- 著者
-
酒井 正樹
- 出版者
- 日本比較生理生化学会
- 雑誌
- 比較生理生化学 (ISSN:09163786)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.3, pp.135-150, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
- 参考文献数
- 10
- 被引用文献数
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今回はニューロンにおける活動電位の伝導をとりあげる。ここでいう伝導とは,軸索起始部で発生した活動電位が,減衰することなく高速で軸索を伝わって行くことである。伝導のしくみについては,活動電位のしくみがわかっておれば,それなりに理解できる。ただし,十分納得しようとすると実はそれほど簡単ではない。それは,伝導には静止電位や活動電位であまり問題にならなかった空間という要素があるからだ。活動電位の発生では,電位変化は球形の細胞膜全域で同時均等に起こっているものとして扱えた。だから,電位の時間的変化だけに注目しておればそれでよかった。また,イオンの電気的作用についてみても,細胞膜を挟んだ近接領域おそらくナノメータ(10–9m)オーダーの範囲でよかった。これに対し,伝導では活動電位の空間的ひろがりを考えねばならない。そのひろがりは,細い軸索の長軸方向に沿ってミリメートルからセンチメートルオーダーにもなる。そして,そのひろがりにおける電位の時間的変化が問題となるのである。このように時間と空間という2つのパラメーターが同居していると,一方のことを考えていると他方のことを無視してしまいやすい。また,伝導においては,電位の変化速度も問題になってくる。さらに,電流の速度と,電流を運ぶ荷電体の速度は別物であるという“電気の常識”も知っておく必要がある。ここでは,前2回の講義を受けているとの前提で話をすすめていくが,一般解説書にあるような事実の紹介はなるべく避けてイメージによる直感的理解をめざす。今回も,コラムについては読みとばしていただいて結構である。