- 著者
-
松政 正俊
- 出版者
- 岩手医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
1.3亜種を含むUca lactea complex,およびU.vocans complexを対象にして,日本の沖縄本島と西表島,タイ国のプケット島とラノン,オーストラリアのダーウィンにおける合計10の個体群について,雄の大型鋏脚の左右性と大型鋏脚が再生肢である割合,およびサイズ組成を調査した。左の鋏脚が大型である個体(左利き)の割合と再生肢を持つ個体の割合を種間,亜種間,同亜種個体群間(日本とタイ国の種類のみ),および同一の個体群の世代間(コホート解析により分離)で比較した。その結果,両種における利き腕の左右比の維持機構は同一のものとは考えにくく,左右比がほぼ1であるU.lactea complexでは頻度依存型の調節が重要であり,右利きの個体が90%以上と卓越するU.vocans complexでは利き腕の左右性は淘汰に中立であると推定された。2.大型鋏脚を使った雄の求愛行動や闘争に伴う血中乳酸値の変化を,沖縄本島のU.l.perplexaを対象にして野外で彼等の行動を制御した実験によって検討したところ,これらの社会行動が嫌気呼吸の産物である血中乳酸濃度を有意に増加させること,すなわち相当のエネルギーコストを要することを明らかにした。このことから,本亜種を含むU.lactea complexでは,大型鋏脚を使う求愛や闘争に関わる形質は選択圧を受けると推定された。3.沖縄本島のU.l.perplexaの闘争を,巣を保持している定住雄同士と,定住雄と放浪雄間のものに区別して観察・比較したところ,闘争様式と闘争時間に相違が認められた。このことより,雄の定住性は,雄間闘争の様式を変化させて雄間に働く競争の度合いに影響すると考えられた。上記のうち1は学会にて発表済み(投稿準備中),2は学術論文として公表済み,および3は現在論文投稿中である。