著者
堤 直行 長田 秀夫 荒井 伸彦 小島 正三 氏家 新生
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.385-391, 1993
被引用文献数
1

ラット胎仔大腿骨を用いてタンパク質分解酵素阻害剤あるいはタンパク質合成阻害剤の骨吸収におよぼす作用を検討した.システインプロテアーゼ,アスパルティックプロテアーゼ,金属プロテアーゼの代表的な阻害剤であるE-64(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),ペプスタチンA(10<SUP>-7</SUP>~10<SUP>-5</SUP>M),ホスホラミドン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),アマスタチン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),ベスタチン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),foroxymithine(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)は明らかな骨吸収におよぼす作用を示さなかった.しかし,セリンプロテアーゼの阻害剤であるフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF),1-クロロ-3-トシルアミノ-7-アミノ-2-ヘプタン(TLCK),L-1-トシルアミノ-2-フェニルエチルクロロメチルケトン(TPCK),エラスタチナールは10<SUP>-5</SUP>~10<SUP>-4</SUP>Mで骨吸収を抑制した.TPCK(10<SUP>-4</SUP>M)を添加してラット胎仔大腿骨の軟骨組織を培養し,そこからTPCKを除去した培養上清は骨吸収促進作用を示した.タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド(0.1~10μg/ml),ピュロマイシン(0.3~30μg/ml)は軟骨組織による骨吸収の促進現象を濃度依存的に抑制した.シクロヘキシミド(3μg/ml)による骨吸収の抑制作用は薬物が存在しないと次第に消失した.また,シクロヘキシミド(3μg/ml)を添加して軟骨組織を培養し,そこからシクロヘキシミドを除去した培養上清は骨吸収の促進作用を示さなかった.これらの結果から,ラット胎仔大腿骨の軟骨組織はタンパク質を一成分とする骨吸収促進物質を産生しているが,この物質は,(1)骨吸収促進作用を有するセリンプロテアーゼの一種である,あるいは,(2)始めは生理的に不活性な物質として産生され,更にある種のセリンプロテアーゼによって骨吸収促進作用を有する物質に変換されてその生理作用を示している可能性が示唆された.
著者
坂本 浩二 山内 真由美 中山 貞男 水流添 暢智 坂下 光明 藤川 義弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.187-193, 1987 (Released:2007-02-23)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

コレステロール負荷により誘発したウサギの高脂血症ならびに動脈硬化症に対するNIP-200(3,5-dimethyl-4,6-diphenyl-tetrahydro-2H-1,3,5-thiadiazine-2-thione)の作用を検討した.NIP-200は1%コレステロール飼料(HCD)に0.2%(w/w)添加した混餌飼料として,1日1回100g/匹を与え,16週間飼育した.HCD,NIP-200各群の体重増加と飼料摂取量は対照と比ぺて差がみられなかった.NIP-200は飼育4,10,14週において,HCD飼育による血漿の総脂質,総コレステロール(TC),リン脂質(PL),遊離コレステロールの増加を抑制した.高密度リポ蛋白中のTC(HDL-TC)はHCDの飼育2週,10~16週とNIP-200の飼育6~16週において,対照に比べて増加を示した.HDL-PLはNIP-200飼育6~10週においてHCD以上の増加を示した.TCとHDL-TCを用いたatherogenic indexはNIP-200飼育4,12週に低下を示し,PLとHDL-PLを用いたそれはNIP-200飼育4,6週と10~14週に低下を認めた.走査型電子顕微鏡による大動脈弓部内腔表面構造の観察では,脂肪斑の減少,内腔の山波形の溝の消失と内皮細胞核の膨化を抑制するなど,NIP-200はHCD飼育による形態変化を改善した.これらの結果から,NIP-200の脂質低下作用は腸管における脂質吸収抑制と肝における異化排泄促進によって発現する可能性が示唆された.また,NIP-200の抗動脈硬化作用には血漿HDL-TC,HDL-PL増加による脂質代謝改善が関与しているものと推測される.
著者
吉村 弘二 山本 研一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.373-411, 1980 (Released:2007-03-29)
参考文献数
110
被引用文献数
6 3

