著者
加藤 明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.172-177, 2012-03-01

宇宙活動において,「宇宙のごみ」(以下「デブリ」)の発生を防止する取り組みは,国連や国際標準化機構が推奨するガイドラインや規格類,並びに宇宙先進国政府あるいは公的機関が発行する標準書等にて進められており,各国の関係者それぞれが可及的速やかに実行に移す必要がある.しかし,単なるデブリ発生防止策を続けてもここ数年間の増加傾向が今後も継続すれば,宇宙活動を持続することはいずれはかなり困難となるほどである.このような悪化した軌道環境では,デブリ発生防止の取り組みだけでは不足であり,デブリの被害に対して積極的に信頼性と安全性を確保する必要がある.衛星・ロケットの品質を運用終了まで維持する信頼性,運用終了時点での廃棄処置を行うことの信頼性は,デブリ衝突による故障発生確率を含めて保証されるべきである.本稿では更に処分した衛星・ロケットが地上に落下する際の対人安全性にも言及する.なお,本稿は筆者の調査の結果得られた個人的見解を示すものであり,組織としての見解を示すものではない.
著者
田村 信幸
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.699-709, 2004-11-01
被引用文献数
3

本稿では,定期的にシステムの状態が観測され,この観測された状態が時間離散的マルコフ連鎖に従って劣化するシステムを考える.点検後,稼働,修理,取り替えの内の1つの行動を取る.修理はM通り存在し,修理後の状態は不確実である.このようなモデルについて,無限期間における総期待割引コストの最小化を目的としたとき,幾つかの適当な条件の下,一般化されたコントロールリミット・ポリシーが最適となることを導く.複数修理に着目したときの最適保全政策の性質を明らかにする.さらに,得られた性質が本稿で提示した条件よりも緩い条件の下でも成り立つことを数値実験によって検証する.
著者
清水 尚憲 梅崎 重夫
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.546-553, 2010-12-01

クレーン等による死亡労働災害は,昭和48年のピーク時に約400件であったのと比較すれば,年間約100件と大幅に減少している.しかし,現在でも,クレーンからのつり荷の落下,つり荷による挟まれ,クレーンからの墜落,機体等の折損・倒壊・転倒,つり荷の激突などが依然として多発しており,これらの災害に対する適切な災害防止対策が必要とされている.このため,日本クレーン協会では,これらの多発する災害を未然に防止するための危険性または有害性の事前評価手法として,「クレーン等のリスクアセスメント実施要領(日本クレーン協会規格JCAS0001-2008)」を公表している.本稿では,前記規格を小型移動式クレーンに適用する際の基本的考え方とリスクアセスメントの具体的実施事例を概説する.
著者
田村 高志
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.345-355, 2005-08-01

この20年間, 国産の衛星開発はロケットの大型化と歩調を合わせて常に先端を目指し, 大型化, 高性能化を追求してきた.衛星の打上, 運用によって得られた知見は非常に大きく, 自主技術による衛星開発のリスクは想定の範囲内にあると思われた.しかし, 「みどり」, 「みどりII」と2機連続しての運用断念を経験し, 大型衛星の開発が従来の開発手法の単純な延長線上にはないことを思い知らされた.一方海外に目を向けると, 同様に大型化を進めた商用衛星に多くのトラブルが発生していることが知られている.このような状況から, 国産衛星に限らず大型衛星の開発には従来技術の範囲を超えたリスクが存在し, 確実な開発に向け新たな取り組みが必要であることが改めて認識されている.ここでは, 衛星開発における設計・評価・レビュー及び技術蓄積の観点から現状を分析し, 特に衛星の信頼性向上のためになすべきことについて述べる.
著者
秋田 雄志 荻野 隆彦
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.71-79, 2005-01-01
被引用文献数
6

鉄道の安全性を維持し、さらに向上するにはリスクの概念を採り入れた目標管理が必要である。本論文は、最初に過去50年間に発生した日本の鉄道の致死事故を分析し、事故の規模に応じた事故死リスクの実績を示す。次に、鉄道における事故死リスクを、自発的行為の結果を含む事故死リスクR_Aと被災による事故死リスクR_Bに分け、それぞれに対して許容リスク水準R_<A1>とR_<B1>、および広く受容されるリスク水準R_<A2>とR_<B2>の指標値を提案する。また、他の輸送機関における致死事故のリスク実績との比較等により、提案する水準の妥当性を考察する。
著者
柳 繁
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.411-420, 2003-07-25
被引用文献数
2

「難しい式がたくさん出てくる」.これが信頼性理論に対する殆どの方の印象だと思います.また,一般的に用いられる用語と信頼性用語のギャップも気になります.この点に注意しつつ,本稿では信頼性評価のための数学モデルのさわりの部分を紹介し信頼性理論への橋渡しにしたいと思います.
著者
長塚 豪己
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.580-587, 2009-11-01
参考文献数
22

推定を安定化させる技術の一つとして最近注目されているL^p正則化推定法について紹介を行う.特にL^1ノルムを用いて正則化を行うLassoを中心に述べる.
著者
上野 誠也
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.386-391, 2008-07-01

