- 著者
-
中村 肇
- 出版者
- 成城大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
本年度は、自律的規範と他律的規範の関係につき、まず、合同行為に相当する団体法に関連して、組合員の組合からの脱退を制限する合意の効力が問題となった事案について、判例評釈を行った。かかる判断は、組合の団結権の保障よりも個々の組合員の団体選択の自由を保障することを優先するものであり、本研究テーマにとって興味深い。契約関係に関するものとしては、第71回日本私法学会において、「事情変更の顧慮とその妥当性」という表題で個別報告を行った。従来から行ってきた事情変更の原則論の淵源理論たるclausula rebus sic stantibus理論の展開につき、18世紀の法典編纂の時代の立法内容、それに関する学説・実務の展開を中心にして検討した。さらに、現在のドイツ法との比較を行うことで、古典的なclausula理論の中での議論が現在の議論と同様の問題意識を持っていたこと、そこでの議論が現在の視座にとっても有益であることをあきらかにすることを試みた。ほかに、山田卓生先生の古稀記念論文集に提出した論説において、ドイツの2002年債務法改正に際して立法化が見送られた「一時的不能」の問題について検討を加えた。一時的不能という給付障害法は、わが国でも従来議論されておらず、自律的決定の限界問題の一つとして、位置づけることが可能である。ドイツ法は、改正の際に当初は一時的不能の明文化を試みていたところ、議論の末、従来通り学説、判例に取扱いをゆだねることになっている。わが国での債務法改正の議論においても、同様の問題が起こる可能性があり、ドイツでの議論は参照に値しよう。その他に、自賠法に関して、自賠法に規定された支払基準の損害算定に際しての拘束力が問題となった事案について判例評釈を行ったこと、利息制限法違反の過払い利息の返還に関連する判例評釈を行ったことを付け加える。いずれも特別法に関連する事案であるが、特別法上の規定の解釈が問題となった場面であって、本研究テーマと関係するものである。