著者
山田 俊治
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.2-11, 2012-11-10 (Released:2018-01-12)
被引用文献数
1

言文一致小説の成立は、同時代の表現が受容されて新たな文体を生成するという問題にとって欠かすことのできない課題である。口語体による書記言語の書物を実現した三遊亭円朝の速記本を受容することで、坪内逍遙以下によって通俗的な読み物を美術小説に転ずる努力がなされた。逍遙の傍観的な語り手の試みから、二葉亭四迷の同化表現による語り手の消去、山田美妙による修辞的な物語叙述などが試みられ、言文一致体小説は美術小説としての卓越性を獲得していった。そして、円朝速記本はその起源と見なされるようになるのである。
著者
蔵中 進
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-28, 1972-01-01

Yakatsugu Isonokami (729-781) was Otomaro's child and was called Bunjin no Shu (Fether of Letters). He became a government official at 23 and won steady promotion. One tanka (poem) composed on January 4 in 753 was found in 'the Manyoshu.' When thirty-three, he was appointed vice-envoy to China. About that time he built a private library named the Untei in his house and permitted lovers of learning to use it. He himself also studied Buddhism and was engaged in reading and studying Chinese poetry there. He seems to have written a book about Buddhism, but only its name is known. When Ganjin, who came form China, preached the religious precepts and built the Toshodaiji Temple, died in 763, he made a Chinese poem lamenting his death, which was put in 'the Todaiwajyotoseiden.' One time he plotted with others to kill Nakamaro Fujiwarano only to fail and to be relegated. But Nakamaro's downfall let him come back and serve the Emperor Shotoku. Most of his Chinese poems in 'the Keikokushu' are those he composed in those in those days. Later he called himself the Mononobe family of warrior and guarded the court. He also had opportunities to meet Chinese envoys. But in his last years he was absorbed in studying Chinese poetry and reached the rank of Dainagon and Shikibukyo. Thus a man of letters in the late Nara Period seems to have meant a man composing and studying Chinese poetry, and the tanka was ceasing to be used publicly. And Yakatsugu Isonokami's life and life and literature was to show a previous notice of the following Black Age of Japanese Literature.
著者
関口 安義
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.64-73, 1991

「『謀叛論』と芥川龍之介」というテーゼは、厭世的・芸術至上主義的にのみ芥川文学を考えるこれまで支配的だった芥川観を訂正するため導き出されたものである。芥川は徳冨蘆花の<謀叛のすすめ>を見事に文学化することに成功した作家である。本論は同時代人共通の課題として「謀叛論」をとらえた芥川と同僚松岡譲、一方、その問題提起を聞き逃した菊池寛・久米正雄のその後の歩みが、奇しくも彼らの文学上の歩みと一致するものであったことを論じる。
著者
小谷 真理
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.24-34, 2008-04-10

飛浩隆「ラギッド・ガール」(<SFマガジン>二〇〇四年二月号に掲載)は、ある事情で放置されている仮想現実世界を扱った<廃園の天使シリーズ>の中編である。仮想現実世界は、<数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)>といい、<廃園の天使シリーズ>は、その創造と放棄と内部変化を描いている。もちろん仮想現実世界といっても、現実世界はあまりにも膨大なデータであるために、現実をそっくり写しとれるわけではなく、いわば仮設の情報集積所となっており、人間の似姿と人工知能が混在する世界として想定されており、インターネットに近い感触を持つ。「ラギッド・ガール」の「ラギッド」とは「ざらざらの」という意味。主要登場人物である安形渓の身体の異形を指している。物語は、体験や記憶がすべて体内に蓄えられながら生きる情報集積体たる渓の身体論を中心に、アガサとキャリバン、安奈と渓の関係を読み解きながら、現実世界、仮想現実世界、さらに仮想現実世界に内蔵されたサイバースペースという三つの空間にまたがって、性差とセクシュアリティの諸問題を投げかけ、人と人とのコミュニケーションについての問題を探求していく。この作品における女性の身体と性差の設定は、アメリカのSF作家ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「接続された女」を彷彿とさせ、共通点が多い。特筆すべき要素は、女性身体をめぐる話題、「身体の醜さ」、「暴力」、「レズビアン・セクシュアリティ」である。そこで、本稿では、電脳空間を素材にしたサイバーパンク小説の先駆けと評される「接続された女」と、ポスト・サイバーパンク小説「ラギッド・ガール」を比較検討し、女性性、身体性、情報集積体としての性差について再考する。
著者
光石 亜由美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.34-44, 2009-11

