著者
井ノ崎 敦子 上野 淳子 松並 知子 青野 篤子 赤澤 淳子
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.49-64, 2012-03-31

近年、10代や20代の若者のカップルにおける暴力、すなわちデートDVが深刻な社会問題として注目されている。デートDV予防の重要性が指摘され、様々な実践活動が各地で展開されているが、生起メカニズムに関する研究はほとんどない。デートDVは暴力問題の1つでもあるが、不健全な恋愛関係の1形態でもある。恋愛関係に関しては、愛着理論に基づく研究が進んでいる。それらの中で、不健全な愛着を示す者は、不健全な恋愛関係を形成しやすいことが指摘されている。このことから、デートDVの生起が愛着の不健全さと関連があると考えられる。そこで、本研究では、デートDVの加害及び被害経験の程度と愛着の不健全さとの聞に関連が見られるかを検討することを目的とした。729人の大学生を対象に調査した結果、男女ともデートDV経験と愛着の不健全さとの聞に関連が見られ、男性の場合は、デートDV加害経験と親密性の回避と関連があり、女性の場合、デートDV加害及び被害経験と見捨てられ不安との聞に関連が見られた。また、男女でデートDV経験のリスクの高い愛着スタイノレが「とらわれ型」であったが、男女でデートDV経験の生起に関係する愛着の次元が異なった。以上のことから、性別の違いによって、愛着の不健全さとデートDVの経験の形の関連には違いがあり、デートDV予防にもジェンダーを考慮したプログラムの開発が必要であることが示唆された。
著者
中馬 充子
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.3, pp.21-32, 2011-03-31

本論は、我国において安全運動の世界を切り開こうとした安全第一協会機関誌『安全第一』の安全思想史上での位置づけを、曾頭内田嘉吉の安全観に基づいて考察することを試みるものである。安全運動が始まった1910年代に、従来の社会通念即ち、事故は本人の不注意によってのみ起こるという考え方は修正され、事故が起こる原因を他に求める意識改革のなかで、安全第一協会機関誌『安全第一』の主張は、以下の諸点で先見性が高く先駆的であったと評価できる。1確率は低くとも事故は起こり得るものとして、事故彙報と統計表を多用することにより、情緒的議論を排し、論理的な議論のできる場を提供した。2物質的安全装置と精神的教養の必要性を指摘すると共に、富国強兵を意図しながらも共同の利益を求めようとした。3小学校期から安全思想を育むことの重要性を指摘した。
著者
大岡 由佳 岩切 昌宏
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-31, 2019-03-31

日本の精神科医療現場において、昔に比べて人権が配慮されてきているが、長期入院患者も少なくなく、また隔離拘束となる場合も多い。最近のアメリカのトラウマ研究から、医療・福祉・行政・司法・教育など様々な領域でトラウマ理解に基づいた支援(トラウマインフォームドケア)が必要であることがわかって来ている。精神障害者が、発症以前にトラウマを抱えていたり、発症後にトラウマとなりうる不当な扱いを受けて病状を悪化させたりしていたことなどが、精神障害者施設のフィールドワークより認められた。今後、日本の精神科医療の中でもトラウマインフォームドケアが行なえる体制が必要である。
著者
木宮 敬信
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-24, 2020-03-31

インドネシアでは、交通事故が非常に深刻な社会問題となっている。そこで、児童生徒を対象とした効果的な交通安全教育プログラムの開発を目指し、その基礎資料を得ることを目的とした調査を実施した。西ジャワ州バンドン市の4 校におけるインタビュー調査と児童生徒への質問紙調査の結果、交通事故やヒヤリハットの経験が非常に多くあるにも関わらず、学校はその状況を十分に把握していない実態が明らかになった。また、ヒヤリハットの危険性について児童生徒は理解しておらず、教育の必要性が感じられた。今後、これらの結果を踏まえ、具体的な教材開発を進めていく予定である。
著者
山内 美穂 岩切 昌宏
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.118-127, 2017-03-31

