- 著者
-
神前 英明
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
- 巻号頁・発行日
- vol.125, no.5, pp.853-860, 2022-05-20 (Released:2022-06-01)
- 参考文献数
- 66
アレルゲン免疫療法は, アレルギー性鼻炎に対する高い有効性が示され, 長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である. 本邦では2014年からスギ花粉の, 2015年からダニの舌下免疫療法が開始され, 皮下から舌下へ投与ルートが変わり, アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用が減少した. 実際に, スギ花粉とダニの舌下免疫療法には比較的高い有効性があり, 患者満足度も高い. しかしながら, アレルゲン免疫療法の治療期間は長期にわたり, 全ての患者に効果をもたらすわけではない. さらに, 治療前の効果の予測や治療効果の判定に有用な普遍的なバイオマーカーはない. アレルゲン免疫療法を行うことでなぜ長期寛解が得られるか, その全貌はまだ明かされていない. しかしながら, 基礎的アプローチにより徐々にそのメカニズムの解明が進んでいる. 免疫寛容を誘導することで, アレルギー性鼻炎の症状が緩和されると想定され, 皮下免疫療法と舌下免疫療法は, おおよそ同じ作用機序であると考えられている. 口腔内の粘膜下には, 免疫寛容を誘導しやすい樹状細胞や制御性 T 細胞が多数存在する. 抗原を取り込んだ樹状細胞が, 所属リンパ節で抗原提示を行い, 制御性 T 細胞, 制御性 B 細胞が誘導され, IL-10, IL-35, TGF-β を産生し, 抗原特異的T細胞, B 細胞を抑制する. 抗原特異的 IgG4 が誘導され, 抗原特異的 IgE の阻害抗体として働く. また, 花粉症に対するアレルゲン免疫療法では, アレルゲン曝露による末梢血の2型自然リンパ球の増加も抑制される. アレルゲン免疫療法の普及に従い課題も見えてきた. 効果の増強, 治療期間の短縮, バイオマーカーの確立, ノンレスポンダーへの対応などに向けた検討が必要である. アレルゲン免疫療法は, 高濃度の抗原を反応させることで, ヒトの免疫システムを大きく動かし, 症状の改善に結び付けている. ヒトの免疫のしくみを理解する上でも興味深い治療法である.