著者
村越 一哲
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.15-31, 1999-06-01 (Released:2017-09-12)

江戸時代の都市を対象とした歴史人口学は史料的な制約があって難しい。しかし見方を変えて,町人とは階級の異なる大名を都市住民と考えることにより,彼らの分析が可能になる。武士階級に関しては宗門改帳とはタイプの異なる記録史料である系譜を利用することができるからである。17世紀後半から19世紀前半にいたる200年間の乳幼児死亡率を求めると,それぞれ乳児死亡率は,193.2パーミル,幼児死亡率は229.6パーミルである。両者ともに,18世紀後半から上昇しはじめ19世紀半ばには対象とする期間のなかでもっとも高くなった。その原因は,乳幼児を取り巻く環境の悪化だけでなく,母体のおかれた環境の悪化にある。このような環境の悪化の具体的な内容として,消化器系疾患の広がりが考えられる。18世紀以降,都市化の進展や高い人口の流動性が,まず都市のなかで人口密度の高い町人居住地区に消化器系疾患を広めた。続いてそれが人口密度の低い武士居住地区に広がったために,大名の乳幼児が多く死亡したと考えることができるのである。
著者
小西 祥子 佐方 奏夜子 大庭 真梨 オーコナー キャサリン A
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.1-18, 2018 (Released:2018-10-15)
参考文献数
30

現代の集団を対象とした先行研究において,受胎確率(受胎する月毎の確率)は20歳代から30歳代前半までの女性で最も高く,年齢を重ねるごとに低下することが報告されている。他の先進諸国と同様に日本においても,結婚年齢および出産年齢の上昇が受胎確率の低下をもたらすことによる不妊の増加が懸念されているものの,関連する学術的な報告は少ない。また受胎確率に影響する年齢以外の要因も日本の低出生力に寄与している可能性もある。本研究は日本における受胎確率の年齢パタンを明らかにすることを目的として,受胎待ち時間を用いて年齢別の受胎確率を推定した。日本全国に居住する20-44歳の女性6,752人を対象として,第1子あるいは現在の妊娠に至った受胎待ち時間(time to pregnancy, TTP; 避妊をやめてから受胎するまでの月数)および基礎的な人口学的属性に関する情報を質問票によって収集した。解析に用いたサンプルは,過去60ヶ月以内に妊娠を希望して避妊をやめた女性1,324人である。内訳は,経産婦816人(グループA),現在妊娠中の未産婦173人(グループB),現在妊娠する可能性のある未産婦335人(グループC)である。TTPの値(グループAとBは打ち切りなし,グループCは打ち切り)を用いて,コックス比例ハザード回帰モデルによってカップルの年齢別の受胎確率比(fecundability ratio, FR)および95%信頼区間(confidence interval, CI)を推定した。また避妊をやめてから3, 6, 12, 24ヶ月後の累積受胎確率も推定した。24-26歳の女性(FR: 1.00)と比較して,27歳以上の女性は有意に低いFRを示した。30-32歳女性では0.68(95%CI: 0.56, 0.82),36-38歳女性では0.41(95% CI: 0.31, 0.53)であった。男性の年齢が高いことも低いFRと関連していた。避妊をやめてから12ヶ月後の累積妊娠確率は24-26歳の女性で最も高く80%(95%CI: 75%, 84%)であり,年齢が上がるとともに低下し,30-32歳では66%(95%CI: 61%, 71%),36-38歳では48%(95%CI: 39%, 55%)であった。第1子の妊娠を希望して避妊をやめた経験をもつ本研究の対象集団において,受胎確率は24-26歳で最も高く,より年齢の高い女性で受胎確率が低かった。男性の年齢が高いことも低い受胎確率と関連していた。受胎確率に対する年齢の影響は,未産婦と比較して経産婦で弱く,また未産婦は経産婦と比較して年齢がより高く不妊治療の経験者が多い傾向があった。よって年齢の影響以外にも、まだ明らかになっていない要因が日本の低出生力に寄与していると推測される。
著者
打越 文弥 麦山 亮太
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.1901001, (Released:2019-11-29)
参考文献数
26

