著者
崎濱 栄治 川崎 泰一 本橋 永至
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.59-70, 2019 (Released:2020-04-21)
参考文献数
26
被引用文献数
1

インターネット広告配信においてクリック率(CTR: Click-Through-Rate)の予測は最も重要な問題の一つであり,広告配信に関わる企業にとって収益に直結するテーマであることから,膨大な研究が行われている.既存研究では,CTRの予測精度向上に主眼が置かれ,特徴量の追加や加工方法,深層学習の活用など様々な取り組みが行われている.一方,広告画像の構成要素そのものの制作については,デザイナーの経験に依存する部分が大きい.クリエイティブを制作する際にどのような要素が重要であるか,指針となるエビデンスがあれば,より効率的に制作作業に取り組める可能性がある.本研究では,モバイル広告を対象としたCTR予測問題の枠組みで,広告画像における構成要素の貢献度を測定する実証分析を行った.広告画像の構成要素の抽出には,コンピュータービジョン技術を活用し,人が解釈可能なキーワードや色彩情報を得た.CTR予測の学習器として,弱識別器に決定木を用いたGBDT(Gradient Boosted Decision Trees)の結果から各特徴量の重要度と交互作用を推定し,広告画像の中でクリックに対して有効な要素を特定した.交互作用の推定は,Deng (2019)によるInterpretable Trees(inTrees)を利用した.コンピュータービジョン技術と,特徴量の重要度と交互作用が推定可能な機械学習手法を組み合わせることで,広告画像の構成要素の抽出とその貢献度測定が可能となり,幅広い応用範囲が期待できる.
著者
富田 裕章 藤澤 洋徳 逸見 昌之
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-16, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
22

多重代入法(Multiple Imputation; MI)は多分野の研究で欠測データを解析する手法として使われている.多重代入法は非常に使いやすい反面,欠測値に代入する補完値を生成する際に条件付き分布の同定を誤ると偏りのある推定量を導き得るという欠点がある.本研究では条件付き密度推定から導かれる重みを利用した重み付き最尤推定法(Bias-corrected MI; BCMI)に基づく推定量が,目的変数が欠測する場合の回帰分析においても一定の条件下で一致性があることを確認した.さらに,本手法を予測に適用することを検討し,予測精度を向上させるために密度推定によって求めた重みと補完したデータに対する重み付けパラメータを導入し,交差検証によって値を定めるという改良法(BCMI-CV)を提案した.数値実験によって,BCMI-CVは補完の誤り度合いによらず,安定的に予測誤差を小さくするという挙動を示すことを確認した.
著者
田栗 正章 番場 弘 浅井 晃
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.95-112, 1973-06-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
4

時系列データが与えられたとき,その傾向変動を表わす曲線としてさまざまな曲線が考えられているが,ここではそれらの曲線のうち需要予測などによく用いられるゴンペルツ曲線,ロジスティック曲線および指数曲線を,与えられた時系列データに当てはめる場合の改良方法を提案する.従来行なわれてきた曲線の未知パラメーターの推定方法は,次のようにまとめることができよう.すなわち,まず曲線の形を線形にするために適当な変数変換を行ない,その後変換されたデータに対して最小2乗法を適用する.ところで,ゴンペルツ曲線,ロジスティック曲線及び指数曲線に対して施される上記の変換は非線形変換であるために,元の変数のスケールと変換後の変数のスケールとの間に部分的な歪みができる.この歪みのために,将来時点での予測値と実現値との間には,かなりの差が生じてしまう.さらに,この差は先に行くほど増大することがわかる.本報告はこれを是正する1つの方法を提案し,多少の数値例によってこのことを検討する.
著者
飯田 孝久
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.147-153, 1994
被引用文献数
1 9

時間や資源に制限がある場合に,因子数の大きい実験を行う方法に,2水準の過飽和実験がある.その一つとして,L12の各列とそれらの2列交互作用列に因子を割付けるWuの計画がある.しかし,この計画では因子間に交互作用が存在した場合に,それらが他の主効果と完全に交絡する場合がある.本論文では,L12の11列に一般平均を加えた12列を6列ずつの集合に分け,各々の集合から1列ずつ取り出した2列の間の交互作用列である36列からなる計画を提案した.これにより,主効果が他の列と完全に交絡することを避けることができた.また,このような配列が2通りあることがL12の5列の同値類から示すことができた.この計画の性質として,内積の平方の平均による評価が,今までに提案された2水準過飽和実験と比較してもそれほど悪くないことが確認できた.さらに,因子間に交互作用がありそうな因子については,因子の割付けに工夫すれば,その影響を抑えることができることを示した.これらの性質は,L12の3列および4列間の関係の一意性から導くことができた.
著者
王 敏真 清水 邦夫 上江洲 香実
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.29-44, 2013-08-30
参考文献数
13
被引用文献数
1

