著者
千坂 知世 山尾 大 末近 浩太
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.2-26, 2023-03-15 (Released:2023-03-30)
参考文献数
58

イランのイスラーム革命防衛隊(IRGC)は,1979年革命から現在までイランの革命体制を国内外の脅威から守るという重要任務を担ってきた。その一つに周辺諸国のシーア派支援のための派兵が挙げられる。しかし,海外派兵には安全保障のジレンマや経済制裁など国益と相反する問題が生じる可能性がある。このようなパラドクスを孕むIRGC派兵をイラン国民がどのように捉えてきたのか。言論統制の厳しいイランにおいて,IRGCという体制そのものを象徴する組織に対する正確な世論を測ることは困難とされてきた。本論文では,そのような「社会的望ましさバイアス」の問題に対して,独自に実施したサーベイ実験を通じて克服を試みた。その結果,IRGCの海外派兵支持者はイラン全国で約35パーセントにとどまること,さらに支持/不支持の差は,体制への支持,信仰心,経済状況ではなく,対米意識の異なる回答者の間で最も強く有意に見られることがわかった。これは,革命体制への追従や宗教理念に基づく非合理性によって語られることの多かったこれまでのイラン対外政策研究とは異なる見方を示唆するものである。
著者
酒井 啓子 松永 泰行 石戸 光 五十嵐 誠一 末近 浩太 山尾 大 高垣 美智子 落合 雄彦 鈴木 絢女 帯谷 知可
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

総括班はグローバル関係学を新学術領域として確立することを目的とし、分担者や公募研究者、領域外の若手研究者にグローバル関係学の視座を理解しその分析枠組みをもとに研究を展開するよう推進することに力点をおいて活動を行っている。H29年度には、領域代表の酒井、計画研究A01代表の松永、計画研究B02分担者の久保が全体研究会や国内の研究シンポジウムなどでそれぞれがグローバル関係学の試論を報告、各界からコメントを受けて学理のブラッシュアップに努めた。そこでは1)グローバル関係学が、関係/関係性に焦点を絞り、その関係/関係性の静態的・固定的特徴を見るのではなく、なんらかの出来事や変化、表出する現象をとりあげ、そこで交錯するさまざまな関係性を分析すること、2)グローバル関係学がとらえる関係が単なる主体と主体の間の単線的/一方方向的関係ではなく、さまざまな側面で複合的・複層的な関係性を分析すること、を共通合意とすることが確認された。それを踏まえて9月以降、領域内の分担者に対して、いかなる出来事を観察対象とするか、主体間の単線的ではない関係性をいかに解明するか、そしていかなる分析手法を用いてそれを行うかを課題として、個別の研究を進めるよう促した。多様な関係性が交錯する出来事にはさまざまな事例が考えられるが、その一つに難民問題がある。計画研究ごとに閉じられた研究ではなく領域として横断的研究を推進するため、計画研究横断プロジェクトとして移民難民研究プロジェクトを立ち上げた。また、総括班主導で確立したグローバル関係学の学理を国際的にも発信していくため、国際活動支援班と協働しながら、海外での国際会議を積極的に実施している。H29年度はシンガポール国立大学中東研究所と共催で同大学にて国際シンポGlobal Refugee Crisesを実施、グローバル関係学の骨子を提示して海外の研究者への発信とした。
著者
青山 弘之 末近 浩太 錦田 愛子 山尾 大 髙岡 豊 浜中 新吾 高橋 理枝 溝渕 正季
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は「アラブの春」が中東地域にもたらした混乱に着目し、そのなかで台頭を遂げた非国家主体と、「弱い国家」となった各国の主要な政治主体が織りなす政治構造の実態を解明することを目的とした。具体的には、東アラブ地域諸国の政治の動静に焦点を当て、既存の国家枠組みのなかで政治を主導してきた軍、治安機関、政党・政治組織、NGOなどと非国家主体の関係、そしてその関係が政治や社会の安定性に及ぼす影響を明らかにした。
著者
末近 浩太
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.178, pp.178_1-178_14, 2014-11-10 (Released:2015-11-30)
参考文献数
32

