著者
飯利 太朗 槙田 紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.244-247, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
29

古典的なGタンパク質共役受容体(GPCR)のtwo-stateモデルでは,GPCRは活性型と不活性型との間で平衡状態にあり,各GPCR作動薬はその平衡状態をシフトさせる方向性からアゴニスト,インバースアゴニスト,アンタゴニストと分類されてきた.最近,GPCRは活性型,不活性型いずれにおいても無数の高次構造を取り得ると考えるmulti-stateモデルを支持するデータが集積している.このモデルでは,各作動薬はそれぞれユニークなGPCRの高次構造を認識して結合しこれを安定化させると考えられる.GPCRの個々の高次構造において潜在的にそれぞれ異なる機能を発揮すると考えられる.この考えに基づけば,あるユニークなアゴニストあるいは通常のアゴニストとアロステリックに作用する調節因子の作用のもとに,本来複数のGタンパク質を活性化するGPCRを介して,あるシグナル系のみを特異的に活性化(機能選択的活性化)することも夢ではない.今回,我々が疾患で発見解析したCa感知受容体に作用する自己抗体は,こうした機能選択的活性化を可能にするアロステリックに作用する調節因子であった.このきわめてまれな疾患の解析結果は,同様な機能選択的な活性化が生理的にも作動していることを暗示しているのかもしれない.さらに,GPCRの機能選択的な調節をターゲットとする薬剤の開発は,今後のGPCR作動薬分野の創薬における新しく重要な方向性を示していると考えられる.
著者
五藤 准 村松 信 細田 和昭 小友 進 相原 弘和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.395-400, 1984
被引用文献数
1

非ステロイド性抗炎症薬oxaprozinの血小板凝集ならびにprostaglandin(PG)synthetaseに対する作用を検討した.in vitroにおけるウサギ血小板のarachidonic acid(AA)凝剰こ対してoxaprozinは用量依存的な抑制作用を示した.そのIC50は124.2μMで,indomethacin,piroxicamよりは弱く,aspirin,phenylbutazoneとほぼ同等で,ibuprofenの約2倍の強さであった.ex vivoにおけるラット血小板のcollagen凝集に対するoxaprozinの抑制作用は弱く,300mg/kgで抑制作用を示した.indomethacin,aspirinおよびibuprofenは100mg/kgですでに抑制作用を示し,phbenyl-butazoneも300mg/kgで作用を示すが,その作用はoxaprozinより強かった.血小板のADP凝集に対してはウサギin vitro,ラットex vivoのいずれにおいてもoxaprozinは抑制作用を示さなかった.またマウスAA致死に対してoxaprozinは用量依存的な抑制作用を示し,そのED50は56.4mglkgであった.この作用はsulindac,piroxicamおよびibuprofenより弱く,aspirinとほぼ等しく,phenylbutazoneの約5倍の強さであった.一方,PG synthetaseに対してoxaprozinは用量依存的な阻害作用を示した.その作用はindomethacin,piroxicamより弱く,ibuprofenとほぼ同等で,phenylbutazoneおよびaspirinより強かった.以上の結果より,oxaprozinは一般的な酸性非ステロイド性抗炎症薬と同様の血小板凝集抑制作用を有し,その作用は主としてPG生合成の阻害に基づくものと考えられる.
著者
大熊 康修 細井 徹 野村 靖幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-31, 2006-01-01