トラウマおよびPTSDに対する治療には、薬物療法とトラウマを焦点とする認知行動療法の有効性が高い。PTSD発症の要因の一つとして脳構造との関係が示されているが、心理療法である認知行動療法の臨床的効果と脳のメカニズムについては、まだ明らかになっていないことも多い。そこで脳機能画像を評価手法に用いた文献の研究を行い、トラウマに焦点をあてた認知行動療法の効果について検討した。現段階では、心理学的評価ほどには脳機能画像の変化は示されていないが、今後の研究によっては脳機能の評価が治療効果を予測するひとつの指標となることが期待される。Cognitive Behavior therapy focused on trauma and medication therapy show high effect on the treatment of trauma and PTSD. One of the factors of PTSD development is related to the cerebral structure. But it doesn't become clear yet about the relationship between the clinical effect of cognitive behavioral therapy and the brain mechanism. We searched the literature that used the brain function image for evaluation, and examined that the effects of the trauma focused cognitive behavioral therapy. Currently, the effects of brain function image are less than the result of psychological evaluation. In future research, what we expect that the brain function assessment to become an index to predict the treatment effect.
著者
小西 貞之 大道 乃里江 小山 健蔵
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-43, 2011-03-31

学校生活アンケートは、いじめの早期発見・早期対応のために、児童生徒からのサインを把握することを目的として作成された。「自己概念」、「学習意欲」、「友だちとの関係」、「学級風土」、「教師との関係」と「学校・部活動等回避感情」の6領域及び自由記述から構成されている。今回、それを基に、中学生の学校生活の実態を調査し、学校生活がこれら領域でどのような特徴を示すのかを明らかにすることを目的とした。中学生の学校生活アンケートの実態から、1年生では、「友だちとの関係」と「学級風土」、2年生では、「学習意欲」と「教師との関係」、3年生では、「学校・部活動等回避感情」が学校生活の領域で顕著な変化を示し、各学年で注視しなければならないことが示唆された。To grasp the sign from children and/or students for the early detection and correspondence of bullying, the school life questionnaire was made. It is composed of six factors, self-concept, motivation to learn, relationship with friends, climate of class, relationship with teachers and evasive feelings from the school and club activities, and a free description. This time, it aimed to investigate junior high school student's actual condition at the school life based on it, and to clarify what feature the school life showed in these factors. From junior high school student's actual condition at the school life questionnaire, it was showed that factors of the school life were changed by relationship with friends and climate of class in the first grader, motivation to learn and relationship with teachers in the second grader, evasive feelings from the school and club activities in the third grader. It was suggested that teachers have to gaze at the school life by each school year.
著者
土岐 祥子 藤森 和美
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.50-68, 2013-03-31

配偶者や交際相手といった親密なパートナーからの暴力(IPV)の被害は現象の兆しが見えず、また、一旦関係から逃れてもかなりの被害者はパートナーの元に戻るという状況がある。そこで、本稿では、IPV関係を終結するか継続するかの決定に関する研究について、その個別要因の研究と決定プロセスのモデル研究に分けて概観した。個別要因については、被害者要因、加害者要因、カップル要因に分けて国外の研究を概観するとともに日本の研究についても探った。決定プロセスのモデル研究では、国外の主要な概観研究で検討されている6つの代表的なモデルを取り上げその特徴と違いを明らかにした。これらの研究はほとんどが国外のもので、日本においては殆ど知見が蓄積されていないことが判明した。
著者
豊沢 純子 藤田 大輔
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.13-23, 2012-03-31

本稿は2011年12月にスウェーデン王国のストックホノレム市およびダンデリード市の学校と教育機関を訪問し、学校安全の現状を視察した際のインタビューの内容をまとめた報告書である。スウェーデンで、は、これまで学校における殺傷事件は起きていないが、隣国のフィンランドで2007年および2008年に在校生による銃の乱射事件が起きており、この事件以降、積極的な取り組みがなされるようになった。一方、放火やいじめ、暴力事件などは以前から起こっており、それらに対しては介入が行われていた。スウェーデ、ンにおける安全教育の根幹は、価値観の教育であり、人が皆平等で、あること、他者を思いやる気持ちを持つことなどを幼少期から丁寧に教育することによって、人間関係のトラブルや犯罪の抑止につながっているようであった。また、社会福祉制度の充実により、学校に様々な立場の人が関わり子どもたちを見守る仕組みが充実していることや、教職員が安全に関する専門教育を受講しやすいことなどが、学校の安全に寄与しているように思われた。This report was written based on the interview when we visited schools in Stockholm and Danderyd in December 2011, and inspected the current state of school safety. In Sweden, serious school crisis has not happened so far, but after the shooting incident occurred in Finland in 2007 and 2008, efforts were made to be activate. Meanwhile, arson, bullying, and violence have occurred before, and they had been for the intervention. Foundation of safety education in Sweden is the teaching of values, and this education seems to inhibit the occurrence of school crisis. In addition, the richness of the welfare system,a nd the environment that many people participate the school activity seems to contribute to school afety.