著者
坂倉 浩一
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.287-290, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
10

白血球はその起源によって,リンパ球を主とするリンパ系と,顆粒球・単球・マクロファージ等を含む骨髄系に大分される。本総説では,頭頸部癌における骨髄系細胞研究の動向と免疫療法への応用を,免疫チェックポイント分子と絡めて概説する。骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)は単球より未熟な細胞で,強力な免疫抑制作用を持つ。我々は頭頸部癌患者において,PD-L1やTGF-βを介したMDSCのT細胞機能や増殖の抑制を報告した。ビタミンによる分化や免疫チェックポイント阻害薬,分子標的薬による,MDSCの制御が近年期待されている。末梢血中の単球はその分化度によって3つのサブセットに分けられるが,我々は近年単球サブセットが癌患者では未熟化し,HLA-GやPD-L1等の免疫抑制分子をより多く発現していることを報告している。マクロファージは免疫刺激性のM1と抑制性のM2の亜群に分かれ,癌組織周囲の腫瘍関連マクロファージ(TAM)にはM2が多く含まれる。現在M2の産生する抑制性サイトカイン/ケモカインを阻害する臨床試験が,多数進んでいる。一方で癌細胞はマクロファージに対する“Don’t eat me”シグナルCD47を発現し,貪食から逃避する。近年我々は舌癌におけるCD47高発現は予後不良因子であり,CD47阻害により頭頸部癌細胞の貪食が促進されることを報告し,海外では臨床試験が進んでいる。
著者
任 智美
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.9-12, 2020 (Released:2020-03-26)
参考文献数
10
被引用文献数
1
著者
小河 孝夫 清水 志乃 戸嶋 一郎 神前 英明 清水 猛史
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.221-227, 2011 (Released:2011-09-30)
参考文献数
41
被引用文献数
1

近年,好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎症の病態形成に凝固線溶系が深く関与していることが明らかになり,凝固線溶因子を標的とした治療法の開発が注目されている。一方,ヘパリンは抗凝固作用を有し,臨床上も血栓症治療などに古くから使用されてきたが,同時に抗炎症作用も有することが知られている。ヘパリンは陰性荷電とその特異な分子構造により炎症過程における多くの生理活性物質と結合することが作用機序として考えられている。実際の臨床においても,気管支喘息,炎症性腸疾患,熱傷などで有効性が報告され,様々な疾患モデル動物においてもヘパリンの抗炎症作用が報告されているが,鼻副鼻腔疾患に対する検討はほとんどない。筆者らはヘパリンの持つ抗凝固作用と抗炎症作用の両者に期待して,難治性上気道炎症に対する治療薬としての可能性を検討している。 ラット鼻粘膜炎症モデルを使用した未分画ヘパリンや低分子ヘパリンの点鼻投与の検討では,LPS刺激やアレルギー性炎症により生じたラット鼻粘膜の杯細胞化生や粘液分泌,炎症細胞浸潤はヘパリン投与により有意に抑制された。培養気道上皮細胞を用いた検討でも,TNF-α刺激や好酸球性細胞株との共培養によるムチンやIL-8分泌を有意に抑制した。これらの結果より,ヘパリンはステロイド以外に有効な薬物療法のない好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎に対する新たな局所治療薬としての可能性が期待できる。
著者
大木 幹文
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-6, 2015 (Released:2015-03-25)
参考文献数
21

鼻アレルギーに対する局所療法には鼻腔洗浄法,点鼻液滴下療法,定量噴霧器噴霧療法,ネブライザー療法などがある。鼻洗浄は抗原の回避の意味合いがある。薬液治療法はまず薬液を直接点鼻する方法から始まった。ステロイド療法をコントローラとして考えると初期のベータメタゾン点鼻薬は,血中コーチゾール値が高値になることがある。フロンガスを用いた定量噴霧器が開発されたが,オゾン層破壊の危険のため使用が禁止となり,定量液体スプレーが現在は主体となっている。しかしながら,鼻粘膜への刺激や,液漏れという副作用も認められる。ドラッグディバリーの観点から,欧米ではエアロゾル化を見直した脱フロンの噴霧液が多く市販される様になり,鼻粘膜の吸着も広範囲に均一となる。また,抗ヒスタミン薬とステロイド薬の合剤による噴霧器もその有用性が検討されてきている。本邦においても内服薬のみでは無く局所薬の有益性の検討をさらに進めるべきである。

