著者
祝迫 得夫
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-25, 2021-04-17 (Released:2021-04-17)
参考文献数
73

日本の急速な高齢化の進行は,家計の貯蓄率や資産選択に大きなインパクトを与えると考えられている.実際は,家計の貯蓄水準は2000年代に入った直後に大きく低下したが,その後はライフサイクル・モデルに基づく予測と比較して,相対的に高い水準に留まっている.その一方で,日本の家計の年金水準は国際的な比較で見てあまり高くないにもかかわらず,老後の収入を年金に依存する割合が高く,金融資産の構成は安全資産に大きく偏っている.したがって年金社会保障制度の維持可能性を担保するためには,家計の自助努力による資産形成を促すための投資環境を整備する制度改革を早急に行うべきであり,そのような改革は高齢家計間の不平等にも配慮したものである必要がある.また,積極的な資産運用を促すための政策・改革の一つの鍵として,家計にとっての資産運用コストを低下させるために,金融経済情報の取得をより容易なものにする必要がある.日本の家計が実際どのように金融経済情報を取得しているかについて,行動ファイナンス的な視点から分析を行った結果,リスク資産を保有しない家計の多くは資産運用に興味がなく,情報収集も行っていないが,リスク資産保有家計と比較しても長い時間を情報取得に費やしているが株式等に投資をまったく行っていない家計も一定割合いることがわかった.後者を積極的な資産運用に引き入れるための方策を考えることは,個人投資家を巡る金融制度・税制改革を成功させるために極めて重要である.
著者
芹田 敏夫 月岡 靖智 花枝 英樹
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.57-93, 2022-02-15 (Released:2022-02-14)
参考文献数
30

本稿は,パッシブ型ファンドの持ち株比率と企業のガバナンスおよびパフォーマンスの間の関係を検証している.検証において,パッシブ型ファンドの持ち株比率が抱える内生性の問題に対処するため,日経平均採用企業であるかどうかを操作変数とする操作変数法を用いている.検証の結果,以下のことを発見している.(1)パッシブ型ファンドの持ち株比率が高い企業ほど,社外取締役比率の改善が促されている.(2)パッシブ型ファンドは業績の好調な企業の経営トップ選任議案に反対票を投じない傾向にあり,一方で業績が不調な企業の経営トップ選任議案には反対票を投じる傾向にある.また,パッシブ型ファンドは買収防衛策導入関連議案に反対票を投じる傾向にある.(3)パッシブ型ファンドの持ち株比率が高い企業ほど,株式投資収益率が高い.以上の結果は,日本でもパッシブ型ファンドが企業のガバナンスとパフォーマンスの改善に一定の役割を果たしていることを示している.
著者
霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.43, pp.27-48, 2021

<p>資産価格変動要因の特定はファイナンスにおける重要なトピックの一つである.その中でも日次など短期の変動要因を特定することは,経済イベントと紐づけて議論するために特に重要である.しかし,短期の変動要因の分析に適した方法は少なく,関連した研究はこれまでなされていない.本研究では,オプション価格情報を利用した変動要因の分解方法を提案し,米国株式指数の日次リターンの変動要因を分析する.具体的にはRecovery Theoremを用いてオプション価格から推定した実分布とSDFをもとに,リターンをキャッシュフロー要因と割引率要因に分解する.オプション価格は情報を迅速に織り込むため,短期の変動要因の分析に適すると考えられる.実証分析の結果から,キャッシュフロー要因が短期の価格変動の主要因であることが明らかになった.ただし,FOMCアナウンスメント日には割引率要因の影響がそれ以外の日と比べて大きくなることもわかった.</p>
著者
山分 佐知子
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-78, 2003

<p>本稿の目的は,日本の新規公開市場の現状を整理し,その価格形成について実証的に分析することである.分析対象は,日本の新興市場として位置づけられる店頭市場に,1995年~2002年に株式を新規公開した企業713社である.本稿では,欧米の株式新規公開に関する定型化された事実の1つであるアンダープライシングについて,その存在を確認し,それに関する理論仮説を回帰分析によって検証している.本稿の分析結果は,The Winner's Curseが日本のアンダープライシングでも重要な要因であり,特に,起業家(initial owner)の意思決定がその程度に影響を及ぼすことを示唆している.また,引受証券会社の保証効果仮説と投資家の情報顕示理論による部分調整仮説は,日本の現状とは整合的ではない.これは,日本の引受市場の状態や実質上の制約が影響しているためであると考えられる.</p>
著者
赤壁 弘康 田畑 吉雄
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.28, pp.17-43, 2010

