著者
本田 主税 溝手 紳太郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.1, pp.23-28, 2017 (Released:2017-07-07)
参考文献数
20

薬学・生命科学の進歩に伴い,創薬研究者に求められる統計学の素養も日増しに高まっている.創薬に関わる,あるいはこれから関わろうとしている研究者に対して,創薬研究を円滑に進めるための統計教育が必要である.筆者は,創薬研究者の統計的思考力を高めることにより,研究目的に沿った合理的な実験計画の立案力がつくだけでなく,創薬イノベーションや研究競争力強化の一助になると考えている.本稿では,筆者の所属する企業における非臨床分野の統計教育事例を紹介する.そのなかで,創薬ターゲット選定,リード物質探索などの創薬の初発研究から非臨床試験,品質試験など,いわゆる非臨床分野に携わる統計家と創薬研究者のかかわりや,創薬研究者が抱えている統計学での悩み,統計的思考力を高める人財育成の展望についても論じる.
著者
杉本 直樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.232-236, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

従来の手法では,有機化合物の絶対純度を簡単に測定することが困難であった.定量核磁気共鳴法(定量NMR: quantitative NMR(qNMR))は計量学的に信頼性の高い定量値または純度値を求めることができる強力なツールとして注目を集め始めている.1H-NMRは,特に有機化合物の構造決定のための代表的な定性分析法の1つであり,これは官能基上の水素の数と信号強度が比例することを利用しているが,1H-NMRスペクトル上に観察される水素の数を示す信号強度は10%を超えるばらつきがあり,有機化合物の精密な定量分析には不向きであるとされていた.しかし,近年,定性的なNMR測定条件を全面的に定量用に最適化することで,1H-NMRスペクトル上の化合物の水素の信号強度は結合状態に依存せず分子構造が異なっても等モル量であれば等しく観察されることが見出された.この定量的なNMR現象を利用することによって,qNMRは他の定量分析法に匹敵する不確かさ約1%以内の定量精度を実現した.さらに,これまでの定量分析技術の常識を覆し,たった1つの純度既知の基準物質を上位標準とするだけで無限の有機化合物の絶対量や絶対純度が国際単位系(SI)にトレーサブルに求められるようになった.今後,qNMRは多分野の研究に関連する有機化合物の絶対純度決定法として応用がはじまり,得られた分析値や評価値の信頼性を間接的に裏付けるための必須の分析技術となると考えられる.本稿では,有機化合物の純度に関するSIトレーサビリティの重要性,qNMRの原理,市販標準品や試薬の絶対純度測定への応用例などを紹介する.
著者
長野 嘉介
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.87-90, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
8

呼吸器は,空気から酸素を取り入れ血液から二酸化炭素を放出するガス交換を行うための器官である.空気中に存在す化学物質は呼吸を通して体内に入るため,呼吸器はこれらの化学物質に最初に接触しその影響を最も受けやすい器官である.このため,大気汚染物質による健康障害では呼吸器が標的器官となることが多い.医薬品の分野では,吸入以外の経路でも抗癌剤等による薬剤性肺障害の報告があり,本誌でも詳しい総説がある(1).また,近年は経鼻投与など経気道的に投与する薬剤の実用化が進んでおり,医薬品の開発に際して鼻腔などの気道を含む呼吸器への直接的な接触による副作用が課題になってきている.本稿では,鼻腔等の気道を中心として,呼吸器の構造と機能,呼吸器毒性の検査法,薬剤等による呼吸器毒性について概説する.
著者
長村 文孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.211-215, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
7

自社内のみで開発から市販までを完結するクローズドイノベーションは,特に創薬に関しては世界的に行き詰まりをみせ,外部機関と広く連携を行うオープンイノベーションが推進されている.一方,アカデミアの基礎研究力を活かした新規治療法の開発が着目され,政府の支援も拡大している.アカデミアも従来の自機関内での開発では非効率的であるだけではなく,必要なインフラの整備あるいは開発に必要な専門家の確保等の問題により,広く連携を行うことが不可欠となってきている.アカデミア間の連携促進のために国からの競争的資金も導入されるようになり,また,他施設との共同利用型の設備あるいは体制整備も進んでいる.本章では,このようなアカデミアでの連携,すなわち,オープンイノベーションの推進の現状,そしてそれと密接に関連したアカデミアでのシーズ開発についてまとめる.
著者
川西 徹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.5, pp.272-277, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
18