morphine(MP),phenobarbital(PNB),diazepam(DZP),methamphetamine(MAPT)およびcocaine(CC)依存ラットについて薬物依存形成期ならびに突然休薬時の自発運動と脳波を日内リズムとの相関から解析し,同時に脳内アミン(NE,DA,5-HT)の消長を調べた.正常ラットの自発運動や脳波は一般に昼間睡眠,夜間覚醒型の日内リズムを有しているが,MP(5→50mg/kg),MAPT(0.5→5mg/kg),CC(5→40mg/kg)を1日2回8週間連続皮下注射する中に投与量と投与日数の増加に伴い注射直後から約4時間の間,自発運動は著しく増加し,脳波的睡眠図では覚醒期の増加,徐波―速波睡眠期の減少が認められた.このときMAPT,CCでは脳波が賦活されるが,MPでは動物の行動が覚醒的であるのに高振幅徐波が現れ行動と脳波の分離が認められた.barbiturate型薬物PNB(10→70mg/kg)とDZP(10→120mg/kg)を1日2回連続経口投与すると昼間の覚醒期は減少し,徐波睡眠期は増加するが,日内リズムには著しい変化が認められなかった.突然休薬を行うとMP群の自発運動は昼夜間差のない単調で低い活動レベルに終始する日内リズムに変わり,脳波では覚醒期の増加,徐波深睡眠期と速波睡眠期が減少して安静波ないし浅睡眠波のみとなった.PNBとDZP群では昼夜間とも活動型のリズムに転じ,脳波では覚醒期が増加,徐波睡眠期は減少した.この現象はDZPよりPNR群においてより著しかった.一方,MAPT,CC群では休薬後昼間の睡眠―覚醒周期はたちまち対照のリズムに戻るが夜間の睡眠量は対照に比べ増加した.各薬物の依存形成期ならびに突然休薬期には脳内のNE,DA,5-HT含量およびその代謝回転率に変化が現れた.すなわちMP禁断時には視床下部の5-HT代謝回転が促進し,その含量は著しく減少した.MAPTの連続投与により視床下部のNE含量と5-HT含量は著しく減少するが,一方,線条体のDA含量は増加し,5-HTの代謝回転は促進した.
著者
太田 知裕 小松 将三 徳武 昇
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.409-419, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
53
被引用文献数
1 3

アレンドロネート(アレンドロン酸ナトリウム水和物;ボナロン®錠5 mg)は,骨表面に結合し破骨細胞による骨吸収を抑制する窒素含有のビスホスホネートである.第3世代のビスホスホネート化合物であるアレンドロネートは,骨吸収面に特異的に分布し,破骨細胞と骨面で形成される閉鎖環境下で,破骨細胞より分泌される酸によるpH低下(酸性)により骨面から遊離され,破骨細胞内に取り込まれる.取り込まれたアレンドロネートは,コレステロール合成系であるメバロン酸合成経路を抑制し,低分子量GTPタンパク質のプレニル化を阻害し,細胞骨格への影響などを介して破骨細胞の機能を抑制する.アレンドロネートの破骨細胞に対する骨吸収抑制作用は可逆的で,作用発現の100倍以上の濃度においても細胞障害性を示さない.長期投与でも骨石灰化抑制を起こさず,骨折治癒に影響を与えない.このことから,骨質に対して安全性が確立した骨粗鬆症治療薬である.骨粗鬆症において最も危惧される病態は,骨折を生じることである.アレンドロネートは,国内において骨密度の増加に加え,骨折の抑制効果が確認されている. 現在,閉経後や老人性の骨粗鬆症に加え,ステロイド投与など薬剤による二次性の骨粗鬆症が注目されている.この点,アレンドロネートは海外において治療効果の高い骨粗鬆症治療薬として位置付けられており,約100カ国で認可され,約450万人以上の患者に使用されている.アレンドロネートは,骨粗鬆症においてEBM(Evidence Based Medicine)の考え方をいち早く取り入れた薬剤である.本稿ではアレンドロネートの薬理作用及び臨床効果について概説する.
著者
岡田 吉美
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.supplement, pp.1-6, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