<p>本稿は,価格がネットワーク外部性の影響を受けるような資産(あるいは商品)に対してデリバティブが書かれた場合,Harrison/Pliscaを嚆矢とする従来のデリバティブ評価法(マルチンゲール評価法)がどの程度有効であるのかを検証しようと試みるものである.このために,価格がネットワーク外部性の影響を受ける資産/商品の価格モデルを確率的Verhulst/Gompertzモデルによって定式化し,その確率的性質を明らかにする.次に,価格が確率的Verhulst/Gompertzモデルに従う原資産とBlack/Scholes/Merton価格モデルに従う原資産を交換する,交換オプションをマルチンゲール評価法を用いて厳密に導出することを試みる.前者をエネルギースポット価格,後者をエネルギー商社の株価とすれば,このような交換オプションはエネルギー価格の高騰をヘッジしたいエネルギー需要者にとってメリットがあると思われる.したがって,その適正な価格が求められるということを示すのは応用の観点からも重要である.この日的のために,価格がそれぞれBlack/Scholes/Merton価格モデルと確率的Verhulst/Gompertzモデルに従う原資産の割引かれた価格過程を同時にマルチンゲールにする確率測度ℙの具体的な構成法を明らかにする.次に,このℙの下で,マルチンゲール評価法を用いて上記の交換オプションを厳密に評価する.併せて,ヨーロッパ型バニラ・コールの評価公式にも触れる.</p>
著者
池田 直史
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.23-52, 2013-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
19

公開後の長期パフォーマンスの悪さは,新規株式公開(IPO)における特徴的事実の一つとして挙げられている.本稿では1997年9月以降のIPO企業を対象にして,日本においても長期アンダーパフォーマンスが観察されるか否かを,既存研究より精級な方法で検証した.その結果,バイ・アンド・ホールド異常収益率を用いた検証では,規模や簿価時価比率の効果をコントロールしても,アンダーパフォーマンスが有意に観察された.しかし,市場別でみると,マザーズやへラクレスと異なり,東証やジャスダックではアンダーパフォーマンスが安定して観察されなかった.この1つ理由として公開時の過大評価の程度が市場間で異なることが考えられる.一方で,カレンダータイム・ポートフォリオ・アプローチによる検証では,有意にオーバーパフォーマンスが観察された.以上のことから,長期アンダーパフォーマンス現象は必ずしも安定的に観察されるものではない.
著者
安藤 希
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.49-74, 2021-04-17 (Released:2021-04-17)
参考文献数
47

本研究は,金融市場での損切りの重要性を教育的観点から指導する介入処置が,投資に関する典型的な行動バイアスであるdisposition effect(気質効果)に与える因果効果を実証的に検討するものである.具体的には,投資家に「ルールに従い損切りを実施するべき」という教育的指導を行い,disposition effectが軽減するかどうかを検証した.本研究の特徴として,模擬市場を用いたランダム化比較試験(RCT)を行った点に加えて,先物取引を分析対象とすることでロングポジションとショートポジションとを区別しながら処置効果を推定した点が挙げられる.分析の結果,第一に,損切りの重要性に関する教育的指導によりdisposition effectが軽減された.第二に,ショートポジションの場合に比して,ロングポジションの場合においてこの処置効果がより強く確認された.第三に,相場にトレンドがある場合においてこの処置効果がより強く確認された.
著者
霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
2020

<p>資産価格変動要因の特定はファイナンスにおける重要なトピックの一つである.その中でも日次など短期の変動要因を特定することは,経済イベントと紐づけて議論するために特に重要である.しかし,短期の変動要因の分析に適した方法は少なく,関連した研究はこれまでなされていない.本研究では,オプション価格情報を利用した変動要因の分解方法を提案し,米国株式指数の日次リターンの変動要因を分析する.具体的にはRecovery Theoremを用いてオプション価格から推定した実分布とSDFをもとに,リターンをキャッシュフロー要因と割引率要因に分解する.オプション価格は情報を迅速に織り込むため,短期の変動要因の分析に適すると考えられる.実証分析の結果から,キャッシュフロー要因が短期の価格変動の主要因であることが明らかになった.ただし,FOMCアナウンスメント日には割引率要因の影響がそれ以外の日と比べて大きくなることもわかった.</p>
著者
加藤 英明 高橋 大志
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.15, pp.35-50, 2004
被引用文献数
1

