著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.41-48, 2013-06-01 (Released:2018-05-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近年,人為的な要因による野生動物の感染症の発生が問題となっており,課題の1つとして人と野生動物の関わりがあげられる。本来,人が野生動物に餌を与える必要はないが,娯楽のための餌付けから保護を目的とした給餌まで様々な目的で野生動物への餌やりが行われている。一方で,餌やりによって特定の種が局地的に集合して行動生態の改変や生物多様性の低下が起こったり,感染症の発生リスクが高まったり,生態学的健康を人為的に損なうおそれがある。例として,国際的なツル越冬地の出水でナベヅルの高病原性鳥インフルエンザ(2010年冬),旭川でスズメのサルモネラ感染症(2008~2009年冬),北海道内でカラス類における鳥ポックスウイルス感染症(2006年以降)の集団発生が認められ,それぞれ給餌,餌台,ゴミという餌やりが関わっていると考えられる。餌やりによって集合した野生動物が家畜に感染症を拡散させるリスクも問題となっている。人,家畜および野生動物の生命を支える生態学的健康を守るため,人と野生動物の関わりと感染症について,学術整理とバイオセキュリティ対策が必要である。
著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.41-48, 2013
被引用文献数
1

<p> 近年,人為的な要因による野生動物の感染症の発生が問題となっており,課題の1つとして人と野生動物の関わりがあげられる。本来,人が野生動物に餌を与える必要はないが,娯楽のための餌付けから保護を目的とした給餌まで様々な目的で野生動物への餌やりが行われている。一方で,餌やりによって特定の種が局地的に集合して行動生態の改変や生物多様性の低下が起こったり,感染症の発生リスクが高まったり,生態学的健康を人為的に損なうおそれがある。例として,国際的なツル越冬地の出水でナベヅルの高病原性鳥インフルエンザ(2010年冬),旭川でスズメのサルモネラ感染症(2008~2009年冬),北海道内でカラス類における鳥ポックスウイルス感染症(2006年以降)の集団発生が認められ,それぞれ給餌,餌台,ゴミという餌やりが関わっていると考えられる。餌やりによって集合した野生動物が家畜に感染症を拡散させるリスクも問題となっている。人,家畜および野生動物の生命を支える生態学的健康を守るため,人と野生動物の関わりと感染症について,学術整理とバイオセキュリティ対策が必要である。</p>
著者
近藤 憲久 福井 大 倉野 翔史 黒澤 春樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-70, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
36

北海道網走郡大空町にある旧大成小学校体育館で,コウモリの出産哺育コロニーが発見された.本コロニーを形成する個体の捕獲を行い,外部形態を精査したところ,乳頭が2対あることからヒメヒナコウモリと同定した.また,8月以降にコロニー周辺で拾得された2個体のコウモリについても,外部並びに頭骨計測値からヒメヒナコウモリと同定した.5回にわたる捕獲調査の結果,本種は6月下旬~7月上旬に出産し,8月上旬には幼獣が飛翔を始めていた.本コロニーを形成する雌成獣は約60頭であった.8月以降は,成獣はほとんどいなくなり,幼獣が大部分(96%)を占めていた.飛翔時の音声構造は,FM-QCF型であり,ピーク周波数の平均値は26.1 kHzであったが,FM成分とQCF成分の比率は飛翔環境によって大きく変化していた.ヒメヒナコウモリのねぐらおよび出産哺育個体群は国内初記録であり,今回の発見により,本種の国内における繁殖・定着が明らかになった.
著者
高見 一利 渡邊 有希子 坪田 敏男 福井 大祐 大沼 学 山本 麻衣 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.33-42, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
被引用文献数
1

