著者
中村 明夫 今泉 晃 柳川 幸重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.4, pp.427-434, 2004-10-01
被引用文献数
2

β<sub>2</sub>アドレナリン交感神経受容体(β<sub>2</sub>-AR)刺激薬の大部分は未変化のまま腎臓より排泄されるため,ネフロンを通過する過程でなんらかの薬理学的効果を発揮すると思われる.しかしながら,β<sub>2</sub>-ARの腎機能調節における役割が明らかにされていないため,実際の使用時には,このような薬理効果は考慮されていない.腎臓のβ<sub>2</sub>-ARは主に近位尿細管上皮細胞と,腎動脈の平滑筋細胞膜に分布している.これらの発現の部位を考えれば,β<sub>2</sub>-ARは糸球体機能や,ネフロンでのナトリウムと水分バランスに作用していると思われる.実際,β<sub>2</sub>-AR刺激薬を投与すると腎糸球体濾過率は著しく低下する.一方,β<sub>2</sub>-AR刺激薬は腎臓での炎症性サイトカイン,例えばTNF-αの産生を阻害する.さらに,β<sub>2</sub>-AR刺激薬は溶血性尿毒症症候群(HUS)の志賀毒素によるアポトーシスの誘導を抑制することがわかっている.腎臓のβ<sub>2</sub>-AR機能に関して薬理学的根拠に基づいた理解を進めることは,呼吸器疾患で投与されるβ<sub>2</sub>-AR刺激薬の腎機能を考慮した適正使用についてや,敗血症とHUSに伴う腎臓の炎症や障害に対する治療について重要かつ新しい情報を提供することになる.<br>
著者
蔵並 潤一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.3, pp.109-112, 2012 (Released:2012-03-10)
参考文献数
4

GLPとはGood Laboratory Practiceの略称で,安全性に関わる非臨床試験の信頼性を確保するための基準であり,33年前に世界に先駆け米国において制定された.日本には,その後4年遅れて導入され,省令化や安全性薬理試験への適用等の変革を遂げてきた.一方,海外に目を転ずると,日本のGLP制定に先駆けOECD GLPが制定され,その後一部改正を経て現在に至っている.さらに,OECDにおけるGLP適合査察機関現地評価制度の合意を受け,GLPの国際整合が加速された.日本の医薬品GLP省令は,2008年の一部省令改正により国際整合の波に乗り,自由度が増した結果,自ら考え,自ら行動することの重要性が取り沙汰されはじめた.申請資料の信頼性の基準とGLPとのボーダレス化が進む中,我々は試験の信頼性の確保に真に必要な,「筋肉」のみを残す取り組みを始めるべきであろう.
著者
佐藤 幸治 東原 和成
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.248-253, 2009-11-01
被引用文献数
3

動物の嗅覚器には,外界の匂い物質と結合する嗅覚受容体が発現している.下等な線虫から高等哺乳動物に至るまで,嗅覚受容体は7回膜貫通Gタンパク質共役型受容体ファミリーに属する.嗅覚受容体と匂い物質が結合するとGタンパク質経路が活性化され,下流の環状ヌクレオチド作動性イオンチャネルが開口する.ゲノムプロジェクトの進行により,昆虫でも嗅覚受容体は7回膜貫通構造をもつことが明らかにされた.したがって,Gタンパク質経路を利用した情報伝達機構は全ての動物において,匂い受容における共通の分子基盤であると考えられてきた.しかしながら最近,昆虫嗅覚受容体は昆虫種間で広く保存されているOr83bファミリー受容体と複合体構造をとり,この複合体にはGタンパク質経路とは無関係に,匂いで活性化されるイオンチャネル活性が備わっていることが明らかとなった.マラリアなどの虫媒性伝染病は,汗や体臭を通して放散される匂い物質に誘引された昆虫の吸血により感染する.虫除け剤には,嗅覚受容体複合体が構成するチャネル活性を阻害する作用があることも報告された.今後,このような吸血昆虫が媒介する感染症の一次予防の観点から,嗅覚受容体複合体の活性制御機構の解明は,虫除け剤開発における最重要ターゲットになると思われる.<br>
著者
戸倉 猛 奥 久司 塚本 有記
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.2, pp.97-104, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
37
被引用文献数
2 3

