著者
高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.337-347, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
49
被引用文献数
4

テンMartes melampusが利用する果実の特徴を理解するために,テンの食性に関する15編の論文を通覧したところ,テンの糞から97種と11属の種子が検出されていることが確認された.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹3種の種子を含む89種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシHovenia dulcisの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.そのほかの8種は乾果で,袋果が1種(コブシMagnolia kobus),蒴果が7種であった.蒴果7種のうちマユミEuonymus hamiltonianusとツルウメモドキCelastrus orbiculatusは種子が多肉化する.それ以外の蒴果にはウルシ科の3種とカラスザンショウZanthoxylum ailanthoides,ヤブツバキCamellia japonicaがあった.ウルシ科3種は脂質に富み,栄養価が高い.ヤブツバキは種子が脂質に富む.果実サイズは小型(直径<10 mm)が70種(72.2%)であり,色は目立つものが76種(78.4%)で小さく目立つ鳥類散布果実がテンによく食べられていることがわかった.「大きく目立つ」果実は8種あり,このうち出現頻度が高かったのはアケビ属であった.鳥類散布に典型的な「小さく目立つ」果実と対照的な「大きく目立たない」な果実は3種あり,マタタビとケンポナシの2種は出現頻度も高かった.生育型は低木が41種,高木が31種,「つる」が15種,その他の草本が9種だった.これらが植生に占める面積を考えれば,「つる」は偏って多いと考えられた.生育地は林縁が20種,開放環境が36種,森林を含む「その他」が41種であった.こうしたことを総合すると,テンが利用する果実は鳥類散布の多肉果とともに,サルナシ,ケンポナシなど大きく目立たず,匂いで哺乳類を誘引するタイプのものも多いことが特徴的であることがわかった.
著者
望月 翔太
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.295-302, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
39

野生動物の生息地を評価することは,対象動物種の生態を解明し,生息地を保全するうえで重要である.この時,動物がどのような資源を選択し,どのように分布するのかを評価する必要ある.動物の生息地選択は,生息地を構成する景観構造に対し,動物がどのように応答するかという意思決定プロセスの結果である.また,生息地選択では,様々な時間的・空間的スケールを定義する必要がある.本稿では,野生動物の生息地評価における空間スケールの重要性について,これまでの知見を整理する.まず,先行研究における空間スケール(調査範囲と分解能,バッファサイズ)を考慮した事例を整理し,次に,著者らがニホンザル(Macaca fuscata)を対象に研究してきた生息地選択におけるスケール依存性について紹介する.農作物被害は,ニホンザルがどのような環境を選択したかという意思決定プロセスの結果である.ここでは,100 m~2,500 mのバッファサイズで計算した環境要因と農作物被害との関係を解析した.その結果,農作物被害と関係する環境要因は,バッファサイズの大きさによって変化することがわかった.つまり,被害管理を行う際,どの程度の空間内で対策を実施するかによって,同じ対策でも効果が異なる可能性があることを示唆した.さらに,群れごとに生息地選択モデルにおける最適なバッファサイズが異なっていた.これらの結果を踏まえ,野生動物管理におけるスケール設定の重要性について推察した.

1 0 0 0 OA 追悼文

出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.87-95, 2021 (Released:2021-03-10)
参考文献数
73
著者
浅田 正彦
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.207-218, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
48
被引用文献数
2

千葉県内でアライグマ(Procyon lotor)の高密度地域において行われた捕獲記録を用い,除去法計算過程を状態空間モデルとして構成した階層ベイズモデルによる個体数推定(ベイズ除去法)を行うとともに,CPUEから生息密度へ換算する係数の推定を行った.また,この係数を用い,千葉県内の2012年度の個体数推定を行った.捕獲は,千葉県いすみ市塩田川流域(35.1 km2)において,2012年6月22日~2013年3月23日に100台の箱ワナ(平均近傍距離301 m)を用いて実施された.捕獲の結果,オス成獣53頭,メス成獣29頭,幼獣55頭の計137頭が捕獲された.ベイズ除去法による推定の結果,捕獲開始前の生息数はオス成獣が89頭,メス成獣が103頭,幼獣が130頭,計322頭と推定された.捕獲期間の3か月間で,メス成獣および幼獣の76%以上を除去することができたが,オス成獣は生息密度を維持しており,捕獲開始直後に優位オスが除去されたのち,隣接地域からの放浪個体が移入することが推測された.
著者
金子 之史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.289-331, 2018 (Released:2019-01-30)
参考文献数
127

第二次大戦後に「日本哺乳動物学会」(1949年発足)と「哺乳類研究グループ」(1963年発足)2組織が,1987年に合併して「日本哺乳類学会」を誕生させた.本稿はこの2組織が発足するまでの経緯と発足から合併までの経緯を,おもに文献情報に基づいて描写した.その結果,各2組織の前駆体はそれぞれ第二次世界大戦の前(1923年)と後(1955年)という時期を異にして「日本動物学会」(1923年設立)から派生したと考えられた.歴史的な経過に付随して出現したいくつかの事象の提示とそれに関する話題提供をおこなった.
著者
和田 一雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.117-127, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
56
被引用文献数
2