航空宇宙システムの制御系は,その故障が重大な人身事故や多額の損失に至るために,高い信頼性が要求されている.本稿では,事例を紹介しながら,開発の歴史や将来の方向性を解説する.航空システムの制御系は,機体に搭載されたハードウエアのみならず,パイロットを含む閉ループ系で考察する必要がある.さらに地上支援の管制を含めれば,管制官を含むシステムで信頼性を扱う必要がある.安全性を高める目的で様々な対策が取られているが,人間が介在するために,人間中心の設計が重要であることが要求されている.一方,宇宙システムでは逆に人間が介在できない環境下で長期間運用することが要求されている.制御系を構成する電子部品には宇宙空間は厳しい環境であり,その環境でシステムが連続的に成立し続けることが必要である.高い信頼性の部品を使用し,冗長構成が採用され,故障が生じた時のFDIR機能を組込んだ制御系が使用される.それが厳しく制限させられたリソース内で実行されなければならない.また,ハードウエアの信頼性だけでなく,ソフトウエアの信頼性も高めることも必要である.その対策の事例を紹介する.
著者
大西 一功
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-45, 2004-01-25 (Released:2018-01-31)

微細加工技術の進展とともに,半導体素子の高密度高集積化が進み,パーソナルコンピュータから携帯電話,デジタルカメラと,今や社会のあらゆるところで当然のように使われるようになった.これは低消費電力,小型,高機能というだけでなく,非常に高い信頼性(故障し難い)を有しているためである.地球上のあらゆる環境で高信頼性を発揮する半導体素子であるが,原子炉周辺や宇宙放射線環境では非常に故障しやすい.本稿では,半導体素子の放射線から受ける影響について,物質との相互作用として,電離と変位損傷があり,これらが素子内部でどのようなメカニズムで故障や劣化を引き起こすのかを概説した.また半導体素子は宇宙応用には欠かせない部品であり,地上とは異なり故障すれぱボードを取り替えればよいというわけにいかないため,半導体素子の耐放射線性が如何に重要であるかを広く認識していただければとの願いを込めた.
著者
高橋 芳浩
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.460-467, 2014-11-01 (Released:2018-01-31)

半導体デバイス(集積回路)は地上においては非常に高い信頼性を有するが,人工衛星などに搭載して宇宙空間で使用すると,強い宇宙放射線を受けて特性劣化や誤動作が引き起こされることがある.宇宙空間は高エネルギーの陽子線,電子線,重イオンなどが高密度に存在する劣悪な放射線環境であり,これらが半導体デバイスに照射されると,構造内で電離(電荷発生)や結晶欠陥が生じる.放射線照射により半導体デバイスが受ける影響は,半導体デバイスの材料や構造,また放射線の種類やエネルギーにより異なり,吸収線量と共に電気的特性変化が蓄積される「トータルドーズ効果」,電離能力の高い荷電粒子の入射によって発生する「シングルイベント効果」,高エネルギーの粒子線照射による結晶欠陥を起因とした「変位損傷効果」に大別される.本稿では基礎的な放射線と物質との相互作用について示した後,放射線により半導体デバイスが受ける具体的な現象,および耐放射線性強化に関する研究例を紹介する.
著者
北河 博康
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.78-85, 2015-03-01 (Released:2018-01-31)

深刻な人手不足に悩む介護業界において,介護従事者の身体的・精神的な負担軽減や要介護者の自立促進を実現し,介護現場を支える一助として「サービスロボット」である「介護ロボット」が注目され,実用化に向けて介護福祉施設等にて試験的な導入が展開されているところである.一方で,介護ロボットでは,高齢者・要介護者など身体が不自由な方がユーザーとなるケースが多いため,事故防止およびリスクアセスメントへの特段の配慮とともに,万一事故が発生した場合に備えて,適切な「保険の手配」が不可欠である.介護ロボットの開発および普及・実用化の各段階における保険の現状と課題について解説する.
著者
佐藤 博之
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.141-147, 2018 (Released:2019-12-02)

日本信頼性学会・故障物性研究会では,不再現現象分科会を立上げ,電子機器や電子部品で発生する 不再現現象の事例を共有し,故障メカニズムや環境要因などとの関連性を調査・研究してきた.ここで は,不再現現象に結びつきやすい電子部品の故障メカニズムやその対策案について解説する.
著者
織原 幸一 齊藤 嘉久 中村 英夫 押立 貴志
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.191-199, 2017 (Released:2019-10-01)

我が国の鉄道は,1872(明治 5)年 10 月 14 日に開業した.鉄道の創始国であるイギリスよりも 47 年 遅れての出発であったが,2022 年には開業 150 年を迎える.その間,「安全と信頼」に対する先達の英 知と努力が脈々と受け継がれ,今日の我が国の安全・安心な鉄道を支えている.鉄道創成期における先 見性に満ちた技術的な選択や辛苦,新しい技術を積極的に導入してきた経緯を含め,我が国の鉄道信号 における安全性・信頼性技術の変遷について述べる