This special issue, comprising nine research articles and one review article, focuses on ‘Political Changes in the Middle East’. The Middle East today is in a storm of political destabilization, which was triggered by the Arab Spring in late 2010. Regardless of its consequences, such as peaceful democratisation and bloody civil war, the Arab Spring has caused structural changes for both states and society in their domestic politics, which is seemingly leading to a blurring of the lines between regional and international politics. For example, the collapse of the Mubarak regime in Egypt brought about a realignment in inter-state relations between Egypt and other Arab states, as well as with the US. Thus, Middle Eastern politics and international politics are interconnected, as L. Carl Brown rightly argued thirty years ago. Nevertheless, social science seems to have failed for decades to effectively analyse the interconnections between the political dynamics of the Middle East and international politics. This is mainly because of ‘Middle Eastern exceptionalism’, which is deeply rooted in various research fields of social science. It claims that the region is culturally, socially, and historically so unique that it is hard to be studied or understood through general theories of social science, particularly comparative politics and IR; it is, thus, in turn,difficult to contribute to furthering the theoretical development of disciplinary social science, as well as Middle Eastern area studies. Some experts point out that this exceptionalism is due to an intellectual divide between two scholarly approaches—area studies and disciplinary social science. In addition, both approaches, though in a different manner, have a tendency to regard the region as if it is an exclusive ‘miniature garden’ that is insulated from the remainder of the world. As a result, two different approaches have developed separately, one focused within the region, the other, outside the region. In search for a new analytical perspective to bridge such a methodological gap, this special issue attempts to set up two working premises. First, while the Middle East possesses common properties and unifying themes, which ontologically generate its ‘regionness’, and thus can be considered independent and autonomous, it does not exist in a static and uniform way, but has a variable, fluid, and multi-layered presence. Second, the concept of ‘political change’ can be an analytical key to connect various levels of dynamics between domestic, regional, and international politics, as well as to overcome the intellectual divide between area studies and disciplinary social science. In this issue, ‘political change’ is loosely defined as the fluctuation or collapse of long-lasting power equilibrium, such as through democratisation, revolution, civil war, inter-state war, and economic crises. The nine contributions, briefly summarised at the end of this introduction, are all different from one another in terms of their research field, methodology, and case studies. Yet it is clear that all the papers in this issue share a common thesis concerning the above-mentioned problems of ‘Middle Eastern exceptionalism’ and the intellectual drive to tackle it. They also seek to take steps towards developing studies on Middle Eastern politics and international politics by focusing on ‘political changes’ in each case.
著者
末近 浩太
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.15, pp.259-314, 2000-03-31

1970年代後半から80年代初頭にかけて,中東各地で急進的イスラーム復興主義が「噴出」した。政治イデオロギーとしてのイスラーム復興主義は,70年代にはその力を低下させていた世俗的ナショナリズムや社会主義のオルタナティヴとして台頭したといえる。こうした流れが顕著に見られた国のひとつとしてレバノンが挙げられる。内戦(1975-90年)による事実上の国家の崩壊が,既存のイデオロギーに対する幻滅感を生み,人々のイスラームへの回帰を促した。その象徴ともいえるのが,急進的なシーア派・イスラーム復興主義組織「ヒズブッラー(神の党)」の登場である。ヒズブッラーは,80年代内戦下のレバノンにおいて急速に勢力を拡大した。そして,革命的汎イスラーム主義の標榜やイスラエル・欧米勢力との衝突など,その影響力はトランスナショナルな広がりを見ゃた。こうしてヒズブッラーは,最も急進的な「イスラム原理主義」グループのひとつとして知られるようになる。しかし今日,このような一面的な認識やイメージは,大幅な修正を余儀なくされている。80年代末に始まった国際政治の「地殻変動」は,組織の存在理由を大きく揺るがした。ヒズブッラーは新たな現実に適応し,組織の存続を確実なものとするため,革命的イデオロギーの柔軟化や,92年と96年のレバノン議会選挙への参加,組織の再編成など,さまざまな政策・方針の転換をする。その結果,組織の性格はトランスナショナルからレバノン・ローカルへと変化しつつあるといえる。これまでの研究の多くは,こうしたヒズブッラーの変容を新たな国際秩序の確立に対する「後退戦」と捉えている。しかし実際は,ヒズブッラーは時代に適応するイスラーム復興の形態を積極的に模索しているのであり,むしろその「間接的」影響力はイスラーム世界,さらに国際社会においても拡大しているのではないか?本稿は,変容の背景・要因と政策・方針の転換を包括的に分析することで,ヒズブッラーの持つ今日的意味を再検証する。
著者
中西 久枝 内藤 正典 嶋田 義仁 伊勢崎 賢治 大坪 滋 末近 浩太 吉川 元 立山 良司 中村 覚
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