Transgenic plants are emerging as an important system for the expression of many recombinant proteins, especially those intended for therapeutic purpose. The productin of foreign proteins in plants has several advantages. In terms of required equipment and cost, mass production in plants is far easier to achieve than techniques involving animal cells. Successful production of several proteins in plants, including human serum albumin, haemoglobin, monoclonal antibodies, viral antigens (vaccines), enkephalin, and trichosanthin, has been reported. Particularly, the demonstration that vaccine antigens can be produced in plants in their native, immunogenic forms opens exciting possibilities for the “bio-farming” of vaccines. If the antigens are orally active, food-based “ edible vaccines” could allow econmical production. In this review, I will discuss the progress that has been made by several groups in what is now an expanding area of medicine research that utilizes transgenic plants.
著者
名取 威徳 秋元 功司 元木 一宏 肥塚 靖彦 比嘉 辰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.supplement, pp.63-68, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
5
被引用文献数
8 16

New glycosphingolipids, named agelasphins, have been isolated as antitumoral compounds from an extract of a marine sponge, Agelas mauritianus. The absolute configurations of agelasphins were elucidated by the total synthesis. Various analogues of agelasphins were also synthesized and the relationship between their structures and biological activities was examined using an MLR assay. From the results, KRN7000, (2S, 3S, 4R)-1-O(α-D-galactopyranosyl)-2-(N-hexacosanoylamino)-1, 3, 4-octadecanetriol, was selected as a candidate for clinical application. KRN7000 markedly stimulated lymphocytic proliferation in allogeneic MLR, and showed potent tumor growth inhibitory activities in B16-bearing mice and strongly inhibited tumor metastasis, suggesting that KRN7000 is a potent biological response modifier. These biological effects were exerted by the activation of dendritic cells by KRN7000.
著者
今西 泰一郎 吉田 晶子 奥野 昌代 平沼 豊一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.94-98, 2005-08-01
参考文献数
28
被引用文献数
3 1

マウスのガラス玉覆い隠し行動(marble-burying behavior)は,敷き詰めた床敷(オガクズ)上に配したガラス玉をマウスが床敷内に埋めてしまう行動であり,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)により行動抑制を伴うことなく抑制される.無害なガラス玉を床敷で覆い隠そうとするマウスの行動が不合理と認識しつつ繰り返される強迫性障害患者の強迫行為と見かけ上類似していること,SSRIがうつ病のみならず強迫性障害の治療薬としても有用であること,不安の代表的な動物モデルであるコンフリクト試験や高架式十字迷路試験ではSSRIは効果を示さないことから,ガラス玉覆い隠し行動は強迫性障害の動物モデルとして位置付けられつつある.反面,ガラス玉覆い隠し行動は,強迫性障害には無効とされているベンゾジアゼピン系やセロトニン5-HT<sub>1A</sub>受容体作動性の抗不安薬によっても抑制されることから,強迫性障害に対する治療効果のみを反映するモデルとは言い切れない側面を併せ持つ.ガラス玉覆い隠し行動に関連する研究は充分に行われているとはいえず,今後の研究課題の一つと考えられる.<br>
著者
喜名 美香 坂梨 まゆ子 新崎 章 筒井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.4, pp.148-154, 2018
被引用文献数
4