東北地方太平洋沖地震およびそれ以前72時間の地震の緯度・経度・マグニチュードデータの解析を例に取り,方向統計学の利用について述べる.緯度・経度データから生成される角度データに対して,累積和プロット,累積平均方向プロット,ランク累積和プロットを用いて変化点の検出を試み,検定による変化点の検出と比較する.また,角度データについてJones-Pewsey の分布をフルモデルとし,ハート型,von Mises,巻き込みCauchyの各分布をサブモデルとしたときのモデル選択と分布の適合を議論する.マグニチュードデータについては指数分布を特別な場合として含む分布の利用を提案し,分布の適合を検討する.マグニチュードと角度の結合分布としてシリンダー上の分布について考察し,データへの分布の当てはめを行う.さらに,ディスク上の修正Möbius分布の適用可能性について議論する.
著者
松井 秀俊 三角 俊裕 横溝 孝明 小西 貞則
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1-2, pp.25-45, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

非線形混合効果モデルを用いた,経時測定データに対するクラスタリング手法について考察する.本論文では,基底関数展開に基づく非線形混合効果モデルを適用することで,経時観測データを平均効果関数および個体ごとの変動を表したランダム効果関数を用いて関数データとして表現する.次に,ランダム効果関数集合に対して,自己組織化マップやウォード法等の手法を適用してクラスタリングを行う.提案した手法を,微小粒子状物質データ,気象データおよび台風経路データへ適用し,有効性を検証する.
著者
野間 久史
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.67-86, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
40
被引用文献数
4 1

一般的な調査・実験研究において,欠測はほとんど避けられない問題であり,統計解析において,適切な処理を行わなくては,バイアス・推定精度の低下が起こり得る.ほとんどの研究において,欠測は複数の変数にまたがって,個人ごとに異なるパターンで起こることが一般的であるが,このような条件下で,汎用的な統計ソフトウェアで実行することができる不完全データの解析手法は,現状ではわずかしかない.連鎖方程式による多重代入法(multiple imputation by chained equation; MICE)は,このような条件下で有効な解析を行うために開発された方法であり,その実践的な有用性から,近年,多くの統計ソフトウェアに実装され,さまざまな研究領域において普及しつつある.本稿では,非統計家を含めた,データ解析に携わる実務家・研究者を対象として,邦文によるMICEについての実践的な解説を行う.また,Clark and Altman (2003, J. Clin. Epidemiol. 56, 28-37) による卵巣がんの予後因子研究を事例として,Rのパッケージ mice を用いた解析方法について紹介する.
著者
栗林 和彦 山本 成志 後藤 昌司
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.35-46, 1994

ロジスティック・モデルのあてはめには,通常,最尤法が用いられるが,小標本での解析結果の信憑性が問われていた.この場合の代替法として正確推測法があり,最近のコンピュータならびに計算アルゴリズムの発展によって実行可能性の問題に解消の兆しが見えてきた.<BR>本稿では,多変量シフト・アルゴリズムに基づく正確推測法の手続きを明らかにして,そのプログラムを開発し,正確推測法の適用可能性を吟味した.その結果,正確推測法は,小標本で説明変数がカテゴリー個数の少ないカテゴリー変数(2値変数も含む)である場合の最尤法の対照あるいは代替として利用できることを明らかにした.
著者
安宅 和人
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.71-87, 2015 (Released:2016-06-29)
参考文献数
6

