著者
宇野 裕之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.327-335, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
22

2010年10月27日及び28日,ダンフリース州ドラムランリグ城においてScottish Natural Heritage(SNH)が開催したレクリエーション狩猟者のための研修会に参加した.この研修会は次の6つのパートから構成されていた.1)計画と生息地アセスメント,2)シカの行動,3)動物福祉と責任,4)衛生管理,5)協力関係(組織化)及び6)ライフル射撃である.これらの講師は,SNH,Forestry Commission Scotland(FCS)及びThe Deer Initiativeなどのスタッフが連携して務めていた.FCSは公有林における木材生産や植林,野外レクリエーション,野生生物管理など幅広い活動をしている.FCSのレンジャー及び雇用された職業狩猟者がシカ類の個体群管理と森林の保護を行っている.本稿では,スコットランドのシカ類管理の概要と狩猟者教育プログラムの事例を紹介する.日本には,シカ管理体制とシカ肉の持続的利用システムを確立することが求められている.シカ管理は森林管理の一環として位置づけられるべきだと考えられる.
著者
前田 喜四雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.9-33, 1984

<I>M.australis, M.paululus</I>および<I>M.solomonensis</I>の3種における外部および頭骨計則値とそれらの相対比の若干について地理的変異を調べた。<I>M.australis</I>と<I>M.paululus</I>における下腿長および下腿長と前腕長との比, <I>australis</I>における頭骨の長さに関する計測値および脳函幅では雄が雌より大であった。一方, <I>M.australis</I>の頭骨全長に対する前腕長の比および頭骨基底全長に対する臼歯間幅の比では雌が雄より大きかった。<I>M.australis</I>の全形質と, 頭骨全長に対する乳様突起間幅の比を除いた<I>M.paululus</I>の全形質では, 地理的変異が明らかであった。<I>M.solomonensis</I>は他2種のいかなる個体群よりも大半の形質で有意に異った.<I>M.paululus</I>は頭骨と歯列の長さにおいて, 他2種のいかなる個体群よりも有意に小さかった。
著者
及川 希 松井 理生 平川 浩文
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.79-87, 2013-06-30
参考文献数
13

北海道中央部に位置する大麓山(標高1,460 m)のハイマツ帯において,エゾナキウサギの自動撮影調査を4年間に6回,6月から10月までの間に時期を変えて行った.得られた写真167枚の撮影時刻に基づいて日周活動を分析した.エゾナキウサギは昼夜ともに活動していたが,6回中5回の調査で,日中より夜間の方が活発で,秋にはこの傾向が顕著だった.季節による日周活動の違いは日中の高い気温による活動抑制効果では説明できなかった.従来の報告にあった朝夕二山型の活動リズムも確認されなかった.本種を含め,ナキウサギ属の研究は日中活動が主であるとの前提で行われてきたように思われるが,この前提は見直しが必要である.<br>
著者
橘 敏雄 上川 外茂次 城後 公典 山村 慶紹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.50-57, 1970

1966年の夏季, および66年より67年にかけての冬季にキュウシュウノウサギの日周活動に関する観察をおこない, いくつかの知見を得た。<BR>A個体 (雌成獣) の活動は夏, 冬ともに19時頃から開始され翌朝7~8時頃に終る夜行型を示した。また夏, 冬を問わず明方休息期へ移る際に激しく走り廻る行動が観察された。この原因は明らかではないが昔から伝えられている寝場に入る前の警戒行動ともみられる。<BR>B個体 (雌亜成) 獣の活動はA個体のような日周期性は示さなかったが, この原因は不明である。<BR>両個体の活動において温度, 照度などの微気象との関連性は特に認められなかった。<BR>採餌中は一定地に留まることはないと言われて来たが周囲に異常がない限り同位置にて採食しつづけた。<BR>人, 犬などの足音および枯葉などを踏む音に対しては異常な警戒を示したが, 自動車, 人声などの騒音に対しては特に警戒を示さなかった。<BR>1回の閉眼時間は1~3分程で1日のトータルにおいても20分程度と非常にわずかであった。<BR>毛づくろい洗顔行動は朝方および夕方の活動の開始と終了の前後に数多く観察された。
著者
吉田 洋 林 進 堀内 みどり 坪田 敏男 村瀬 哲磨 岡野 司 佐藤 美穂 山本 かおり
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-43, 2002-06-30
参考文献数
28
被引用文献数
3

