- 著者
-
宮下 聡子
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.1, pp.67-89, 2006
ユングは古来の難問、「悪の問題」に、神義論とは異なる立場から答えようとした。ユングは「キリスト、自己の象徴」(『アイオーン』第V章)で、彼の見るところ「悪の問題」へのキリスト教の答えである「善の欠如」の教説を批判している。ユングによれば、この教説は「最高善」である神の被造物の中に悪は存在しないと説いているが、それは誤りである。神は「最高善」ではないし、そのような神の被造物として人間にも悪は具わっている。ユングはまた『ヨブへの答え』で、神を「対立の一致」にして「無意識」と規定し、「人間化」を欲しているとする。ユングによれば、神は「対立の一致」として善だけでなく悪も含んでおり、しかも「無意識」で自己反省を欠くため、悪の面が現れ出ることがあり得る。そして神は「人間化」を欲し人間に宿ろうとするため、悪は神と人間の関係において解決されるべき問題となる。ユングはこのようにして「悪の問題」に答えようとする。ここに、人間悪を徹底的に見詰め、しかも神との関連においてその解決策を探ろうとした、ユングの思想的格闘の成果を見ることができるのである。