著者
江村 正一 奥村 年彦 陳 華岳
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.37-43, 2009-06-30
参考文献数
41

レッサーパンダの舌表面を肉眼にて観察し,さらに舌乳頭およびその結合織芯を走査型電子顕微鏡で観察した.肉眼所見では,舌の先端は円く弓状を呈し,舌正中溝および舌隆起は観察されなかった.茸状乳頭は舌体に比し舌尖において密に存在した.有郭乳頭は,舌体後部において円形を呈し,V字形に並んで左右それぞれ5個観察された.葉状乳頭は観察されなかった.走査型電子顕微鏡により舌尖および舌体の糸状乳頭を観察すると,シャベル状の主乳頭とその左右から突き出た数本の針状の二次乳頭からなった.糸状乳頭の結合織芯の形態は,基部から多くの小突起がでる構造として観察され,舌尖と舌体とで異なった.すなわち,舌尖の結合織芯は舌体のやや小型であり,舌尖の中でも外側の方が内側より細く針状構造を呈した.茸状乳頭はそれら糸状乳頭の間にドーム状構造として散見され,舌体より舌尖に多かった.茸状乳頭の結合織芯は,円柱状を呈しその頂上には陥凹が存在した.有郭乳頭の表面は平坦で,乳頭は輪状郭により取り囲まれ,乳頭と輪状郭の間に輪状溝が存在した.有郭乳頭の結合織芯は,球状で表面には多数の突起が存在した.有郭乳頭の外側には,大型の円錐乳頭が見られるとともに多数の分泌腺の開口部が観察された.このような開口部は上皮を剥離するとより顕著となった.<br>
著者
河合 久仁子 福井 大 松村 澄子 赤坂 卓美 向山 満 Armstrong Kyle 佐々木 尚子 Hill David A. 安室 歩美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.239-253, 2007 (Released:2008-01-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

長崎県対馬市において,コウモリ類の捕獲調査を2003年から2006年にかけて行った.その結果,26カ所のねぐら情報を得ることができ,2科4属6種(コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,クロアカコウモリMyotis formosus,およびコテングコウモリMurina ussuriensis)のべ267個体のコウモリ類を捕獲,あるいは拾得した.これらのうち,クロアカコウモリは38年ぶりに生息が確認された.
著者
Daichi Nabata Koichi Kaji Junco Nagata Ryuichi Masuda
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
Mammal Study (ISSN:13434152)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-22, 2007 (Released:2007-04-11)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

Recent overpopulation of the sika deer (Cervus nippon) in Hokkaido has resulted in expansion of their distribution from eastern to western parts of this island. To assess changes of genetic population structures of the Hokkaido sika deer, mitochondrial DNA control sequences (602 base-pairs) from 283 animals collected from central and western Hokkaido were analyzed. Based on transitional substitutions (A < - > G) at four nucleotide sites, five haplotypes were identified. One haplotype was newly found in the present study, and the other four haplotypes referred to those reported previously. The distribution patterns of haplotypes showed characteristic changes of genetic population structures, compared with the past distribution of haplotypes. In northern Hokkaido, for instance, the population around the Okhotsk Sea-coastal region has clearly expanded to the Japan Sea-coastal region. The population around the Ishikari-lowlands and the Hidaka mountains has increased within these areas, and it is not likely that the increase is directly caused by the immigration from eastern Hokkaido.
著者
Nozomi Nakanishi Maki Okamura Shinichi Watanabe Masako Izawa Teruo Doi
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
Mammal Study (ISSN:13434152)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1-10, 2005 (Released:2005-07-14)
参考文献数
23
被引用文献数
10

The seasonal variation in home range size of one male and one female Iriomote Cat Prionailurus bengalensis iriomotensis was studied by radio-tracking and automatic photography on Iriomote Island, Japan. The study was conducted in the Shirahama area located in the western part of the island. Shirahama provides a small area of suitable lowland habitat (<50 m a.s.l.) for the Iriomote Cat. Two individuals, one male and one female, were confirmed to be resident in this area. The periodical home range size of the male was 1.24 ± 0.41 km2 and that of the female was 1.30 ± 0.54 km2 throughout the year, with no significant difference between them. We compared the results of these observations with those from another area of suitable habitat in Funaura and discussed what factors may affect male home range size. The home range of the male cat in Shirahama was found to be only half the size of that of males in Funaura, though it showed similar seasonal fluctuation. The home ranges of females were similar in the two areas. Our results provide empirical confirmation of the influence of the number and distribution of females on male home range size in a solitary felid.
著者
吉倉 智子 村田 浩一 三宅 隆 石原 誠 中川 雄三 上條 隆志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.225-235, 2009-12-30