多くの人がコンピュータを持ち歩くようになり,帯域が爆増した結果,コミュニケーション,調べ物,調達・物流,犯罪対応など世の中のほぼすべてが質的に変容した.富の創出もICT(情報通信技術)分野とその利活用に中心が移った上,現在の利益レベル以上に未来への期待を生み出すことが重要になった.今後この流れは止め難く,ほぼ全ての産業がICT化していく.ビッグデータの出現,計算能力の爆増,情報科学の進化が同時に起きている現在は「人間を退屈な数字入力,情報処理作業から開放」する情報産業革命のさなかにある.この革命的な変化の中で日本のビジネスが勝ち抜くためには,デバイス・領域を超えたマルチビッグデータ,強力なデータ計算力と情報処理技術,質と量で世界レベルのICT人材の3つが不可欠であるが,現状はいずれも国力に見合ったものとはいいがたい.特に人材は新卒層,専門家層のみならず,マネジメント層に至るまで深刻な状況.このような高スキル人材を,大きなスケールで生み出せ,再教育できるのは高等教育機関をおいて他に無い.アカデミアへの期待は大きい.
著者
加藤 拓巳
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.71-83, 2019 (Released:2020-04-21)
参考文献数
43

品質は,材料特性や製造技術等の客観的な要素と,美しさや心地よさ等の主観的な要素に分けられる.後者は,知覚品質と呼ばれ,近年は機能的な要素以上に重要視されている.自動車業界でも,知覚品質は大きな競争力の1つになっている.しかし,知覚品質の重要性は広く認識されながらも,主観的であるがゆえに,定量的な効果の推定は不透明なままであった.そこで,本研究の目的は,車のエクステリアの知覚品質が顧客の支払意思額に与える影響を評価することである.知覚品質の要素は,色,素材,仕上げのうち,これまで取り上げられた例の少ない仕上げを対象とした.仕上げは,「見切り線の有無」と「合わせ幅」の2つとし,同じスタイリングでありながら仕上げレベルが異なる2つの車を用意し,ランダム化比較試験によって検証を行った.ランダム化比較試験を行うにあたって,単純ランダム化で2群に割り当てた後,事前のリクルーティング調査で聴取した性別,年齢,世帯年収,保有メーカー,運転頻度,情報接触頻度等の項目で,各群の同質性を確認した.支払意思額は,仮想市場評価法の自由回答方式で聴取した.得られた支払意思額をブルンナー・ムンツェル検定で評価した結果,2つの車の間での差は有意となった.統計的な手法による定量評価は,商品の機能的な要素に着目されることが多いが,デザインの仕上げという感覚的な要素でも支払意思額という消費者視点で評価が可能である.
著者
奥井 佑
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1-2, pp.1-16, 2019 (Released:2019-11-02)
参考文献数
27

近年,細菌の検出数を示す16S rRNAデータを用いて, 疾患等の臨床アウトカムと関連する菌種を 特定する統計解析が広く行われるようになった. それに対応して解析手法も多く提案されるようになり, 解析手法の一つとして潜在ディリクレ配分モデル(LDA)が用いられている. 教師情報を利用したLDAとして, 教師ありトピックモデル(SLDA)やディリクレ多項回帰モデルを 伴うLDA(DMR)が提案されている一方で, それら手法は細菌データに対して応用されていないとともに, 一定の割合を持つトピックが抽出されないことが多くある. これら問題に対処するため,本研究ではDMRを 拡張したノンパラメトリックベイズトピックモデルを提案し, 既存のDMRやSLDAと予測性能を比較評価した. ノンパラメトリックベイズモデルでは, 潜在変数について無限の値を仮定し, 各潜在クラスが占める割合に傾斜性を 持たせることが可能となる.本研究では共変量値を もとに棒折り過程を生成する手法を トピックモデルに応用することで,共変量と関連するトピックを 抽出するノンパラメトリックベイズトピックモデルを考案した. 提案法について実際の細菌データに適用し性能を 評価したところ,トピック割合が比較的大きくなおかつ アウトカムと関連するトピックが抽出されるとともに, アウトカムに対して既存の手法を上回る予測性能を 持つことが示された.
著者
柳澤 幸雄 大隅 昇
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.51-71, 1980-01-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4

数多くのクラスタリングの技法のうち連結性または距離の順位性のみに依存するsingle linkage法とcomplete linkage法を取り上げ,技法とクラスターの関係を"凝塊性"の立場から測るいくつかの基準量を用意し,クラスター数の評価を行う問題をとりあげる.さらにそれを利用して技法の性質,あるいは技法ごとのクラスター化の過程を推し測る方法として"感度分析"の考え方を導入する.そして布置の明確な人工データを用いて,感度分析の効用を実験により具体的に検討する.この実験を通して,感度分析が技法の性質と安定性,データの凝塊性の検討に有効であることを示す,