中東の紛争では、中東の内外からの外部勢力の介入が紛争の長期化をもたらす実態が明らかになった。また、紛争防止策として、(1)国家再建時にすべての勢力をそのプロセスに包含すること、(2)イスラーム社会組織が果たす社会サービスの分配機能への着目、(3)難民や避難民の保護と共生のしくみを域内で構築すること、(4)民主化への移行期は、治安・雇用の創出・市民社会の政治参加への拡大などの課題への舵取りが紛争の再燃防止になること、などが挙げられる。
著者
青山 弘之 末近 浩太
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、東アラブ地域各国の法制度ないしは主権国家としての領域を超越して展開する「非公的」政治空間に着目し、そこで繰り広げられる政治主体に関する情報を収集し、ホームページなどを通じて継続的に公開した。また収集した情報をもとに、「5.主な発表論文等」で列記した論文・論考を発表し、ムハーバラート、レジスタンス、シャッビーハ、官制NPOなどが同地域の政治において決定的な役割を担っていることを論証した。
著者
中村 覚 吉川 元 伊勢崎 賢治 高橋 和夫 中西 久枝 澤江 史子 栗栖 薫子 森 伸生 北澤 義之 立山 良司 坂井 一成 泉 淳 小林 正英 細井 長 齊藤 嘉臣 末近 浩太 土佐 弘之 木村 修三 小塚 郁也 福田 安志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本プロジェクトは、国際関係論、安全保障論、中東地域研究の専門家による協働研究を通じて、日本における中東の安全保障問題に関する本格的な研究の基盤づくりを目的とした。また、中東における武力紛争の傾向や特質に関して論ずるのみではなく、短期的な紛争解決と、中長期的な予防レジームの構築に関する課題と可能性に関して考察した。その際に特に、日本への政策的示唆を生み出す視点を重視した。また当該の研究課題の遂行のために必要とされる国外の研究者とのネットワーク作りと同時に、国外への研究成果の発信で成果を上げた。
著者
酒井 啓子 飯塚 正人 保坂 修司 松本 弘 井上 あえか 河野 毅 末近 浩太 廣瀬 陽子 横田 貴之 松永 泰行 青山 弘之 落合 雄彦 廣瀬 陽子 横田 貴之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

9-11事件以降、(1) 米国の中東支配に対する反米意識の高まり、(2) イスラエルのパレスチナ攻撃に対するアラブ、イスラーム社会での連帯意識、(3) 国家機能の破綻に伴う代替的社会サービス提供母体の必要性、を背景として、トランスナショナルなイスラーム運動が出現した。それはインターネット、衛星放送の大衆的普及によりヴァーチャルな領域意識を生んだ。また国家と社会運動の相互暴力化の結果、運動が地場社会から遊離し、トランスナショナルな暴力的運動に化す場合がある。