<p>本稿は,日本の株式市場と天候の関係を過去40年間の日次データを基に分析したものである.伝統的ファイナンスの立場にたてば,天候が株価に対し影響を与えると考えることは難しい.しかし,分析の結果は,株価の動きと天候の間には,統計的に有意な関係があることを示している.さらに,その関係は,これまでに報告されている月曜効果,1月効果などのアノマリーを考慮しても,強く残ることが確認された.これらの結果は,伝統的ファイナンスの仮定している合理的な意思決定では投資家行動を説明できないことを示唆している.</p>
著者
窪田 康平 筒井 義郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.25, pp.23-51, 2009

<p>本論文の目的は,業界団体が実施したアンケート調査を用いて,日本の消費者金融市場の競争度を計測することである.まず,費用関数を推定し,大きな規模の経済性を確認した.市場の競争度については,ラーナー指数,市場均衡タイプ,結託度,H統計量を推計し,どの方法によっても,消費者金融市場が独占的であることを明らかにした.また,金利競争も店舗展開を通じた数量競争も行われていないことを確認した.さらに,消費者金融市場が独占的となる理由を分析し,新規顧客の市場においては,情報の非対称性,上限金利規制,借り手の双曲割引によって特徴づけられ,このことが市場を独占的にしていることを指摘した.一方,既存顧客市場においては,貸し手を変更することに伴うスイッチングコストが市場を独占的にしている可能性を明らかにした.これらの結果は消費者金融業の競争政策を議論する上で重要な知見である.</p>
著者
霧生 拓也 枇々木 規雄
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
pp.430001, (Released:2020-09-29)
参考文献数
34

資産価格変動要因の特定はファイナンスにおける重要なトピックの一つである.その中でも日次など短期の変動要因を特定することは,経済イベントと紐づけて議論するために特に重要である.しかし,短期の変動要因の分析に適した方法は少なく,関連した研究はこれまでなされていない.本研究では,オプション価格情報を利用した変動要因の分解方法を提案し,米国株式指数の日次リターンの変動要因を分析する.具体的にはRecovery Theoremを用いてオプション価格から推定した実分布とSDFをもとに,リターンをキャッシュフロー要因と割引率要因に分解する.オプション価格は情報を迅速に織り込むため,短期の変動要因の分析に適すると考えられる.実証分析の結果から,キャッシュフロー要因が短期の価格変動の主要因であることが明らかになった.ただし,FOMCアナウンスメント日には割引率要因の影響がそれ以外の日と比べて大きくなることもわかった.
著者
太田 亘
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-35, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
45

証券市場において大口投資家は,流動性および価格発見に影響を与える.大口投資家が発注するとき,他の投資家および私的情報を保有する情報投資家も同じタイミングで発注することで,売買が活発になり,価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という集中仮説,および大口投資家がしばらく発注しないと予想されるとき,情報投資家が発注することで価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という締切仮説が考えられる.本稿では,日本銀行を大口投資家として,REIT購入前後の取引について,公表情報を用い,2つの仮説を検証した.分析結果は2つの仮説と整合的であるとともに,大口投資家が発注するとき流動性が向上し,しばらく発注しないと予想されるとき流動性が低下することがわかった.大口投資家の発注は,他の投資家の戦略的行動を通じて,発注時のみならず非発注時にも流動性および価格発見に影響を与えている.
著者
太田 亘
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
pp.420001, (Released:2020-04-24)
参考文献数
45

証券市場において大口投資家は,流動性および価格発見に影響を与える.大口投資家が発注するとき,他の投資家および私的情報を保有する情報投資家も同じタイミングで発注することで,売買が活発になり,価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という集中仮説,および大口投資家がしばらく発注しないと予想されるとき,情報投資家が発注することで価格発見が行われてボラティリティが高くなる,という締切仮説が考えられる.本稿では,日本銀行を大口投資家として,REIT購入前後の取引について,公表情報を用い,2つの仮説を検証した.分析結果は2つの仮説と整合的であるとともに,大口投資家が発注するとき流動性が向上し,しばらく発注しないと予想されるとき流動性が低下することがわかった.大口投資家の発注は,他の投資家の戦略的行動を通じて,発注時のみならず非発注時にも流動性および価格発見に影響を与えている.
著者
根本 直子 吉野 直行 大久保 豊 稲葉 大明 柳澤 健太郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.49-71, 2019-03-29 (Released:2019-03-31)
参考文献数
16