1 0 0 0 OA 偏差値

著者
小野瀬 宏
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.129-130, 1993-03-08 (Released:2009-06-12)
参考文献数
3
著者
柳本 武美 清水 央子
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-29, 1983-06-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
26
被引用文献数
3 1

2次元分割表で,一方の元が順序づけられた目的変数を表わし,他方の元が説明変数によって個体を分類した群を表わすとする.離散型比例ハザードモデルは柔軟で扱いが容易な回帰型モデルを与える割には,未だ良く研究されていない.本稿では明確にモデルを定式化し,推論の規準としての部分尤度と全尤度を比較して,後者の有用性を主張する.またモデルが実用的であることを例をあげて示す.
著者
前島 信
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.97-110, 1971

この論文の目的は,待ち行列系に費用の概念を導入した上で,系を特長づける要素を逐次的に変化させることによって,系の最適な制御を考えることである.その要素としてはサービス機構をとりあげ,とくに現時点の行列の長さとサービス率とに依存して,次の時点のサービス率をきめるような政策を考え,単位時間当りの期待総費用を最小にするようなサービス率を変更する行列水準を決定する問題を考察する.行列水準によってサービス率を変える場合,ある客のサービス中に行列がサービス率変更水準に達したら,すぐサービス率を変えるか,あるいはサービス中の客だけは前からのサービス率でサービスを行ない,次の客から新しいサービス率にするかを区別しなければならない.そのことを指摘した上で,今まで一般的なかたちではとりあげられていない後者のタイプについて述べ,次に2つのモデルの違いを数値例を使って検討する.さらにこの問題がセミ・マルコフ決定過程で定式化できることについての考察もつけ加えておく.
著者
工藤 昭夫
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.59-66, 1980

遺伝学の基礎概念である,表現型,遺伝子型,遺伝子頻度,任意交配,近親交配,などについて述べた後,著者の工夫による,系図の二進法的表現を用いた方法で,近交係数を定義する.方眼紙に長方形を描き,近親交配の共通祖先に相当する部分に影をつけると影の部分の面積と全体の面積との比が近交係数に等しくなる.この計算方法は,性染色体上の遺伝子についての近交係にも利用できる.また,自殖が可能な生物,さらには,父親候補が複数あってその確率が既知な場合にまで適用できる.
著者
杉浦 成昭
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.95-116, 1980-12-15 (Released:2009-06-12)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

昭和55年度共通1次試験の得点分布は正規分布が適合しないことが今年2月上旬新聞に報じられた.そこで正規分布の不適合はどの位か,よりよく適合する分布は何か調べたところ分布は負に歪んでいて,Johnson systemのSB分布が割によく適合することがわかった.SB分布により2つの母数を与えれば得点の順位と偏差値のわかる表を与えた.
著者
佐々木 豊史 宮崎 浩一 野村 哲史
出版者
応用統計学会
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.113-128, 2006-12-30 (Released:2009-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

本研究は,ヨーロピアン・コール・オプションの評価において,次の2つの問題にアプローチするものである.第一の問題は,原資産収益率プロセスが生成する確率分布として正規分布以外の分布を採用した場合に,その確率分布を仮定したオプション価格を,正規分布と高次キュムラント(3次,4次)を用いた確率分布を仮定したオプション価格によってどの程度近似できるか?第二の問題は,ジャンプ成分を含む原資産収益率プロセスが生成する確率分布(MertonのJump-Diffusionモデル,以下MJDモデル)に基づくオプション評価においてどの程度の強さで中心極限定理が働くか?について高次キュムラントの観点から考察することである.第一の問題に対しては,MJDモデルが生成する確率分布を,4次までのキュムラントを用いたEdgeworth展開によるオプション評価近似式を導いたうえで,正確なオプション価格との比較を数値実験によって試みる.第二の問題に対しては,MJDモデルによる一日の原資産収益率を表す確率分布をN回畳み込んだ確率分布がN日の原資産収益率の確率分布であることに着目して,オプションの残存期間Nが大きくなるに従って中心極限定理が働き,MJDモデルによるオプション価格がBS価格に近づくスピードを数値実験により確認する.また,このオプション価格の収束において3次,4次のキュムラントの影響がどの程度であるかも合わせて検討する。数値実験結果からは,本オプション近似評価モデルの精度は,オプション満期がごく短い場合を除いて相応に高いこと,また,オプション評価において中心極限定理が働くものの,オプションの満期が100日以下の場合には,高次キュムラントの影響を無視することはできないことがわかった.