ピルフェニドンは新規の抗線維化薬である.動物実験では各種線維化疾患モデルで各臓器における明らかな線維化の減少と機能低下の抑制が認められている.ブレオマイシン誘発肺線維症モデルでは,ステロイドであるプレドニゾロンとの比較により,プレドニゾロンは抗炎症作用のみを示したのに対し,本薬は抗炎症作用と抗線維化作用の両方を示した.種々の検討からピルフェニドンは,炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-1,IL-6等)の産生抑制と抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生亢進を示し,Th1/2バランスの修正につながるIFN-γの低下の抑制,線維化形成に関与する増殖因子(TGF-β1,b-FGF,PDGF)の産生抑制を示すなど,各種サイトカインおよび増殖因子に対する産生調節作用を有することが示されている.また,線維芽細胞増殖抑制作用やコラーゲン産生抑制作用も有しており,これらの複合的な作用に基づき抗線維化作用を示すと考えられる.本邦において実施された特発性肺線維症(IPF:Idiopathic Pulmonary Fibrosis)患者を対象とした第III相試験の結果,ピルフェニドン投与によりプラセボ群に比べ有意に肺機能検査VC(肺活量)値の悪化を抑制し無増悪生存期間の延長に寄与していたことから,特発性肺線維症の進行を抑制することが示された.一方,本薬投与による特徴的な副作用は,光線過敏症,胃腸障害(食欲不振,食欲減退),γ-GTP上昇等であった.ピルフェニドンが特発性肺線維症患者に対して一定の効果を示したことにより,副作用の発現はプラセボ群に比べ高かったものの,減量・休薬等で副作用をコントロールし治療を継続することで,病態の進行を抑制し生命予後の改善にも寄与することが期待される.
著者
中津 継夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.105, no.4, pp.209-219, 1995-04-01
被引用文献数
4

ビスコクラウリン型アルカロイド製剤であるセファランチンのマウス脾臓内マイトジェン誘導ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)活性増強効果とサイトカイン産生増強効果について検討した.セファランチンはリポポリサッカライド(LPS)による脾臓内HDC活性誘導を正常マウスと同様にT細胞機能欠損マウスならびにT,B細胞機能欠損マウスで増強した.したがって,セファランチンの増強効果はT,B細胞を介さずとも生じることが明らかにされた.セファランチンはマクロファージのHDC活性ならびにサイトカイン産生を増強した.ヒスタミンはマクロファージのサイトカイン産生を誘導したが,LPS誘導のサイトカイン産生はヒスタミン受容体拮抗剤ジフェンヒドラミン,シメチジンでは影響されなかった.また,HDCの阻害剤αフルオロメチルヒスチジンにより,ムPS誘導のサイトカイン産生ならびにセファランチン添加時のサイトカイン産生は抑制された.以上の結果より,ヒスタミンはマクロファージのサイトカイン産生に促進的に作用し,この作用はマクロファージの細胞内外のヒスタミンで制御されていることが示唆された.また,セファランチンのサイトカイン産生増強効果においてもヒスタミンが関与していることが示唆された.
著者
北村 佳久 荒木 博陽 五味田 裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.6, pp.319-325, 2002 (Released:2003-01-21)
参考文献数
42
被引用文献数
4 4