肥満遺伝子産物であるレプチン(leptin)は,摂食抑制作用やエネルギー消費の亢進を惹起して肥満の進展を制御している.このレプチンの作用はOB-Rb受容体とそれに続く転写因子signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)の活性化を介しているとされている.一方最近,レプチンは,感染あるいは炎症に関与していることが示唆された.末梢性炎症反応は,interleukin(IL)-1&beta;,IL-6やTNF&alpha;の発現,発熱,睡眠,摂食抑制などを惹起する.これらの脳への伝達経路の一つとして,求心性神経を介する系の存在が示唆されているが,今回求心性迷走神経を直接電気刺激することでその関与について直接の証明を得た.一方,レプチンを静脈内に投与後,脳でIL-1&beta;の発現誘導が認められたことから,末梢性炎症反応時における脳内サイトカイン産生にレプチンが関与している可能性が示唆された.このレプチンの脳内IL-1&beta;誘導作用は求心性迷走神経とは独立した系で誘導すると考えられた.また,<i>db/db</i>マウス(レプチンOb-Rb受容体変異肥満モデルマウス)を用いた解析から,レプチンによる脳内IL-1&beta;の産生はSTAT3活性化非依存的に,ショートアイソフォームレプチン受容体を介して誘導されることが示唆された.さらに,Ob-Rb受容体を介したSTAT3の活性化を指標にレプチンの脳内作用部位を検討した結果,従来から知られている視床下部に加え脳幹部もレプチンの作用点である可能性を示した.最近,platelet-derived growth factor(PDGF)によるSTAT3の活性化にDouble-stranded RNA-activated protein kinase(PKR)が関与していることが報告された.そこで,レプチンOb-Rb受容体の細胞内情報伝達における,PKRの関与の可能性について検討した.PKRの阻害薬2-aminopurine(2-AP)を用いて検討したところ,2-APはPKRを介さずにレプチンの下流のシグナルを抑制した.したがって,PDGFとレプチンではSTAT3活性化の機構が異なること,また,2-APはレプチンなどが関係する一部の癌治療の基礎的資料を提供することが期待された.<br>
著者
中丸 幸一 菅井 利寿 木下 宣祐 佐藤 雅子 谷口 偉 川瀬 重雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.447-457, 1994
被引用文献数
7 7

特発性炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎とクローン病に対する治療薬としてメサラジン(mesalazine)顆粒(Pentasa<SUP>®</SUP>)が開発された.我々はすでにメサラジン顆粒の実験的大腸炎モデルに対する有効性を見い出した.本研究では,メサラジン(5-aminosalicylic acid)のラジカルおよび活性酸素の消去作用をin vitroの系で,脂質過酸化に対する作用をin vitroおよびin vivoの系で,さらにはロイコトリエンB<SUB>4</SUB>(LTB<SUB>4</SUB>)生合成に対する作用を検討した.その結果,メサラジンはフリーラジカルである1,1-diphenyl-2-picrylhydrazylを還元し,IC<SUB>50</SUB>値は9.5μMであった.また,活性酸素である過酸化水素と次亜塩素酸イオンの消去作用を示し,IC<SUB>50</SUB>値はそれぞれ0.7μM,37.0μMであったが,スーパーオキサイド消去作用は示さなかった.さらに,ラット肝ミクロソームでの過酸化脂質の生成を抑制し,IC<SUB>50</SUB>値は12.6μMであった.in vivoの系では,幽門部を結紮したラットにおいて,胃を虚血再灌流することで生じる胃粘膜過酸化脂質量に対する効果を検討した.メサラジン25,50mg/kgの胃内投与で十分量のメサラジンが胃粘膜に分布するとともに,用量依存的に過酸化脂質抑制効果を示し,50mg/kgでは有意(P<0.01)であった.ラットの腹腔から採取した好中球でのLTB<SUB>4</SUB>生合成に対してメサラジンは抑制作用を示し,IC<SUB>50</SUB>値は44.9μMであった.メサラジンの代謝物である<I>N</I>-acetyl-mesalazineは高濃度(1mM)でLTB<SUB>4</SUB>生合成を抑制したが,ラジカル,活性酸素の消去作用および過酸化脂質の抑制作用は示さなかった.以上の成績から,メサラジンは炎症部位で生じる活性酸素を消去することで細胞障害を抑制すること,さらにはLTB<SUB>4</SUB>生合成を阻害することで好中球の浸潤を抑制することが示唆された.そして,メサラジン顆粒はこれらの作用機序を介してIBDに有効であることが示唆される.
著者
田中 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.3, pp.93-98, 2012 (Released:2012-03-10)
参考文献数
29

神経回路ができるとき,神経突起が標的細胞と接着することでシナプス結合が成立する.神経回路が成立したあとでも,シナプス形成過程の一部をくりかえすことで,シナプスの強化・抑圧やつなぎかえが起きる.我々は,これらの過程に接着分子カドヘリンが関与する可能性を検討してきた.研究を進める中で,カドヘリンが思いのほかダイナミックにシナプスの生理機能にかかわることがわかり,さらにその過程で新たなシグナル伝達経路も見いだされた.こうしてわかってきた事実は,神経回路のなりたちや可塑性に新たな視点を与えるばかりでなく,カドヘリンが神経伝達物質の放出機構や受容体の機能調節に深くかかわっている可能性も示唆している.またカドヘリン遺伝子の異常は,自閉症などの疾患感受性に関連しており,シナプスの接着・リモデリング関連分子は,新たな治療標的として薬理学への貢献が期待される.