2010年度に,日本各地で野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認され大きな問題となるなか,発生地や調査研究機関など各所で体制作りが進められた。日本野生動物医学会も,野生のツルへの感染が確認された鹿児島県に専門家の派遣を行い現場作業に貢献した。これらの取り組みから一定の成果が得られ,情報収集や体制構築の検討も進んだ一方で,様々な課題や問題点も明らかとなった。一連の活動や検討を踏まえた結果,野生動物感染症対策を効果的に促進するためには,感染症の監視と制御に役立つ体制を構築することが必要であると考えられた。従って,本学会は体制整備として,以下の取り組みを進めることを提言する。1.野生動物感染症に関わる法律の整備2.野生動物感染症に関わる省庁間の連携3.野生動物感染症に関わる国立研究機関の設立4.野生動物感染症に関わる早期警報システムの構築5.野生動物感染症に関わる研究ネットワークの構築6.野生動物感染症に関わる教育環境の整備この提言は,本学会の野生動物感染症に対する方向性が,生態学的健康の維持にあることを示すものである。
著者
増田 圭祐 松井 孝典 福井 大 福井 健一 町村 尚
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-33, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
55

群馬県みなかみ町にて捕獲した3科7属11種のコウモリ類(アブラコウモリPipistrellus abramus,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,ヒメホオヒゲコウモリMyotis ikonnikovi,カグヤコウモリMyotis frater,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,テングコウモリMurina hilgendorfi,コテングコウモリMurina ussuriensis,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,ヒナコウモリVespertilio sinensis,ニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontis)のエコーロケーションコールから,コウモリ類専用の音声解析ソフトウェアSonoBat 3.1.6pを用いて,コールの開始・終了時の周波数や持続時間をはじめとする75種類の特徴量を自動抽出し,Random ForestおよびSupport Vector Machineの2種類の機械学習法を階層的に組合せた識別器を構築し,種判別を試みた.その結果,6,348のコールに対して10×10分割の入れ子交差検証で評価したところ,属レベルで96.3%(SD 0.06),種レベルで94.0%(SD 0.06)の正答率で判別ができた.また,大阪府吹田市北部の屋外で収録したエコーロケーションコールに対して,構築した識別器を適用してコウモリ類の種を推定し,活動の分布を地図化するプロセスを開発した.これらの結果をもとに,考察ではデータの追加に伴い識別器の精度が向上する可能性があることと種内変異が識別精度に大きな影響を与えることを議論した.フィールドへの適用では,識別器でコウモリ類の空間利用特性を把握し,地理情報と連携させることの有用性を議論した.最後に,エコーロケーションコールに対して機械学習法を用いた種判別と音声モニタリングをする際の今後の課題について述べた.
著者
河合 久仁子 福井 大 松村 澄子 赤坂 卓美 向山 満 Armstrong Kyle 佐々木 尚子 Hill David A. 安室 歩美
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.239-253, 2007 (Released:2008-01-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

長崎県対馬市において,コウモリ類の捕獲調査を2003年から2006年にかけて行った.その結果,26カ所のねぐら情報を得ることができ,2科4属6種(コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,クロアカコウモリMyotis formosus,およびコテングコウモリMurina ussuriensis)のべ267個体のコウモリ類を捕獲,あるいは拾得した.これらのうち,クロアカコウモリは38年ぶりに生息が確認された.
著者
小薮 大輔 小林 耕太 福井 大 飛龍 志津子 目黒 史也
出版者
筑波大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2022-10-07

哺乳類の頭蓋骨は種に関わらず同じ数のパーツ(骨要素)によって構成されていることから,進化上極めて保守的な構造であるとされている.しかし応募者は他の哺乳類には見られない新奇な骨が一部の動物の耳にあることを発見した.この骨は従来の比較解剖学の体系上どこにも当てはまらない全く未知の骨である.予察的研究からこの骨は他の哺乳類では舌器の一部に当たる部位が転じて化骨したものであるという仮説を立てている.本仮説の検証を目指し,本研究ではどの部位が分化してこの骨が形成されるのか,どういった遺伝子とゲノム基盤が関わっているのかを解明する.
著者
大野 晃治 福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-16, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
18