<p>一酸化窒素(NO)はL-arginineからNO合成酵素(NOSs)を介して産生されが,最近,その代謝産物である亜硝酸塩(NO<sub>2</sub><sup>-</sup>)および硝酸塩(NO<sub>3</sub><sup>-</sup>)からNOが産生される経路が発見された.レタスやホウレン草などの緑葉野菜には硝酸塩が多く含有されている.しかし,硝酸塩/亜硝酸塩(NOx)の不足が病気を引き起こすか否かは知られていない.本研究では,『食事性NOxの不足は代謝症候群を引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証した.私達は過去に,NOSs完全欠損マウスの血漿NOxレベルは野生型マウスに比して10%以下に著明に低下していることを報告した.この結果から,生体のNO産生は主として内在するNOSsによって調節されていること,外因性NO産生系の寄与は小さいことが示唆されたが,低NOx食を野生型マウスに長期投与すると意外なことに血漿NOxレベルは通常食に比して30%以下に著明に低下した.この機序を検討したところ,低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織のeNOS発現レベルが有意に低下していた.重要なことに,低NOx食の3ヵ月投与は,内臓脂肪蓄積,高脂血症,耐糖能異常を引き起こし,低NOx食の18ヵ月投与は,体重増加,高血圧,インスリン抵抗性,内皮機能不全を招き,低NOx食の22ヵ月投与は,急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死を誘発した.低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織におけるPPARγ,AMPK,adiponectinレベルの低下および腸内細菌叢の異常が認められた.以上,本研究では,食事性NOxの不足がマウスに代謝症候群,血管不全,および心臓突然死を引き起こすことを明らかにした.この機序には,PPARγ/AMPKを介したadiponectinレベルの低下,eNOS発現低下,並びに腸内細菌叢の異常が関与していることが示唆された.</p>
著者
高原 章 内田 裕久 今田 智之 堂本 英樹 吉元 良太 小森 美幸 森岡 朋子 小野 一郎 高田 芳伸 加藤 仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.279-287, 1995-10-01
参考文献数
19
被引用文献数
1 4

新規カルシウム拮抗薬(シルニジピン)を2KlC型腎性高血圧犬に連続経ロ投与し,その抗高血圧作用を二力ルジピンのそれと比較検討した.投与初日,シルニジピン(3mg/kg)および二力ルジピン(3mg/kg)の経ロ投与は投与後1時間目に収縮期および拡張期血圧を著明に低下させた.このシルニジピンの降圧作用は二力ルジピンより持続的であった.両薬剤とも心拍数と血漿レニン活性の上昇を引き起こした.投与開始8日目および15日目もシルニジピンとニカルジピンは投与初日とほぼ同程度の血圧低下作用を引き起こした.投薬中止48および72時間後に血圧のリバウンド現象は認められなかった.血圧測定時間毎に採血して血漿中薬物濃度を測定したところ,シルニジピンおよび二力ルジピンの血圧低下作用はそれぞれの時点での血漿中薬物濃度と有意に相関した(シルニジピン;r=-0.598,ニカルジピン;r=-0.594).以上の結果より,シルニジピンは二力ルジピンに比較してより持続的な抗高血圧作用を示し,連続経ロ投与による再現性のある抗高血圧作用は血漿中薬物濃度に相関して認められた.
著者
山田 久陽
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.3, pp.154-157, 2009 (Released:2009-03-13)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

腎臓は,組織の“不均一性”が高く,薬物により腎臓のさまざまな部位が障害される.障害部位の特定を含めた腎毒性の評価は,ラットを用いた一般毒性試験においても検査項目を充実させることにより可能である.特に尿検査は,鋭敏で動物に負荷を与えない非侵襲的な検査として汎用される.糸球体障害の検出には,通常濾過されない血中高分子タンパクおよびアルブミンなどが有用である.近位尿細管障害には,同部位に局在するNAG,γ-GTP,α-GSTなどの酵素やKIM-1およびclusterinなどの局在タンパク,同部位で再吸収されるβ2-microglobulinなどの低分子タンパク,さらに,遠位尿細管障害ではμ-GSTなどの局在タンパクの測定が有用である.腎毒性の評価には,各部位のマーカーを2種以上選定して,その変化を経日的に解析し,最終的には腎臓の病理組織学的所見を加味して総合的に変化の程度や部位を判定すべきである.
著者
嶋田 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.210-213, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
23
被引用文献数
1