本研究は職業構造の変化に着目して,日本における性別職域分離の趨勢について検討する。日本における根強い男女の不平等を理解するための示唆があるにもかかわらず,職域分離に関する知見は限られており,また一貫していない。本研究では,こうした趨勢に関する知見の非一貫性が,(1)職業分布の変化と(2)職業内における分離の変化を峻別してこなかった点に求め,両者を数量化して分けることの重要性を指摘する。本研究では性別職域分離は(1)日本の労働市場のジェンダーにおける特徴を規定していた製造業が衰退することと(2)専門職やサービス職が増加することによる職業分布の相対的な変化の2つによって変化するかを検証した。1980年から2005年の国勢調査を用いた分析から,以下の結果を得た。第一に,日本の職域分離の趨勢は僅かに減少傾向にある。第2に,分離の変化を分解した結果,職業分布の変化によって分離は拡大している。これに対して,性別構成効果は,職業内の分離を解消する方向に寄与していた。第3に,職業別の男女割合から,1980年時点で女性が多くを占めていた職業からの女性の移動が,日本の職域分離の変化を理解する際の重要な要因であることが新たな知見として明らかとなった。
著者
福田 節也 余田 翔平 茂木 良平
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-20, 2021

<p>「『誰が誰と』結婚するのか」という問いは,結婚における重要な問題でありながら,日本の人口学における知見は限られている。また,この問題に中心的に取り組んできた階層研究者の間でも,日本における学歴同類婚の趨勢については必ずしも一致した見解が得られてこなかった。本稿においては,1980年から2010年までの国勢調査の個票データを用いることにより,日本における学歴同類婚の趨勢を描き出し,その趨勢の変化と社会的・人口学的な含意について解説を加えた。妻30–39歳の日本人夫婦を対象として,記述統計ならびにログリニア分析を行ったところ,われわれの分析結果は,1)学歴同類婚ならびに女性の学歴上方婚の連関が弱まっていること,そして2)女性の学歴下方婚の連関が強まっていることを示した。また,学歴同類婚の連関の強さを学歴別にも分析したところ,3)大学卒の女性において下方婚の連関が強くなっているという結果を得た。これらの結果は,日本や中・先進諸国における学歴同類婚の世界的な新潮流と一致するものであった。本分析で示された学歴同類婚における変化は,どのように説明することができるのであろうか。本稿では,女性の高学歴化と前後して生じた,①グローバル化による労働市場の二極化(雇用の非正規化)と②ジェンダー革命による女性の経済的役割の変化という2つの社会変動との関連を指摘した。加えて,日本で大卒女性の下方婚がより生じやすくなっていることについては,大卒男性において非正規就業の割合が増えたことに伴い,大卒男性の所得分布が下方に推移し,大卒とそれ以外の学歴の者との経済的な境界が一部曖昧となりつつあることも一因ではないか,との見方も示した。すなわち,これらの社会情勢の変化によって,高学歴女性をはじめとする稼得能力の高い女性の結婚市場における魅力が向上した。また,従来よりも男性の学歴と収入の関係が曖昧となった結果,高学歴の女性の一部においては,結婚相手の学歴にこだわらずに結婚する者が出てきた。そのため,最近の研究にみられるように大学卒女性の婚姻率が上昇し,女性の学歴下方婚,とりわけ大学卒女性の下方婚がより生じやすくなった(Fukuda et al. 2019)。現時点においては仮説にすぎないが,本稿における分析は,このようなシナリオと整合的であった。最後に,本稿における分析が示す社会的含意について述べる。今日,多くの中・高所得国においては,男性よりも女性の大学進学率が高い状況にある。先行研究によると,世界的な傾向として高等教育進学率における男女差が逆転することにより,かつて伝統的なパターンであった女性の学歴上方婚が減少し,学歴下方婚が増加している。日本においては,4年制大学への進学率で見る限り,その差は縮まりつつあるものの,これまでのところ従来の男女差は逆転していない。しかし,われわれの分析結果は,夫妻の学歴選好の面において,すでに日本においても同様の変化が生じつつあることを示した。欧米では高等教育への進学における男女差の逆転により,女性を主な稼ぎ手とする世帯の増加,平等主義的なジェンダー態度の拡散,妻学歴下方婚カップルにおける離婚率の減少といった社会規範の変化がみられるという(Esteve et al. 2016)。女性の高学歴化に加えて,わが国では人口減少局面への転換によって労働力人口が先細りつつあり,主に男性のみが就業して家族を養う性別役割分業モデルは日本のマクロ経済にとって望ましいものではなくなっている。長期的な人口減少のトレンドは,政策(例:女性の活躍推進,保育所定員の拡充等)や人々の経済合理性(例:共働き志向)に作用することによって,ジェンダー規範の変容を今後も不可逆的に推進していく一因となるものと思われる。女性の高学歴化のさらなる進展によって,日本においても欧米と同じような社会規範の変化がみられるのか注視していく必要があるだろう。</p>
著者
鎌田 健司 岩澤 美帆
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-20, 2009-11-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
3