1 0 0 0 OA がん免疫療法

著者
西村 剛志 加納 里志 佐久間 直子 佐野 大佑 小松 正規 折舘 伸彦
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.237-246, 2013 (Released:2013-12-26)
参考文献数
77

頭頸部癌患者に対する治療方針を決定する場合,現時点で免疫療法が第一選択の方針となることは極めて稀であるが,手術,放射線治療,化学療法との組み合わせで上乗せ効果を期待できる可能性がある。近年開発の著しい分子標的治療薬にも免疫学的知見が反映されており今後の飛躍的な治療成績の向上もあり得る。Biological response modifier (BRM) 製剤,養子免疫療法,ワクチン療法など現在利用可能と考えられる免疫療法と機序につき簡便に概説した。
著者
中村 陽祐 竹内 裕美 福島 慶 横山 裕子 森實 理恵 榎本 雅夫
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-6, 2017 (Released:2017-03-24)
参考文献数
13

抗ヒスタミン薬の鼻閉に対する効果を補完するために,第2世代抗ヒスタミン薬のfexofenadineフェキソフェナジンと経口血管収縮薬のpseudoefedrineプソイドエフェドリンの配合剤(F/Pと略す)が臨床で使用されている。F/Pの鼻閉に及ぼす臨床効果は経験的に確認されているが,鼻腔通気性の変化を客観的に評価した研究はほとんどない。本研究では,通年性アレルギー性鼻炎患者17人(男性12人,女性5人,平均年齢28.6歳)を対象として,F/P服用後の鼻腔通気性の変化を鼻腔通気度検査によって検討した。また,F/P服用後の自覚的な鼻閉感の変化についてVASを用いて検討した。鼻腔通気度検査は,F/P服用前は4時間,服用後は8時間,30分毎に測定した。また鼻閉感は,鼻腔通気度検査に合わせて測定した。鼻腔通気性の客観的な指標である総鼻腔気流量は,服用後90分から有意に増加し,服用後8時間まで有意な増加が持続した。一方,鼻閉感は,服用後2時間から有意に低下し,服用後6時間まで有意であり,試験期間の服用後8時間の間,効果が持続した。本研究によって,F/Pの鼻腔通気性に対する速やかな効果発現と持続性を客観的に証明することができた。また,鼻腔通気性の改善に伴い自覚的な鼻閉感も有意に改善することが確認された。
著者
加藤 幸宣 高林 哲司 坂下 雅文 意元 義政 徳永 貴広 二之宮 貴裕 森川 太洋 吉田 加奈子 野口 恵美子 藤枝 重治
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.261-266, 2018 (Released:2018-12-26)
参考文献数
37

好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は,鼻腔内に多発性鼻茸を有し,鼻茸・末梢血中に好酸球増加を伴う難治性副鼻腔炎である。次世代シーケンサーを用いた,鼻茸のRNA-sequencingにおけるtranscriptome解析では,ECRS患者の鼻茸でCST1の発現が高い傾向にあった。我々はCST1がECRSの病態に関与していると考え,ECRSの鼻茸内でのCST1の発現や働きについて詳細な検討を行った。CRSwNP患者の鼻茸内におけるCST1の発現に関して,real-time PCRを用いたmRNAの発現・免疫組織化学を用いた解析では,non-ECRS患者群に比べて,ECRS患者群でCST1が有意に高発現していた。特にCST1はsevere ECRSの鼻茸上皮で強い発現を示していた。つまり,CST1の発現は,ECRSの難治性や再発性と関連する。ECRS由来の鼻茸上皮細胞を精製し,IL-4+dsRNA+CST1で刺激すると,IL-4+dsRNAで刺激した時に比べて,TSLPの発現が有意に上昇した。鼻茸上皮細胞へのTSLPあるいはIL-33の刺激は,CST1の発現を誘導した。また,ECRS由来の鼻茸線維芽細胞に対するCST1の刺激は,CCL11とperiostinの発現を誘導した。CST1は鼻茸内において,ECRSの鼻茸形成・増悪に関わる様々な因子と相互作用することにより,Th2/好酸球性炎症として作用し,鼻茸の重症化,難治性,再発に関わる。ECRSの鼻茸に対して,CST1をtargetとした治療戦略が有用となる可能性がある。本稿では,CST1のECRSにおける役割を中心に解説する。
著者
真栄田 裕行 比嘉 朋代 嘉陽 祐紀 鈴木 幹男
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.245-250, 2018