ゴマフアザラシ(Phoca largha),24歳齢,雌が慢性の吐出,嘔吐,食欲不振を示した。ミダゾラムとブトルファノールによる鎮静下で造影CT検査を行ったところ,食道と肝臓およびその周囲に多発する腫瘤が認められ,剖検と病理組織検査により,肝臓と膵臓への転移を伴う食道原発の扁平上皮癌(SCC)と診断した。鰭脚類の造影CT検査の報告は少なく,本症例は食道SCCの生前診断につなげるための貴重な報告である。
著者
福井大学附属図書館
出版者
福井大学附属図書館
雑誌
福井大学附属図書館報 図書館forum
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-19, 2022-03

●図書館長インタビュー…横井正信…1●ここが変わった! 附属図書館ホームページ…3●附属図書館の貴重資料…5●福井大学附属図書館所蔵「小島家文書」を読む(9) 福井大学所蔵の貴重資料、「小島家文書」を知っていますか?…長谷川 裕子…7●ようこそ、本の世界へ(5) 伊崎文庫の紹介 ―太宰治研究の新たな拠点として―-…膽吹 覚… 9●BOOK HUNTING…11●図書館withコロナ2021…13●TOPICS with 学生・教職員・部局・学外…15●寄贈に関する報告…18●読者プレゼント 他…19
著者
小薮 大輔 飛龍 志津子 小林 耕太 東山 大毅 福井 大
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本年度はこれまでベトナムで収集したコウモリ類の胎子標本を発生ステージ表を参照してステージの同定を行った。また収集した標本はPFA固定、カルノア固定、エタノール固定をそれぞれ行った。それらをマイクロCTによる三次元的非破壊撮影を行ったのち、パラフィン包埋標本・凍結標本を順次作成し、アセチレッテドチューブリンを用いた神経系の免疫組織化学染色、ヘマトキシリン・エオシンを用いた筋系・硬骨・軟骨の組織染色を行った。また、Ptch1, Ihh, Runx2, Sox9, Aggrecan 各遺伝子のRNAプローブの作成を進め、その合成に成功した。予察的にこれらのRNAプローブによるin situ ハイブリダイゼーション実験を開始したが、高品質の染色結果を得ることに成功した。新年度以降は本格的にこれらを用いてコウモリ類における舌骨発生に関連する遺伝子の発現パターンの把握を目指す。また、野外においてコウモリ類の超音波発生および聴取の行動を三次元動画記録、音声ソノグラム記録を行い、コウモリ類のエコーロケーション行動の把握につとめた。さらに、野外で捕獲したコウモリ類の成体に対し、脳幹上丘に刺激用双極電極を挿入して刺激に対する超音波発声および耳舌骨を含む外耳の動きを計測した。刺激部位に逆行性神経トレーサ・フロオロゴールドを注入し、刺激量および刺激部位を変量として、外耳の動き、発声タイミング、発声の音響特性が脳幹上丘内でどのように表象されているかの把握を進めた。また本年度はタイ・プーケットで行われたコウモリ類国際研究会議に参加し、本課題に大きく関連した研究発表を行うとともに、各国研究者と討議を行った。
著者
福井 大祐
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.265-269, 2020-12-25 (Released:2020-12-17)
参考文献数
38
被引用文献数
1

The emerging coronavirus pandemic has severe impacts on One Health globally. Diseases, zoonoses, and biosecurity are important emerging issues for species conservation at the world zoos. Zoos emphasize public health to protect visitors and zoo staff, and animal hygiene to manage the good health. There is no border between on a zoo ground and neighboring natural environment. Therefore, zoo biosecurity including preventive medicine protocols to protect the animals from infectious diseases transmitted by wildlife are routinely conducted. Infectious diseases of captive animals should be prevented to spread outside. Investigation of rescued wildlife and necropsies of the carcasses found on zoo grounds must be useful monitoring tools of wildlife diseases and provide a baseline measure of the risk by local wildlife. A sparrow mass mortality caused by emerging salmonellosis in Hokkaido, 2008–2009. The initial case found dead on a zoo ground was investigated as a preventive medicine program to protect the captive animals and biosecurity.Zoos can play an important role as a wildlife health center to protect One Health for human, animal and ecosystem based on conservation medicine. Zoos can work as wildlife disease information networks and an early warning system by monitoring wildlife diseases and conducting biosecurity countermeasures.
著者
近藤 憲久 福井 大 倉野 翔史 黒澤 春樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-70, 2012-06-30
参考文献数
36
被引用文献数
1

