著者
滝川 嘉彦
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.113-128, 2002-04-01

第1部の分析では胡椒の経済年数(耐用年数)を持続可能性を示す指標として,その指標に寄与すると考えられる9種類の持続性項目を使って重回帰分析を行った.その結果は(1)から(8)までの持続性項目は欠落し,(9)の有機質肥料の使用のみが有意差をもって寄与する項目に残った.このことは,ブラジルは参考値ではあるが,両国に共通する結果である.また生産関数による生産性に寄与する項目の分析から,B・C両タイプ間に共通する結果として,胡椒生産農業においては必ずしも規模の大きさが生産性を高めることに影響しない.という点が挙げられる.その要因として,規模拡大により労働,経常財の単位当たり投入量が低下することが考えられる.これらの分析結果をもとに3つの具体的指針および課題の検証をおこなうと,持続的胡椒生産農業の具現化に向けた3つの具体的指針の(2)について循環型の胡椒栽培技術の確立を目指す上で,有機質肥料を利用することが有効である.ただし胡椒生産には規模拡大のメリットがないので面積拡大は循環型の胡椒生産の阻害要因になり得る.以上の結論に達した.またこれに対する具体的方策は,規模拡大による単位当たり労働時間,経常財投入の減少を止めることである.第2部では線形計画法によるB・Cタイプの胡椒単作経営および複合経営の比較分析から,複合経営のデータを用いての結果ながら両タイプともに胡椒単作経営より実績値(現状の複合経営)の方が収益性が高い.さらに実績値より複合経営(最適解)の方が収益性が高く経営的メリットがあることが判った.具体的方策として,複合経営(最適解)のメリットを享受するためにはプロセスおよび制約に関する以下の改善が必要である.Bタイプについては以下の5点である.(1)黒胡椒とライムの2作目の土地稼動実績を高める.(2)経営耕地面積を拡張する.(3)農忙時期(9月,1月)の雇用労働力の確保.(4)労働投入割合が高いパッションフルーツ排除の検討.(5)5月,8月期の雇用労働力の確保.黒胡椒については価格低落期の長期化と病害防除の難しさから各生産者ともに他作物への転作の傾向にあるなかで,転作か胡椒継続かの見極めが困難な時期であるが,胡椒生産には導入すべきとの結論である.またライム,パッションフルーツともに胡椒からの転作作物であるが,現状の価格水準ではライムの導入が有意である.さらにBタイプは全ての農業労働力を雇用労働力により賄っており,今後農忙期の臨時雇用労働力の確保が経営に影響するものと判断される.最後に経営耕地面積の拡大について,Bタイプはアマゾン河流域の広大な熱帯降雨林を有する地域において胡椒生産を営むものであるが,病害により耕作可能面積は縮小傾向に有り,このことは経営耕地面積拡大のメリット享受の阻害要因である.しかしその代替策と考えられる移動を伴った胡椒生産は環境保全型農業の阻害要因である.Cタイプについては以下の4点である.(1)胡椒の稼動実績(土地)を高め,ドリアンの稼動実績をやや減ずる.(2)ランプータンを導入しない.(3)経営耕地面積の拡大.(4)2・4月期の胡椒収穫時期の労働力の確保.Cタイプについても胡椒への稼動実績を高め,やや過剰となったドリアン生産への傾倒に歯止めをかけるべきである.またランプータンの導入には市場価格の動向を見極めた充分な検討が必要である.さらに経営耕地面積の拡大,タイ東北部からのスムーズな労働力の確保が今後の生産維持に重要である.これらの結果から持続的胡椒生産農業の具体的指針(2)の生産減を補う方策として複合経営(混合作付)が有効であるとの結論に達した.
著者
山田 弘明
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
no.12, pp.57-65, 2012-03

本稿の取り上げる手紙は,先に出された反論(「某氏からデカルトへの書簡」1641年7月)に対するデカルトの答弁である.論点は反論に沿って14点ある.なかでも,心身関係,生得観念,永遠真理創造説などの話題には,この手紙ならではの議論の発展が読み取れる.その点で貴重な文献である.デカルトは,当初それを『省察』の付録に組み入れるつもりで力を入れて書いており,これは手紙の形式ではあれ一つの論文をなしている.以下では,それらの論点を明らかにしたうえで全文の翻訳を試みる.
著者
本多 一彦
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.97-104, 2011-03-31
被引用文献数
2