本研究は,ニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus,以下ツキノワグマと略す)による針葉樹幹の摂食量と,他の食物の摂食量との関係ならびにツキノワグマの栄養状態の年次変動を把握することにより,クマハギ被害の発生原因を食物環境面から解明し,さらに被害防除に向けた施策を提案することを目的とした.ツキノワグマの糞内容物分析の結果,クマハギ被害の指標となる針葉樹幹の重量割合は,1998年より1999年および2000年の方が有意に高く(p<0.05),逆にツキノワグマの重要な食物種の一つであるウワミズザクラ(Prunus grayana)の果実の重量割合は,1999年および2000年より1998年の方が有意に高かった(p<0.05).また,ツキノワグマの血液学的検査の結果,1999年および2000年より1998年の方が,血中尿素濃度は低い傾向にあり,血中ヘモグロビン濃度は有意に高かった(p<0.05)ことより,1998年はツキノワグマの栄養状態がよかったと考えられる.以上のことから,クマハギ被害は,ツキノワグマの食物量が少なく低栄養の年に発生しやすく,ウワミズザクラの果実の豊凶が被害の発生の指標となる可能性が示唆された.したがって,クマハギ被害は,被害発生時期にツキノワグマの食物量を十分に確保する食物環境を整えることにより,その発生を抑えられる可能性があると考えられた.
著者
高田 靖司
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.40-53, 1979
被引用文献数
8

長野県中央山地にある, カモシカ特別保護区と旧扉入山辺休猟区において主に調査をした。1975年8月下旬から1977年12月初旬までに得られた, 135個のツキノワグマの糞の内容と採食活動痕を分析し, 6月中旬から12月初旬までの食性を明らかにすることができた。<BR>ツキノワグマは雑食性であるが, 植物性食物に強く依存している。6月から7月には動物性食物が重要であるが, 8月から10月には動物性食物とともに植物性食物に強く依存するようになり, 11月から12月には一層植物性食物に強く依存する。<BR>動物性食物の大半は昆虫類で占められ, アリ類 (Formicidae) , 特にアカヤマアリの成虫が重要である。次いでハチ類 (VespidaeとApidae) の成虫がよく利用された。アリ類は全期間に出現し, 最も基本的な動物性食物である。ハチ類は9月~12月まで出現した。哺乳類では, ノウサギとニホンカモシカが食べられたが, 出現頻度は低い。<BR>植物性食物では, 液果・核果類と堅果類が重要である。液果・核果類は, 8月から12月初旬まで出現し, 10月中旬までは重要な地位を占めるが, それ以後その地位を失う。堅果類は9月下旬から12月初旬まで出現し, この時期のツキノワグマにとって最も重要な食物である。液果・核果類では, アケビ類, 次いでタラノキが, 堅果類ではミズナラが最もよく利用された。<BR>この3年間ではミズナラに隔年結果現象がみられ, 1976年秋は不作であったが, 1977年の秋は豊作であった。この現象はツキノワグマの食性に影響し, 1976年にはミズナラがほとんど利用されなかったが, 1977年にはよく利用された。<BR>ツキノワグマを保護するためには, ミズナラを初め, 多様な構成樹種をもった広葉樹林を維持する必要がある。
著者
永田 幸志 岩岡 理樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.355-360, 2017

<p>丹沢山地の札掛地区(神奈川県愛甲郡清川村)において,継続的に実施されているニホンジカ(<i>Cervus nippon</i>)の生息密度調査の長期データを用いて,生息密度の経年変化と捕獲との関係を検討した.調査は,毎年冬期(12月)と春期(4月)に区画法により実施した.既報の2002年12月から2007年4月までのデータに,あらたに2007年12月から2015年4月までの調査結果を加え,連続する13年間について分析を行った.神奈川県の丹沢山地では2003年度からニホンジカ管理計画に基づく管理捕獲等の事業が実施されているが,本調査地においては2007年度以降に同管理捕獲が実施された.冬期,春期ともに,捕獲実施後の生息密度の平均値(冬期6.5頭/km<sup>2</sup>,春期3.3頭/km<sup>2</sup>)は,捕獲実施前の生息密度の平均値(冬期15.2頭/km<sup>2</sup>,春期11.0頭/km<sup>2</sup>)と比べて有意に低く,管理捕獲により,調査地に生息するニホンジカの個体数が減少したことが示唆された.</p>
著者
船越 公威 新井 あいか 永里 歩美 山下 啓 阿久根 太一 川路 貴代 岡田 滋 玉井 勘次
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.157-165, 2012 (Released:2013-02-06)
参考文献数
22
被引用文献数
1