製薬企業における新薬の生産性の低下を招く要因,すなわち開発中止理由に薬物動態の割合が高いことが示されて以来,創薬初期段階での薬物動態研究が積極的に展開され,薬物動態が原因で開発中止となるケースは激減した.開発中止理由の変化を受けて,今,創薬初期段階の薬物動態試験はパラダイムシフトを起こす引金は引かれた.本稿では,「化合物から医薬品にするために必要な薬物動態試験」の序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを解説し,実際の使用態様も紹介した.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述した.さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題を提起・パラダイムを変える必要性について言及した.
著者
平井 洋 下村 俊泰 駒谷 秀也 小谷 秀仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.1, pp.27-31, 2009 (Released:2009-01-14)
参考文献数
37

正常な体細胞ががん化する為には,細胞のいくつかの制御機構に異常が引き起こされることが必要と考えられている(1).これらは,細胞増殖のシグナルの異常,細胞死制御の異常,DNAの修復機構の異常などが含まれるが,その中でも,細胞周期に変化を起こすような細胞分裂制御機構の異常は細胞のがん化におけるひとつの大切なホールマークとして知られている. 細胞分裂は4つの周期に分けられており,それらはG1期,S期,G2期,M期で,それぞれ異なったタンパク質がその時期の制御に関わっている.現在使用されている抗がん薬の多くは,この細胞周期の1つまたは,複数期に関わっているタンパク質の活性を阻害するものであり,その臨床的な有用性は様々な研究によって証明されている. しかしながら,現行の抗がん薬には様々な副作用も知られており,また,多くの抗がん薬がその化合物が天然物由来であることもあり,阻害メカニズムに由来した以上の副作用も存在している.これらのことから,患者さんからは副作用の少ない次世代の抗がん薬の創製が強く望まれている. 以上のような理由から,現在細胞分裂の制御に関係したタンパク質の阻害薬が多くの研究者,企業によって開発されている.このレビューでは,特に,現在その標的に対して薬が作られていない新規の細胞分裂抗がん薬ターゲットに着目してその開発状況を報告する.
著者
矢野 浩志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.5, pp.270-273, 2009 (Released:2009-05-14)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

創薬の初期から,薬物吸収に関連した種々のin vitro試験や物性パラメーターが評価されるようになった.しかし,それらの数値を有効に活用するためには,溶解性および膜透過性などの化合物の物理的な特性と,実際の吸収への関連を明らかにすることが重要である.物性を通じ吸収過程を理論的に細分化し,そして統合することで,定量的な吸収率予測および吸収過程に問題がある化合物の排除へとつながると思われる.近年,難溶解性や低膜透過性に起因して,吸収低下のリスクが伴う化合物も多く合成されるなか,そのリスク自体を定量化することが求められており,そういった定量化につなげるための切り口として「物性評価と薬物吸収の関連」についてまとめた.
著者
真野 高司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.3, pp.149-153, 2009 (Released:2009-03-13)
参考文献数
22

新薬の物性測定,結晶スクリーニング,製剤技術の応用といった薬剤学的検討は,吸収性・薬物動態・製造性・安定性に大きな影響を与える.創薬研究を効率よく行うには,探索段階のステージに応じた,脂溶性・酸塩基解離定数・溶解度・溶解速度測定などの分子物性測定,結晶化・塩・結晶多形のスクリーニング,製剤技術の応用といった項目を実施することが重要である.また,それぞれの項目について科学的理解と最新の技術(テクノロジー)の把握,さらに創薬研究への応用についての正しい戦術策定があってこそ,新規スクリーニングの開発と導入,適切なプロジェクトへの応用といった意味のある研究が可能になる.それらを可能にするには科学技術・プロジェクトチーム両面から見た人材育成も必要であり,そのためにはマネージメントも大きな役割を果たす.探索段階における薬剤学的研究の意義とファイザー株式会社中央研究所(愛知県)における実践例を紹介する.
著者
花田 充治 野口 俊弘 村山 隆夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.141-150, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
29
被引用文献数
9 14