1 0 0 0 OA 苦痛の薬理学

著者
佐藤 公道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.13-18, 2007 (Released:2007-01-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

痛み(痛覚)に関する研究は,複雑であるが故に,他の感覚(視・聴・触・味・嗅)に比べて遅れている.生理的に重要な生体警告系の痛み以外の痛み(感覚と情動両面)はヒトのQOLを低下させる要因である.痛みを完全にコントロールする術を手に入れるために,動物実験は不可欠である.本稿では,痛みの定義,動物における神経因性疼痛を含む痛みの評価法と動物モデル,感覚としての痛みの成立機序について,筆者の独断と偏見を交えて概説し,さらに,研究が緒についたばかりである痛みに伴う負の情動と扁桃体の関連についての筆者らのデータを紹介する.
著者
高橋 徹 清水 裕子 井上 一由 森松 博史 楳田 佳奈 大森 恵美子 赤木 玲子 森田 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.252-256, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
38
被引用文献数
6 9

昨今の生命科学の進歩は薬理学の研究をより病態に応じた新薬の開発へと向かわせている.しかし,肝不全,腎不全,多臓器不全など,急性臓器不全は高い死亡率を示すにもかかわらず,その治療において決め手となる薬物は未だ開発されていない.これら急性臓器不全の組織障害の病態生理は完全に明らかでないが,好中球の活性化や虚血・再潅流にともなう酸化ストレスによる細胞傷害が大きな役割を果たしている.酸化ストレスはヘムタンパク質からヘムを遊離させる.遊離ヘムは脂溶性の鉄であることから,活性酸素生成を促進して細胞傷害を悪化させる.この侵襲に対抗するために,ヘム分解の律速酵素:Heme Oxygenase-1(HO-1)が細胞内に誘導される.HO-1によるヘム分解反応産物である一酸化炭素,胆汁色素には,抗炎症・抗酸化作用がある.したがって,遊離ヘム介在性酸化ストレスよって誘導されたHO-1は酸化促進剤である遊離ヘムを除去するのみならず,これらの代謝産物の作用を介して細胞保護的に機能する.一方,HO-1の発現抑制やHO活性の阻害は酸化ストレスによる組織障害を悪化させる.この,HO-1の細胞保護作用に着目して,HO-1誘導を酸化ストレスによる組織障害の治療に応用する試みがなされている.本稿では,急性臓器不全モデルにおいて障害臓器に誘導されたHO-1が,遊離ヘム介在性酸化ストレスから組織を保護するのに必須の役割を果たしていることを述べる.また,抗炎症性サイトカイン:インターロイキン11,塩化スズ,グルタミンがそれぞれ,肝臓,腎臓,下部腸管特異的にHO-1を誘導し,これら組織特異的に誘導されたHO-1が標的臓器の保護・回復に重要な役割を果たしていることを示す.HO-1誘導剤の開発は急性臓器不全の新しい治療薬となる可能性を秘めている.
著者
加藤 武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.145-151, 2004-09-01
被引用文献数
10

メマンチンは中等度,重度のアルツハイマー病(AD)の治療薬としてEUとアメリカで承認されている.メマンチンはMK-801やフェンシクリジン(PCP)と同じ非競合的NMDA受容体阻害薬であり,虚血が引き起こすグルタミン酸過剰放出による神経細胞死を防ぐ.これらの薬物はマグネシウムイオンと同じイオンチャネル結合部位に作用する.しかし,MK-801やPCPは統合失調症様症状を引き起こし,ADの治療薬としては使用されていない.メマンチンには類似の毒性はない.また,大脳皮質でのアセチルコリン放出は起きない.メマンチンとMK-801との相違の機構はまだ解明されていないが,メマンチンはマグネシウムイオンと同様に電位依存的にイオンチャネルへ結合し,解離するためと考えられている.今後メマンチンに関する基礎的,臨床的研究が進み,機構が解明されるであろう.<br>
著者
岡本 裕子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.350-357, 2005

