高かった.一方で,最も点数の低いグループではストレスや持病などの睡眠障害リスクファクターを有している者の割合が有意に高かった. <b>考察:</b> 今回我々が開発した質問票にて,睡眠の規則性・質・量における構成概念妥当性が示された.しかしながら,分析過程にて不適切と判断され除外された項目や,予測していた因子とは異なる因子として抽出された項目が存在し,信頼性および内容的妥当性については課題が残った.今後これらの質問項目について再度編集・改訂し,より信頼性・妥当性を高めていく必要がある.また,年齢や性等による影響を除いたより詳細な判別的妥当性の検討も要する.
著者
堀田 裕司 大塚 泰正
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B15001, (Released:2015-07-07)

目的:職場のソーシャルサポートを高める可能性のある要因として,組織市民行動における対人的援助がある.本研究の目的は,職場における対人的援助向上プログラムの実施により対人的援助が上昇すること,および,対人的援助の上昇により量的負担が増加するものの,ソーシャルサポートも増加し,心理的ストレス反応が低下することを検証することである.対象と方法:製造業A社に所属する労働者72名を調査対象とした.per-protocol解析を行うために,調査票への欠損回答者,退職者および研修の欠席者の24名を除いた介入群26名(男性22名,女性4名,B事業所所属)と統制群22名(男性19名,女性3名,C事業所所属)を最終的な分析対象とした.また,intention-to-treat解析(以下ITT解析)を行うために,pre-testでの欠損回答者10名を除いた介入群35名(男性30名,女性5名,B事業所所属)と統制群27名(男性23名,女性4名,C事業所所属)を分析対象とした.調査票は,日本版組織市民行動尺度の対人的援助,職業性ストレス簡易調査票の量的負担,心理的ストレス反応,ソーシャルサポートを使用した.介入群の参加者のみ心理教育とロールプレイ,4週間のホームワーク(以下HW)を実施した.両群の参加者に pre test(以下pre),post test(以下post),follow-up test(以下follow-up)を同一時期に実施した.プログラムの効果を検証するために,各効果評価指標を従属変数,時期(pre,post,follow-up)と群(介入群,統制群)を独立変数とし,per-protocol解析については2要因分散分析を,ITT解析については混合効果モデルによる分析を行った.結果:per-protocol解析では,対人的援助および同僚サポートにおける介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおいて,post時に介入群の得点が統制群よりも有意に高かった.ITT解析では,対人的援助における介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおける介入群のpost時の得点がpre時よりも有意に高かった.結論:対人的援助向上プログラムの実施の結果,介入群の対人的援助および同僚サポートが有意に増加することが明らかとなった.しかしながら,上司サポート,量的負担の有意な増加,および,心理的ストレス反応の有意な低下は認められなかった.対人的援助を上昇させることで,特に同僚からのサポートを向上させることができる可能性がある.
著者
津野 香奈美 大島 一輝 窪田 和巳 川上 憲人
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.245-258, 2014 (Released:2014-12-20)
参考文献数
46
被引用文献数
2 15

目的:東日本大震災は東北から関東にかけて甚大な被害をもたらしたが,津波の被害がなかった関東地方の労働者の心理的ストレスについてはあまり注目されていない.自身の被災に加え,震災によって仮庁舎への移動が必要となり,通常業務に加え震災対応に追われた関東地方の自治体職員における困難に立ち向かう力(レジリエンス)と心的外傷後ストレス症状との関連を検討した.対象と方法:関東地方のある自治体において,震災から半年後にあたる2011年9月に全職員2,069名を対象に質問紙調査を実施し,そのうち991名から回答を得た(回収率47.9%).分析対象者は,欠損値のなかった825名(男性607名,女性218名)とした.心的外傷後ストレス症状は出来事インパクト尺度改定版(Impact Event Scale-Revised),レジリエンスはConnor-Davidson Resilience Scaleを用いて測定し高中低の3群に区分した.震災による怪我の有無(家族を含む)と自宅被害の有無をそれぞれ1項目で調査し,いずれかに「はい」と回答した者を「被災あり群」,それ以外を「被災なし群」とした.多重ロジスティック回帰分析を用いて,被災あり群における心的外傷後ストレス症状の有無(IES-R得点25点以上)のオッズ比を,レジリエンス得点の高中低群別に算出した.結果:東日本大震災によって自分ないし家族が怪我をした者は回答者のうち4.6%,自宅に被害があった者は82.3%であり,いずれかの被害があった者は全体の83.3%であった.被災あり群,慢性疾患あり群で有意に心的外傷後ストレス症状を持つ割合が高かった.基本的属性および被災の有無を調整してもレジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な負の関連が見られた(高群に対する低群のオッズ比2.00 [95%信頼区間 1.25–3.18],基本属性,職業特性で調整後).特に被災あり群で,レジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な関係が見られた.結論:東日本大震災で自宅等への被災を受けた自治体職員の中で,レジリエンスが低いほど心的外傷後ストレス症状を持つリスクが高いことが明らかになった.このことから,震災などの自然災害という困難の際にも,レジリエンスが心的外傷後ストレス症状発症を抑える働きをすると考えられる.
著者
宮島 啓子 吉田 仁 熊谷 信二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.74-74, 2010 (Released:2010-04-08)
参考文献数
17
被引用文献数
5 12

内視鏡消毒従事者におけるオルトフタルアルデヒドへの曝露状況:宮島啓子ほか.大阪府立公衆衛生研究所衛生化学部生活環境課―目的と方法:最近,内視鏡消毒剤として,グルタルアルデヒドの代替品としてオルトフタルアルデヒド(OPA)の使用が増えてきている.我々は,消毒従事者のOPA曝露状況と健康影響を明らかにするため,内視鏡洗浄室17ヶ所において作業環境調査と質問紙調査を行った.これらの内視鏡洗浄室には,スコープの消毒に浸漬槽を用いる9ヶ所の手動洗浄室と自動洗浄機を用いる8ヶ所の自動洗浄室がある. 結果:スコープ消毒時のOPA曝露濃度は,自動群(中央値:0.35 ppb,範囲:ND-0.69 ppb)と比較し,手動群(中央値:1.43 ppb,範囲:ND-5.37 ppb)で有意に高かった.同様に,消毒液交換時も,自動群(中央値:0.46ppb,範囲:ND-1.35 ppb)よりも手動群(中央値:2.58ppb,範囲:0.92-10.0 ppb)の方が有意に高かった.消毒従事者の勤務時間中の平均曝露濃度は,手動群では0.33-1.15ppb(中央値0.66ppb),自動群では0.13-1.28ppb(中央値0.33 ppb)であり,手動群でOPA曝露が高い傾向が見られた.OPA製剤のみを使用していた女性の消毒従事者80人における消毒作業に関連した自覚症状愁訴率は,皮膚症状10%,眼症状9%,呼吸器症状16%,頭痛3%であった. 考察と結論:これらの結果は,消毒従事者のOPA曝露レベルを低減するために,自動洗浄機導入が望ましいことを示唆している. (産衛誌2010; 52: 74-80)