著者
小山 鐵夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.5-12, 1955-05-30
被引用文献数
1

7.私は現在印度支那や雲南のカヤツリグサ科を調べて居るので,参考資料として京大所有の臺灣のカヤツリグサ科を拝見した処,此の章に記載したスゲの2種がそれぞれイハスゲ節及びナキリスゲ節の新種であることがわかった.前者は臺灣産のチャイロスゲC. fulvorubescensの系統のものと思われるが,極めて〓澁の稈と無葉片・膜質で短い苞は他に類を見ない(第3圖版R-T).此の美しいスゲの學名は何時も御世話になって居る田川先生に献じたものである.後者はタカサゴフサナキリに似た一種で岡本省吾氏高雄州での採集.共に比較的フロラのわかって居ない山地より發見されたことになる.次に,今迄臺灣の特産として知られて居たダンスゲは早田博士の印度支那採集品を検定して,トンキンからフランシェ氏が報告したCarex tonkinensisと同品であることがわかった.ネルムス氏がC. tonkinensisにあてて居るマレーシア産のスゲは恐らく別物であらうと考へて居る.又クラーク氏のC. perakensisは多分本品の葉の狭い形の様に受取れるが不幸にして未だ基準品を見られないで居る.8.琉球吐〓喇列島中之島から發見されたスゲの新種にフサカンスゲCarex tokarensisの名を下すことにした(第3圖版A-I).コカンスゲ節Decoraeに屬し,臺灣のモリスゲ(第3圖版J-M)に最も近いが,マレーシアなどに分布するC. veriticillataにも大變よく似て居る.大型の圓錐花は著しいものである.この材料をお見せくださった初島博士に厚く御禮申上る.9.今度茲に發表した様な組合せが出版されることになった.一部は今迄にこの様な意見が述べられたものもあって,別に説明の要も無いが,アヲスゲに就て簡単に記して置く.今迄アヲスゲにはC breviculmis R. BR.がよく用ひられたが,豪州やニューギネアに分布するC. breviculmisはネルムス博士が言はれる様に邦産アヲスゲとは果胞が倒卵形でより太い脈を有し短い剛毛を疎生するなどの點で區別できると思はれる.私はアヲスゲに北川博士のご意見の様に北支植物を基準品とするC. leucochlora BUNGEを用ひたい.残念乍ら私は印度品を基準とするC. Royleana NEESを見る事が出来ないが,幸にしてブンゲのC. leucochloraの發表が1833年で,ネースの1834年より一年早いから,印度品が邦産アヲスゲと同じであっても學名の變更は無い.又,茲で取扱ったアヲスゲの變品は極めて著しいもののみである.メアヲスゲ・イトアヲスゲ・ヒメアヲスゲはいづれも細い型でメアヲスゲには葡枝があり,イトアヲスゲは果胞が疎に着き通常雄小穂は小形で,ヒメアヲスゲはメアヲスゲに似て葡枝無く側小穂は殆ど無柄となる.オホアヲスゲは後に記すハマアヲスゲと共にかなりはっきりした一品で葉は廣く硬く(?2年生)果胞も相当に大きい.私は之等を多数栽培比較した結果いづれも別種とは認め難いとの結論となった.之等の中で,果嚢が熟時黄色で強い肋があり,鱗片が比較的落ち易い點で最も明瞭なハマアヲスゲでさへも,典型的と思しき型と他の型との間に中間を生ずる.凡そ同一種内の變異が異種間の差異より遙かに大きい様な植物の好例がアヲスゲである.
著者
北川 尚史
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-7, 1984-05-29