Our study focused on regional differences in fertility from the viewpoint of the spatial effect on fertility behavior, and re-examined previous research by using regression analyses that take account of spatial autocorrelation. More specifically, we applied geographically weighted regression to assess heterogeneity of the relationship between regional fertility rates and their covariates. Our analytical samples are 2311 towns and villages in Japan based on 2005 administrative boundaries. We used total fertility rate calculated based on vital statistics (Bayesian estimates) in 2005 as a dependent variable. Independent variables include socio-economic condition, female labor force participation, political measures on child care, and household structure that come from a database based on census. Our result suggests that residuals of the global model using ordinary least squares show strong spatial autocorrelation, meaning that statistical inference may be unreliable. Based on the result from this global regression analysis, we attempted to examine spatial variations in the coefficients by estimating geographically weighted regression model. The result suggests that most of coefficients for covariates have statistically significant geographical variations, and in some regions, sign shifts in the opposite direction from what it is in the global model. We conclude that fertility response to external forces may vary across regions because of their historical and geographical settings, and results of the global model may not be appropriate to uniformly apply for each region. Our result also suggests that policy measure should be flexibly carried out reflecting unique regional conditions.
著者
茂木 暁
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.50, pp.55-74, 2014-06-30

本稿は,日本女性の結婚への移行について,夫婦がどのようにして出会ったかという「出会い方」の違いに注目しながら分析する。従来の研究では,移行元として未婚という状態から,移行先として既婚という状態への単一の移行を分析対象とする移行像(単一移行)を想定し,移行が起こりやすい年齢と,移行の発生に影響する要因(規定要因)について分析してきた。これに対して本稿では,夫婦の出会い方(以下,「出会い方」)の違いに対応して,移行が起こりやすい年齢と規定要因とが異なる可能性について検証する。具体的には,「仕事・職場」,「友人紹介」,「学校」,「インターネット・携帯」,そして「その他」という5種類の「出会い方」を想定した上で,「出会い方」別の結婚を,競合リスク事象として取り扱い,それぞれの結婚への移行ハザード率を,年齢と,初職属性や学歴などの規定要因によって説明するモデルの推定を行う。『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査』を利用した分析の結果,上記の可能性を支持する実証結果を得た。第一に,年齢の違いについて,「学校」は,移行が起こりやすい年齢区間が他の「出会い方」と比べて狭くなること,「インターネット・携帯」は,移行が起こりやすい年齢が他の「出会い方」と比べて高くなるという知見を得た。第二に,規定要因の違いについては,初職属性である雇用形態・企業規模・労働時間の3つが「仕事・職場」という「出会い方」での結婚への移行に対してのみ影響するという結果を得た。また,学歴の高さについては,「仕事・職場」や「友人紹介」での結婚を抑制するという結果を得たが,「学校」という「出会い方」についてのみ結婚を促進することが明らかになった。
著者
松田 茂樹
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
pp.2401001, (Released:2023-11-30)
参考文献数
40

本研究の目的は,未婚者の自分自身にとっての理想子ども数が,彼らの初婚タイミングに影響することを実証的に裏づけることである。日本人の典型的なライフコースでは未婚→結婚→出生の順にライフイベントが発生する。個人が望む子ども数は出生についての研究では用いられてきたが,それが未婚から結婚に至る段階においても影響することは未解明である。使用したデータは,「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)のWave1~11の個票データであり,サンプルサイズは1,725人(8,274人年)である。Wave1時点において20~34歳であった未婚者のサンプルを用いて,初婚イベントを被説明変数,理想子ども数を説明変数とした離散時間ロジスティック回帰分析を実施した。分析の結果,男性ではおおむね理想子ども数が多いほど初婚ハザード率が高く,女性では理想子ども数が1人以上の人は同0人の人よりも初婚ハザード率が高いことが明らかになった。未婚者が考える理想子ども数は,<ただの理想>ではなく,実際に彼らのその後のライフコースに影響を与える要因である。この研究結果からの示唆は,次の3点である。第一に,近年未婚者の望む子ども数は減少しているが,それは若い世代の未婚化をすすめることに寄与していたとみられる。第二に,この結果は,合計特殊出生率の変動を,「結婚行動の変化」と「夫婦の出生行動(子ども数)の変化」がそれぞれ独立の事象かのように要因分解してきた先行研究の結果に対して,従来とは異なる解釈を与える。第三に,少子化対策として有配偶率を上昇させるには,若者の結婚を支援するのみでなく,彼らが子どもを持ちたいと思えるような子育て支援の充実も必要である。

