- 著者
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神山 明
- 出版者
- 日本図学会
- 雑誌
- 図学研究 (ISSN:03875512)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.3, pp.15-20, 2006-09-01
- 参考文献数
- 6
歌川広重の「東都名所」と題される揃い物は, 佳作が多い名品として知られている.その中でも「吉原仲之町夜桜」は傑作として評価が高い。美術作品としての総合的な評価とは別に, この作品に描かれた空間には, 同シリーズの他の作品とは異質な印象が強く感じられる.それは, 同時代の絵画の空間表現とは異なる, より近代の視覚, あるいは近代の絵画に近い, 現実の視覚体験に近い空間感である.その印象はどこから生まれているのかを考察することが, 本論の主題である。そのため, 透視図としての画面の分析, 投影法の観点からの他の作品との比較, 画面の色彩等についての考察を行った.その結果, 本作品は広重の作品の中では数少ない2点透視図の形式を持ち, 消失点の設定に独特のものがあることがわかった.また画面の構図や色彩の使い方の分析を行い, 表現された空間に, 近代から現代の写真や絵画に通じる現実感があることの背景を考察した.