従来よりうつ病の発症機序についてはモノアミン欠乏説,受容体感受性亢進説などが提唱されてきた.しかし,これらの仮説には矛盾する点も多く,現在においても明確な発症機序についての結論はない.一方,うつ病は中枢神経系の異常のみならず視床下部-下垂体-副腎(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA)系の機能異常を含む中枢神経系-内分泌系の機能異常が深く関与しているといわれている.本稿では抗うつ薬の作用機序およびうつ病の病態に深く関与しているserotonin(5-HT)-HPA系の相互作用とうつ病との関連性について紹介する.動物に反復のストレス負荷およびHPA系の活性化により5-HT2受容体機能は亢進し,うつ病の病態との類似性が考えられる.ACTH反復投与によるHPA系過活動モデルではイミプラミン反復投与による5-HT2受容体ダウンレギュレーションが消失し,さらに抗うつ薬スクリーニングモデルである強制水泳法におけるイミプラミンの不動時間短縮作用も抑制される.つまり,HPA系過活動モデルは三環系抗うつ薬治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての可能性が考えられる.これまでコルチコイド受容体や5-HT受容体サブタイプの神経化学的および分子生物学的研究は進んでいるが,今後トランスジェニックマウスまたはノックアウトマウスなどを応用し,行動薬理学的研究および神経科学的研究によりうつ病の病態メカニズムおよび抗うつ薬作用機序の解明などの重要性が増すと思われる.
著者
山下 正道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.3, pp.143-145, 2014 (Released:2014-09-10)
参考文献数
31
著者
林 秀樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.227-231, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
53
被引用文献数
1 2

中枢神経系の脂質代謝および脂質輸送は,末梢組織と異なる独自の調節機構を確立している.末梢循環では超低比重リポタンパク(VLDL)や低比重リポタンパク(LDL),高比重リポタンパク(HDL)などが存在するが,哺乳類のリポタンパクは血液脳関門を通過できないため,脳脊髄液中ではグリア細胞由来のHDL様リポタンパクのみが存在し,中枢神経系内の脂質輸送を行っている.アポリポタンパクE(アポE)は中枢神経系の主要なアポリポタンパクであり,グリア細胞由来のアポE含有リポタンパクは神経細胞に脂質を供給する役割に加え,受容体にリガンドとして結合し,軸索伸長の促進や神経細胞死抑制の役割を担うことが明らかとなっている.またLDL受容体ファミリーのVLDL受容体およびApoER2はシグナル受容体として働き,発生期の神経細胞遊走の調節に重要である.アポEの遺伝子多型の1つであるε4アリル(表現型:アポE4)が,アルツハイマー病(AD)発症の最も強力な遺伝的危険因子として知られているが,その他にも脂質代謝とADを含む神経変性疾患との深い関わりを示す多くの研究成果が報告されている.
著者
岩田 修永 西道 隆臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.5-14, 2003-07-01
被引用文献数
1 6 5

アミロイドβペプチド(amyloid β peptide, Aβ)の蓄積はアルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)脳で進行的な神経細胞の機能障害を起こす引き金になる.しかし,ADの大半を占める孤発性ADにおいて,何故Aβが蓄積するのかは不明である.家族性ADと異なり,Aβ合成の上昇が普遍的な現象として認められないことから,老化に伴うAβ分解システムの低下が脳内Aβレベルを上昇させ,蓄積の原因となる可能性が考えられた.我々の研究室では,Aβの脳内分解過程をin vivoで解析する実験と分解酵素の候補になったプロテアーゼのノックアウトマウスの解析により,ネプリライシンがAβ分解の律速段階を担う主要酵素であることを明らかにした.ネプリライシンノックアウトマウスの脳では著しいAβ分解活性の低下と内在性Aβレベルの上昇が認められ,これにより初めて分解系の低下もAβ蓄積を引き起こす要因になりうることが実証されたのである.また,ネプリライシンは神経細胞のプレシナプス部位に存在し,正常老齢マウスを用いた実験で加齢に伴って貫通線維束と苔状線維の終末部位で選択的に低下することが分かった.このことは,海馬体神経回路の記憶形成にかかわる重要な部位で局所的にAβ濃度が上昇することを意味する.一方,ネプリライシンを強制発現した初代培養ニューロンでは細胞内外のAβが顕著に減少することより,分解系の低下を抑制することや分解系を操作して増強することが,加齢に伴うAβ蓄積を抑制し,アルツハイマー病の予防や治療に役立つことを示唆する.神経細胞におけるネプリライシンの活性あるいは発現は神経ペプチドによって制御される可能性が考えられる.神経ペプチドのレセプターはGタンパク質共役型であるので,薬理学的に脳内Aβ含量を制御できることが期待される.<br>
著者
斉藤 幹良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.168-174, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1