8 0 0 0 OA 新刊短評

出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.71-83, 2021 (Released:2021-11-18)
著者
坂爪 聡子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.9-21, 2007-11-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
1

本稿の目的は,男性の育児参加と子ども数の関係を理論的に説明することにある。従来の研究では,育児は女性だけが負担するものとされてきた。しかし,男性の育児参加も考慮すると,女性の賃金上昇により男性への育児の代替が行われ,女性の就業と男性の育児参加が促進され,同時に子どもの数が増加するケースが考えられる。本稿は,このケースが成立する条件を求めることにより,男性の育児参加促進が少子化対策として効果があるために何が必要か明らかにする。本稿のモデルは基本的にはBecker(1965)に従うが,子どもの生産に投入される育児時間について,男性と女性の時間をわける。そして,女性の賃金が,女性の労働時間と男性の育児時間と子どもの需要に与える影響について分析する。分析の結果,女性の賃金上昇の影響は,男女賃金格差に大きく依存していることがいえる。男女賃金格差の大きいときは,3変数が増加する可能性はほとんどない。女性の賃金が男性とほぼ対等であるとき,同時に男女の育児時間の代替可能性が高い場合,3変数がすべて増加する可能性が高い。
著者
福田 節也 余田 翔平 茂木 良平
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-20, 2021 (Released:2021-11-18)
参考文献数
50

「『誰が誰と』結婚するのか」という問いは,結婚における重要な問題でありながら,日本の人口学における知見は限られている。また,この問題に中心的に取り組んできた階層研究者の間でも,日本における学歴同類婚の趨勢については必ずしも一致した見解が得られてこなかった。本稿においては,1980年から2010年までの国勢調査の個票データを用いることにより,日本における学歴同類婚の趨勢を描き出し,その趨勢の変化と社会的・人口学的な含意について解説を加えた。妻30–39歳の日本人夫婦を対象として,記述統計ならびにログリニア分析を行ったところ,われわれの分析結果は,1)学歴同類婚ならびに女性の学歴上方婚の連関が弱まっていること,そして2)女性の学歴下方婚の連関が強まっていることを示した。また,学歴同類婚の連関の強さを学歴別にも分析したところ,3)大学卒の女性において下方婚の連関が強くなっているという結果を得た。これらの結果は,日本や中・先進諸国における学歴同類婚の世界的な新潮流と一致するものであった。本分析で示された学歴同類婚における変化は,どのように説明することができるのであろうか。本稿では,女性の高学歴化と前後して生じた,①グローバル化による労働市場の二極化(雇用の非正規化)と②ジェンダー革命による女性の経済的役割の変化という2つの社会変動との関連を指摘した。加えて,日本で大卒女性の下方婚がより生じやすくなっていることについては,大卒男性において非正規就業の割合が増えたことに伴い,大卒男性の所得分布が下方に推移し,大卒とそれ以外の学歴の者との経済的な境界が一部曖昧となりつつあることも一因ではないか,との見方も示した。すなわち,これらの社会情勢の変化によって,高学歴女性をはじめとする稼得能力の高い女性の結婚市場における魅力が向上した。また,従来よりも男性の学歴と収入の関係が曖昧となった結果,高学歴の女性の一部においては,結婚相手の学歴にこだわらずに結婚する者が出てきた。そのため,最近の研究にみられるように大学卒女性の婚姻率が上昇し,女性の学歴下方婚,とりわけ大学卒女性の下方婚がより生じやすくなった(Fukuda et al. 2019)。現時点においては仮説にすぎないが,本稿における分析は,このようなシナリオと整合的であった。最後に,本稿における分析が示す社会的含意について述べる。今日,多くの中・高所得国においては,男性よりも女性の大学進学率が高い状況にある。先行研究によると,世界的な傾向として高等教育進学率における男女差が逆転することにより,かつて伝統的なパターンであった女性の学歴上方婚が減少し,学歴下方婚が増加している。日本においては,4年制大学への進学率で見る限り,その差は縮まりつつあるものの,これまでのところ従来の男女差は逆転していない。しかし,われわれの分析結果は,夫妻の学歴選好の面において,すでに日本においても同様の変化が生じつつあることを示した。欧米では高等教育への進学における男女差の逆転により,女性を主な稼ぎ手とする世帯の増加,平等主義的なジェンダー態度の拡散,妻学歴下方婚カップルにおける離婚率の減少といった社会規範の変化がみられるという(Esteve et al. 2016)。女性の高学歴化に加えて,わが国では人口減少局面への転換によって労働力人口が先細りつつあり,主に男性のみが就業して家族を養う性別役割分業モデルは日本のマクロ経済にとって望ましいものではなくなっている。長期的な人口減少のトレンドは,政策(例:女性の活躍推進,保育所定員の拡充等)や人々の経済合理性(例:共働き志向)に作用することによって,ジェンダー規範の変容を今後も不可逆的に推進していく一因となるものと思われる。女性の高学歴化のさらなる進展によって,日本においても欧米と同じような社会規範の変化がみられるのか注視していく必要があるだろう。

