著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.12-23, 2009-07-11 (Released:2017-07-21)

本研究の目的は、自然言語処理技術を援用して、熟達した噺家の語りに〈核〉として現れる中心的な概念を明らかにすることである。インタビューの逐語記録(芸談)をデータとし、複数の語が同一の文に同時に含まれるという共起情報を利用して、語によって表現される信念どうしの相互関係を推定し、信念地図を作成した。この手法は、先入観によるバイアスや見落としの危険性を低減させ、噺家の信念地図の時系列的な変化や師匠と弟子とのあいだの信念地図の類似性を客観的・定量的に検討することを可能にするものである。
著者
高橋 恵子 田松 花梨 松本 宏明 鮎川 順之介 今泉 紀栄 三道 なぎさ 柳生 奈緒 栗田 裕生 長谷川 啓三 若島 孔文
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.3-17, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1

東日本大震災の発災後に被災者自身の手によって行われた「震災川柳」の取り組みについて、参加者が震災川柳の心理的効果をどのように認知していたかを明らかにし、今後の災害後の心理的支援を検討する手がかりを得ることを目的とする。本研究は、調査1(インタビュー調査)と調査2(質問紙調査)によって構成される。調査1では、震災川柳の役割には5つのカテゴリーがあることが示され、さらに、個人内/個人間において効用を持つことが考えられた。さらに調査2では、震災川柳を自ら詠む人(投稿参加)と発表される川柳を聞く人(傍聴参加)という参加形態と、心理的効果の認知との関連を検討した。その結果、投稿参加、傍聴参加ともに、震災川柳により「明るい気持ちになる」ことが分かった。これらのことから、震災という非常事態において、震災川柳が心理的支援の一つの形態として有効である可能性が示唆された。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-45, 2016

青年期における笑いに対する意識や態度の性差について多角的に検討するため、笑いに対する積極性尺度を作成し、ユーモア志向性および笑わせたい相手との関連から考察した。笑いに対する積極性尺度の作成にあたり、18 ~ 31 歳の大学生261 名(男性70 名,女性191 名; M = 19.37,SD =1.37)の回答を分析した結果、最終的な笑いに対する積極性尺度は第1因子から第4 因子の「笑いに対する好感」「笑わせ欲求」「笑いに対する自信」「お笑いへの親しみ」の4因子で構成された。性差を検討したところ、男性の方が「笑わせ欲求」の得点が高く、恋愛関係にある相手を笑わせることを女性よりも重視していることが確認された。一方、女性は男性よりも「笑いに対する好感」の得点が高かったことから、日常的に笑いがある生活をより重視し、コミュニケーションに笑いがあることを望むからこそ、笑わせてくれる相手やよく笑う他者を魅力的だと感じている可能性が示唆された。
著者
伊藤 理絵 内藤 俊史 本多 薫
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
vol.16, pp.114-118, 2009-07-11

本研究の目的は、幼児期に見られる攻撃的笑いについて、観察記録に基づき検討することである。年少児〜年長児44名について分析したところ、幼児は、直接的に相手を支配・威圧したり、間接的に攻撃するために攻撃行動に伴う笑いを見せていた。また、仲間と共有する攻撃的笑いには、一つの笑いに親和的性質と攻撃的性質が含まれており、より見えにくい形の攻撃的笑いが見られた。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.18-32, 2016 (Released:2016-12-20)

乳幼児にとっての笑いの重要性を疑う者はいないだろうが、保育における笑いとユーモアの意義については、これまであまり議論がおこなわれてこなかった。そこで本稿では、保育実践において楽しい笑いを重視する意義について論じた。また、具体的にどのように乳幼児の笑いとユーモアの発達を援助すれば良いかを考察した。乳幼児の笑いは純粋で楽しいものが多いが、攻撃性を帯びる笑いや秩序を乱す笑いなど、負の側面を持つものもある。さらに、不満やストレスを反映した笑いもあることを考えると、子どもの笑いは多い方が良いとは一概に言えないことになる。これらの負の側面を持つ笑いに対して、保育者はどのように向き合えば良いかについても論じた。これらの議論を通じて、今後さらにどのような実証的な研究が必要かを提示した。
著者
久間 英樹 高橋 勇作 福岡 久雄 玄行 照朗 皆尾 登志美
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.50-60, 2010-07-10 (Released:2017-07-21)

本研究の目的は、ホビーロボットを用いて人と人とのコミュニケーションのきっかけをつくり、その後のコミュニケーションの円滑化を図ることである。これまで、ホビーロボットに必要な要素として音声操作型で動きに「振る」動作が含まれる方が面白いと感じることがわかった。本報告ではこれらの要素を含むホビーロボットを実際の高齢者介護現場で、コミュニケーションのきっかけつくりに応用可能か検討をおこなった。その際「面白さ」の評価方法として、市販されている顔の表情から「笑顔度」を推定する非接触型リアルタイム笑顔度検出センサ「スマイルスキャン」を用いた。その結果、ロボット操作中の笑顔度検出センサ最大値の平均は約71%であった。また同時に実施した第3者による主観評価でも笑顔度は5段階で4.71であった。このことは、介護を必要としている高齢者に対しても本ホビーロボットは「笑いを誘い」その結果としてコミュニケーションが向上する可能性があることを示唆している。また「笑い」の定量的評価方法として笑顔度検出センサを用いることの有用性も確認できた。
著者
昇 幹夫
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.26-30, 1994-07-09 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1
著者
浦 和男
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.60-73, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

明治時代に、科学的な「笑い学」が本格的に始まる。文明開化は、「笑い」の研究にも影響した。最初に「滑稽」を扱うのは、自由民権運動の雄弁書の訳者黒岩大と、その影響を受けた真宗の加藤恵証であった。本格的な「笑い学」は、土子金四郎に始まる。実業家の土子は「洒落」を日常言語として分析し、哲学者の井上円了は詩的言語として分析する。発笑理論の嚆矢は、哲学者大西祝による。英文学者で女子教育の先駆者の松浦政泰は、「滑稽」と「笑い」を区別して扱った。哲学者桑木厳翼は、「滑稽」の要素を「詭弁」にあるとして「滑稽の論理」を考えた。二番目の発笑理論は、大西祝の弟子と思われる、哲学者川田繁太郎による。作家夏目漱石は、文学者、作家の立場から「滑稽」の本性を論じた。それぞれ、欧米の理論を利用せず、日本的な「笑い」を踏まえた独自の説を構築している。本稿では、以上の「笑い」論を通時的に考察し、研究黎明期を考証する。