化学物質の安全性評価には動物実験が不可欠であり,その膨大な動物実験データを基に現在の化学物質のリスク評価は成立している.一方,1960年代にイギリスで発生した動物愛護の考え方は,その後,環境問題と連動し,社会問題のひとつとして大きくとりあげられ,EUでは,化粧品に対する動物実験の禁止が施行されるに至っている.またOECDでも化学物質の評価へのin vitro試験法ガイドラインの受け入れがなされている.これらは,経済,貿易に関する国際ハーモナイゼーションの観点から社会科学的に重要な課題である.このような社会的背景から,ここ10数年の間,日本でも動物実験代替法の開発が開始され,産官学の協力で厚生労働科学研究を中心に代替法の開発評価研究に取り組んでいる.安全性評価に対する代替法は,Russellらが定義した3Rの原則(Replacement:置換,Reduction:削減,Refinement:試験法の洗練)の考え方をもとに評価されている.特に,動物実験代替法は,それを用いてヒトへの安全性を評価する試験法であることから,通常の生体機能評価に用いられているin vitro試験法とは異なり,試験法としての有用性の確認に加えて,バリデーションによる試験法の再現性確認や倫理性,経済性,国際性,技術的一般性についても考慮して開発される必要がある.現在,完全に置き換えられると認証された代替試験法は存在していない.毒性試験の代替法の困難さは,invitro 試験法は毒性の有無の識別は可能であっても,動物において評価可能な用量.反応関係の確認が期待できない点にある.したがって,毒性の有無の識別を利用したスクリーニング法としての利用にとどまることが多い.しかし,ヨーロッパでの動物実験禁止という現実問題をクリアするため,社会科学的な観点から,実際的な取り組みとして代替法を組み込んだ安全性評価試験体系を構築していくことが必要と考えている.ここでは,現在代替法開発が進んでいる局所刺激性試験法である眼刺激性試験法および光毒性試験法について,その開発と応用について述べる.<br>
著者
富永 真琴
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.2, pp.78-81, 2006-08-01

カプサイシン受容体TRPV1は1997年にクローニングされ,感覚神経特異的に発現し,カプサイシンのみならず私達の身体に痛みをもたらすプロトンや熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能することが,TRPV1発現細胞やTRPV1遺伝子欠損マウスを用いた解析から明らかにされた.さらに,TRPV1は炎症関連メディエイター存在下でPKCによるリン酸化によってその活性化温度閾値が体温以下に低下し,体温で活性化されて痛みを惹起しうることが分かった.このTRPV1の機能制御機構は急性炎症性疼痛発生の分子機構の1つと考えられている.TRPV1は消化管の感覚神経にも多く発現することが明らかになっているが,消化管では疼痛発生以外に粘膜保護などの消化管の生理的機能に深く関わることが明らかになりつつあり,それは長い歴史をもつトウガラシの消化管機能への影響に関する研究成果を説明する.TRPV1やTRPV1発現神経の消化管機能制御の詳細な作用メカニズムの解明が待たれている.<br>
著者
川口 充 澤木 康平 大久保 みぎわ 坂井 隆之 四宮 敬史 小菅 康弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.447-453, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
25
被引用文献数
5 6

口腔は,消化・咀嚼・感覚・発音といった多様な機能が集合しており,それぞれの機能は,他の器官と共通の調節機構により制御されている.したがって口腔は薬物療法による副次的な影響を受けやすい器官であり,ひとたび機能不全が生じるとその障害の大きさを認識させられることから,健康に対する潜在的価値が非常に高いと言える.薬物が口腔に及ぼす副作用には,味覚障害,口腔乾燥症,歯肉肥大症,唾液分泌過剰,流涎,口内炎,歯の形成不全・着色などが挙げられるが,ここでは,味覚障害,口腔乾燥症,歯肉肥大症に焦点を絞って解説した.味覚障害では亜鉛不足が病態の原因の最も多くをしめること,OH,SS,NHなどの官能基を持つ薬物には亜鉛をキレートする性質があること,唾液分泌が味覚物質の溶媒として欠くことができないことを説明し,さらに,味覚受容体の分子レベルでの研究の経緯と現状について解説を加えた.口腔乾燥症では,向精神薬のうち三環系抗うつ薬とメジャートランキライザー,およびベンゾジアゼピン類の作用標的の違いについて,降圧利尿薬の腎臓と唾液腺での作用の違いについて説明した.歯肉肥大症では原因となる薬物の種類は少ないが,線維芽細胞のコラーゲン代謝機能に影響を及ぼしていること,性ホルモンが修飾する可能性について説明した.
著者
窪田 哲也 窪田 直人 門脇 孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.2, pp.85-88, 2008 (Released:2008-02-14)
参考文献数
14