7 0 0 0 OA 新刊短評

出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.93-102, 2020 (Released:2020-11-09)
著者
岩澤 美帆
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.47-61, 2017 (Released:2017-11-20)

婚姻関係にない父母のもとに生まれる婚外子は婚内子に比べ養育に必要な資源や投資が制限されやすく,その実態把握は次世代育成に関わる重要な関心事となる。しかしながら今日の欧米社会と異なり婚外子割合が低い日本では,標本調査による婚外子の捕捉が難しかった。2001年に始まった出生児を対象とした大規模調査である「21世紀出生児縦断調査」では約600ケースの婚外子を含むため,家庭環境や暮らし向き等の定量的な記述が可能である。本稿では米国や日本における婚外出生をめぐる議論や知見を整理した上で,上記調査データ6年分を二次利用し,婚外子の人口学的特徴,両親の属性,経済状況,母親や子供の人間関係,父親の育児参加等,子供の成長に影響を与える諸側面について,父親との同別居による違いおよび婚内子との比較の観点から明らかにした。 日本の婚外子は婚内子に比べて第1子が多いこと,都市部在住が多いこと,低体重児が多いこと,両親に喫煙者が多いこと,経済的に困窮している世帯が多いこと,母親のネットワークが狭いこと,子供の遊び相手の範囲が狭いこと,父親がいない世帯では母方祖父母との同居割合が高まるが,母親とその親との精神的結びつきは希薄である可能性などが明らかになった。0歳時点で父親と同居している割合は,8,9割とされる北欧社会,5割とされる米国に比べても低く,3人に1人以下であった。一方で半数の子供が6歳までに父親あるいは母親の新たなパートナーとの同居経験がある。別居の父親の状況や子供との関係については情報が限られるが,別居の父親からの支援は極めて限定的であることが推測される。質的な調査によってこれまでも日本の婚外子に対する社会的なサポートの必要性が指摘されてきたが,量的調査によっても,日本の婚外子とその家族が経済的に困窮し,家族の結びつきが弱く孤立しやすい状況にあることが確かめられた。一方で,継続的に父親と同居している婚外子や母親の社会経済的地位が高いケースも一定数含まれているほか,同居している婚外子の父親の育児参加は,婚内子の父親と変わらないなど,婚外子をめぐる環境が多様であることも明らかになった。
著者
可部 繁三郎
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.47-62, 2013-06-30 (Released:2017-09-12)