金融機関にとって中小企業向け融資は中核業務だが,信用力の判定が難しく,効率性も低いといった課題がある.金融機関の用いる内部格付け制度は,財務データの正確性が不十分であるといった限界が指摘されている.本稿は,従来の内部格付けには必ずしも十分に織り込まれていなかった入出金などの銀行の口座情報が,中小企業のデフォルト予測の精度に与える影響を検証した.本稿の分析により,従来の財務情報に基づくデフォルト推計モデルに銀行口座情報の指標を追加した場合,デフォルト予測の精度が高まることが実証された.特に,企業規模が小さい場合,改善幅が大きくなる傾向がみられる.また,財務モデルと銀行口座情報に基くモデルの示す信用力には相関関係があること,ケースによっては銀行口座情報のみを使用したモデルでもデフォルト推計の正確性は財務モデルと大きく変わらないことが実証された.銀行口座情報の活用が広がれば,銀行は信用コストを抑えるとともに,審査時間やコストを削減でき,中小企業向け融資の円滑化につながりうる.
著者
井上 光太郎 加藤 英明
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス
巻号頁・発行日
vol.13, pp.3-28, 2003
被引用文献数
1

<p>本研究は,1990年から2002年までの国内上場企業間のM&Aについて,取引の特定の目的や性格が取引全体の経済性に影響を持ち,さらに買収価格の設定が買収企業と買収対象企業間の価値の配分に影響を持つという見通しに基づき,株価効果の要因分析を行っている.分析の結果,救済型M&Aは買収企業,買収対象企業の双方の株主価値増大に貢献していないこと,一方で非救済型M&Aではプラスの株価効果が確認されたが,これは特に水平型取引で顕著であり,プラスの株価効果の要囚は事業上のシナジー効果であることが示された.また,買収価格の設定は,買収企業と買収対象企業間の価値の配分を決定付けており,シナジー効果があると考えられる非救済型M&Aでも,高い買収プレミアムの提示は買収企業のプラスの株価効果を消滅させることを発見した.</p>
著者
齊藤 誠 大西 雅彦
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.67-82, 2001-03-31 (Released:2018-12-07)
参考文献数
6

本研究は,2000年4月24日に実施された大幅な日経平均株価構成銘柄の入力れ替え(225の構成銘柄のうち30銘柄採用,30銘柄除外)が,個別銘柄の市場流動性や株価形成に与えた影響を分析している.本研究の分析から得られた主要な結果は以下のとおりである.①銘柄入れ替え発表時点をはさんだ東証株価指数の変化率に比して採用銘柄の株価変化率が高く,除外銘柄の株価変化率が低くなっている.ただし,除外銘柄全体としては,発表後半年の間に相対的な下落を相殺するように株価が回復している.②銘柄入れ替え発表前に比した発表後の出来高の変化は,市場の平均的な出来高の変化に比較して,採用銘柄,除外銘柄ともに増加しているが,発表後4カ月以降は採用銘柄の流動性が高まり,除外銘柄の流動性が低くなる傾向を示している.③銘柄入れ替え実施直前に日経平均株価指数先物価格がその理論値から大きく乖離したのは,銘柄入れ替え発表直後のポジション調整を反映して,継続採用銘柄においても株価が一時的に割安状態になったことを示唆している.以上の実証結果に基づいて,銘柄入れ替えの望ましい実施方法に関して議論している.
著者
湯山 智教 森平 爽一郎
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.1-30, 2017-11-30 (Released:2017-11-30)
参考文献数
39

本稿では,BEIにより期待インフレ率を抽出する際に,状態空間モデルにより,インフレリスクプレミアムと流動性リスクプレミアムを勘案した上で期待インフレ率を推計することを試みた.推計結果の解釈には一定の留意が必要なものの,単純なBEIは,状態変数として推計された期待インフレ率と比べると,リスクプレミアムのために平均的に40~70 bp程度下回っており,特にリーマンショック後にはその幅が100 bp超にまで達した可能性が示唆される.すなわち,単純なBEIは,市場における真の期待インフレ率を過少評価している可能性が高いと考えられる.なお,インフレリスクプレミアムは多くの期間でマイナス(0~−30 bpの間)の可能性が示唆された一方,流動性リスクプレミアムは平均で30~40 bp程度と推計され,特にリーマンショック後には100 bp超の水準にまで達し,リスクプレミアムの多くを説明している可能性がある.