1982年7月から8月にかけて6週間、服部植物研究所の岩月善之助助博士と私はニューカレドニアとフィジーで野外調査を行った。文部省の科学研究費補助金によって服部植物研究所が計画・実施した海外学術調査である。調査隊のメンバーは私たちの二人だけで、対象をコケだけに限定した密度の高い念り多い調査であった。フィジーは次回のための予備調査で滞在期間も短かったが、ニューカレドニアでは存分に調査を行い、予想以上の成果を収めることができた。現地の研究機関(ORSTOM)と植物学者の全面的な協力のもとに、私たちが全島を駆けめぐり、キャンプを重ね、寸暇を惜しんで採集したコケの標本は4000点以上に達した。ニューカレドニアは西南太平洋の珊瑚海に浮かぶ、日本の四国とほぼ同じ面積を持つ海洋島である。脊梁には標高1000m前後の山脈が幾筋も縦走し、パニエ山(標高1628m)、フンボルト山(同1618m)など幾多の高峰が重畳として連なっている。低地は乾燥しているが、標高1000m以上の山岳地帯は比較的湿潤で、シダやコケが豊富である。古い地質時代に大陸から遠く分離し、隔離された環境下で、この島の植物はきわめて特異な分化を遂げた。植物相の特異性は特に種子植物に著しく、156科、680属、2750種の自生の種子植物のうち、属の16%、種の80%が固有である。ニューカレドニアのコケ相についても、HERZOGは「非常に美しく独自性の強いコケがこれほど集中していることはほとんど信じがたいほどであり、面積の狭さを考慮すれば、断然、地球上の多のいかなる地域をも凌駕する」と指摘している。私はニューカレドニアの苔類とツノゴケ類に関する文献を渉猟してこれまでに同島から記録されてきた種を網羅した。そして、その中から裸名を除き、異名を整理し、妥当な属への組合せを採用してチェックリストを作成した。その結果、従来ニューカレドニアから32科、94属、449種の苔類とツノゴケ類が報告されていることが判明した。そのうち、217種が固有で、種レベルの固有率は非常に高い(48.3%)が、固有の属はPerssoniella HERZ.の1属だけである。私たちのコレクションの約半分は苔類であるが、その中には若干の新種を初め、ニューカレドニアに未記録の種がかなりある。本論文ではそのうちの一つ新属新種Acroscyphus iwatsukiiを記載した。そして、この属をヤクシマゴケ科Balantiopsidaceaeに入れたが、この所属は未だ決定的ではない。この科の最も重要な特徴からは朔がらせん状にねじれた弁をもつことである-この重要な特徴を共有するという主たる理由で、GROLLEやSCHUSTERはかつてのヤクシマゴケ科Isotachidaceaeをバランティオプシス科Balantiopsidaceaeに含めた(したがって、その広い意味のBalantiopsidaceaeに対してはヤクシマゴケ科の和名が適用される)。Acroscyphus iwatsukiiの2点の標本が私たちのコレクション中に見出されたが。そのうちの1点(基準標本)には雌雄の植物体が揃っており、少数の胞子体も見出されたが、その胞子体は残念ながら若すぎるため、上記の科の特徴を確認することができない(他の1点はステリルであった)。しかし、配偶体のいくつかの重要な形質において、この新属はBalantiopsis MITT.およびNeesioscyphus GRO.に共通しているので、両属が所属する広義のヤクシマゴケ科の一員と見なした。この新属新種の産地、スルス山はニューカレドニアの西南部に位置する標高1000m余りの蛇紋岩地域の山岳で、Perssoniella vitreocincta HERZ., Acromastigum homodictyon (HERZ.) GRO., Nardia huerlimammii VANA &GRO., Haplomitrium monoicum ENGELなど、きわめて顕著な種のタイプ産地となっている-上記のうち、3番目の種は明らかにNardiaではなく、タスマニア産の単型属Brevianthus ENGEL & SCHUST.に類縁をもつと思われる新属の可能性がある(ステリルの材料に基づいて記載せれた種であり、私たちのコレクション中に雄の植物体が見つかったが、雌は見出されない)。
著者
NAGAMASU HIDETOSHI KATO MAKOTO
出版者
日本植物分類学会
雑誌
APG : Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:13467565)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.75-78, 2004-08-25

A new species, Nothapodytes amamianus Nagam. & Mak. Kato, is described from Amami-oshima, the Ryukyu Isls., and information on its pollination biology is presented. Nothapodytes amamianus is closely related to N. nimmonianus (J. Graham) Mabb., which is widely distributed from S. India to the Ryukyus (Yaeyama group), but is distinguished from the latter by the base of the leaves truncate or shortly cordate, the larger flowers with petals 7-9mm long, and the short but prominent anther connective. This new species is restricted to a small area on Amami-oshima and should be categorized as critically endangered. A key to the Japanese species of Nothapodytes is provided.
著者
本郷 次雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.116-126, 1982-04-20
著者
近田 文弘 北川 淳子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.125-132, 1989-12

