著者
松本,晉一
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, 2012-09-30

熊本県人吉市出身の明治期の歯科医,一井正典の生誕150周年にちなみ,2012年6月の第2週,地元人吉市の有志により記念行事"ドクタージュグリット・ウイーク"が行われた.内容は1)「一井正典先生・町なか人物展」 2)「町なかミニ講話」2演題 3)「生誕150周年献花式」 4)ジュグリット先生講話及び講演会 5)生誕150周年記念誌刊行の5行事である.これらの行事開催により,郷土の先人に対する人々の認識がより深まること,それには報道メディアの協力が不可欠であること,その逸材を輩出した背景が重要であること,その人物遺産を今後はどう活かし,どう次の世代につなげるかが大切であると考える.
著者
戸出 一郎 三浦 一恵 深山 治久
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.189-194, 2010-04-01

鎌倉時代を代表する梶原性全は「頓医抄」並びに「万安方」の著者として有名である.今回の目的は,両書から口腔領域に関する部分を抽出して,我が国口腔医史学における両書の位置を推察し,価値を顕彰して今後の研究資料とすることである.「頓医抄」は正安四年(1302年)から嘉元二年(1304年)に書かれた.中国の先進医術を日本の大衆に広め衆生救済が編纂目的であり,全体をわかりやすい和文て書かれている.参考文献としては,「諸病源候論」「太平聖恵方」をはじめ,中国古医書からとられている.基本的医学観は経絡を軸とし陰陽五行説を背景とした内経医学であり,仏教的慈悲の心も随所に認められる.「万安方」は正和二年(1313年)頃から書かれ嘉暦二年(1327年)に完成した.参考文献はほとんど「聖済総録」からである.編纂目的は「頓医抄」の場合と異なり,医術を自家の家学として伝え保存するためであり,全体は漢文で書かれ,他見を禁じている.
著者
加來 洋子 山口 秀紀 石橋 肇 卯田 昭夫 下坂 典立 鈴木 正敏 田中 晃伸 渋谷 鑛
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.406-419, 2014-09

1980〜2013年の34年間に全国の報道機関紙(誌)が取り上げた歯科医療事故に関する記事について調査し,発生した事故内容について原因を分類し検討を加えた.1.報道件数の推移 1)34年間(1980〜2013)の全報道例数は167例,全報道件数は462件であった.2)全報道件数は,1980〜1989年:36件,1990〜1999年:56件,2000〜2009年:285件,2010〜2013年:85件で,2000年以降で急増し,2005年の57件が最多であった.2.全報道件数の内訳 1)民事訴訟関連:229件/110例が最も多く,次いで,事故発生関連:131件/29例,刑事訴訟関連:95件/25例,示談成立:7件/3例であった.2)民事訴訟関連:229件/110例の内訳は,賠償命令:85件/37例が最多で,次いで,提訴・控訴:68件/37例,和解:27件/11例,口頭弁論:26件/13例,棄却:22件/11例,調停申立て:1件/1例の順であった.3)事故発生病院種別からみた全報道件数の内訳は,歯科医院:296件/106例が最も多く,次いで大学病院:94件/36例,公的病院:63件/20例,国立病院:4件/1例,その他:5件/4例であった.3.全報道事故例数の内訳 1)全報道事故例数は100例であった.2)発生年別では,2001年の12例が最も多く,次いで1986年の9例,2002年の7例の順であった.3)診療行為(原因)別による内訳では,麻酔:18例(18.0%)(うち笑気吸入鎮静法:1例,全身麻酔:1例)が最多で,患者転帰別による内訳では,身体的後遺症:44例(44.0%)が最も多かった.4.診療行為(原因)別による報道件数の推移 麻酔:180件(39.0%)で,次いで,口腔外科手術:65件(14.1%),抜歯:57件(12.3%),一般診療:43件(9.3%),インプラント手術:41件(8.9%),誤認抜歯:21件(4.5%)の順であった.5.民事裁判で「賠償命令」が下された事故例について 賠償命令:37例中,34例が地裁判決,3例が高裁判決であった.診療行為(原因)別では,抜歯:10例が最多で,次いで,インプラント手術:7例であった.賠償請求額の最高額は,1億8,500万円で,智歯の抜歯手術後の身体的後遺症(2004年8月)に対しての訴訟で,地裁で4,000万円,高裁で3,310万円の支払いが命じられた.
著者
佐藤 恭道 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.143-145, 2008-04-10

