著者
今泉 吉典
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.127-136, 1975-03-30 (Released:2010-08-25)
参考文献数
13

Lutronectes whiteleyi GRAY, 1867, based on two young specimens collected from Hakodate, Hokkaido, Japan, seems to be extinct in the native land, and no specimens have been known in Japan.While studying the river otter of Japan, the author was attracted his attention by an adult rough skeleton of the subgenus Lutra in the mammal collection of the National Science Museum, Tokyo. Unfortunately the locality of the specimen is uncertain, but there is little doubt that it was collected at the beginning of the Mei ji era, nearly 100 years ago, in the territory of Japan at that time, that is Hondo or Hokkaido. As the specimen is evidently different from the otter of Hondo, the locality is inevitably estimated as Hokkaido.This estimation coincides with the result of identification of the specimen as Lutra whiteleyi based on strong similarities to OGNEV's adult specimen from Nemuro, Hokkaido, and dissimilarities to the most of the named forms of the subgenus Lutra, in several cranial measurements.If this identification is correct, whiteleyi seems to be a well established taxon of Lutra lutra group characterized by relatively narrow mastoid breadth and shorter muzzle (Table 6, F and G) .An opinion that whiteleyi covers whole populations of the Japanese otter, proposed by Pococx (1931), the present author (1949), etc., is not correct. L. whiteleyi must be confined to the Hokkaido population.
著者
土屋 公幸
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.101-106, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 高柳 敦 日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.43-55, 2008-06-30
参考文献数
22
被引用文献数
4

日本に生息する2種のクマ類個体群の保護管理の現状と課題を明らかにするため,クマの生息する35都道府県を対象に,保護管理施策に関する聞き取り調査を2007年7月から9月にかけて実施した.調査実施時点で,11県が特定計画に基づいた施策を実施しており,9道県が特定計画の策定中あるいは策定予定と回答した.特定計画によらない任意計画に基づく施策を実施していたのは5道県であった.12都県はツキノワグマに関する何らかの管理計画,指針などを持たなかった.特定計画及び任意計画を実施している道府県の主な管理目標として,1)個体群の存続と絶滅回避,2)人身被害の防止,及び3)経済被害軽減の3項目が挙げられた.数値目標を掲げていた10県のうち8県が捕獲上限数を,2県が確保すべき生息数を決めていた.特定計画,任意計画の道府県を合わせ,捕獲個体試料分析,出没・被害調査,堅果豊凶調査,捕獲報告などが主要なモニタリング項目として挙げられた.また,個体数,被害防止,放獣,生息地,普及啓発などが主要な管理事業として挙げられた.地域個体群を単位として複数の府県が連携した保護管理計画は,西中国3県のみで実施されていた.被害に関する数値目標の設定とそのモニタリング,個体群動向のモニタリング手法の確立,地域個体群を単位としたモニタリング体制の確立が,日本のクマ類の保護管理上の最大の課題であると考えられた.<br>
著者
長光 郁実 金子 弥生
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.85-89, 2017

<p>東京都市域の微小面積を利用する食肉目動物の生息状況を明らかにするため,東京農工大学府中キャンパス内の3ヶ所の樹林地において,2014年7月12日から9月3日の約2ヶ月間に,自動撮影法による調査を行った.タヌキ(<i>Nyctereutes procyonoides</i>),ニホンアナグマ(<i>Meles anakuma</i>),ハクビシン(<i>Paguma larvata</i>)の3種の野生中型食肉目動物の生息が確認された.本キャンパスにおけるニホンアナグマの確認は本調査が初めてであった.タヌキでは幼獣が撮影されたことから,繁殖が行われたと考えられた.</p>
著者
増田 圭祐 松井 孝典 福井 大 福井 健一 町村 尚
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-33, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
55

群馬県みなかみ町にて捕獲した3科7属11種のコウモリ類(アブラコウモリPipistrellus abramus,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,ヒメホオヒゲコウモリMyotis ikonnikovi,カグヤコウモリMyotis frater,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,テングコウモリMurina hilgendorfi,コテングコウモリMurina ussuriensis,キクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinum,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,ヒナコウモリVespertilio sinensis,ニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontis)のエコーロケーションコールから,コウモリ類専用の音声解析ソフトウェアSonoBat 3.1.6pを用いて,コールの開始・終了時の周波数や持続時間をはじめとする75種類の特徴量を自動抽出し,Random ForestおよびSupport Vector Machineの2種類の機械学習法を階層的に組合せた識別器を構築し,種判別を試みた.その結果,6,348のコールに対して10×10分割の入れ子交差検証で評価したところ,属レベルで96.3%(SD 0.06),種レベルで94.0%(SD 0.06)の正答率で判別ができた.また,大阪府吹田市北部の屋外で収録したエコーロケーションコールに対して,構築した識別器を適用してコウモリ類の種を推定し,活動の分布を地図化するプロセスを開発した.これらの結果をもとに,考察ではデータの追加に伴い識別器の精度が向上する可能性があることと種内変異が識別精度に大きな影響を与えることを議論した.フィールドへの適用では,識別器でコウモリ類の空間利用特性を把握し,地理情報と連携させることの有用性を議論した.最後に,エコーロケーションコールに対して機械学習法を用いた種判別と音声モニタリングをする際の今後の課題について述べた.
著者
羽根田 貴行 小林 万里 田村 善太郎 高田 清志 小川 泉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.35-43, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
17

