- 著者
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葛 睿
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.85, no.1, pp.99-123, 2011-06-30 (Released:2017-07-14)
国民道徳の確立に際して、西村茂樹(一八二八-一九〇二)は宗教否定の立場に立った。宗教の非合理性を忌避するのみならず、宗派間の争いが存在することも危惧したからである。このように宗教一般に対して強い警戒感を示していた西村であったが、神道について低評価を与えながら、公の場で日本における宗教を論じる際に、仏教・キリスト教については常に言及する一方、神道については触れること自体を明確に避けつづけていた。このような消極的態度は、国民道徳論の展開に大きく寄与した人物としての西村の従来のイメージと少なからず齟齬するものであろう。すなわち道徳の源泉の一つに「皇祖皇宗」の神話的歴史を据えた後の思想家たちによる家族国家論とは、明らかに位相を異にしているからである。このように考えた時、彼の国民道徳論における神道の不在は、彼独自の神道認識の存在を窺わせるものである。本稿は、如上の問題意識をふまえ、彼の道徳思想において、神道がいかに位置づけられていたのかを検討するものである。