低水準かつ短期間での劇的な低下という東アジアの出生力の特徴は台湾にも当てはまり,2010年には台湾の合計特殊出生率(TFR)は0.895と史上例をみないほどの低水準に落ち込んだ。低水準と急低下という傾向は,台湾全体のみならず,県・大都市ベースでも見出される。McDonald(2009)は東アジアの低出生力の背景として,経済的なリスク回避志向を強める子育て世代にとって,子育て関連の社会経済制度が優しくないことを挙げる。本稿は,子育て世代の経済面におけるリスク回避志向というMcDonald(2009)の視点に基づき,子育て支援環境の整備が出生率に対する規定要因になりうるのかどうかについて,地域単位のデータに基づいた分析を試みた。対象期間は台湾において急激な出生率の低下傾向が見られる1990年から2010年である。子育て支援環境の整備策のうち,保育所利用率の効果は認められなかった。子育て世代は,経済的なリスクは子ども世代にも続きかねないと考えるため,子どもへの教育投資熱が高まる結果,私立保育所による高額な幼児教育サービスの利用が増え,それが家計の圧迫につながると考えられる。一方,低費用だが,親の幼児教育期待に余りそぐえないというイメージの強い公立保育所については,保育サービスにおける公立比率が高まれば出生率に正の影響を与えるという結果が得られた。これは,低費用で,且つ,市場原理に過度に依存しないといった公立本来の特徴を生かした保育サービスが提供されれば,有用な子育て支援になりうることを示唆している。また,出産や育児関連の休業制度の効果も認められた。こうした制度が浸透すれば,特に働く女性にとって,出産や子育てに伴う就業継続リスクの低減が期待されることを示している。
著者
福田 節也
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.41-60, 2003-11-30 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
1

未婚化傾向の進展とともに,若者が親と同居する期間が延長している。1990年代以降,未婚期の世帯構造が若者の自立や婚姻行動と深い繋がりをもつことが指摘されるようになり,青年層の居住形態が注目されるようになった。これに伴い,全国レベルの標本調査において離家に関する項目が設けられるようになり,若者がいつ,どのような理由で親元を離れ新たな世帯へと移行するのかについて知ることができるようになった。しかし,先行研究においてはデータや方法論上の制約により離家を規定する個人や世帯の属性についての考察が十分に行われてこなかった。そこで本稿では『全国家族調査(NFRT98)』の個票データを用いてイベントヒストリー分析を行い,若者の離家行動についての要因分析を行った。分析の対象は,1940年から70年に出生した男女4,378人である。モデルではライフコース変数,人口学的要因,親の社会経済的地位,そして出生コーホートを説明変数とし,対象者の最初の離家および進学,就職,そして結婚に分類した理由別離家の規定要因について検証した。分析の結果,先行研究において指摘されてきた晩婚化や若年者人口の都市部への集中といった要因に加え,出生順位や高等教育への進学が離家のタイミングを規定する重要な要因であることが明らかとなった。さらに,離家を規定する個人や世帯の属性が明らかとなり,1940年以降の出生コーホートにおける離家傾向を説明するいくつかの知見が得られた。
著者
内藤 楠登 プラン ミッシェル
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.13-33, 2004-11-30 (Released:2017-09-12)

あらゆる人口学的データが示すように沖縄は世界でも有数な長寿地域であるといえる。2000年における沖縄県男性の平均余命は全国平均とさほど変わらないが,沖縄県女性の平均余命は全国平均に比べ1.4歳高く86.01歳に達し,人類の平均余命の限界といわれた86歳をも上回った。2003年における高齢者が全人口に占める割合から見ても,全国平均では10万人中百歳を越える高齢者の割合は15人程度だったが,沖縄では40人以上だった。日本が世界でも有数の長寿国になり,あらゆる分野の研究者が日本人の死亡パターンの研究に携わった。疫学者や老年学者は日本人の食生活やライフスタイルに着目し,他分野の識者は公衆衛生の重要性を示唆したが,沖縄は,世界でも例外的といえる日本(本土)よりさらに例外的だと言える。本研究を通じ沖縄では既に1980年代後半より若年及び壮年層において死亡率が上昇傾向にあったことを確認した。沖縄の死亡率上昇の兆候はかなり前から見られていたが,1995年には都道府県中4位だった沖縄県男性の平均余命が2000年に26位に後退し沖縄の人々に衝撃を与えた。現時点で人手可能な生命表と死亡確率の推移から得た研究結果から,沖縄と本土の死亡確率線の比較を行ったが,ある一定の年齢から死亡確率の高低が逆転する現象が見られた。この比較結果から,沖縄には(本土に比べ)低死亡確率に特徴付けられた戦前世代と,高死亡確率の戦後世代からなる二つの死亡パターンが存在していることが判明した。本論文では本土と比較した場合の沖縄の死亡パターンの例外性の原因,主に生活パターンの変化や高齢者の戸籍の信憑性についても言及したい。
著者
村越 一哲
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.19-32, 2009-05-31 (Released:2017-09-12)
被引用文献数
1

