著者
中川 将司 堀江 健生
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.101-109, 2009 (Released:2009-11-06)
参考文献数
50

動物の眼は多種多様である。しかし,脊椎動物内ではその器官の構造,視細胞の形態,そして視細胞内信号伝達系等の性質は,最も下等な円口類からヒトまで殆ど同じである。脊椎動物の眼の体制が進化の過程でどのように確立されてきたのか,まだ殆ど分かっていない。ホヤは脊椎動物の最も近縁な現生動物で,その幼生は脊索をもち,神経管から神経系が発生する等,脊椎動物の基本的特徴を備えている。ホヤは脊椎動物型眼の進化を解く鍵になると期待される。筆者らは,ホヤ幼生から視細胞特異的遺伝子を単離し,それらの遺伝子産物に対する抗体によってホヤ幼生の視細胞の形態を明らかにしてきた。本稿では,ホヤ幼生の光に対する行動とその視細胞の形態を基に,脊椎動物の原始的な眼と,脊椎動物の眼や松果体との関連性について考察する。
著者
山下(川野) 絵美
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.2-9, 2015-03-16 (Released:2015-04-03)
参考文献数
49

動物は,光を物の形や色を認識する「視覚」で利用するのに加え,生体リズムの制御などの様々な「視覚以外(非視覚)」の生理機能の調節に用いている。哺乳類を除く多くの脊椎動物において,非視覚の光受容には,松果体や脳深部などの,眼以外の光受容器官の関与が広く知られている。下等脊椎動物の松果体やその関連器官は、環境光の明暗だけでなく、波長成分(色)を検出できる(波長識別応答)。著者らは、ヤツメウナギ松果体において,波長識別応答に関わるUV光受容タンパク質としてパラピノプシンを同定した。これまでに行ってきた生化学的、分光学的、組織化学的、電気生理学的解析から、パラピノプシンは,松果体波長識別の分子基盤の解明のためだけでなく,その特徴的な分子特性から,脊椎動物の視覚オプシンの分子進化を考える上でもカギとなる分子であることが分かってきた。ここでは,松果体UV光受容タンパク質パラピノプシンに関する著者らの研究成果を中心に,松果体やその関連器官における波長識別とオプシンの分子進化に関する知見を紹介する。
著者
眞鍋 康子 井上 菜穂子 高木 麻由美 藤井 宣晴
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.70-75, 2012-04-30 (Released:2012-05-25)
参考文献数
46

AMPキナーゼは,真核生物において高度に保存されたセリン/スレオニンキナーゼである。キナーゼ活性が同定されたのは1970年代初期であるが,その生物学的重要性が認識され始めたのは最近になってからである。細胞内のエネルギー・レベルを感知して,低エネルギー環境に適応するための種々の調節を行う。生命活動のイベントの多くは,細胞レベルであっても個体レベルであっても,何らかの形でエネルギー代謝と関連している。そのため,AMPキナーゼが担う役割も単なるエネルギー・センサーに留まるものではなく,細胞の基本的活動(増殖・分化など)から疾患の生起にまでわたる。本稿では,AMPキナーゼの分子構造および機能を解説する。
著者
岡田 龍一
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.121-130, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
参考文献数
60

ミツバチの採餌行動において,良質な餌場を発見したミツバチは巣に戻ってから翅を振動させながら尻を振って歩く。Karl von Frischは,この尻振りダンスと呼ばれる行動が巣の仲間に餌場の位置を伝えるコミュニケーションであることを発見した。尻振りダンスによってミツバチコロニーは良質の餌場を効率よく訪問し,急な採餌環境の変化であっても迅速に反応することができる。この行動に関する研究は,Frischが1973年にノーベル賞生理学医学賞を受賞した後40年経ても,今なお論文が発表され続けている「生きた」研究分野である。本稿では尻振りダンスに関する行動観察および実験,ダンス情報の符号化と復号化に関する神経メカニズム,コンピュータによる採餌行動のシミュレーションなどを,筆者らの研究を中心に情報の伝達に着目して,尻振りダンスに関してどれくらい明らかになっているのか,どのように今,解釈されているのかを紹介する。最後には尻振りダンスに関する最新のトピックスを挙げる。本稿によって,生態学的にも,行動学的にも,社会生物学的にも,進化学的にも,神経行動学的にも興味深い,この行動に多くの方が興味を持ってもらえれば幸いである。
著者
富岡 征大
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.231-239, 2011 (Released:2011-08-30)
参考文献数
51