現在,世界で50品目を超える抗体医薬品が承認されており,2013年の抗体医薬の市場規模は7兆円を超える.抗体医薬の適応疾患は,当初のがん,免疫炎症疾患ばかりでなく,感染症,骨粗鬆症,加齢性黄斑変性症,高脂血症などへも広がってきている.近年,免疫チェックポイント阻害薬,T cell engager,抗体依存性細胞障害活性増強抗体,antibody-drug conjugateなど新たな作用機序を有する抗体や薬効を増強した抗体が実用化され,従来の抗体医薬では難しい疾患や症例に対して新たな治療法を提供している.激しい競合の中でいかに新たな価値を提供できるかが課題であり,今後の抗体医薬の方向性として,薬効増強や血中動態の改善など抗体の機能増強技術がさらに進展して行くとともに,その一方で,コスト低減に向けた抗体のバイオ後続品の開発がさらに活発化して行くものと思われる.
著者
松本 貴之 田口 久美子 小林 恒雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.130-134, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
37

血管内皮細胞は,血液と接する血管内腔に存在し様々な因子を放出することから,最大の内分泌器官と考えられている.2005年に新規血管内皮由来収縮因子として報告されたウリジンアデノシンテトラフォスフェート(Up4A)は,その構造体にプリンとピリミジンを含む非常にユニークな物質である.これまで,様々なモデル動物標本を用いた検討からUp4Aは収縮反応や弛緩反応を誘発するといった血管緊張性を調節することが明らかとなったが,病態下におけるUp4Aの作用に関しては全く不明であった.我々は,生活習慣病の主翼である高血圧と糖尿病に着目し,これらのモデル動物を用いて,病態下でUp4Aの収縮力が血管部位によって異なることや,血管平滑筋におけるUp4Aの収縮機序の一端を明らかとした.また,Up4Aは,血管緊張性調節のみならず,平滑筋の増殖や遊走,炎症,石灰化にも関与することが報告され病態形成への役割も明らかになりつつある.今後,この新たな血管作動性物質であるUp4Aの研究がさらに進むことにより,生理的および病態生理的な役割が明確になることが望まれる.
著者
真柳 誠 中山 貞男 小口 勝司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.115-121, 1992-02-01 (Released:2011-09-07)
参考文献数
19
被引用文献数
8 6

セリ科和漢薬より8種の熱水抽出エキス (HWE) と2種のタンニン除去画分 (DTF) を調製し, ラット肝の脂質過酸化物 (LPO) 形成, およびaminopyrine N-demethylase (APD) 活性とaniline hydroxylase (ANH) 活性に対するHWEとDTFの影響をin vitroで検討した.APD活性に対し, 白正のHWEとDTFおよび茴香・前胡・当帰・川〓・防風・柴胡のHWEは抑制を示したが, 茴香のDTFによる影響は見られなかった.ANH活性に対し, 白〓・茴香のHWEとDTF, および防風・前胡・北沙参・当帰のHWEが抑制を示した、LPO形成に対し, 前胡・白〓・川〓のHWEは抑制を示したが, 柴胡・茴香・防風・北沙参のHWEは促進を示した.茴香のDTFの結果より, APD活性とANH活性に対し作用を及ぼした茴香の成分は異なっていることが示唆された.白正はAPD活性とANH活性に対し著明な抑制作用を示したことから, invivoにおいても薬物代謝酵素活性に影響を与える可能性が考えられた.
著者
高木 博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.115, no.4, pp.201-207, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
31