血管内皮は,さまざまな生理活性因子を産生・分泌することによって,血管の収縮・拡張,細胞増殖,白血球接着阻止,血小板接着・凝集阻止などの抗炎症作用や凝固線溶系などの調節を行っている.血管内皮機能が障害されると,動脈硬化の初期病変が形成され,最終的には我が国の死因の第一位を占める動脈硬化性疾患(心筋梗塞,脳梗塞など)の発症につながると考えられる.この血管内皮機能をつかさどる分子の一つとして血管内皮型NO産生酵素(endothelial NO synthase: eNOS)が重要な働きをしていると考えられる.インスリンはこのeNOSをリン酸化し,活性化することによって血管内皮機能を調節していると考えられている.eNOS欠損マウスでは,血管内皮機能障害に加えて,インスリン負荷後の骨格筋の血流低下により,骨格筋のインスリン抵抗性を発症することが報告されている.さらに,血管内皮細胞がインスリンのバリアー機構として働き,インスリン抵抗性モデル動物では,特に骨格筋においてこのバリアー機構が破綻していることが報告されている.本項では,インスリンの血管内皮機能の調節,インスリン抵抗性発症における血管内皮の役割を中心に概説したい.
著者
窪田 哲也 窪田 直人 門脇 孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.2, pp.85-88, 2008-02-01

血管内皮は,さまざまな生理活性因子を産生・分泌することによって,血管の収縮・拡張,細胞増殖,白血球接着阻止,血小板接着・凝集阻止などの抗炎症作用や凝固線溶系などの調節を行っている.血管内皮機能が障害されると,動脈硬化の初期病変が形成され,最終的には我が国の死因の第一位を占める動脈硬化性疾患(心筋梗塞,脳梗塞など)の発症につながると考えられる.この血管内皮機能をつかさどる分子の一つとして血管内皮型NO産生酵素(endothelial NO synthase: eNOS)が重要な働きをしていると考えられる.インスリンはこのeNOSをリン酸化し,活性化することによって血管内皮機能を調節していると考えられている.eNOS欠損マウスでは,血管内皮機能障害に加えて,インスリン負荷後の骨格筋の血流低下により,骨格筋のインスリン抵抗性を発症することが報告されている.さらに,血管内皮細胞がインスリンのバリアー機構として働き,インスリン抵抗性モデル動物では,特に骨格筋においてこのバリアー機構が破綻していることが報告されている.本項では,インスリンの血管内皮機能の調節,インスリン抵抗性発症における血管内皮の役割を中心に概説したい.<br>
著者
笠井 淳司 新谷 紀人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.281-285, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

ヒトゲノム解読の完了や科学技術の進歩により,生体内において様々な機能未知分子が同定されるようになってきた.これら分子の生理・病態的役割の解明において,分子に対する特異的作用薬(作動薬・拮抗薬)がない場合,当該分子あるいはその機能発現に関わる分子群の遺伝子改変動物,特に遺伝子改変マウスの表現型解析からのアプローチが有用とされている.本研究手法は,マウスの表現型異常の原因を遺伝子の改変に帰することができることから,異常が認められた表現型と遺伝子との直接的因果関連を実証できるだけでなく,予想外の表現型の同定によって,当該遺伝子の新規機能を導き出せる可能性を秘めている.しかし,従来の表現型解析では,主に目的とする表現型のみに注目した研究がなされ,他の表現型が無視される傾向にあったことや,表現型解析を行う場合には多くの実験装置や熟練した技術が必要であることなど,いくつかの問題点があった.これらを考慮し,簡易かつ迅速に遺伝子改変マウスの表現型を抽出し,網羅的に解析する方法として考案されたのがSHIRPA法である.本法は,三段階のスクリーニング系からなり,特に一次スクリーニングは遺伝子改変マウスの行動学的表現型を迅速に評価できる方法として有用である.本稿では,神経ペプチドPACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)の遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)における解析結果を例に,SHIRPA一次スクリーニング法の利用の実際を紹介する.
著者
斎藤 祐見子 Wang Zhiwei 丸山 敬
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.190-195, 2006-03-01