ガガイモ科の植物は約2000種が知られている。これらの種は主に熱帯を中心に分布しており,特にアフリカやアジアの熱帯には原始的と考えられる種を含め多くの種が分布している。ガガイモ科の分類を考える時,花の形態が重要な形質として取り上げられて来たが,取り上げられた形質は,顕微鏡レベルの組織や構造にまで立ち入ったものは少ない。近年ではSAFWAT(1962)が指摘するように,顕微鏡レベルで花の構造を比較しようとする研究が行なわれるようになったが,それはほとんどアメリカ合衆国に特徴的に分布するトウワタ属の植物を用いたものであり,アフリカやアジアの植物を対象としたものは極く少ない。タイ国は東南アジアの大陸と熱帯の島々の中間に位置し,アジアの熱帯のガガイモ科を研究するのに好適な場所であるCRAIB(1951)はタイ国で42属146種のガガイモ科植物を報告している。筆者の一人近田は1982年以来三回にわたってタイ国でガガイモ科の調査を行い,顕微鏡レベルの花の構造を研究する材料の採集に努めたが,ガガイモ科の植物は,ガイガンダバコCarotropis gigantea BR.のようなタイ国北部の路傍に雑草のように生える潅木のような種は別として,多くの種の花を野外で容易に採集することはできないものであった。また種の同定には隣接する中国の植物を比較する必要も多いと考えられる。中国のガガイモ科の分類の研究について最近情報が効率良く得られるようになり,我々は中国の研究者と共同研究も行なえるようになった。このような状況を背景として,タイ国のガガイモ科植物の花の顕微鏡レベルを主とする形態を比較し,その知見を積上げてタイ国産ガガイモ科の分類を研究することにした。本報文はその研究の最初として,Dischidia raffresiana WALL., Marsdenia glabra COST., Secamone ferruginea PIERRE ex COST.の3種の花の構造と分類形質のいくつかについて記載したものである。Dischidia raffresianaは樹木にはい登るつる植物で,長さ5-7mm,巾3-5mmの小さな壺状の花を着ける。花は小さいが,その構造は複雑で,特に雄蕊の背部から発生する副花冠は複雑な形態を示す。また,花冠筒の咽頭部の内側に花冠筒の膨大したものがみられる。花粉塊は扁平で長楕円形をしており,二個が小球と花粉塊柄で連結して直立した双花粉塊を形成する。この植物の葉は厚い革質で,長さ6-9cm,巾2-6cmの袋状のものが茎の下部に密生していおり,長く伸びたつるの上部には長さ1.5-2.0cm,巾1.0-1.8cmの小型の葉が長い節間を置いて着いている。袋状の葉の空所には蟻が巣を作っていて,この植物を採取することはとても大変である。多分,花粉塊は蟻によって運ばれると予想されるが,その仕組みは分からない。本種はガガイモ科の中の顕著な蟻植物myrmecophyteと考えられる興味深い種である。Marsdenia glabraは,ソメモノカズラMarsdenia tinctoriaと同属の植物で,低山帯の潅木材のつる植物である。外観は,Dischidia raffresianaに似た壺状の小花を着けるが,副花冠は後者に比べて簡単な形態をしている。花冠筒の内側に突起状の膨みがあることや,長い毛が密生していることは後者と同様である。この種は,幾つもの場所で採集することができ,標本庫に蓄積された標本の数も多かった。タイ国では広く分布する種のひとつであるらしい。Secamone ferrugineaは,つる性の植物で5弁に平開した黄色の小さな(直径5mm)花冠を持つ。Secamone属は,4個の葯室が一個の葯内に生じることで,2個の葯室を持つグループより原始的と考えられている。この種の葯も4個の葯室を持っているが,その内2個が大きく,他の2個は明らかに小さい。4個の花粉塊が一組となる。花冠裂片の内側基部には2個の小豆状の突起がある。3種に共通な形態として,花粉4分子は線型で,花粉塊中の花粉の数は夜来香やイケマに比べて少ないこと,胎座式は亜周辺胎座で胚珠の数も花粉の数同様少ないこと,雄蕊の背面から生じる雄蕊性副花冠の他に,花冠筒の内側や花冠裂片の内側に生じる突起があること等であった。花冠筒や花冠裂片の突起をどのような構造として理解するかは今後の問題であるが,SAFWAT (1962)の見解に従って,本報告では,これらのものを花冠性副花冠としておきたい。