記憶の素過程であるシナプス可塑性の実験的モデルに海馬で顕著な長期増強現 (long term potentiation, LTP) がある.この長期増強現象には最近の知見から少なくとも3種類の実体の異なるものが存在することが判ってきている.すなわち early phase LTP (E-LTP) (数時間から数日の短期記憶のモデル), late phase LTP (L-LTP) (一生保ちつづける長期記憶のモデル)および anoxic LTP (A-LTP)(虚血性神経細胞死のトリガー) である.中枢神経系に存在するサイトカイン (脳内サイトカイン) は脳血液関門により末梢組織や免疫組織の本来のサイトカインとは独立にその機能を発揮している.近年,脳内サイトカインが3種類の LTP の誘導に関与していることが示唆されている.例えば interleukin 1β(IL-1β) は E-LTP の誘導を阻害し, A-LTP を誘導する.またbrain-derived neurotrophic factor (BDNF) は L-LTP をそれ自身で誘導し,更には虚血により低下した E-LTP の誘導機能を回復する.すなわち,虚血などにより神経細胞がダメージを受けた場合,IL-1βなどのサイトカインの働きにより,神経細胞は積極的に「選択的細胞死」に追いこまれる.これと同時に BDNF などのサイトカインの働きによる L-LTP 誘導により, E-LTP の発現能力に富んだ新規のシナプス形成を積極的に行ない,消失した神経細胞の代償をしているのかもしれない.脳内サイトカインとシナプス可塑性の関係を解明することは単なる3種類の LTP 誘導メカニズムの解明にとどまらず,中枢神経系で観察される様々なシナプス可塑性の生理学的意義の時間・空間的意味付けを明らかにすることが期待される.
著者
瀧川 勝雄 国分 信彦 梶原 大義 土肥 美恵 田原 溶夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.489-493, 1972 (Released:2010-07-30)
参考文献数
28
被引用文献数
15 15

Using rabbits and rats injured in experimental Whiplash, changes in glycolysis and enzyme activities of the cervical cords, and the effects of Pantui extracts, Pantocrin were investigated in detail. In the cervical cords, depressed glycolysis and lowered activities of aldolase, GOT, and alkaline phosphatase were noted. Cervical injuries were greater in rats than rabbits while hexokinase, glycerokinase and GPT were inhibited. Three enzymes in the rabbits were also inhibited. This enzymological difference between the two species appeared to be dependent on the extent of injury. Pantocrin remarkably improved abnormal glycolysis and the lowered enzyme activities of cervical cords from both injured animals.
著者
瀧川 勝雄 国分 信彦 田原 溶夫 土肥 美恵
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.473-488, 1972 (Released:2010-07-30)
参考文献数
51
被引用文献数
4 4

Physical, morphological and pharmacological studies of an experimental Whiplash Injury were done, using rabbits, to elucidate the injury mechanism and the effects of Pantui extracts, Pantocrin, on the injury. A device of rotary type, which is capable of producing concentrated exterior force effectively to the cervical region, was used to simulate experimental Whiplash Injury. The injured caput and cervical regions were physically, roentgenologically and pathologically examined and the requirement for producing Whiplash Injury of no serious damage was established, i.e., acceleration of 20G to the device and a weight of 300g an the rabbit head. In addition, a new method for optokinetic stimulation was employed to study nystagmus reactions on injured rabbits. Abnormally exaggerated patterns and lowered frequencies in the ENG were noted 3 to 21 days after the injury accompanying depressed glycolysis in cerebrospinal regions. Pantocrin, administered to the injured rabbits at an intramuscular dose of 1ml (ca. 1.5mg as a dry wt.) per kg daily from the 3rd to 21st day after injury, was markedly effective for improving the abnormalities in both ENG patterns and cerebrospinal glycolysis.
著者
高山 喜好
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.1, pp.28-31, 2008 (Released:2008-01-11)
参考文献数
5

Lab on a chipあるいはμ-total analysis systemは,半導体微細加工技術や精密合成技術,微小流体制御技術を応用したマイクロ,ナノバイオデバイスである.これまで実験室規模で行われていた生化学分野における,酵素や基質の混合,反応,分離,検出の操作を比較的小さなチップ上に集積化,微細流路でそれぞれを統合,一連の操作を自動化する技術である.医薬品開発の初期段階におけるハイスループット化合物スクリーニング(HTS)や化合物の阻害機序解明にこのLab on a chip技術を応用するプラットフォームが登場している.特に,キナーゼ,ホスファターゼ,プロテアーゼ,脱アセチル化酵素といったタンパク質修飾酵素や,SHIP2,PI3Kといったリン脂質代謝酵素を標的とするリード化合物探索にLab on a chip技術は威力を発揮している.Lab on a chip技術は,従来型のホモジニアスプラットフォームとは異なる精度と感度の高い化合物評価が可能になり,これまで見逃していた弱い活性の化合物の再発見(新規リード化合物の創出)にもつながる可能性を秘めている.