健康長寿社会の実現および21世紀の産業基盤の構築という両面から医薬品・医療機器・再生医療等製品等の医療製品開発および産業の振興が国家戦略としてあげられ,健康・医療戦略としてその研究開発および実用化を促進するための法律(健康・医療戦略推進法)の制定,研究開発予算を一元的に管理する日本医療研究開発機構(AMED)の設立等,矢継ぎ早の政策が実行されている.この中で注目すべき点の一つは,レギュラトリーサイエンス(RS)の振興・推進が強調されていることである.我が国においては,新しいタイプの先端的医薬品を世界に先駆けて承認した例は少なく,日本発の先端的医薬品を開発するという国の施策を成功させるためには,まずは日本での開発が円滑に進むことを可能にする環境の整備の一つとして,開発対象となると思われる医薬品の承認申請・審査に必要な規制要件をまとめた文書の整備,およびその作成を支える標準的な製品評価法の開発が重要である.現在AMED等からの研究支援をうけ,産学官を交えてこのようなRS研究が加速されており,あわせて我が国では人材が十分でないこの分野の人材育成の試みが実行されている.このような戦略を通じて,一つでも多くの先端的医薬品開発が世界に先駆けて我が国で迅速かつ安全に実現することが期待される.
著者
藤原 雄介 山本 弘史 福島 千鶴 小守 壽文 田中 義正
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.6, pp.327-331, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
1
被引用文献数
1

アカデミア創薬の環境はこの10年で大きく変わった.それでもアカデミアの創薬は大きな困難を伴う.最大の問題点は,製薬企業が評価を行うことができるまで創薬開発を進めていくことは,ひとつの研究室だけでは非常にハードルが高いことである.創薬のターゲット候補の発見,スクリーニングによる候補化合物の同定,最終的な薬物候補への最適化,臨床研究という創薬に必要な多くの過程をひとつの研究室で行うことは不可能に近い.もしもひとつの創薬シーズにおいて,多くの専門家,研究室が参加することができれば,アカデミアの創薬開発は大きく進むだろう.こういった状況の中で,長崎大学が創薬に対してどのようにオープン・イノベーションに取り組んでいくかを紹介する.
著者
堀井 郁夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.217-221, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

創薬初期段階からその薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は有用な医薬品を効率的に創生するのに重要である.医薬品開発候補化合物の選択には,多面的な科学領域からの総合的な評価が望まれ,薬理学的・生化学的・生理学的,毒性学的・病理学的,薬物動態学的,化学的,物性的性状などを考慮しながら総合的に評価する実践的挑戦がなされてきている.創薬における探索段階の初期から開発候補化合物選定までの評価試験導入手法のパラダイムシフトの必要性とその実践が今後の創薬の重要挑戦事項である.多面的科学領域からの総合的評価により,(1)薬理作用と毒作用のバランス(薬物動態評価を含めて)からの薬効・安全性評価,(2)物性評価からの開発性の評価(臨床の場での製剤的適応性),(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ),(4)候補化合物選定のためのランキング設定,(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.
著者
古賀 靖邦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.812-819, 1956-11-20 (Released:2010-07-09)
参考文献数
19
著者
大庭 澄明 今田 和則 友光 将人 竹谷 仁吏 金子 大樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.6, pp.304-314, 2013 (Released:2013-12-10)
参考文献数
4

フィルグラスチムは,遺伝子組換えヒト顆粒球コロニー形成刺激因子であり,好中球前駆細胞から成熟好中球への分化・増殖の促進,骨髄からの成熟好中球の放出促進による末梢血中の好中球数増加および好中球機能の亢進,造血幹細胞の末梢血への動員等の作用を有し,がん化学療法による好中球減少等の治療に利用される生理活性タンパク質である.持田製薬株式会社および富士製薬工業株式会社がそれぞれ販売を開始したフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」およびフィルグラスチムBS注シリンジ「F」は, グラン®(協和発酵キリン株式会社)を先行品とするバイオ後続品であり,それらの有効成分は,グラン®の有効成分であるフィルグラスチム(遺伝子組換え)と同一の一次構造を有し,グラン®の1番目のバイオ後続品の有効成分を意味するフィルグラスチム(遺伝子組換え)[フィルグラスチム後続1]である.当該フィルグラスチムバイオ後続品の開発においては,「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」および「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」に準拠して,品質特性,非臨床試験(薬理試験と毒性試験),および臨床試験を実施した.フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の品質特性は,先行品と同等/同質であった.また,非臨床試験および臨床薬理試験において,好中球数増加作用,末梢血中への造血幹細胞の動員作用および薬物動態,安全性は,先行品と同等/同質であった.さらに,乳がん患者を対象とした第III相試験において,有効性・安全性が確認された.持田製薬株式会社と富士製薬工業株式会社は,これらの成績をもとに本邦でフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の製造販売承認申請を行い,2012年11月に先行品と同じ効能・効果で承認を取得,2013年5月に薬価収載され,販売を開始した.今後,フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」は,医療現場において広く使用されることが期待される.
著者
神田 裕子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.1, pp.43-51, 2009 (Released:2009-01-14)
参考文献数
31