1 0 0 0 OA 東亜蘚類考察

著者
外山 礼三
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.169-178, 1937-09-30

ミヤマクサゴケ(Heterophyllium brachycarpum (MITT.) FLEISCH.) ─ MITTENの種類と CARDOT の種類は,各々原産地は男体山,日光でよく産地のみならず種類の特徴が一致する.カキネゴケ屬(Palisadula TOYAMA) ─ Clastobryum に近いが蘇歯特異.屋久島産のものをタイプとする.FAURIE 師が対島で採し,Pylaisia (?) chrysophylla CARD. var. brevifolia CARD. と属に疑問を残してCARDOT が発表せる植物に一致する植物を高隈山で多量に採集す.之の蘇歯も亦同様の特異な構造をもつ.Pylaisia chrysophylla CARD. 及び Clastobryella shiicola SAKURAI と之の植物とは種としての区別は認め難いので欧文の如き組合を行った.Clastobryum として発表されている他の植物は,その原標本には全く子〓がない.之の属に移さるべきものも必ずあると思われる.タケウチカガミゴケ (Brotherella Takeuchii TOY.) ─ Clastobryum 属に見る如き孵芽を持つ点は前新属と同様面白い現象.カガミゴケ属と他の点は一致する.種名は採集者であり且つ植物地理学会に種々貢献されし竹内敬氏の名を頂いた.セイナンナガハシゴゴケ (Sematophyllum pulchellum (CARD.) BROTH.) ─ Meiothecium japonicum DIX. et SAK. として発表されしものの原標本を検するに蘇歯の構造は櫻井氏の図の如きではなく内歯を有し,且外歯は吸水の結果屈曲するがその屈曲点より〓々折れる為に,氏の図の如く見えるので,明に Sematophyllum 属のものである.セイナンナガハシゴゴケの原標本を検するに櫻井氏の種は完全に一致する.ニイタカサナダゴケ (Plagiothecium Niitakayamae TOY.) 〓 大変大きな,枝は丸く葉がつき,葉の先端細胞には盛んなる仮根や原糸体の出来ているのが見られる.ホソオカムラゴケ (Okamuraea flagellifera (SAK.) TOY.) ─ オカムラゴケ(ハヒオカムラゴケを含めて)とは営養生殖帯の相違により之と対立した位置におくべきものと考える.種名は櫻井氏により他の属で書かれているので変な名になった. フトフトゴケ (Schwetshkea robusta TOY. ) ─ 他のこの属のものよりはるかに大きい.Schwetsxhkea Doii SAK. に近いがずっと雄壮である.オホミミゴケ (Meteoriella soluta (MITT.) OKAM. ) ─ 屋久島を自身歩いて見て,今まで正体の不明なりし Pterobryopsis japonica CARD. 及び Meteoriella dendroidea SAK. が本種に他ならぬことを知った.樹皮に着生して,長くさがらないもののみを見ると明に変ったものと考えられるが,普通,移行,変体の三形を同時に認められる.葉その他に何等形態的変化が認められない故,型種とする必要もないと思う.
著者
岡本 素治
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-17, 1983-04-25