厚岸地域大黒島のゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の上陸個体数は,近年増加傾向にある.それに伴い,大黒島に隣接する厚岸湾での漁業被害が深刻化している.しかしながら,被害物は痕跡が残り難いことから,実際に本種がどれくらいの漁獲物を捕食しているのか,漁業への影響の程度は明らかではない.本研究では,厚岸湾を利用するゼニガタアザラシの漁業への影響の程度を評価することを最終目標とし,いつ,どのような個体が,どれくらいの頻度で厚岸湾を利用しているかを明らかにすることを目的とした.厚岸湾で2個体に衛星発信機を装着したところ,両個体とも,厚岸湾の利用場所は湾内の小定置網と重なっており,極めて浅く短い潜水を行っていることが明らかになった.また,初春以降,両個体とも厚岸湾の利用が見られなくなり,それぞれ厚岸湾外と釧路へと移動した.両個体の移動時期は厚岸湾の小定置網漁が終わる時期とも一致していたことから,厚岸湾で両個体が餌としていた魚の分布が変化したことによって,ゼニガタアザラシも餌場を変えたと考えられた.これらの結果から,ゼニガタアザラシにとって厚岸湾は,初春に,成獣個体だけでなく採餌経験が未熟な未成熟個体にも,上陸場から近く水深が浅いため長時間滞在できる餌場であると考えられた.初春を過ぎるとゼニガタアザラシは厚岸湾から別の場所への餌場の変化がみられ,成獣はより上陸場に近く水深の深い餌場を利用し,幼獣は広範囲に移動しながら餌場の探索を長時間行なっていた.これらの違いは成獣と幼獣で餌場の学習や採餌経験の豊富さから発生しているものと考えられた.
著者
出口 善隆 村山 恭太郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-41, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
20

岩手県盛岡市で新規に分布域が拡大したニホンジカ(Cervus nippon)個体群の生息地利用と性別割合を2年にわたり赤外線センサー付きカメラを用いて調べた.時間帯毎の撮影頭数には有意な偏りがあり,林地では日の出と日没前後に撮影頭数が増加したのに対し,果樹園では日没前後と深夜に撮影頭数が増加した.また,調査期間を前期(2011年12月~2012年11月)と後期(2012年12月~2013年11月)に分け,ニホンジカの撮影頻度と性別割合を比較したところ,後期には撮影頻度が2倍に増加し,雌の撮影割合が増加した.
著者
佐藤 喜和 湯浅 卓
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.101-107, 2008-06-30
参考文献数
46
被引用文献数
12

ヘア・トラップによる非侵襲性サンプリングおよび遺伝マーカーを用いた個体識別による捕獲再捕獲法に基づく個体数推定がクマ類を対象に広く実施されるようになり,日本でも各地でこの手法の適用に向けた試行錯誤が進められている.この方法には,動物を捕獲する必要がない,捕獲を伴う方法よりも広い範囲でサンプリングが実施できる,生け捕りに比べ偏りのないサンプリングが期待できる,遺伝マーカーによる標識であるため消失する心配がないなどの利点がある.このように理論的には高い可能性を秘めた方法であるが,方法の全体像を理解することなく安易に導入しても,信頼できる個体数は推定できない.日本の実情に,より適した方法論を再検討して行く必要がある.そこでヘア・トラップを用いた個体数推定法を行うための手順,すなわちトラップの構造,調査地の選定とトラップの配置,サンプリング,DNA分析による個体識別,および個体数推定に用いるモデルについてそれぞれ整理し,注意すべき点とともにまとめた.<br>
著者
山谷 清
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4-6, pp.121-124, 1969-12-30 (Released:2015-05-19)

北海道産エゾリスのオス1頭メス3頭をもとにして,9回の繁殖記録を得た(第2表)。これによると,交尾から分娩まで(妊娠期間)は39日(2例),1腹子数は2~6頭,平均3.9頭(9例)であった。生後57日目に1腹の子がすべて巣からはなれた(1例)。
著者
須田 知樹 森田 淳一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.231-241, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
27

本研究は,アカネズミ(Apodemus speciosus),ヒメネズミ(Apodemus argenteus),ハタネズミ(Microtus montebelli)の3種が混在する環境下において,正準判別分析を用いた足跡法による種の識別可否を検討した.捕獲した野生個体を飼育して得た足跡では,アカネズミは前足,後足どちらの足跡を用いても95%前後の識別精度が得られ,ハタネズミにおいては前足では85%,後足では90%以上の識別精度が得られた.しかし,ヒメネズミにおいては前足では20%,後足を用いても60%程度の識別精度しか得られず,前足では65%弱,後足では40%弱がハタネズミに誤判別された.さらに,2009年に栃木県奥日光地域において,アカネズミ,ヒメネズミ,ハタネズミの3種に関して,足跡法により得た足跡をこの正準判別分析を用いて種を識別して算出した足跡数と,捕獲法により得た結果を比較したところ,足跡法と捕獲法の結果の間にハタネズミにおいては有意な相関関係が見られたが,アカネズミとヒメネズミにおいては,有意な相関関係は見られなかった.足跡法は直接的に密度指標に用いることはできないが,費用対効果を考えれば,価値ある手法と言えるだろう.