<p>抗腫瘍薬の一種であるメトトレキサート(MTX)は,現在では関節リウマチのうち予後不良群に対する第一選択薬として広く用いられている。メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders: MTX-LPD)は,MTX投与中の患者に発生するリンパ増殖性疾患であるが,今回われわれは外耳道に腫瘤を形成したまれなMTX-LPDの一例を経験した。当科においては本例以外に3例のMTX-LPDを経験しているが,原発部位は副鼻腔,上咽頭および頸部リンパ節であり,外耳道発生の報告は国内外の文献を渉猟しても見当たらない。</p><p>症例は66歳の女性。主訴は耳漏,耳痛および耳下部の腫脹である。初診時,右外耳道は線維性瘢痕様の表面平滑な腫瘤で占拠されていた。CTおよびMRI画像所見では,右外耳道入口部に造影効果のある内部不均一な腫瘤が確認された。さらにPET画像では腫脹部位に一致してFDGの高集積が認められ,加えて右頸部リンパ節の多発性腫脹も見られたことから外耳道悪性腫瘍が疑われた。外耳道腫瘤および腫大リンパ節の細胞診のいずれにおいても悪性所見は認められなかったが,外耳道腫瘤の生検でReed-Sternberg細胞が確認された。患者がMTX使用歴を有していたことから,最終的にMTX-LPDと診断された。MTXを中止したのちは一連の所見は速やかに消退した。本疾患とEBVとの関連が示唆されているが,本例においてもEBV感染が示された。</p>
著者
饒波 正史 喜友名 朝則 喜瀬 乗基 杉田 早知子 近藤 俊輔 又吉 宣 真栄田 裕行 我那覇 章 古波蔵 健太郎 鈴木 幹男
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-6, 2018

<p>IgA腎症に対し口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法を併用し6年以上の長期経過観察を実施しえた44症例を対象に,長期腎機能予後と遺残扁桃・ワルダイエル輪の代償性肥大・炎症所見について調査した。低・中リスク群では27例中26例で腎機能が保持されていた。一方,高・超高リスク群では,腎機能保持は8例,腎機能低下は8例(2例の末期腎不全・透析導入)となっていた。腎機能維持のためには腎機能が保たれている早期に口蓋扁桃摘出術+ステロイドパルス治療を行うことが重要と推定された。口蓋扁桃遺残は9%であった。アデノイド肥大は軽度が多いが,舌扁桃は19%に肥大を認めた。しかし,口蓋扁桃遺残,アデノイド肥大,舌扁桃肥大と腎機能予後には明らかな関係を認めなかった。炎症所見はアデノイドでは発赤,びらん,膿汁付着を陽性所見とし,舌扁桃では膿栓があるものを陽性所見とした。鼻咽腔ファイバー検査を実施できた42例中,23例は両方に炎症所見なし,5例で上咽頭のみ炎症所見あり,7例で舌扁桃のみ炎症所見あり,4例で上咽頭及び舌扁桃に炎症所見ありであった。透析に至った2例中1例では上咽頭に炎症所見を認めた。上咽頭,舌扁桃の炎症所見の有無と腎機能予後に明らかな関連を認めなかった。IgA腎症における口蓋扁桃摘出術後の長期予後と,上咽頭炎の関係を明らかにするためにさらなる調査が必要である。</p>