スダジイの花の各花言葉が発生する様子を観察した。花の初期発生では、雄花と雌花は、ほとんど区別しがたいほど、よく似ている。雌花では各花言葉の発生順序は次のようになる。外花被(3)→内花被(3)→外花被に対生する雄ずい(3)。この内花被に対生する雄ずいとほぼ同時に、花被に互生する雄ずいが形成されはじめる。その位置は外花被に対生する雄ずいの両側である。外花被に対生する雄ずいの内側に、雌ずいの原基があらわれる。花被に互生する雄ずいは、放射方向に細長い原基としてあらわれる。成熟した段階ではこの雄ずいは横向きである。一方花被に対生する雄ずいは内向きとなる。なお、雌花ではこれらの雄ずいは生長が停止し、仮雄ずい的となり、開花時にも花被に包まれたままのことが多い。雄花も雌花とほぼ同様の発生順序をたどる。ただし、雄花では花の向軸側の発生が背軸側に比べ著しく早い。雌ずいの原基も雌花に於けると同様に発生するが、子房室は最後まで閉じることなく、密線となる。このような花の発生様式をどのように解釈すべきか議論した。また花序の先端に花のような構造ができることに言及した。
著者
田端 英雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.125-134, 1992-12-30

Betula nikoensis Koidz.マカンバは, Betula ermanii Cham.var.japonica(Shirai)Koidz.ナガバノダケカンバとして扱われることが多いが, Betula ermaniiダケカンバとは形態的に明確に区別できるばかりでなく, 生態的にも明確な違いがあるので, 別種として取り扱うのが適当であると考え, 私はB.nikoensisを採用してきた(Tabata, 1964,1976)。しかし, 大陸にあるBetula costata Trautv.とよく似ているので, 分類学的検討をする必要があると長年考えていたが, 生育環境や生育状況の観察ができなかったので検討できなかった。1988年に, 韓国でBetula costataを採集し, その生育場所を観察する機会を得たので, Betula nikoensis, B.costata, B.ermanii 3種の比較検討を行なった。ここでは, 従来B.nikoensis Koidz.とされてきた植物を, 仮に'makamba'として議論をすすめる。約0.5cmの枝をSchultze法でマセレーションし, 道管の穿孔板のバーの数の比較を行なった。外部形態は, 葉身の長さと幅, 側脈の数 を測定し, おもに SAS(1985)でANOVA, CANDISC, DISCRIMなどの統計処理を行なって, 比較検討した。道管の穿孔板(perforation plate)のバーの数(図1), 側脈の数(図2)に関しては, 'makamba' と B.costataは分布の形がよく一致した。葉の縦/横比から見ると, 'makamba'とB.costataがそれぞれ1.75±0.17(n=164), 1.85±0.19(n=168)で, 1.38±0.16(n=115)のB.ermaniiと比べると葉が細長い。側脈の数では, 'makamba'とB.costataは有意差なしで, この両者とB.ermaniiは, 有意に異なる(表1)。葉の長さと幅の関係に関しても, 'makamba'とB.costataは分布が重なり, B.ermaniiとは異なった分布を示すだけでなく, SAS の GLMによる回帰直線の傾きの検定でも, 'makamba'とB.costataとでは有意差がなく(p>0.05), これら2種と B.ermaniiとは有意に異なっていた(p<0.001)(図3)。葉の3つの形質(側脈の数, 葉身の幅と長さ)を用いて, SAS の candiscriminant分析と discriminant分析を行なった。candiscriminant分析の結果は, 表2と図4に示すように, 'makamba'とB.costataとはよく似ており, これら2種とB.ermaniiとの識別に葉の幅の寄与が大きいことが示された。discriminant分析の結果, B.ermaniiの葉は, 約95%の葉がB.ermaniiと正しく分類され, 'makamba'やB.costataに分類されるのは極くわずかであるのにたいして, B.costataの葉はB.ermaniiに分類されるのほとんどないが, 約35%の葉が'makamba'に分類され, 'makamba'の葉は約28%がB.costataに分類された(表3)。このことは, 'makamba'とB.costataを区別することが難しいことを示している。果鱗の形態は, 'makamba'と B.costataでは, 中央の鱗片が長く側鱗片の約2倍ある。B.ermaniiでは, 中央の鱗片が側鱗片より長く, 側鱗片は形が変異にとむ(図5)。果実の翼の幅は, B.ermaniiでは果実の幅の約半分で, 'makamba'とB.costataでは, 果実の幅と同じか果実の幅より狭い。生態的にも, B.ermaniiと違って, 'makamba'とB.costataは, 川沿いや谷沿いの水分条件の良いところに見られる(図6)。Komarov(1904)は, 満州植物誌のなかで, B.costataが川沿いにのみ純林をつくると記載している。B.costataは, しばしば純林を作るようであるが, 'makamba'は, 個体数も少なく, 普通純林を形成することは稀である。これにたいして, B.ermaniiは純林を作ることが多い。また, 'makamba'の垂直分布は, B.ermaniiと著しく異なっており, 普通冷温帯上部に見られることが多く, 針葉樹林帯に見られることは稀である。B.costataの垂直分布については, 韓国で標高2300mまで生育するという報告もあり, 検討する必要がある。これらの比較を行なった結果, 'makamba'とB.costataとの間には, いくつかの形質でわずかな形態的な差異が見られるが, どの形質もその変異が大きく重なっており, 両者を分けることができないので, B.nikoensisは, B.costataの概念のなかに含まれるとするのが, 適当であると結論した。その結果, 日本におけるB.costataチョウセンミネバリの分布は, 図7に示すようになる。したがって, 日本産の B.costata は, 最終氷期終了後, 日本列島と大陸とのつながりが切れた後も, 日本列島の中央部の関東地方と中部地方の, 一部のごく限られた地域に隔離分布して, わずかに見られる遺存植物の一つであると考えられる。
著者
福田 一郎 堀井 雄治郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.117-123, 2004-08-31

