著者
谷川 喜美江
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大論叢 (ISSN:03854558)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.193-221, 2002-12-31

給与所得の持つ独特の性質のため当該所得を得るために必要とした経費の客観的な測定は困難とされており,現在我が国所得税法に認められている給与所得控除は,「手厚い保護」であるとか「過大な控除」であると悪評を高めるほどの控除が認められるに至る。そこで,所得税全体における必要経費の意義と給与所得控除のあり方,給与所得控除の沿革と性格,過去の給与所得に関する主な判例,諸外国における給与所得に関する控除の現状,評価の問題を検証することにより,給与所得控除の実額控除制度化の可能性について検証した。上記検証から,理論上は給与所得の必要経費実額控除の制度化は達成されるべきであることが理解できるが,実際は必要経費について家計費との厳密な区分や客観的な数値による測定の困難性が存在し,さらに給与所得に対する必要経費の実定法上の規定がないことから困難を要する。よって,給与所得控除の「把握控除」としての側面を考慮し「給与所得実額特別控除」として一定額の控除と,現行において給与所得の必要経費として客観的な数値の測定が可能であるとされている「特定支出控除」の5項目とを組み合わせたものを給与所得控除として認めるべきである。そして現行の給与所得控除の額を「手厚い保護」であるとか「過大な控除」とならない程度への引き下げを行い,上記控除との選択適用を認めることも同時に認めるべきである。このような制度を設けることで給与所得者と事業所得者等の公平もある程度是正され,給与所得者の確定申告を行う機会を増大させることにより政治への参加意欲を向上させることも可能となろう。
著者
酒井 志延 小野 博 杉森 直樹 久村 研 菊地 賢一
出版者
千葉商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.背景:本研究チームは,平成16年度に民間の研究団体で開発されたテスト・エンジンを使って試験的なオンラインによるコンピュータテストを開発していた。しかし,そのコンピュータテストはいくつかの欠点を持っていた。(1)このオンラインによるコンピュータテストは,民間の研究団体の開発したエンジンであったこと。そのために,研究のためであっても使用料を払わなければならなかった。(2)このオンラインによるテストは,項目識別パラメータと問題難易度パラメータを持っているテストアイテム・プールを必要とする。テストアイテム・プールは順次テストアイテムを増やしていって,大きくする必要があった。しかし,そのテストアイテム・プールは,問題の順次追加が不可能で,問題をプールごと変更する必要があった。2.今回の研究による成果(1)コンピュータテストのテスト・エンジンの開発そしてそれと民間のテスト・エンジンを交換すること。そして,その新しいエンジンで,従来のテストアイテム・プールからの問題が有効に使用できるようにすること。この課題に対し,テストエンジン開発者の菊地をメンバーに加え,菊地が開発したテストエンジンを民間のエンジンと交換した。平成18年7月に18名の同一試験者に,そのテストエンジンを使ったコンピュータテストと同一のテストアイテムバンクから出題したペーパーテストを実施し,その相関係数は0.90であった。(2)テストアイテム・プールを改良し,パラメータがついたテストアイテムを順次プールに追加できるようにすること。この課題に対し,アイテムプールのシステムを改良し,新しくパラメータをつけたアイテムバンクを持ったコンピュータテストが,正常に作動したことを確認した。
著者
山田 武
出版者
千葉商科大学
雑誌
CUC view & vision (ISSN:13420542)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.21-25, 2008-03

ニュースや新聞などを見ていると医療保障制度に関わる話題を見たり聞いたりしない日はありません。以前であれば大きく取り上げられることのなかった診療報酬の改定だけでなく、高齢化と医療費の関係、医師の偏在、医療事故、メタボリック症候群対策、混合診療、薬害などさまざまなトピックが取り上げられています。医療保障制度の危機や崩壊として大々的にクローズアップされることもあるようです。医療保障制度は非常に複雑なため全体像をつかむのが難しい側面もあります。以下では国民医療費から医療保障制度について考える糸口を探します。
著者
石山 嘉英
出版者
千葉商科大学
雑誌
CUC view & vision (ISSN:13420542)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.44-48, 2010-03
著者
久保田 茂隆 中村 昭一
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大論叢 (ISSN:03854558)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.47-63, 2004-03-31