アムルビシンは住友製薬により全合成された新しいアントラサイクリン系の抗癌薬であり,2002年4月に非小細胞肺癌と小細胞肺癌を適応症として製造承認を得た.ドキソルビシンなど現在市販されているアントラサイクリン系薬剤は全て発酵品あるいは発酵品からの半合成品であるのに対し,アムルビシンは化学的に全合成された化合物である.9位に水酸基の代わりにアミノ基を有し,アミノ糖の代わりにより簡単な糖部分を有するという,発酵品あるいは発酵品からの半合成品にはない化学構造上の特徴を有している.非臨床試験では,アムルビシンはヌードマウス皮下に移植したヒト腫瘍細胞株に対しドキソルビシンより強い抗腫瘍効果を示した.このマウスモデルにて薬剤組織分布を調べたところ,in vitroにてアムルビシンの約5~200倍の細胞増殖抑制活性を示す活性代謝物アムルビシノール(13位ケトン還元体)が正常組織に比べ腫瘍組織に多く分布していた.アムルビシンは組織分布の上でドキソルビシンに比べより腫瘍選択性の高い薬剤であると考えられ,また,既存のアントラサイクリン系薬剤と異なり,その抗腫瘍効果の発現に活性代謝物アムルビシノールが重要な役割を果たすと考えられた.アムルビシンはトポイソメラーゼIIを介したクリーバブルコンプレックスの安定化により抗腫瘍効果を示し,強いインターカレーション作用により抗腫瘍効果を示すドキソルビシンとは作用機序が異なると推察された.臨床試験では,未治療の進展型小細胞肺癌に対し高い奏効率(76%)を示した.未治療の非小細胞肺癌に対する奏効率は23%であった.主な副作用は骨髄機能抑制で,特にグレード3以上の好中球減少の発現率は77%であった.現在,悪性リンパ腫に対する後期第II相試験と未治療の進展型小細胞肺癌に対するシスプラチンとの併用による第II相試験が進行中である.
著者
丸山 和容 腰原 なおみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.27-34, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
15

デクスラゾキサン(サビーン®点滴静注用500 mg)は,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出時の唯一の治療薬として,海外30ヵ国以上で承認され臨床使用されている.本邦においては「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において,医療上の必要性が高い薬剤であると評価され,キッセイ薬品工業株式会社がその開発に着手した.非臨床薬理試験においてはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出による組織障害モデルとして,ダウノルビシンまたはドキソルビシンの皮下投与により誘発されるマウス皮膚潰瘍モデルを作製し,本薬の抗潰瘍作用を評価した.ダウノルビシン誘発皮膚潰瘍モデルにおいて,デクスラゾキサンの腹腔内単回投与は潰瘍発現率を用量依存的に低下させ,潰瘍面積AUCを有意に減少させた.また,本薬は1日1回3日間の腹腔内反復投与においても潰瘍発現率を低下させ,潰瘍面積AUCを著しく減少させた.同モデルにおいて,デクスラゾキサンはダウノルビシン処置後3時間までの腹腔内投与により明らかな潰瘍抑制作用を示し,ダウノルビシン処置後6時間の投与においても潰瘍面積AUCにおいて減少傾向が認められた.静脈内および腹腔内投与による本薬の抗潰瘍作用を比較検討した結果,投与経路の違いによる明らかな差は認められなかった.アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の作用は,主に二本鎖DNAを切断する酵素であるトポイソメラーゼⅡへの阻害活性によるものと考えられており,DNAが切断された状態でDNA-トポイソメラーゼ複合体を安定化させることにより細胞障害を発現する.デクスラゾキサンはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬とは異なる部位でトポイソメラーゼⅡに結合し,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬によるDNA-トポイソメラーゼ複合体の安定化を阻害することにより,血管外漏出による組織障害を改善するものと推察される.臨床試験においては,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出患者を対象に,有効性の主要評価項目として血管外漏出に対する外科的処置率を評価した結果,海外臨床試験において本薬投与後に外科的処置が実施された患者は54例中1例のみであり,他に外科的処置が行われた患者および血管外漏出による壊死が確認された患者はなく,本薬の有効性が確認された.また,国内臨床試験においても外科的処置が行われた患者はなく,本薬の有効性が示唆された.安全性について,副作用の多くはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の副作用として一般的に知られている事象であり回復が認められた.
著者
柴田 達也 山根 明 島田 明美 永田 純史 小松 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.467-471, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