平成23年度より名古屋文理大学情報メディア学科で入学者全員にiPad を無償提供し,講義や演習で利用することが決定している.このiPad は新しい種類のデジタル機器であるが,突如出現したものではなく,モバイル機器から発展し急速な広まりを見せたものである.モバイル機器は歴史上様々なものが開発され,消滅していった.本論文では,現在に至るモバイル機器の歴史の中でiPad の特徴を考察し,その特徴を活かした効果的な教育方法について議論する.
著者
小林 成隆 西川 義明
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.23-33, 2010-03-31

貧困はいつの時代でも,どこの国でもみられる.わが国での貧困が,とりわけ注目を集めたのは戦後の混乱期である.その後の高度経済成長の過程で貧困は解消したとされ,話題にならなくなったが,バブル崩壊後の1990年代後半,貧困層の増加と所得格差の拡大がみられるとして,改めて低所得者問題が取り上げられた.貧困や低所得というものは相対的であるが故,その概念や定義は一様ではない.そうした中で厚生労働省は,低所得者の定義として税制上の「市町村民税非課税者等」を示しており,この行政基準が厚生行政上の諸施策の適用基準に用いられ,事実上,今日の低所得者対策を左右している.
著者
関川 靖
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.47-55, 2003-04-01

家計貯蓄行動を決定する要因は,所得(相対所得,恒常所得,生涯所得,資産所得など)であるが,現実の家計の貯蓄行動は経済動向・金融構造・利子率・所得・貯蓄水準・慣習など複雑な要因が重層的な影響をおよぼして決定される.我国家計の特徴と言える「貯蓄優先」行動を金融構造面,特に公的金融と家計の貯蓄行動との係わりを検証することは,家計貯蓄の決定要因分析に不可欠であると考えられる.何故ならば,我国の公的金融制度は他の諸国と比較して特異な面を持ち,先進国になった現在でも民間金融機関に匹敵するシェアを占めているためである.よって本論文の目的は,発展途上であった高度成長時代からバブル経済・バブル経済の崩壊の90年代末に至るまで,公的金融制度の役割変化と家計貯蓄動向の変化とを時系列でもって比較分析することで,公的金融制度の家計貯蓄へ影響を検証することである.
著者
佐久間 重
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.9-14, 2001-04-01

21世紀を迎え,20世紀を様々な角度から振り返る試みが行われているが,本稿では,20世紀においてキリスト教が欧米社会の中でどのような展開をしたのかを考察することにする.欧米社会の中で,信仰と言う面ではキリスト教の力が衰退してきていることは否定できないであろう.このことは,日曜日毎に教会に行く人の数の減少によっても明らかである.それでも,欧米社会にキリスト教の精神的・物理的遺産は確固として残っている.一神教であるキリスト教の下で,欧米人は一つの尺度で明確な善悪の判断をする価値観を身に付けた.この価値観の下では曖味な領域は排除される.ここでの最大の課題は,この絶対的だとされる尺度が欧米人以外にも合理性を有するかである.産業革命以降,欧米社会が物質的に他の地域を圧倒したために,欧米の価値観で他の地域の問題が判断された.さらには,欧米の価値観が普遍的なもので,他の地域の人々も受容するものであると考える人が多くなった.こうした姿勢は20世紀中間ぐらいまで続いたが,1960年代以降,欧米社会の中に欧米社会が持つ優越性の自負について疑問視する人達が出てきてから,他の社会の価値観にも注意が払われるようになった.この時期は,欧米社会においてキリスト教の影響力が後退していった時期と重なり合う.こうしたキリスト教の20世紀における欧米社会での展開を概観した後、21世紀にはキリスト教がどのような課題を持っているかを考察することにする.
著者
山田 ゆかり 天野 寛
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-12, 2002-04-01

近年,不登校,ひきこもり,校内暴力などの学校不適応を中心とする青年期の心理的適応問題の増加が指摘されている.大学生においてもこれは例外でなく,自己不確実感や不全感を抱え,友人ができない,うまくコミュニケーションがとれない,学内での居場所を見つけられないなど,大学生活への適応に大きな困難を抱える学生が増えてきている.大学としても,学生の心理的適応にこれまでになく配慮を必要とする局面となってきているのである.こうした問題意識を背景として,大学生の適応性に目を向け,自画像を用いて自己意識のあり方と適応性の関連性について検討することを意図した.本稿ではまず,大学生の自画像について分類を行い,描画に現れる特徴について検討した.その結果,自画像は,全体的な印象,顔の表情,特異な表現や不自然な表現,詳細さ,描画全体のバランスなどから,不適応状態から何らかの行動化の可能性が指摘されるA群,抑うつ的傾向が指摘されるD群,適応状態にあることが示唆されるN群,分類不能群の4群に分類された.また,A群,D群,N群別に,日常生活行動における適応性の1つの指標として学業成績との関連性を検討したところ,3群間で大きな差のあることが認められた.さらに,3群の自画像の描画には明らかに異なる特徴のあることが指摘され,自画像から適応性を査定することの妥当性が示唆された.
著者
橋本 賢 森井 沙衣子 照井 真紀子 村上 洋子 奥村 万寿美
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-98, 2006-03-31