一九一〇〜二〇年代のモダニズムの一面を変態や異常を消費する人々の出現として捉え、<女装><変態><犯罪>というキーワードで谷崎潤一郎「秘密」(一九一一年)に描かれた女装を分析した。「秘密」では、セクソロジーの言説を背景に、<女装すること>ではなく、<女装という変態を演じること>に快楽を見出し、女装をロマン化する。しかし、同時に、着脱可能な<表層>のドラマとしての女装が「秘密」以後の映画や探偵小説の中で消費されることも暗示している。
著者
沖本 幸子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.22-31, 2004-07-10 (Released:2017-08-01)

平安時代を通して宮廷音楽の中心は雅楽であり、歌声もまた、雅楽の、特に笛の音に規定されるものとして存在していた。これに対して、能楽の声につながっていくような、雅楽の音にとらわれない歌声は、いつ頃からどのような形で登場してきたのか。平安末期から鎌倉初期にかけて流行した「白拍子」「乱拍子」という芸能の声の姿に注目しながら、世阿弥の音曲論につながる、中世的な歌声の始まりについて考察する。
著者
横濱 雄二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.51-61, 2006

メディアミックス作品を統合的に把握するために、『新世紀エヴァンゲリオン』を分析する。一連のアニメには互いに矛盾を持つ四つの物語世界が含まれている。これらはコンピューターゲームの事例でも踏襲され、ストーリーの分岐は物語世界の並立を明示している。その意味で、物語世界は一作品に複数措定しうるが無関係の分立ではなく、それらの間に表現や描写の矛盾として現れる交渉があることがわかる。こうした物語世界の性質を踏まえることが、メディアミックスの理解に一定の可能性を切り開くことになる。
著者
前田 潤
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.12-23, 2004-09

竹久夢二の絵画小説「岬」は、関東大震災の発生により一時連載が中断された後、震災情報が高い価値を持つ情報秩序のもとで再び新聞連載が継続される。その結果、休載期間の前後の言説に変質を抱え込み、「視線」と関わる表象が言説と視覚像の双方で増殖する。夢二の震災スケッチにも配慮しつつ、「岬」に頻出する視線の表象と罹災社会の視線の特性の関係を記述し、一度は断裂した物語の継続に作用した力を考察する。
著者
藤原 正義
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.29-42, 1982

The living style of the Rengashi Sogi, who drifted through Japan, is considered to be deeply related to his birth which is generally believed to be lowly. But there is no definite information to prove his birth as lowly. I will try to present a new approach to his birth, which I think was a warrior family, by studying the connected articles in Kodaiji Diary-Shiokawa Kashin Diary volume II(property of Naikaku Bunko).
著者
カバット アダム
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.34-44, 2001-10-10

「野暮と化物は箱根から先」という諺をふまえて化物たちの住みかを箱根の向こうにするという設定が、化物の黄表紙の中でよく見られる。つまり、「箱根の先」に住む「田舎者」の化物たちは、江戸の通からみると、「野暮」のような存在であり、笑いの対象でもある。それにしても、「箱根の先」という「異界」が一体どういうものなのか。本論では、初期の黄表紙の内容を検討しながら、「化物」と「箱根の先」との関連性を考察してみる。
著者
塩谷 菊美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.33-43, 2012-07-10 (Released:2017-11-22)

「『歎異抄』は唯円が親鸞の言葉を記したもの」というのが通説だが、親鸞曾孫で本願寺創立者の覚如の著した『執持鈔』『口伝鈔』『改邪鈔』『親鸞伝絵』をもとにして、「親鸞の口伝を唯円が語り、覚如が筆記した」という体裁で作られた、一種の親鸞伝ではないだろうか。『歎異抄』に記されているのは「親鸞が語ったこと」ではなく、後世の本願寺関係者が考えた「親鸞が語ったはずのこと」と見るべきである。