著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Supplement1, pp.145-150, 2007 (Released:2010-08-25)
参考文献数
4

彫刻の古典的模刻技法に「星取り法」と呼ばれる方法がある。古代ギリシャに原理的な起源を持ち、複雑な人物像を、大理石から写実的に彫り出すために発達した、機械的転写の技法である。だが、彫刻家の創意はこの技法を用いながらも、複製だけでなく同形のオリジナル作品を作り出すことが出来る。そこには形と質という二つの形態の現れ方への重心の移動が働く。したがって、この技法が模刻技法である所以の解明は、芸術作品の複製とオリジナルという造形的な問題の構造を明らかにする手掛かりとなる。その際有効なのが、一切の機械的手法に依らない「直彫り法」との対比であり、感覚と形態の間に介在するラインの感覚の考察である。「星取り法」による形状の固定作用を図の固定的性格から説明し、作品のオリジナル性については、「直彫り法」に見られるライン感覚のダイナミズムに根拠を求めてみた。
著者
朝倉 恵美 面出 和子
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.11-18, 2013 (Released:2014-12-01)
参考文献数
14

受胎告知は,大天使ガブリエルがマリアに,主によるイエスの懐妊を告知する新約聖書中の教義である.しかし,受胎告知図は,典拠に具体的で詳細な説明がなかったため,画家によって様々に解釈され,創作されてきた.本研究では,中世から近代までに描かれた多くの《受胎告知》のうち,絵画を213点収集し,《受胎告知》における空間表現を年代別,地域別に分類した.さらに,それらの絵画空間を図学的に考察した.その結果,地域,時代によって表現は変化しており、ルネサンス以降のイタリアでは, アルベルティの理論の影響が大きかったと考えられる.また,一点透視図的に描かれた作品は153点あったが,画面上の消失点の位置を,イタリアと北ヨーロッパ地域の作品で比較すると,イタリアではマリアと同じような高さであり,北ヨーロッパでは下方にあって,情景全体を見下ろすような視覚で描かれるような異なった特徴が見受けられた.
著者
小山 清男
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.21-27, 1994 (Released:2010-08-25)

絵巻は日本美術独自の形式である。絵巻に描かれた場景には, しばしば建物の外形, 内部があらわされており, 図学の用語でいえばそれらはすべて, 斜投象的図法で描かれているようにみえる。この図法にはいくつかの種類がある。絵巻の画面にはそれらを適切に用いて描かれた, すぐれた作例が多くみられる。ここではこれらの斜投象的図法から, 二つの著名な絵巻, 源氏物語絵巻と当麻曼茶羅縁起絵巻とを考察してその絵画空間を明らかにしたい。
著者
西原 一嘉 西原 小百合 安富 雅典 新関 雅俊
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Supplement2, pp.31-36, 2005 (Released:2010-08-25)

大阪電気通信大学では現在、工学部1部機械工学科、総合情報学部メディア情報文化学科、短期大学部、工学部2部機械工学科にてAutoCAD LTをもちいたCADによる製図実習、CAD利用技術者検定試験受験の基礎についての演習を行っている。本年度より将来のCAD導入を目指して、設計を主体とする企業でのCADを取り入れた、実線的な演習を行っているので、これについて報告する。
著者
茂登山 清文
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Supplement1, pp.129-132, 2005 (Released:2010-08-25)
参考文献数
7

ジェフ・ウォールの作品《戦死した兵士たちは語る (1986年冬, アフガニスタンのモコル付近における赤軍偵察隊の待ち伏せ攻撃のあとの幻影) 》は, 一見, 戦闘後の悲惨な光景を撮った写真のように見える.しかし実際には, 周到な準備とパートごとに分けての撮影, そしてその後のコンピュータによるディジタル処理をへて, 可能となった現代の歴史画である.スーザン・ソンタグは, その著『他者の苦痛へのまなざし』の最終章において, この作品をとりあげ, 写真というメディアが一過的で, 倫理的政治的には無力でしかないという.しかし, この作品をひとたび芸術として見るなら, そこにはまた異なった意味が見いだされる.鑑賞者が感情移入しようとしてはぐらかされるという, イメージとの共感の不可能性, コミュニケーションの不在は, イメージのなかの人物たち相互の関係性と呼応し, お互いを補強し, 強力なメタメッセージを発信しているのである.
著者
小高 直樹
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Supplement, pp.1a-6, 1997 (Released:2010-08-25)
参考文献数
5