線虫Caenorhabditis elegansはわずか302個のコンパクトな神経系を持つ。その構造は脊椎動物や昆虫などの脳と大きく異なるが,そこで働く神経回路の様式や分子経路は種を超えて共通したものが多くみられる。線虫は,餌の匂いへの誘引行動や侵害刺激からの忌避行動など,様々な外部刺激に対する応答を示す。さらに,個体群密度や餌の有無など複数の情報を統合し記憶することで,状況に適した行動パターンを選択する。同種他個体から放出される線虫フェロモンにより個体群密度の認識がなされており,フェロモンの作用は幼虫期の発生や,社会性行動,学習など多岐に渡る。学習により後天的に獲得される行動には,インスリン様シグナル伝達やモノアミンシグナル伝達などの種を超えて保存された重要な分子経路が働く。線虫は,遺伝学的解析に有用なモデル生物として古くから用いられてきたが,近年ではそれに加えて神経活動のイメージングによる生理学的な解析も広く行われている。本稿では,線虫の神経系の構造を概説し,化学物質に対する感覚応答や記憶学習を制御する神経回路と分子機構について紹介したい。
著者
洲崎 敏伸
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
動物生理 (ISSN:02896583)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.45-54, 1986-06-30 (Released:2011-03-14)
参考文献数
60
被引用文献数
1
著者
幡地 祐哉
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.46-53, 2023-04-10 (Released:2023-04-21)
参考文献数
83

視覚的な局所運動は狭い受容野内における輝度などの時空間的な相関から検出されるが,検出される運動成分は2次元的な運動方向と速度を一意に定めることができないという問題が生じる。霊長類は局所運動成分を統合することによりこの問題を解決しているが,他の系統における運動統合過程を調べた研究は少なく,種比較による系統発生的,生態的考察もなされていない。本稿ではハト(Columba livia)の運動統合特性が霊長類と異なることを行動実験から示した著者らの研究を紹介する。他の脊椎動物種における運動統合を調べた研究についても概説し,運動統合の種差を生じさせる要因について考察する。運動統合の種差は獲物などの運動物体を追跡する機能と関連しており,初期視覚領域における傾き選択性の有無と網膜からの2つの視覚経路の発達度合いの差異から生じるという仮説を提案する。
著者
立石 康介 渡邉 英博
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.150-159, 2022-12-07 (Released:2022-12-21)
参考文献数
63

昆虫は,特に発達した嗅覚神経系を備えており,匂い情報を利用して種内でコミュニケーションを取り,天敵から身を守るだけでなく,匂い情報から環境状況をも適切に判断することができる。近年,昆虫の嗅覚受容関連遺伝子について解析が急速に進む中,非モデル生物でも嗅覚受容関連遺伝子の報告が盛んに行われている。このような遺伝子の機能解析には嗅感覚細胞からの電気生理学的記録が欠かせない。しかしながら,昆虫嗅覚神経系からの電気生理学実験を展開する研究室が世界的にも少なくなってきている。 本稿では,昆虫が備え持つ嗅感覚細胞から匂い物質に対する応答を直接的に記録でき,匂い情報の符号化様式を解析できる「単一感覚子記録法」について,筆者が発展させてきた実験方法を紹介する。
著者
志賀 向子
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.180-188, 2020-12-01 (Released:2020-12-24)
参考文献数
34

概倍日リズムと呼ばれるおよそ2日周期のリズムは,これまでヒトや蚊で報告されており,このリズムは人工的な環境下で体内の概日時計が脱同調することにより生じると考えられてきた。一方,オオクロコガネでは,野外において成虫の出現やフェロモン腺の大きさに2日の周期性がみられる。本稿では,オオクロコガネの概倍日活動リズムを紹介し,その生理機構について議論する。野外で標識再捕実験を行った結果,オオクロコガネ成虫は同じ木にほぼ2日毎に繰り返し出現することがわかった。実験室の明暗条件では2日毎の夜に活動し,そのリズムは恒暗条件において約48時間周期で自由継続した。これより,オオクロコガネは明瞭な概倍日リズムを持って活動することがわかった。 また,光パルスに対する位相反応から,概倍日リズムは概日時計を使って形成されると考えられた。さらに,脳の微小破壊により,視葉内の概日時計と脳間部に存在する一部の細胞群が概倍日リズムの形成に関わると考えられた。オオクロコガネは,おそらく概日活動リズム形成にかかわる神経回路を改変して概倍日リズムを形成しており,そこには概日時計の周期を2倍にするしくみがあると考えられる。
著者
田崎 健郎
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
動物生理 (ISSN:02896583)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.19-26, 1985-03-30 (Released:2011-03-14)
参考文献数
66