口臭についての記述は古来『医心方』『病草紙』『今昔物語集』などの文献にも記載が見られる.特に江戸時代には様々な歯磨剤が売られ,歯口清掃が庶民の嗜みになっていた.今回我々は,大田南畝の随筆『半日閑話』に見られる,口中から芳香を出し続けた男の記述について検索した.大田南畝は,寛政から文化,文政年間にかけて戯作や随筆などを著し当時の文壇に大きな勢力を持っていた文人である.『半日閑話』は,明和五年から文政五年の市井の雑事を記録した大田南畝の見聞録である.口中から芳香を出し続けた男の話は『天女降て男に戯るゝ事』として「松平陸奥守忠宗の家来の番味孫右衛門が,天女に口を吸われた後,一生涯口中から芳香を発し続けた.」と記されている.この記述は,口中から芳香を発することへの憧れによって創作されたものではないかと考えられた.またこの記述は,当時の口臭に対する世相を反映した興味ある資料と考えられた.
著者
竹原 直道
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.12-26, 2007-03-25

舌出し図像は世界中に分布している.そこでこれらの舌出し図像や神話の持つ意味について分析を試みた.その結果,威嚇や侮辱の表現である張目吐舌は,尻出しとともに,初期農耕社会の戦場での挑発的戦闘行動であり,戦意高揚のために用いられたしぐさであることを考察した.
著者
竹原 直通
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.21-32, 2003-05-15
被引用文献数
2

平安から室町時代に描かれた地獄絵のなかに表れた抜舌図について検討を加えた.刺舌,抜舌,張舌といった,抜舌図の表現パターンの解析から,抜舌図の起源は,ヨガ行者の空想の産物などではなく,古代インドのヒンドゥー教典,マヌ法典にあること,また中国や日本の文化的イメージの複合にあることを考察した.
著者
西巻 明彦
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.267-272, 2013-11

『平治物語絵巻』は,現存するものが三条殿焼打巻,信西巻,六波羅行幸巻である.この中で,信西巻は,第三段,第四段が詞書が陽明文庫本に近似しているが,絵画は金刀比羅本に近似した描写がなされている.信西の首は,斬首されて後閉口しているが,京大路をわたしている時は開口し,信頼,義朝にのろいをかけている.このことは,口腔が物語の場面を変換させる機能を持って描写されている点が注目される.
著者
鈴木 長明
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.378-387, 2014-09

青森県,岩手県,秋田県の民話,昔話,伝説を資料として,病気治療例を収集し分析した.収集できた症例は54例であった.病人あるいは悩める人は59例で,そのうち一般人は29例であった.症状あるいは悩みは57例であった.効果がなかった治療歴では医者が14例,宗教等関連者が16例であった.治療担当者あるいは相談者では宗教等関連者が17例,本人を含む一般人が35例であった.診断法あるいは本人の願い成就法は占い,祈願,八卦,その他であった.病因あるいは病名は崇りあるいは邪気が最も多く,医学的には蛇による咬傷,恋わずらい,その他であった.治療法では娘による介抱,湧き水を飲む,温泉などの医学的療法,呪文,崇りを除くなどの宗教的療法であった.治療効果は成功例が44例,死亡例が1例であった.治療効果には心理的要因が大きく関与しておりそれは現代医学の心理療法の原点になっているのではないかと考えられる.