本稿ではまず最初に, F1 (t) , F2 (t) をtの周期関数とするとき, tを媒介変数としたx=F1 (t) , y=F2 (t) が描く図形を汎ロコイドと定義する。基円に沿って円が転がるとき, 転円に固定された点の軌跡は, 転円が滑る場合も含めてすべてこの汎トロコイドに含まれる。また, 基円の半径が無限大になれば, x=F1 (t) またはy=F2 (t) はtの一次式を含む形式に導かれ, 図形は直線上を転がりながら直進する。ここで, われわれは, 直進する汎トロコイドを直進形汎トロコイドと呼び, これを幾何学模様生成のための基本形とする。この直進形汎トロコイドには, 微視的な汎トロコイドが大局的に直進する場合も含まれる。次に, この直進形汎トロコイドを回転変換する。この段階においては, 回転変換を複数回繰り返したり, あるいは途中のプロセスにおいて射影変換や球面写像を組み込むことにより, ユニークな幾何学造形が可能になる。本稿では, この直進形汎トロコイドを利用した幾何学模様生成のアルゴリズム, すなわち, 直進形汎トロコイドの設定とその変換方法 (回転変換, 螺旋変換, アフィン変換, 射影変換, 複合的変換など) のアルゴリズムを, それらの変換によって生成される具体的な幾何学模様とその特徴を通じて論じながら, 平面デザインや装飾, またアートとしての, ユニークでかつ調和性のある幾何学模様を迅速に作り出す基本的な方法論を提供する。
著者
今間 俊博
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.39-42, 2007

日本のアニメーションには, 米国アニメーションには無い「止め絵の美」が存在する.しかしMocapを利用したCGライブアニメーション制作は, アニメーション制作効率は高いが美しい止め絵を作るのが難しいという問題を内在している.また3DCGで制作したキャラクタには, 不気味の谷の問題があり, リアリティを追求し難いという問題がある.「FF THE MOVIE」「APPLE SEED」「VEXILLE」といった, 日本において制作された劇場公開アニメーション作品を通じて, 米国主導のCG技術開発とは違った, 映像表現技術の動向について過去の取り組みのまとめと今後の考察を行なった.
著者
小山 清男
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.37-42, 2000 (Released:2010-08-25)
参考文献数
6
著者
蛭子井 博孝
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.21, 2006 (Released:2010-08-25)
著者
菅井 祐之 鈴木 賢次郎
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.19-26, 2009-06-01
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

現行学習指導要領の実施に伴う図学関連教育の学習定着度の変化を調べるために東京大学においてアンケート調査を行った.また,空間認識力の変化を調べるために,東京大学,日本大学においてMCT 調査を行い,日本大学の調査結果については明星大学の従来の調査結果と比較した.その結果,以下の事が明らかになった.高校迄の図学関連項目に関する学習定着度は,現行指導要領の実施に伴って低下した.現行指導要領実施前後におけるMCT 調査において,東京大学では得点に変化はみられなかったが日本大学においては有意に下落した.現行指導要領の実施に伴い学生の空間認識力が低下した可能性が考えられる.現行指導要領実施以前のMCT 得点の経年変化をみると,両大学ともに低下していたが,その下落幅は大学進学率の上昇による偏差値変化によって説明できる.このことから,この間の指導要領改訂は空間認識力に大きな影響を及ぼしていないものと考えられる.
著者
鈴木 広隆 藤本 佳則 辻 剛史
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Supplement1, pp.139-144, 2005 (Released:2010-08-25)
参考文献数
5

龍安寺石庭の配石パターンについては、これまで専ら作庭者の意図や配石原理について研究が行われてきた。本研究では、人間の感覚量である趣と配石パターンとの関係について明らかにするため、平面図、透視投影図で表現した様々な配石パターンを被験者に呈示し、趣の定量化を行った。さらに、配石パターンを基にしたボロノイ図を作成し、これによって得られる様々な物理量を求め、趣との関連を考察した。
著者
小山 清男
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51-54, 1999-03-01
参考文献数
6
著者
奈尾 信英
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.3-8, 2002 (Released:2010-08-25)
参考文献数
16

本研究は, ルネサンス初期に活躍した芸術家兼技術者の一人マリアーノ・タッコラに着目し, 彼の『技術論』に描かれた図の表現方法を分析・考察し, さらに, 前遠近法的作図法の解明を行うものである.分析手順は, 以下に示す通りである. (1) 『技術論』に描かれたすべての図を比較し, その図的表現を考察する. (2) 『技術論』I-IIの73葉 [表] の階段図に焦点を当て, この図を描くために用いられた作図法を解明する.その考察の結果, 以下のような結論が導き出された. (1) タッコラは, 塔や建物を空間のどの場所に配置したとしても, 塔は遠近法風に, 建物は斜軸測投象風に描いていることがわかった. (2) タッコラは, 奥行き方向の距離の値が定められない前遠近法的作図法の理論を用いて, 階段図を作図していることがわかった.さらに, この階段図から判断して, タッコラが交友関係のあったブルネレスキの正統作図法を用いていない.
著者
佐藤 紀子 西井 美甫 渕上 季代絵
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.75-80, 2004
被引用文献数
1