ニホンウサギコウモリ(<i>Plecotus auritus sacrimontis</i>)の出産保育コロニーの構造を明らかにすることを目的とし,本州中部の4ヶ所のコロニーで最長5年間の標識再捕獲調査を行った.出産保育コロニーの構造として,齢構成,コロニーサイズとその年次変化,性比および出生コロニーへの帰還率について解析した.また,初産年齢および齢別繁殖率についても解析した.本調査地におけるニホンウサギコウモリの出産保育コロニーは,母獣と幼獣(当歳獣)による7~33個体で構成されていた.また,各コロニー間でコロニーサイズやその年次変化に違いがみられた.幼獣の性比(オス比)は,4ヶ所のコロニー全体で54.2%であり,雌雄の偏りはみられなかったが,満1歳以上の未成獣個体を含む成獣の性比は1.0%とメスに強い偏りがみられた.オスの出生コロニーへの帰還率は,全コロニーでわずか3.6%(2/56)であった.一方,メスの翌年の帰還率は,4ヶ所のコロニーでそれぞれ高い順に78.9%,63.6%,16.7%,0%であった.初産年齢は満1歳または満2歳で,すべてのコロニーを合算した帰還個体の齢別繁殖率は,満1歳で50%(12/24),満2歳で100%(13/13)であった.また,満2歳以上のメスは全て母獣であり,出産年齢に達した後は毎年出産し続けていることが確認された.<br>
著者
森光 由樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.133-138, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
8

これまでに,全国20の自治体で,ヘア・トラップを用いた調査が行われてきた.調査の目的は「クマの個体数の算出」,「個体識別」,「生息の確認」など,それぞれの自治体で異なっている(2007年9月現在).すでに,ヘア・トラップ調査を「特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法」として,利用している自治体もある.ヘア・トラップ調査は,トラップ設置の数,トラップ間の距離,材料採取の方法,トラップ見回り頻度,分析実施数,DNA分析技術,個体数算出法などの課題があり,手法の改善が必要である.2002年に長野県で実施された調査では,定点観察調査,痕跡確認調査から長野県関東山地のツキノワグマの生息密度を,0.01~0.03頭/km2と推定している.2003年からは,長野県関東山地でヘア・トラップによる調査が実施された.100 km2の調査地に100トラップを設置し,679本の試料が分析された.識別された個体は33頭で,分析成功率は26.3%であった.定点観察や痕跡調査では,ツキノワグマの生息密度を過小評価している可能性があることが示唆された.今後,ヘア・トラップ法を特定鳥獣保護管理計画のモニタリングの手法として確立するには,いくつかの問題点を改善しない限り導入は困難であると思われる.そのために,手法の開発が急務である.
著者
釣賀 一二三
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.119-123, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
13
被引用文献数
10

これまでに北海道で試みられたヒグマの個体数推定は,その推定値に大きな誤差を含むものであった.現在,より精度の高い推定を行うために,ヘア・トラップ法を応用することが可能かどうかの検討を実施しており,本稿では検討の概要とその過程で明らかになった課題について述べる.ヘア・トラップ法を用いた個体数推定法の本格的な検討に先立って行った3カ年の予備調査では,誘因餌を中央につり下げて周囲に有刺鉄線を張ったヘア・トラップによって試料採取が可能なこと,試料の保管には紙封筒を用いて十分な乾燥をした後に保管する必要があることなどが明らかになった.さらに,分析対象の遺伝子座の選択に関する課題の整理が行われた.その後の3年間の本格調査では,ヘア・トラップ配置のデザインと構造を検討するために,メッシュ単位で29箇所あるいは39箇所に設置したヘア・トラップの適用試験を実施した.この結果については現在解析途中であるものの,ヘア・トラップを設置する場所の均一性を検証することや,ヘア・トラップの設置密度の基準となるメッシュの適切な大きさに関する検討の必要性が課題としてあげられた.