ITの急速な進展により,私たちの身の回りには,気が付かない所でコンピュータが活躍している。ユビキタス社会の到来がいわれるようになったが,予想以上に早く進み始めている。ユビキタス社会の特徴は, (1)いつでもどこでも必要な情報を入手できること (2)あらゆる「モノ」が情報の受発信を行う点にある。ユビキタス社会の実現のためには,統一された定義,概念のもとで基盤を整備し,システムを作っていかなければならない。ユビキタスは,Mark Weiser氏が提唱した概念であるが,東京大学の坂村健氏が提唱した「どこでもコンピュータ」と同じ概念である。ユビキタス社会では,私たちの生活も便利になるであろうが,インフラの整備に多額の投資が必要となり,また,多くの個人情報が集約される結果,プライバシー保護が大きな課題となる。0.3〜0.4mm角のICチップが,社会を変えていくことになる。ICチップ(ICタグ)は部品であり,これを実ビジネスでどう活用するかということが重要であり,システムとして価値が生まれる。旅行業界では,60社以上が参加する「手ぶら旅行」の実証実験や,貨物輸送,量販店での店員の効率的接客,その他多くの活用・実証実験が行われている。本稿では,現在のユビキタス・コンピューティングの概念をデバイス側やサーバー側からの考え方を紹介し,現状の研究機関・企業・政府の取り組みを明らかにして,技術的課題・問題点を抽出し,ユビキタス・コンピューティングを実現する為の環境・条件を明らかにすることを試みている。
著者
藏田 幸三
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大論叢 (ISSN:03854558)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.135-164, 2002-12-31

本稿の目的は,米国情報通信産業に対する成長戦略を明らかにすることにある。 1991年高性能コンピュータ法の議会記録を中心に,政策形成の過程を詳しく分析する。1990年代に日本と対照的な成長をつづけた米国のIT戦略について,産業政策の視点から考察することで,これまであまり注目されてこなかった産業や外部関係者との接点を明らかにしたい。そのために,アメリカの政策決定の中枢をなす議会,特に委員会の公聴会に着目してその速記録を詳しく分析する。その方法として政策情報データベースをつくって,分析と検証を精密に行いたい。このような考察の結果,米国のIT戦略が産業界からの影響と軍事・学界からの支援によってつくられたものであり,それが大統領のリーダーシップによって推進されたところに成功の要因があったと考えられる。またそれを可能にしたのは,IT政策についてオープンに議論できる議会・公聴会というシステムの存在であった。そこで,外部から情報や批判などの多様なリソースをとりいれ,政策に活用することができたのである。これらの考察を通じて,日本のIT産業政策に対するインプリケーションを提示してみたい。
著者
江口 洌
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.104-79, 2006-12-31

「初期万葉」は、朝廷が、王権意識とその指導理念とを示そうとした勅選の歌集である。それは、同じ時代思潮の中で、王権が企画、監修した『古事記』、『日本書紀』そして『風土記』と全く同じ性格の編纂物であった、と見る。天皇思想は、王権を天の存在として主張した。もうひとつ、革命を恐れた王権は、和の世界を主張した。そこに用いたのが中国から学んだ天・地・人の合一の精神であった。そうして、天の示す暦数、そして天(9)・地(8)・人(6)和合の数字を聖数とした。小論の主題は、「初期万葉」が、その天・地・人の構成を採り、その人部が柿本人麻呂の作品から成っているということであり、その証明であった。そのことを言うために、「初期万葉」の構造面での発展経緯を説くと共に、そのそれぞれの段階に働いた政治的な思惑に触れ、天分暦数、天文地理、陰陽五行説などいくつもの視点から触れることになった。もう一点、副題の柿本人麻呂という名前について。天・地・人構成の人部に人麻呂の作品のみが宛てられていることを証明し、柿本人麻呂が初めから人麻呂という名であったか、人部に作品を宛てられたことで、その名を人麻呂としたのか、という謎の問題を提示した。