シタフロキサシン(STFX:グレースビット®錠50 mg,細粒10%)は,第一三共株式会社において創製され,2008年6月に発売されたキノリン骨格の1位にフルオロシクロプロピル基を,7位にスピロ型アミノピロリジン基を有するキノロン系抗菌薬である.本剤は,既存のキノロン系抗菌薬耐性菌を含むグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌,さらにはマイコプラズマおよびクラミジアなどの非定型菌に対して,既存キノロン系抗菌薬と比較して最も高い抗菌活性を示した.特に,呼吸器感染症主要原因菌である肺炎球菌および尿路感染症主要原因菌である大腸菌に対し,既存キノロン系抗菌薬と比較してそれぞれ2~32倍および8~16倍強い抗菌力を示した.STFXは細菌の標的酵素であるDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVのいずれの酵素に対しても強い阻害作用を有し,さらに既存のキノロン系抗菌薬に耐性化した変異酵素の活性も強く阻害するため,他のキノロン系抗菌薬の耐性株に対しても強い抗菌力を発揮できると考えられた.STFXはヒトにおいて経口投与により速やかに吸収された後,良好な組織移行性と約6時間の半減期を示しながら,その大部分(約70%)が未変化体として尿中に排泄された.臨床試験においては,呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする各種感染症において90%以上の高い有効性が認められ,さらに,直前抗菌化学療法無効患者においても93.4%の高い有効性が認められた.細菌学的効果(菌消失率)は,呼吸器感染症で92.0%,尿路感染症で95.8%であり,本剤の強い抗菌力を反映した優れた効果が認められた.臨床試験で認められた主な副作用は下痢(13.0%)であったが,大部分が軽度であり一過性のものであった.これらの基礎試験および臨床試験成績から,STFXは呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする細菌感染症治療の有用な選択肢と考えられる.
著者
高木 敏英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.1, pp.24-27, 2009 (Released:2009-07-14)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

溶解性と膜透過性の高低によって,化合物を4つのクラスに分類するBCSの考え方を創薬に導入することにより,それらを経口投与したときに問題となる現象を整理し,その原因をメカニズムから理解することができる.また,それぞれの原因に対して,吸収改善のための有効な製剤的方策を示唆することも可能である.溶解性および膜透過性が良好なクラスに属する化合物の場合,その経口吸収性が優れているために,開発期間の短縮やコストの削減が可能となることから,創薬においてはこのような化合物を医薬品候補として選択することが重要となる.一方,溶解性と膜透過性の両方が低いクラスの化合物では,製剤的な対応は難しく,医薬品の候補化合物として好ましくない.創薬から臨床開発,さらには上市された後まで見通したBCS戦略を持つことにより,安全で有効な医薬品を,できるだけ早期に医療の現場へ提供することができるものと考えている.
著者
嶋田 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.210-213, 2009-04-01
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

製薬企業における新薬の生産性の低下を招く要因,すなわち開発中止理由に薬物動態の割合が高いことが示されて以来,創薬初期段階での薬物動態研究が積極的に展開され,薬物動態が原因で開発中止となるケースは激減した.開発中止理由の変化を受けて,今,創薬初期段階の薬物動態試験はパラダイムシフトを起こす引金は引かれた.本稿では,「化合物から医薬品にするために必要な薬物動態試験」の序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを解説し,実際の使用態様も紹介した.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述した.さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題を提起・パラダイムを変える必要性について言及した.<br>
著者
土井(大橋) 雅津代 榑林 陽一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.194-198, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
25

