- 著者
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林 研
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.88, no.3, pp.621-645, 2014-12-30 (Released:2017-07-14)
ジェイムズの学説「信じる意志」は、情的本性に基づく信仰を正当化する試みだが、何でも好きなように信じてよいということではない。想定されているのは「生きた」仮説を信じるか疑うかの葛藤状態であり、そこでの実践倫理が問題なのである。人間心理において、蓋然性と望ましさは分離し難く、証拠なしには信じない態度も実は誤謬への恐怖に基づく。その一方で、人間本性には証拠がなくとも信じる暗黙の合理性がある。それならば倫理的基準としては証拠よりも、プラグマティズムが要請する帰結の整合性の方が相応しいとジェイムズは考える。さらに、宗教は「事実への信仰がその事実を生み出す助けになりうる」命題であり、その真理性を検証するにはまず信じなければならない。つまり、ジェイムズの言う「信じる」は盲信ではなく、整合性を検証しつつ真理を生み出すことである。この場合、救いを求める者にとっては、信じることが懐疑に優越すると言うことも可能になる。