著者
松並 知子
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.239-251, 2014-03-25 (Released:2014-04-08)
参考文献数
60
被引用文献数
1 2

本研究の目的は自己愛の病理性の性差を検討することであった。大学生354名を対象に性差を検討した結果,未熟な自己愛の測定尺度の下位尺度のうち,「自己誇大化」は男性>女性,「他者への依存」は女性>男性という有意差が見られた。また「基本的信頼感」と自尊感情は男性が有意に高く,「対人的信頼感」は女性が有意に高かった。さらに自己愛の側面と基本的信頼感の関連を検討した結果,男女ともに「他者への依存」は自尊感情・「基本的信頼感」と有意な負の相関,「自己誇大化」は双方と有意な正の相関が示され,依存性こそが自己愛の病理であることが示唆された。また男女別に重回帰分析を行った結果,男性の場合は「基本的信頼感」から「他者への依存」「注目賞賛願望」には有意な負のパスが,「自己誇大化」へは有意な正のパスが見られたのに対し,女性の場合は「他者への依存」に有意な負のパスが示されただけだったことから,男女で自己愛の病理の表れ方が異なることが示された。
著者
松並 知子
出版者
日本健康相談活動学会
雑誌
日本健康相談活動学会誌 (ISSN:18823807)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.52-57, 2020-03-25 (Released:2021-02-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

「恋人とは一心同体であり、恋人は自分のものだから自分の好きなように支配しても良いし、束縛は愛の証である」と感じるような依存的恋愛観は、現代の若者に多く見られ、デートDVの要因とされている。また自分らしくあるという感覚である「本来感」や「仲間集団への依存傾向」は依存的恋愛観の心理的要因であると考えれる。そこで、依存的恋愛観と暴力観の関連、および、本来感と仲間集団への依存傾向と依存的恋愛観の関連を検討することが本研究の目的である。高校生839名を対象に質問紙調査を実施した結果、男女ともに、依存的恋愛観が強まると、恋人への暴力行為を「暴力」と認知しない傾向が示された。また女性の場合、低い本来感が仲間集団への依存に影響を与え、それが恋人への依存性にも関連している傾向が示された。一方、男性の場合は、本来感と依存的恋愛観に関連は見られず、仲間集団への依存のみが恋人への依存性に関連していた。 ジェンダー差については、依存的恋愛観は男性が有意に高く、仲間集団への依存は女性が有意に高かった。また暴力観では男性が女性よりも「暴力にあたる」と回答する傾向が強かった。 本研究では相手に依存しすぎない健全な恋愛観がデートDVの予防に関連することが示唆されたので、今回の結果をもとに、予防教育プログラムを開発することが今後の課題である。
著者
上野 淳子 松並 知子 青野 篤子
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.91-104, 2018-09-25

従来のデートDV 研究は,暴力行為を受けた経験のみを被害と見なしてきた。本研究では,デートDV 被害を暴力行為とそれがもたらした影響(恋人による被支配感の高まり,自尊感情の低下)から成るものとして捉え,デートDV 被害の実態と男女差を検討した。大学生を対象とした質問紙調査の結果,恋人からの暴力行為のうち“精神的暴力:束縛”,“精神的暴力:軽侮”,“身体的暴力・脅迫”は男性の方が女性より多く受けており,“性的暴力”のみ男女で受ける割合に差がなかった。しかし,恋人による被支配感は男女差がなく,自尊感情は“身体的暴力・脅迫”を受けた女性が低かったことから,男性は暴力行為を受けても心理的にネガティブな影響は受けにくいことが示唆された。多母集団同時分析の結果,男女とも“精神的暴力:軽侮”および“性的暴力”を受けることで恋人による被支配感が高まり,恋人による被支配感は自尊感情を低下させていた。しかし同時に,暴力行為の影響には男女で異なる点もあった。暴力行為だけでなく恋人による被支配感も含めて暴力被害を捉える重要性が示された。
著者
井ノ崎 敦子 上野 淳子 松並 知子 青野 篤子 赤澤 淳子
出版者
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター
雑誌
学校危機とメンタルケア (ISSN:1883745X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.49-64, 2012-03-31