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は,機能性消化管障害に分類され,便通異常(便秘や下痢)と慢性的な腹痛(内臓知覚過敏)を伴う疾患である.IBSの発症原因を特定することは難しいが,社会ストレスあるいは腸管内の感染・炎症が引き金となり,自律神経系や腸管内神経系に支障を与え発症するのではないかと考えられている.薬物治療は,消化管運動異常を改善する対症療法が主であり,慢性腹痛に対しては未だ治療法は確立されておらず,患者のQOLを低下させる原因となっている.基礎研究においては,IBSに類似した病態モデルの作成が急務であったが,近年になってストレスや炎症を利用した内臓知覚過敏モデルが作成され,内臓知覚過敏改善を目的とした創薬研究に応用されている.本稿では,IBSに伴う内臓痛覚過敏症の特徴につい概説すると共に,IBSの新しい病態モデルについて紹介する.
著者
柳原 延章 豊平 由美子 上野 晋 筒井 正人 篠原 優子 劉 民慧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.150-154, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
32

私達の食生活において摂取する食品の中には多くの植物性エストロゲンが含まれる.例えば,大豆食品のダイゼインや赤ワインのレスベラトロールなどがそうである.ここでは,植物性エストロゲンによる神経伝達物質のカテコールアミン(CA)動態に対する影響について紹介する.実験材料としては,中枢ノルアドレナリン(NA)神経や交感神経系のモデルとして広く利用されている培養ウシ副腎髄質細胞を用いた.植物性エストロゲンのダイゼインやレスベラトロールおよび女性ホルモンの17β-estradiol(17β-E2)は,チロシンからのCA生合成を促進し,同時にチロシン水酸化酵素を活性化した.さらに,細胞膜を通過出来ないウシ血清アルブミン(BSA)を結合させた17β-E2-BSAも17β-E2と同様に促進効果を示した.これら植物性エストロゲン等によるCA生合成促進作用は,エストロゲンの核内受容体阻害薬によって抑制されなかった.また,高濃度のレスベラトロールやダイゼインは,生理的刺激のアセチルコリン(ACh)によるCA分泌や生合成の促進作用を抑制した.一方,副腎髄質より分離調整した細胞膜は,17β-E2に対して少なくとも2つの特異的結合部位(高親和性と低親和性)の存在を示し,高親和性の17β-E2結合はダイゼインにより濃度依存的に抑制された.以上の結果から,植物性エストロゲンのダイゼインおよびレスベラトロールは,細胞膜エストロゲン受容体を介してCA生合成を促進するが,高濃度では逆にACh刺激によるCA分泌や生合成を抑制することが示唆された.
著者
中川 慎介 丹羽 正美
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.137-143, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

末梢と中枢を隔てる血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)は,単に物質の移動を制限する関門として機能しているだけではなく,機能的なneurovascular unitを形成し,神経・グリア系と相互作用を行っていることが指摘され,脳血管障害だけでなく中枢性疾患におけるBBBの役割も注目されている.また,BBBは中枢神経作用薬にとっては,越えなければいけない障壁であり,薬物の脳内移行性を決定する重要な関所である.薬物の脳内移行性検定やBBBに関する基礎研究のために,培養細胞を用いたin vitro実験が広く行われている.不死化脳毛細血管内皮細胞株はその均一性や簡便性から,BBB研究に広く用いられているが,生体内における細胞の機能を比較的保持する初代培養脳毛細血管内皮細胞を用いた研究も重要である.BBBは脳毛細血管内皮細胞だけで構成されるのではなく,周囲のペリサイトやアストロサイトがBBB機能維持に関与している.本稿では,これら3種類のBBB構成細胞の初代培養方法と,インサート膜を用いた共培養方法を紹介する.作製したBBBモデルは薬物の脳内移行性やBBBに関する基礎研究などに活用できる.
著者
河野 透
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.1, pp.13-17, 2011 (Released:2011-01-10)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

植物由来物を利用した医薬は代替補完医療complementary and alternative medicine(CAM)の枠組みの中にあり,エビデンス重視の現代医療では異端的扱いであった.世界中から日本の伝統的医薬である漢方薬が高品質および標準化されている点に注目され始めた.その契機となったのが大建中湯の薬効機序に関する分子レベルの研究である.大建中湯は3つの生薬(山椒(さんしょう),乾姜(かんきょう),人参(にんじん))が含まれ,術後の腸管運動麻痺改善,および腸管血流改善作用が,大建中湯の主要成分であるhydroxy-α-sanshool,6-shogaolを中心にカルシトニン・ファミリー・ペプチドを介して発現していることが明らかとなった.この研究を契機に全国の大学病院で二重盲検プラセボ比較試験が開始された.同時に米国でも臨床試験が行われ大建中湯の有効性がいち早く証明され漢方薬のCAMからの脱出が始まった.
著者
白井 康仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.131-136, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
20

ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼであり,これまでに10種のサブタイプが報告されている.周知のようにDGはPKCの活性化因子であり,産生されるPAも様々な酵素の活性を調節することから,DGKはPKCの抑制やPAの産生を介して生体内において重要な働きをしていると考えられている.しかし,神経系に多く存在するβサブタイプの機能は長い間不明であった.そこで,我々はDGKβのノックアウト(KO)マウスを作製し,その神経系における機能を調べた.その結果,DGKβKOマウスは,記憶障害と感情障害を示した.また,この感情障害は10日間のリチウム処理で改善した.一方,DGKβKOマウスから調製した海馬および大脳皮質初代培養細胞は,突起の分岐の数およびスパイン数が有意に減少していたが,DGKβを過剰発現させることで形態異常は回復した.さらに, DGKβKOマウスの海馬および大脳皮質において,スパイン密度が減少していることを確認した.これらのことから,DGKβは神経細胞の形態を調節・維持することにより神経ネットワークの形成,ひいては記憶や感情などの脳高次機能において重要な働きをしていることが明らかになった.本総説では,このDGKβKOマウスから得られた知見を中心に,神経系におけるDGKβについて概説するとともに,DGKβの記憶障害や感情障害の予防薬および改善薬のターゲットとしての可能性と問題点について論ずる.
著者
鈴木 信孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.252-257, 2008 (Released:2008-04-14)
参考文献数
9
被引用文献数
4 5

欧米の先進諸国において,補完代替医療(CAM)の利用頻度は近年急速な増加傾向にある.また,わが国でも,患者自身の治療選択における自己決定意識の高まりに加え,インターネットの普及などから,実際の医療現場でもCAMの利用者が急速に増加していることが指摘されている.このような背景のもとに,2001年に厚生労働省がん研究助成金による研究班が組織され,わが国におけるがんの補完代替医療の利用実態調査が全国規模で行われた.そして,がん患者の44.6%(1382/3100名)が,1種類以上の代替療法を利用していることが明らかになった.さらに,利用されているCAMの種類としては,健康食品・サプリメント(漢方・ビタミンを含む)が96.2%と群を抜いて多いことや,使用頻度の高いものとしてアガリクス(60.6%),プロポリス(28.8%),AHCC(7.4%),漢方薬:OTC(7.1%)などがあることもわかった.また,半分以上の患者が,十分な情報を得ずにCAMを利用していることや,患者と医師の間にCAMの利用に関して十分なコミュニケーションがとれていないことも判明した.たしかに,サプリメントが薬理学的に高い効果を示すかどうかは懐疑的である.しかし,患者側の立場としては,たとえわずかであっても効果が認められるものがあれば取り入れたいと思うのは当然であろう.今後,氾濫するサプリメントの情報の中で,科学的に的確なものを見極め,総合的な医療としてサプリメントなども利用した健康管理も必要となろう.本稿では,まずCAMを概説し,わが国における食品の分類,サプリメントの安全性や米国で進む植物性医薬品(Botanical Drug)の研究・開発についても解説する.
著者
柳浦 才三 鈴木 勉 田頭 栄治郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.649-658, 1974 (Released:2007-03-29)
参考文献数
14
被引用文献数
22 19

薬物混入飼料を用いる方法で,substitution testおよび薬物依存ラットの体重の経時変化について検討した。薬物混入飼料を用いる方法で獲得したmorphine,codeineおよびmeprobamateの身体的依存ラツトに,それぞれcodeine,morphineおよびphenobarbital混入飼料を置き換えた結果,それぞれの休薬時に認められるような禁断症状としての体重減少は観察されなかった.すなわち,morphine,codeineおよびmeprobamateにcodeine,morphineおよびphenobarbitalが置き換わり,それぞれの身体的依存性を推持したものと思われる.したがって,薬物混入飼料を用いる方法でもsubstitution testが可能である.しかし,phenobarbital依存ラットにmeprobamate混入飼料を置き換えたが,禁断症状としての体重減少が認められた.これは,meprobamateの混入濃度が低濃度であったためと考えられる.薬物混入飼料を用いる方法で獲得した依存ラットの体重の経時変化を測定した結果午前7時前後が最高となり,午後7時前後が最低となる日内変動を示した.また,休薬することにより累進的な体重減少を示したが,その中にも,わずかながら日内変動が認められた.休薬後48時間にそれぞれの薬物混入飼料を再処置すると,薬物依存ラットの体重レベルに急激に近づいていった.このようなラット体重の経時変化を測定することは,禁断症状としての体重減少をより明確にする上でも,また被検薬物の身体的依存形成能の検定にも有用と考えられる.