日本哺乳類学会の前身の一つである哺乳類研究グループは,1958年からネズミ研究グループに参加した大学院生や助手を含んだ若者達に端を発して1963年に結成され,自由に発想し,そして相互批判することによって発展した.同グループは,第二次世界大戦後,特に1958年以降,各時期の日本社会における社会的,政治的事象の影響を受けながら,ネズミ研究グループの諸先輩による助言や忠告を得て力を蓄えた.哺乳類研究グループでは,毎年行われたシンポジュウム,自由集会,動物相の記載,入門書作成関係の議論などを通して哺乳類の系統進化についての活発な議論が行われた.そして,1983年に行った日中哺乳類シンポジュウムを通して日本と中国の研究者相互の交流発展をもたらした.1980年代には会員が激増し,同グループに求める期待が多様化し,意見もさまざまに変化した.学会運営上の実務的な理由で哺乳類研究グループを日本哺乳動物学会と合併させるべきだという意見が先行し,1987年に日本哺乳類学会に合併・吸収されたが,それでも哺乳類研究グループの特徴が消失したわけではない.それ故ここでは同グループの創立や成長の過程を吟味し,それ故ここでは日本哺乳類学会の中で役立つ可能性を有する特徴はないかを検討した.
著者
鈴木 圭 柳川 久
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.315-319, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
30
被引用文献数
1

筆者らは2010年12月から2011年1月にかけて,東京都と神奈川県の県境である多摩川河川敷で,越冬する6個体のトラフズクAsio otusのペリットを14個採取したので,その内容物について報告する.本種が越冬したのは市街地の河川敷で,周囲は野球やラグビーなどのグラウンドになっていた.ペリットの内容物は,哺乳類ではハタネズミが2個体,ハツカネズミが21個体,ドブネズミが2個体およびアブラコウモリが6個体で,鳥類も確認されたが種および個体数は不明であった.本種は市街地や人工建造物に依存する小型哺乳類を中心に捕食していた.アブラコウモリについては,関東地方における越冬期のトラフズクの餌資源としては初記録であった.
著者
本川 雅治
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.93-100, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
37
被引用文献数
2
著者
阿部 永
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.311-313, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
7
被引用文献数
2

カワネズミChimarrogale platycephalaの分布域のほぼ全域から集めた139個体の胃内容分析を行い各餌種の出現頻度を調べた.カゲロウ幼虫(84.2%)やカワゲラ幼虫(37.4%)を含む水生昆虫が最も重要な餌種であった.魚類の出現頻度(10.8%)は水生昆虫に比して著しく少なかった.しかし,個々の餌種の生物量を考慮した場合,魚類もカワネズミにとっては重要な餌であった.
著者
柏木 健司
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.221-238, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
66

1900年代前半(1900~1945年)の黒部峡谷における哺乳類相について,登山家による山行記録を用いて情報を整理した.当時の黒部峡谷流域で,イノシシSus scrofa,ニホンカモシカCapricornis crispus,ツキノワグマUrsus thibetanus,ニホンザルMacaca fuscata,ニホンテンMartes melampus,タヌキNyctereutes procyonoidesないしアナグマMeles anakuma,ニホンノウサギLepus brachyurus,ニホンリスSciurus lis,ムササビPetaurista leucogenys,翼手類の一種の記録がみられる.当時の主たる狩猟対象はツキノワグマとニホンカモシカであり,その他にニホンザル,ニホンリス,ムササビ,タヌキないしアナグマなども対象とされていた.1900年代初頭におけるイノシシの確実な記録として,黒部峡谷の最下流部に位置し,現在は宇奈月ダムのダム湖に沈んでいる柳河原が挙げられる.山行記録中の哺乳類情報には,日時と場所を伴う観察記録が多く含まれる.さらに当時,登山家が雇用した山案内人は,猟師や釣り師を生業としていたことから,登山家に哺乳類や狩猟に関する多くの情報を伝え,登山家は積極的にそれら伝聞を文章として残した.山行記録中に記されている哺乳類は,目につき易く狩猟対象ともなっている中・大型哺乳類に限定されている.一方,1900年代前半の黒部峡谷の哺乳類相について,研究者による研究報告は極めて限定的である.登山家の記した山行記録は,1900年代前半の中・大型哺乳類相の情報源として極めて有用である.
著者
千代島 蒔人 大竹 崇寛 渡邊 篤 出口 善隆
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.225-231, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
24

To determine factors associated with the selection of rooting sites by wild boar (Sus scrofa) during winter snowfall, we conducted a snow-track census from January 2020 to February 2021 in Shizukuishi Town, Iwate Prefecture, Japan. We also collected and analyzed fresh boar feces during the study period. A generalized linear model was applied using the presence and absence of rooting tracks as the response variable; and forest type, snow depth on the survey date, and year as the explanatory variables. The best model, which used Akaike’s information criterion, included the forest type and snow depth on the survey date. The positive effect of broad-leaved mixed forest dominated by Quercus serrata and Q. crispula was statistically significant. In addition, acorns were frequently found and occupied 78.5% (mean proportion in total contents) of the sampled feces in 2020, when the snow depth range was 30–40 cm. Our findings indicate that wild boars prefer broad-leaved forests with less than 40 cm of snow depth, where acorns might be available. The positive effect of Cryptomeria japonica plantations and the negative effect of snow depth also showed statistical significance. These results indicate that wild boars selectively used evergreen coniferous forests to avoid deep snow and for easy rooting.