描画支援ツールは, デッサン初心渚および描くことが苦手な学生を支援するために作成するものである。従来, デッサン初心渚が, 見えるものを見えた通りに二次元上に表現できるようになるまでには, 訓練の時間と技術の取得が欠かせない。しかし, 本格的にデッサンを学ぶ場を持てない学生には, 学習ソフトとして機能するツールが必要だと考えられる。そこで, 初心渚がデッサンを学ぶ上で必要な指導項目の初期調査を行った。今回の研究では, 個々のデッサン力の現状把握とデッサンの描画傾向を調査目的とした。既にデッサンに必要な要素として渕上の調査報告 (1) から, 構図, かたち, 質感, 陰影に関する問題が検討すべき点として明らかにされている。そこで, 各要因に関してデッサンの特徴をあらいだした42項目について紙コップを対象としたデッサンを調査し, パターン分類の可能な分数量化III類によって解析した。その結果から初心者がデッサンを描いた場合に完成度に差がつきやすい描画要因, そして描画傾向について3グループを提示することができた。これらを統合し, 初心渚がデッサンを描くときに必要とする要素を描画ツールにどのようにいかせるのかその可能性を提案する。
著者
安井 位夫 舟橋 宏明 河辺 佳子 小野塚 英明
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.3-9, 1992 (Released:2010-08-25)
参考文献数
8

A new character processing system has been developed in order to freely generate various style of characters on a personal computer. Center lines of each stroke of a letter are extracted from the bitmap data of the kanji ROM and the lines are expressed by equations of interpolation curves. Widths of strokes are classified and expressed by several function of the distance along the center line from its starting point. Because characters have been expressed by the equations of center lines and widths of strokes, arbitrary styles can be easily generated, which has been demonstrated by using Ming-style font.
著者
面出 和子
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.25-26, 2005 (Released:2010-08-25)
参考文献数
1
著者
竹之内 和樹 福田 幸一
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.27, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
2

Mongeの図法幾何学の第2 章には,複面投影を用いた空間の問題の実用的図式解法の提示・解説に加えて,球への接平面と対応する平面幾何定理が紹介されている.空間問題から平面幾何定理の直観的な見通しが空間問題から得られることを示すとともに,この定理は,対応する3 次元問題が無い方向にも,拡張されている.Mongeは空間問題の図法幾何学の中で,幾何学との関係を意識し,幾何学の発展にも目を向けていたものと推測される.
著者
加藤 道夫
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.39, no.Supplement1, pp.157-162, 2005 (Released:2010-08-25)

日本語における透視図, あるいは, 遠近法 (パースペクティヴ (perspective) ) の語源は, ラテン語のペルスペクティーヴァ (perspectiva) に由来するが, その本来の意味は「正しい視方」である.その理論的基盤は古代ギリシアのユークリッドに遡ることができる.しかし, その像を具体的に表現する技法, いいかえるならその作画 (作図) 法については説明されていない.つまり, この時点では, 現象は説明可能という意味で「科学」であっても, 「画像」を生成できないという意味で「技術」ではないということができる, ルネサンス期に具体的に図を作成するという作図法技術が考案され, 以降, 普及・発展した.その技術は, 「固定化された視点」という決定的な前提を含んでいた.見方を変えるならば, 視点を固定化するという条件を設定することで, 作画法が考案可能となったといえる.以降, 遠近法は変質し, その本来の意味である「正しい見方」から「偽りの見方」を表示する技術としての変化をとげる.一方で, 「固定化した視点」を克服するさまざまな試みも見られる.また, 近年の計算機の発展と普及は, ルネサンス以来遠近法が抱えてきた諸問題をクリアしたかに見える.他方で, 計算機による一義的な表現とは異なる手の痕跡を残した手描き画像の価値も見直されつつある.本発表は, 科学技術の視点から遠近法の歴史的変遷を俯瞰するものである.
著者
福江 良純
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.11-20, 2008 (Released:2010-08-25)
参考文献数
17

彫刻の古典的模刻技法に「星取り法」と呼ばれる方法がある.古代ギリシャに原理的な起源を持ち, 複雑な人物像を, 大理石から精確に彫り出すために発達した, 機械的転写の技法である.だが, 彫刻とは単純に外形に還元できるものではなく, 転写の過程には形以外の質的なものが彫り込まれなくてはならない.彫刻家の創意はここに働き, この技法を用いながらも, 複製には尽くされない同形のオリジナル作品を作り出すことが出来る.したがって, この技法による造形的な現象の解明は, 芸術作品の複製とオリジナルという問題の構造を明らかにする手掛かりとなる.その際有効なのが, 一切の機械的手法に依らない「直彫り法」との対比であり, 感覚と形態の問に介在するラインの感覚の考察である.「星取り法」による形状の固定作用を図の固定的性格から説明し, 作品のオリジナル性については, 「直彫り法」に見られるラインの感覚のダイナミズムに根拠を求めてみた.また本論末尾では, 星取り法を用いた創造的な取組の実例として, ロダンに言及する.