旗本の出生力を分析したヤマムラ(1976)は,徳川幕府が開かれて以降200年の間に旗本一人あたりの平均子ども数が著しく低下したと主張している。そしてその原因は,実質所得一定のもとで消費欲求が増大したことから生じた経済的困窮に旗本が直面したことと,階層間移動の減少により所得の増加が見込めず次三男への分知の困難さが増したことにあると説明している(「経済的困窮仮説」と呼ぶ)。この研究の問題点は,適切な方法によって旗本の出生力が求められているとは言いがたいという点である。そこで,本稿は,旗本の出生力を推計し直し,その意味するところを明確にすることを第一の目的とし,推計された出生力が上述の考え方によって説明できるか検討することを第二の目的とした。まず史料として用いる「寛政重修諸家譜」の編纂過程を概観し,そこから標本を抽出する手続きについて説明した。つぎに旗本当主のもうけた男子から,記載漏れの可能性が高い,成人するまえに死亡したと考えられる男子を除いて,旗本当主一人あたりの平均成人男子数を求めた。推計された平均成人男子数は17世紀の間に大幅に低下したが18世紀にはそれほど変化せず,その傾向は19世紀前半まで続いた。そしてその動きは大名家臣のものとほとんど同じであった。また低下後の出生力は旗本の人口を単純再生産する水準以上にあったと推測した。さらに,17世紀における出生力の低下は「経済的困窮仮説」によって説明されないことを示した。そのうえで,17世紀前半まで高かった次三男の召出可能性が世紀後半以降低下してゆき,子どもを多くもうけても彼らに武士社会のなかで生きてゆくことを保証できなくなったことが出生力低下の原因である,という「社会的制約仮説」が旗本にも適用可能であると結論した。
著者
坂井 博通
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.29-38, 1995-05-31 (Released:2017-09-12)

近年「丙午」研究の範囲が広がり, 1906年と1966年以外の「丙午」にも明かりが投げかけられると同時に1966年の「丙午」に関しては,ミクロデータを用いて出生間隔の研究もなされ始めた。しかし,今までの「丙午」研究は,次の3つの視点(1)「丙午」の影響が及んだ範囲, (2)「丙午」生まれの子ども側から見た特徴, (3)「丙午」が与えた社会人口学的影響,が欠けていると考えられるために, 1966年の「丙午」を例に検討を行った。「丙午」の影響が及んだ範囲に関しては,主に人口動態統計を用いて,「丙午」を含む前後20年の出生数,出生性比の動向を観察した結果, (1-1)在日韓国・朝鮮人や在日中国人, (1-2)外国在住の日本人, (1-3)非嫡出子に関しても「丙午」の影響が見られたことを確認し,「丙午」迷信の内容が,マスコミだけでなくパーソナルな伝播により普及した可能性が大きいことを示唆した。また,「丙午」の影響測定には,出生数と出生性比の両方を検討する必要を述べた。「丙午」生まれの子ども側から見た特徴に関しては,主に厚生省人口問題研究所が1985年に行った「昭和60年度 家族ライフコースと世帯構造変化に関する人口学的調査」(サンプル数7,708)の全国調査の分析により,他の年次生まれの子どもと比較して,「丙午」生まれの子どもは, (2-1)父方のおじ,おばは多くないが,母方のおじ,おばが多く,その母親の出産意欲に母親自身の兄弟姉妹数が正の影響を及ぼした可能性のあること, (2-2)特に第2子の場合,男女とも兄弟姉妹数が多いこと, (2-3)父がホワイトカラーの割合が大きく,迷信から自由な出産が多かった可能性があること, (2-4)「丙午」前後生まれの者も含めて「丙午」の迷信をよく知り,さらに,自分も「丙午であっても出産した」と答える割合が大きい,という知見を得た。「丙午」と関連する社会人口学的影響に関しては,人口動態統計と人口移動統計により,「丙午」の年において, (3-1)例年より低い3月の出生性比と例年より高い4月の出生性比, (3-2)低い移動性比, (3-3)女子の自殺の増加,自殺率の上昇, (3-4)母子世帯の増加と翌年の減少,「丙午」と翌年の性病罹患数の増加,を見出した。その原因に関しては,それぞれ,「丙午」と関連させて,「丙午」年度生まれの女子を忌避する届出操作,出産を控えた女子の人口移動の活発化,女性の価値の低下,家庭内禁欲に伴う家庭外性行動の活発化の観点から論じた。