北海道網走郡大空町にある旧大成小学校体育館で,コウモリの出産哺育コロニーが発見された.本コロニーを形成する個体の捕獲を行い,外部形態を精査したところ,乳頭が2対あることからヒメヒナコウモリと同定した.また,8月以降にコロニー周辺で拾得された2個体のコウモリについても,外部並びに頭骨計測値からヒメヒナコウモリと同定した.5回にわたる捕獲調査の結果,本種は6月下旬~7月上旬に出産し,8月上旬には幼獣が飛翔を始めていた.本コロニーを形成する雌成獣は約60頭であった.8月以降は,成獣はほとんどいなくなり,幼獣が大部分(96%)を占めていた.飛翔時の音声構造は,FM-QCF型であり,ピーク周波数の平均値は26.1 kHzであったが,FM成分とQCF成分の比率は飛翔環境によって大きく変化していた.ヒメヒナコウモリのねぐらおよび出産哺育個体群は国内初記録であり,今回の発見により,本種の国内における繁殖・定着が明らかになった.<br>
著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.105-112, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
44

動物園が飼育展示動物を適切に健康管理する上で,動物衛生・公衆衛生対策は重要課題である。その対象は,飼育動物のみならず,家畜,野生動物およびヒトに共通に感染する病原体に及ぶ。動物園では,自然界との完全な境界はなく,感染症の園外からの侵入防止対策や予防医学プロトコールを含むバイオセキュリティ対策が日々実践されている。例えば,北米の動物園の多くでウエストナイルウイルスの侵入以来,カのサーベイランスや防除は一般的な対策となっている。一方,飼育動物の感染症を自然界へ拡散させない注意も必要である。また,動物園の敷地(zoo ground)内で野生動物が保護されたり,死体が見つかったりすることがあるが,それらの検索はその地域の野生動物感染症のモニタリングとリスクマネジメントにつながり,ひいては基本的な予防医学プロトコールの一部となる。実際に,2008-2009年冬に旭川周辺で発生したスズメ(Passer montanus)の集団死事例では,初発例が一動物園の敷地内で死亡した野生スズメ1羽で,その検索から始まったサーベイランスにより,死因がサルモネラ症の流行によるものと究明されている。動物園は,今後,バイオセキュリティ対策と野生動物感染症のモニタリング機能のさらなる強化を目指し,ヒト,家畜および野生動物の健康を支える生態学的健康(Ecological Health)を診断および維持する保全医学的機能を備えた野生動物保全センターとしての発展が期待される。
著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-10, 2006
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

地球上の美しい生物を次世代のこどもたちに引き継ぐため,早急に生息地の保全と回復を進めなければならない。同時に,動物園水族館は,国際的な協働の下,希少野生動物の生息域外保全および生物多様性保全への長期的な貢献を目指して活動しなければならない。遺伝的多様性を保持した飼育個体群の維持のため,人工繁殖技術の確立と生殖子などの細胞保存は重要な課題である。北海道内の5つの動物園と北海道大学は,アムールトラとヒグマの人工繁殖を目指した共同研究を進めてきた。「環境試料タイムカプセル化事業」の一環として,絶滅危倶種の組織採取を行い,国立環境研究所で細胞培養および凍結保存が行われている。動物園で飼育する鳥類の初期発生卵から始原生殖細胞(PGCs)を採取し,凍結保存も行っている。さらに,PGCsの異種間移植を用いて生殖巣キメラ個体を作出し,将来的に希少鳥類の増殖に応用し得る発生工学的手法の研究も進めている。人工繁殖や細胞保存は,それのみで野生動物の保全に結びつくものではない。これらの活動を社会に広く「伝える」ことを通して,野生動物の現状を知る機会を与えることも重要である。本稿では,希少野生動物の種の保存を目的とした人工繁殖および細胞保存に関する研究について紹介するとともに,動物園水族館が野生動物と地球の健康を守るためにできることを論じる。