食事摂取量調査は,管理栄養士にとって患者の食生活を把握する上で非常に重要な項目である.しかし,分析する者の経験や能力の差により正確な値との間に誤差を生じる.そこで食事摂取量調査の技術向上のために,どのような教育の実施が望ましいかを検討するために,IT (Information Technology) を用いた摂取量解析のプレテストを行った.管理栄養士養成施設の3年生男子10人,女子76人を対象とした.5cm方眼のランチョンマットに配膳された「ごはん,鮭の塩焼き,肉じゃが,ほうれん草の胡麻和え,若布のみそ汁」をデジタルカメラで撮影し,その画像から食材と分量の読み取り分析を実施した.また画像からの食事摂取量の評価で難しかった点(問題点)と技術習得のための改善点を学生に提示させた.その結果,食材の分量を全体的に過少評価し,また総エネルギー量を実際のエネルギーより少なく見積もる方向性が認められた.さらに調味料分量においても同様の結果が認められた.塩分量においては,実際の塩分量と比較して,メニューの目分量,またそれぞれの料理の材料分量を栄養価計算した塩分量と比較して,多く見積もる方向性が認められた.さらに学生が難しかったと申告した項目を分類したところ,難しかった点には,使用食材の分量を把握することが一番多く,次いで調味料の分量を把握すること,食器から重量を推定すること,食材名(分類や部位)を判別するが上位を占めた.一方,問題を改善するための今後の課題としては,スケールを用いた食材量測定が最も多く,次いで1食あたりの食材分量,調味料分量%を把握する,およびレシピであった.撮影画像から食事摂取量調査を行うにあたり,食材料自体の分量の把握と常用量の把握が重要であると考えられた.また,2次元画像から材料の大きさを立体的に把握する技術も必要となることが示唆された.
著者
市川 和昭 西野 由記 谷口 奈美
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.103-110, 2003-04-01

モノアシルグリセロール(MG)は,ジアシルグリセロール(DG)と共に食品用乳化剤や品質改良剤として広く使われている.一方,荏の油は構成脂肪酸としてα-リノレン酸が豊富な食用油で,特殊な生理作用が注目されている.本研究では,リパーゼ触媒を用いて荏の油などからグリセロリシスによりMGやDGを合成し,製パン時にそれらを添加してパンの老化を遅延する等の物性向上機能を付与することができないかを検討した.その結果MG,DGの生成量が最大となる合成条件を検討して,水の添加量がMG,DGの収量およびFAの生成量に著しく影響すること,また荏の油のグリセロリシスに対する活性は,位置特異性のあるRhizopus sp.(リパーゼF-AP-15,食品添加物酵素製剤)がよいことがわかった.得られた生成物を添加してパンを製造して食パンの品質(比容積,硬さ,官能評価)への影響を調査した.ショートニング+荏の油GL,ショートニング+オレイン酸MG,あるいはショートニング+DG (健康エコナ)を製パン用油脂として用いることにより,焙焼直後はしなやかで,2d放置後あまりかたくならない好ましい物性のパンを得ることができた.荏の油や荏の油のグリセロリシス生成物(荏の油GLと略記)を添加した場合,パンにわずかな荏の油臭がしたが,酸化防止剤としてカテキンを添加したパンでは,これらの臭気はなくなっていてパンの好ましい香りがした.
著者
安藤 美弥子
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.103-111, 2006-03-31

1987(昭和62)年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定され,福祉分野では初めての国家資格「介護福祉士」が誕生してから18年が経過した.この間,介護福祉士の資格取得者は年々増加の一途をたどり,現在466,493人(2005年6月末)が資格登録をしている.近い将来,介護福祉士は看護師に次ぐ日本第2位の大規模な専門職集団に発展すると予想されている.量的な整備はなされたものの,今後は専門職としての質をいかに担保するかが課題となるであろう.わが国は人類史上初めての超高齢社会を目前に控えている.世界から注目されるこの未曾有の社会の中で,日本型の豊かな福祉文化を構築していくことは,21世紀の介護福祉士に課せられた使命(mission)と言えよう.そこで本稿では介護福祉士養成教育の歴史的変遷を概観しながら,これからの介護福祉士養成教育の方向性について探る.