鹿児島市で2009年に定着が確認されたフイリマングースHerpestes auropunctatusの食性と在来種への影響を把握するため,消化管内容物と糞を用いて食性分析を行った.分析した115頭のそれらから,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,昆虫類,多足類,甲殻類,植物の果実の破片が検出された.周年にわたる絶対出現頻度は,動物質では昆虫類と土壌動物の割合が高く,次いで爬虫類の割合が高かった.特に,昆虫類の絶対出現頻度は95%と非常に高く,昆虫類に強く依存していることが分かった.また,季節別の相対出現頻度をみると,冬季から春季にかけては,哺乳類や鳥類が摂食される割合が高くなっていた.これは,昆虫類や両生・爬虫類に加えて,哺乳類や鳥類も重要な餌資源になっていることを示している.また,幼獣は哺乳類や鳥類を摂食していなかった.今後は,駆除後の在来種の回復を把握するため,本調査地における被食動物相の推移を調査する必要がある.
著者
那波 昭義
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.109-113, 1971

耳介背面の斑紋はヒョウ亜科とネコ亜科では基本的に異っているようである。しかしネコ亜科内には少くとも2系統が見受けられ, ヒョウ亜科ほど単純でない。これに反して尾の斑紋には, 亜科による違いは認められない。
著者
山﨑 晃司 小坂井 千夏 釣賀 一二三 中川 恒祐 近藤 麻実
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.321-326, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22
被引用文献数
3

近年,ニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカ)やイノシシ(Sus scrofa)を対象としたわなにクマ類,ニホンカモシカ(Capricornis crispus),中型哺乳類等の動物が錯誤捕獲される事例が増加していることが想像される.国によるシカやイノシシの捕獲事業の推進,豚熱対策としてのイノシシの捕獲強化,知識や技術が不十分なわな捕獲従事者の増加,シカやイノシシの分布域の本州北部への拡大などにより錯誤捕獲が今後さらに増えることも懸念される.錯誤捕獲には,1)生態系(対象動物以外の種)へのインパクト,2)対象動物(シカ・イノシシ)の捕獲効率の低下,3)捕獲従事者や通行人等の安全上のリスク,4)行政コストの増加,5)捕獲従事者の捕獲意欲の低下,6)アニマルウェルフェア上の問題,といった6つの課題が挙げられる.シカ,イノシシの個体数抑制と,錯誤捕獲の低減の両立が喫緊の課題である.ボトムアップの対応として錯誤捕獲発生機序の解明と錯誤捕獲を減らすための取り組みが,またトップダウンの対応として速やかな実態把握のための統合的な情報収集システム構築と,そのための法的な整備が求められる.
著者
大場 孝裕
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.335-340, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
8
被引用文献数
3

ニホンジカ捕獲強化の政策に伴い,わなによる捕獲数が増え,捕獲に占める割合も大きくなっている.わなの種類ごとの捕獲数はほとんど集計されていないが,箱わなや囲いわなに比べて安価で,1人で設置できる足くくりわなの使用が多いと推測される.捕獲具ごとの捕獲数の集計は,今後の課題である.足くくりわなによる捕獲は,ワイヤーロープで足を締め付ける.動物がわなに掛かってから,殺処分や放獣するまでの経過時間が長いことも多く,個体の損傷,ストレスが多い,アニマルウェルフェア上問題のある捕獲方法である.また,足くくりわなは,獣道に隠して設置し,荷重により作動するため,ニホンジカ以外の動物,特に大型哺乳類のクマ類,ニホンカモシカ,イノシシの意図しない錯誤捕獲を避けられない.実態把握のため,錯誤捕獲の報告を求めても,少なくとも処罰の対象となる条件が明確化されないと,正確な報告は期待できない.足くくりわな捕獲に伴う損傷とストレスの軽減,錯誤捕獲回避のための技術的改良に加え,足くくりわなに依存しないニホンジカ個体数管理技術の開発が必要である.
著者
金子 之史 前田 喜四雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-21, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
39
被引用文献数
7

日本人の研究者による哺乳類の学名の記載とその学名を付与した模式標本の保管状況を把握することは,哺乳類学の基礎である分類学を確立するためには欠くことができない.しかし,日本の哺乳類研究者がいままでに記載発表した哺乳類の新種·新亜種などの学名と模式標本のリストは今泉(1962)を除いてなく,それも未完である.日本におけるこのような状況を改善するために,2000年までの日本人哺乳類研究者が記載した学名と出典文献のリストを作成した.このリストには “nom.nud.” などの無資格名も含んだ.結果として,適格名206のうち,模式標本が現在も保管されている学名は64(31.1%),模式標本が消失した学名は57(27.7%),および模式標本の所在が未調査(“N.V.”)の学名は85(41.3%)となった.以上の結果から,我々は動物学標本と文献を永久に保管できる国立の自然史博物館の設立を強く希望する.