オーファンGタンパク質受容体(GPCR)のリガンド探索は新規生理活性物質の発見と新規創薬標的に直結すると考えられている.あるオーファンGPCRのリガンドが既知物質と判明した場合でも研究が飛躍的に進展する.受容体同定により,そのリガンドの既知あるいは未知の生理作用の薬理学的解明が進み,創薬開発を開始することができる.メラニン凝集ホルモン(MCH)とその受容体はそのケースかもしれない.MCHノックアウト(KO)マウスは「ヤセ」であるため,摂食中枢の下流に位置する分子として大きな注目を集めた.1999年にオーファンGPCRの利用によりMCHの受容体が同定され,そのアンタゴニスト開発・KOマウス行動解析が一気に進む.驚いたことにMCHアンタゴニストは摂食行動は勿論「うつ状態」動物モデルに対しても効果を持つことが報告された.オーファンGPCRのリガンドとして発見された他の神経ペプチドも今後の精神病治療にとって有用な標的候補となる可能性がある.<br>
著者
松岡 功 伊藤 政明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.254-258, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

ホスファチジルイノシトールに特異的なホスホリパーゼC(PLC)は,三量体Gタンパク質のエフェクターの一つで,Gタンパク質共役型受容体(GPCR)で認識されたホルモンや神経伝達物質の情報を,Ca2+に依存した細胞内情報に変換し,興奮性生理反応を惹起する酵素として重要な役割を果たしている.このPLCシグナル伝達系の過剰な応答は,平滑筋収縮による血圧上昇や気道狭窄,分泌細胞からのケミカルメディエーターの放出亢進,血小板機能亢進など様々な病態と関連した反応を引き起こすことから,これらを抑制的に調節することは疾病の治療戦略として用いられてきた.GPCRの刺激効果はGαqと各Gβγでシグナル伝達が行われPLCを活性化する.GPCRの下流で働く代表的なエフェクターであるcAMP合成酵素のアデニル酸シクラーゼが,抑制性Gタンパク質のGiにより負に制御されるのに対し,PLCシグナル伝達系を抑制するGタンパク質は存在しない.しかし,他のGタンパク質共役型受容体の刺激がcAMPやcGMPなどの細胞内情報伝達系を介し間接的にPLCシグナルを抑制することが知られている.最近,cAMPを介した他の受容体のクロストークや,PLC活性化に関わるGαqのスイッチを切るタンパク質の役割が解明された.さらに,疾患モデル動物やヒトゲノム解析の結果からPLCシグナル伝達系の負の制御機構の不全が循環器系疾患の発症に関わることが示唆されている.
著者
森島 義行 芝野 俊郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.2, pp.83-87, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
11

血栓症の予防・治療薬として用いられる抗血栓薬の研究戦略および経口血液凝固Xa因子(FXa)阻害薬エドキサバンの薬効薬理について述べる.血栓症とは何らかの原因で血管内の血液が固まり,血管をふさぐことによってその下流の組織に虚血や梗塞が引き起こされる疾患である.血栓には動脈血栓(脳梗塞や心筋梗塞など)と静脈血栓(静脈血栓塞栓症など)の2種類があり,動脈血栓には抗血小板薬が,静脈血栓には抗凝固薬が主に使用される.抗凝固薬の研究戦略として,50年以上臨床で使用されてきたワルファリンやヘパリンの欠点を解消した経口投与可能な抗凝固薬を獲得することを目標に設定した.創薬の標的分子として血液凝固カスケードの中のFXaを選択し,FXaを競合的・選択的に阻害する低分子化合物をスクリーニングした.経口吸収性がテーマ最大の難問であり,サルを用いた経口投与でのPK/PD試験を化合物評価の重点項目として研究を進め,エドキサバンの獲得に至った.エドキサバンはFXaを競合的・選択的に高い阻害活性で抑制した.ラットの病態モデルにおいてエドキサバンは既存の抗凝固薬と同等の抗血栓効果を示すとともに,既存抗凝固薬の欠点の克服が可能なプロフィールを示した.エドキサバンの対象疾患として,心房細動患者における脳塞栓症の予防,整形外科手術後の静脈血栓塞栓症の予防,および静脈血栓塞栓症の再発予防を選択した.整形外科手術後の静脈血栓塞栓症の予防は国内で製造販売承認申請を行い,心房細動患者における脳塞栓症の予防および静脈血栓塞栓症の再発予防は第三相臨床試験を実施中である.エドキサバンはワルファリン以来の日本初の経口抗凝固薬として,今後の医療に大きく貢献できると期待する.
著者
小西 典子 廣江 克彦 川村 正起
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.2, pp.88-92, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
16

