- 著者
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南 保輔
- 出版者
- 成城大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
1990年から91年にかけてアメリカにある日本語補習授業校に子どもを在籍させた海外帰国家族の「その後」を調べた。教育経歴を見ると、海外生活で獲得した英語力を生かしたり帰国子女枠を使ったりして日本の有名大学に在籍した子どもが多かった。他方、大学卒業後の職業経歴には大きなばらつきがあった。国際的に活躍している人もいれば、「ふつうの日本人」としてその職業を務めている人もいた。海外生活経験をどのように位置づけているか、その見方は本人も父母も分かれた。アイデンティティや人生設計において中核を占めるものと考えている人がいる一方、それほど大きく考えていない人もいた。いずれの場合も、海外で培った英語運用能力が、人生行路上の選択をする際に顔を出すということがうかがえた。ただ、海外生活経験ゆえに「一生懸命がんばる」ようになったかという点については、価値質問紙調査の結果において差違はとくに見られなかった。調査結果の分析を通じて、追跡調査で収集した情報の適正な評価と使用ということが問題点として浮かび上がった。10年以上の期間をおいて実施したふたつのインタビューの内容から、どんな観察・洞察を引き出すのが妥当であり、信頼できることなのだろうか。本研究においては、インタビューでの発言に徹底的にこだわるという戦略を取った。それほど多数ではないが、本人が「自分は変わった」と語ることがあったが、これがどのようになされているかを談話分析・会話分析法を活用して分析した。追跡調査においては調査の倫理が問題となった。最初の調査の報告書を送付して感想をうかがう機会があったのだが、その内容などをきっかけに追跡調査への協力を拒否された事例があった。海外経験が生活においてほとんど感じられていない家族の場合、調査の、「お役に立たない」からと調査協力を辞退するという論理もうかがえた。これらは、調査知見の一般化可能性・代表性を評価する基盤となるという議論をおこなった。