About 1,000 plants of Trillium camschatcense (2n=2x=10) are growing well in the Sashimaki marshland (5 hectare area) near Lake Tazawa in Tohoku district. These plants are located in the most southern limit of their distributions (Trillium camschatcense). 13 plants of Trillium apetalon (2n=4x=20) also grow there. Only 3 plants of Trillium yezoense (2n=3x=15) have been found growing in this area. By means of chromosome analysis of cold-induced banding karyotype, it has been confirmed that their plants are hybrid between T. camschatcense and T. apetalon.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.41-45, 1957-12-10
被引用文献数
3
著者
小林 義雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.201-205, 1982

Pollen tetrads of 36 species belonging to 26 genera of Japanese Orchids were observed in details. The results are as follows : 1) Confirmation of types of the pollen tetrads and morphological variation in each type of them ; The arrangement of the four young pollens in the tetrads is variable within 36 species observed, although they could be classified into six types such as tetrahedral, square, decussate, rhomboidal, T-shaped and linear ones. Throughout the species observed the pollens constituting a tetrad were intact, and aberrantly large or small ones in the aberrant tetrads were not recognized. 2) Estimation of mixing ratios in each type of the pollen tetrads ; All six types of the pollen tetrads were recognized in 30 among 36 species observed. The ratios in each type of the pollen tetrads are shown in Table 1. The decussate tetrads show the highest ratio, about 50% throughout the species except Habenaria radiata and Goodyera maximowicziana. Values of the ratios of each type decreased from the decussate tetrads in sequence of rhomboidal, tetrahedral, square, T-shaped and linear ones. Detailed observation on the ratios among the pollen tetrads in each type of Calanthe discolor showed that the ratios were similar through five individuals collected from three different localities ( Table 2). In Goodyera maximowicziana, higher ratios of the T-shaped tetrads and linear ones were observed in extremely slender basal part of the pollinium than those of T-shaped and linear ones of the other part of the pollinium. 3) Ontogenetical observation on each type of the pollen tetrads ; All tetrads observed were produced by simultaneous membrane formation. The course of the tetrad formation was proceeded in the pollen mother cells which were gathered into parenchymatously compact mass. The courses of the pollen tetrad formation of each type are schematically shown in Fig. 1 with photographs in Figs. 2 and 3. It seems that different types of the pollen tetrads are caused by the different forms of the pollen mother cells and by the difference of the direction of the two axes of the second nuclear divisions. It is concluded that the species in the Orchidaceae observed have several types of pollen tetrads within a single pollinium which all develop normally and that the types of pollen tetrads in this family would be determined by the direction of axis of cell division and the forms of pollen mother cells. The forms may be correlated to those of the pollinia and to the parenchymatously compact gathering of the pollen mother cells throughout the course of the tetrad formation.
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.230-233, 1935-12-01