歯学部学生の薬理学実習において,臨床における薬物治療の基礎となる薬物動態を理解するために,血中薬物濃度時間曲線から薬物動態パラメータを求めることは有用であると考えられる.動物実験から血中薬物濃度時間曲線を得ることもできるが,薬物動態シミュレーションプログラムを用いれば動物を使用せずに,そのような実習を行うことが可能である.鶴見大学歯学部の薬理学実習では,英国薬理学会が開発した薬理学実習ソフトウエアの1つである薬物動態シミュレーションプログラムを用いたシミュレーション実習を平成12年度からとりいれている.6~7名の学生から成る班にシミュレーションプログラムをインストールしたパーソナルコンピューターが1台ずつ配布される.4つの実習課題が用意され,班ごとにそれぞれの課題に沿って薬物投与の条件を設定し,血中薬物濃度の変化をシミュレーションする.得られたグラフから指示された値を読み取り,課題にある薬物動態パラメータを算出する.それらの結果を基にして課題にある質問に答える.本シミュレーションプログラムは,実験動物ではなくヒトの薬物動態をシミュレーションすることができるので,結果を外挿する必要がない.学生は限られた実習時間内に実習課題を終わらせることができた.実習の準備,片づけが簡素化され教員の負担は軽減された.実際に動物実験を行うことでしか得られないこともあり,実験動物を用いる実習をすべて代替法で置き換えることは難しいが,学生実習にシミュレーションプログラムを導入することは効率的に薬理学教育を行う1つの手段であると考えられる.
著者
矢野 貴久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.4, pp.172-177, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

薬剤性腎障害は,診断もしくは治療のために使用した医薬品による有害事象であり,実臨床における重要な課題の一つとされている.しかしながら多くの薬剤では腎障害の発現機序が不明であり,有効な対策法の確立には未だに至っていない.そこで著者らは,培養腎細胞や実験動物を用いて薬剤性腎障害評価モデルを作製し,各薬剤により生じる腎障害の細胞内分子機構の解明を行った.その結果,造影剤や抗MRSA薬バンコマイシンは腎尿細管細胞にアポトーシスを引き起こし,その発現はいずれもミトコンドリア機能障害に起因したカスパーゼ9およびカスパーゼ3活性化に基づくものであったが,その一方で詳細な細胞死分子機構は異なっていることが明らかとなった.造影剤は,スフィンゴ脂質であるセラミドのde novo合成を活性化し,Aktリン酸化ならびにCREBリン酸化の抑制に基づくBax/Bcl-2の発現変化によってミトコンドリア機能障害やアポトーシスを惹起するが,バンコマイシンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性化を抑制し,スーパーオキシドを産生することでアポトーシスシグナルを誘導することを見出だした.一方,抗真菌薬アムホテリシンBは腎細胞にミトコンドリア機能障害に基づくネクローシスを引き起こしたが,その発現分子機構は主作用に類似したものであり,アムホテリシンBが腎細胞膜のコレステロールに結合して小孔を形成し,細胞内へのNa+流入を惹起すると共に小胞体やミトコンドリア由来のCa2+上昇を引き起こして細胞死に至ることが明らかになった.さらに,ミトコンドリア分子機構に基づく腎保護薬の研究を進めた結果,プロスタサイクリン誘導体ベラプロストが腎細胞内のcAMPレベルを上昇させ,造影剤腎障害に対して顕著な保護効果を示すことを見出だした.本研究により明らかとなった知見が,薬剤性腎障害の対策法の確立において一助となることを期待する.