1 0 0 0 OA 正誤表

出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.e1-e1, 1944 (Released:2011-09-07)
著者
高須 俊行 高倉 昭治 加来 聖司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.36-42, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
12

イプラグリフロジンL-プロリン(以下イプラグリフロジン,商品名:スーグラ®錠)は,選択的sodium/glucose co-transporter(Na+/グルコース共輸送体:SGLT)2阻害薬として2014年1月に国内で初めて承認された新しい糖尿病治療薬である.腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う糖輸送体であるSGLT2を阻害し,血液中の過剰なグルコースを尿糖として体外に排泄することによって高血糖を是正する.イプラグリフロジンはヒトSGLT2強制発現細胞を用いた実験において,SGLT2に選択的な阻害作用を示すことが確認された.マウスおよびラットへ単回経口投与したところ用量依存的に尿糖排泄促進作用を示し,また2型糖尿病モデルマウスへ4週間反復経口投与したところ尿糖排泄促進作用に加え,血糖値およびヘモグロビンA1c(HbA1c)低下作用を示した.さらにメトホルミンまたはピオグリタゾンとの反復併用投与により各々の単独投与よりも強いHbA1c改善作用を示した.高脂肪食を負荷して惹起した肥満モデルラットにおいてイプラグリフロジンは体重増加抑制作用および脂肪量減少作用を示した.2型糖尿病患者を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験において,イプラグリフロジンは2型糖尿病患者のHbA1cおよび空腹時血糖値を改善し,優れた有効性および安全性を示した.低血糖の発現率は,イプラグリフロジン群とプラセボ群で同程度であった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,イプラグリフロジンはSGLT2阻害というインスリン作用とは異なる作用機序により血糖降下作用を発現し,2型糖尿病に対して治療効果を示す薬剤であることが示された.選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは2型糖尿病患者におけるより質の高い血糖管理の実現に貢献できるものと期待される.
著者
梛野 健司 敷波 幸治 齋藤 隆行 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.3, pp.122-126, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

ガランタミン(レミニール®)は,コーカサス地方のマツユキソウの球径から分離された3級アルカロイドであり,国内2剤目のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として,軽度および中等度のアルツハイマー型認知症(AD)における認知症症状の進行抑制の適応症を取得した.ガランタミンの作用機序は,AChEに対して可逆的に競合阻害作用を示し,さらにニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)のアセチルコリン結合部位と異なる部位に結合し,アロステリック活性化リガンド(APL)として作用することでnAChRに対するアセチルコリン(ACh)の作用を増強させる(APL作用).In vitro試験および動物を用いた行動薬理学的評価から,ガランタミンは,アミロイドβによる神経細胞障害に対して保護作用を示し,学習記憶の低下に対して改善効果を示した.国内臨床試験(GAL-JPN-5試験)では,軽度および中等度のAD患者580例を対象に,ガランタミン16 mg/日および24 mg/日の有効性と安全性をプラセボ対照二重盲検法により検討した.主要評価項目はADAS-J cogおよびCIBIC plus-Jの二元評価とした.その結果,認知機能評価の指標であるADAS-J cogでは,16 mg/日および24 mg/日ともにプラセボとの間に統計学的有意差を認め,そのエフェクトサイズは16 mg/日よりも24 mg/日の方が大きかった.一方,全般臨床評価であるCIBIC plus-Jでは,両投与量群ともに有意差は認められなかった.安全性評価では,16 mg/日および24 mg/日の忍容性は良好であった.ガランタミンの剤形には,錠剤(4,8,12 mg),口腔内崩壊錠(4,8,12 mg)および内用液(4 mg/mL)があり,患者の嗜好や状態により適切な剤形の選択が可能である.以上のことから,ガランタミンは,AD患者における新たな治療選択肢として期待される.