近年、10代や20代の若者のカップルにおける暴力、すなわちデートDVが深刻な社会問題として注目されている。デートDV予防の重要性が指摘され、様々な実践活動が各地で展開されているが、生起メカニズムに関する研究はほとんどない。デートDVは暴力問題の1つでもあるが、不健全な恋愛関係の1形態でもある。恋愛関係に関しては、愛着理論に基づく研究が進んでいる。それらの中で、不健全な愛着を示す者は、不健全な恋愛関係を形成しやすいことが指摘されている。このことから、デートDVの生起が愛着の不健全さと関連があると考えられる。そこで、本研究では、デートDVの加害及び被害経験の程度と愛着の不健全さとの聞に関連が見られるかを検討することを目的とした。729人の大学生を対象に調査した結果、男女ともデートDV経験と愛着の不健全さとの聞に関連が見られ、男性の場合は、デートDV加害経験と親密性の回避と関連があり、女性の場合、デートDV加害及び被害経験と見捨てられ不安との聞に関連が見られた。また、男女でデートDV経験のリスクの高い愛着スタイノレが「とらわれ型」であったが、男女でデートDV経験の生起に関係する愛着の次元が異なった。以上のことから、性別の違いによって、愛着の不健全さとデートDVの経験の形の関連には違いがあり、デートDV予防にもジェンダーを考慮したプログラムの開発が必要であることが示唆された。
著者
赤澤 淳子 井ノ崎 敦子 上野 淳子 松並 知子 青野 篤子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.11-23, 2011-12-30

本研究では,デートDVを当事者間の親密性や関係性などの関係的変数から検討することを目的とした.具体的には,衡平性の認知による,恋愛スタイルやデートDV被害・加害経験の差異,また,衡平性に関する各変数および恋愛スタイルが,デートDVの被害加害経験に及ぼす影響について分析した.調査への参加者は,大学および短期大学の学生329名であった.分析の結果,過小利得者は,衡平利得者や過大利得者より関係満足度が低かった.また,過小利得者では,パートナーとの関係性に没頭する狂気的な愛のスタイルや,パートナーとの間に距離を保とうとする遊び半分のゲーム感覚的な愛のスタイルという対称的な感情が高いという特徴が示され,アンビバレントな感情をパートナーに対して抱きやすいことが示唆された.さらに,自己投入がManiaを経由して,DV被害加害経験を生起させることが明らかとなった.つまり,関係のアンバランスさが,嫉妬,不安,抑うつのような強い感情を高め,デートDVの加害・被害を引き起こしている可能性が示唆された.
著者
松並 知子 西尾 亜希子 Tomoko MATSUNAMI Akiko NISHIO
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
vol.32, pp.25-52, 2018-03-20

貧困化リスク要因が多い女性にとって大学在学中のキャリアプラン選択は重要なため、本研究は女子大学生の将来のキャリアプラン選択の傾向やその要因について検討することを目的とした。研究1では、女子大学生500名を対象にキャリアプラン選択と稼得意識、進路選択に対する自己効力、自尊感情との関連を検討した結果、半数以上がキャリアを中断・退職する予定であり、就業継続には稼得意識のみが関連することが示唆された。研究2では稼得意識の項目数を増やし、309名を対象に稼得意識と職業観との関連および就業継続の要因について検討した。その結果、稼得意識の下位項目である「結婚生活における経済的自立度」と職業観の下位尺度である「人間関係」「やりがい」「男女平等の環境」との間に弱い相関が、稼得意識のもう1つの下位項目である「結婚相手への非依存度」と職業観の「経済的安定」と「プライベート重視」の間に中程度の負の相関が見られた。また、就業継続の促進要因として結婚生活における経済的自立志向と男女平等な環境でのやりがいのある仕事を期待する職業観が、阻害要因としてプライベート優先と仕事を通じた良好な人間関係を期待する職業観があることが示唆された。経済的な自立志向ややりがいを求める職業観が稼得意識に関連する一方、プライベートを優先しすぎたり、職場での人間関係などを重視しすぎることが、稼得意識の喪失につながる可能性もある。したがって、稼得意識を高めるような新たなキャリア教育を開発する必要性が示された。