これまでワルファリンは半世紀にわたり,唯一の経口抗凝固薬として世界中で使用されてきた.近年,活性化血液凝固第X因子(factor Xa, FXa)阻害薬が,ワルファリンの欠点を克服した新たな経口抗凝固薬の候補として注目されている.FXa阻害薬の適応症としては,静脈血栓症である深部静脈血栓症や肺塞栓症,動脈血栓症である急性冠動脈疾患,そのほか心原性脳塞栓症が挙げられ,これらの疾患を想定した種々動物モデルでの薬効および出血に関する成績が数多く報告されている.臨床開発段階にある経口FXa阻害薬,TAK-442(当社),リバロキサバン(バイエル−ジョンソン・エンド・ジョンソン),アピキサバン(ブリストル・マイヤーズ スクイブ−ファイザー)およびエドキサバン(第一三共)については,静脈血栓症モデルにおいて,出血時間を延長しない用量から抗血栓作用を示すこと,抗血栓作用と出血時間延長との安全閾はワルファリンよりも広いことが報告されている.また,動脈血栓症モデルにおいても,アピキサバンは出血時間の延長を伴わずに抗血栓作用を示すこと,臨床での併用が想定される抗血小板薬との組み合わせでその薬効を増強させることが確認されている.さらにラット脳塞栓症モデルにおいて,FXa阻害薬,DPC602(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)は,血栓の自然溶解を促進して脳血流を改善し,脳梗塞巣や神経脱落症状を改善することが示されている.よりヒトの臨床病態に近いモデルを指向して筆者らが作成したサル血栓性脳塞栓症モデルにおいても,FXa阻害薬TAK-239は神経脱落症状の改善を示した.これらの前臨床成績は,経口FXa阻害薬がワルファリンよりも優れた画期的な次世代経口抗凝固薬となることを示唆し,現在進行中の複数の臨床試験でのその有効性,安全性評価が待たれている.
著者
石田 英之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.329-334, 2004 (Released:2004-04-27)
参考文献数
10
被引用文献数
3 5

細胞死にはネクローシスとアポトーシスがあり,両者ともミトコンドリアによってその運命が制御されている.とくにミトコンドリアPermeability Transition Pore(PTP)の開口は,チトクロムCの遊離を起こしてアポトーシスを誘導することはよく知られている.また,ミトコンドリアPTP開口阻害薬であるシクロスポリンA(CsA)が虚血再灌流障害によるネクローシスを抑制するとの報告もある.このように,ミトコンドリアPTPは,細胞の生死を調節する重要な因子であるが,その詳細は充分解明されていない.ここでは,ミトコンドリアPTPに関する最新の研究方法と心筋細胞死におけるミトコンドリアPTPの役割に関する検討を例にして,実験法を紹介する.
著者
木戸 秀明 大滝 裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.97-105, 2001-08-01
被引用文献数
6

ループ利尿薬は強力な水および電解質の排泄作用により浮腫を軽減することから, 各種の浮腫性疾患に対して古くから広く使用されている. しかしながら, 同時にカリウム排泄量の増大に伴う低カリウム血症が惹起されることから, カリウム保持性利尿薬の併用などが行われている. 新規利尿薬トラセミド(ルプラック<SUP>®</SUP>)はループ利尿作用に加え, 抗アルドステロン作用に由来するカリウム保持性を併せ持った薬物であり, 生物学的利用率が高く, 食事の影響を受けないという薬物動態的特長も加え, 個体差の少ない安定した利尿効果を示す. 動物実験において, トラセミドは, 代表的なループ利尿薬フロセミドよりも約10倍強力な尿量増加作用を示し, 一方で尿中へのK<SUP>+</SUP>排泄量の増加がNa<SUP>+</SUP>排泄量の増加に比べ軽微である結果, 尿中Na<SUP>+</SUP>/K<SUP>+</SUP>比を上昇させた. その作用プロファイルはフロセミドおよび抗アルドステロン薬スピロノラクトンを併用した際の効果に匹敵した. また, 日本および海外で浮腫性疾患患者を対象に実施された臨床試験において, トラセミドはフロセミドに比して高い有効性および安全性を示した. さらに, 慢性心不全患者を対象とした大規模臨床試験において, トラセミドは心臓死の発生率をフロセミドに比し低減したが, その機序の一部に本薬の抗アルドステロン作用が寄与したと推察される. 本邦において, 10数年ぶりに上市されたループ利尿薬トラセミドは, 既存薬に勝る薬理特性から, 浮腫性疾患の治療薬として大いに期待される.