著者
竹松 志乃
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所紀要 (ISSN:05433894)
巻号頁・発行日
no.43, pp.29-52, 1997-12

"心理療法""カウンセリング"という言葉は、阪神大震災やオウム事件、神戸の小6児童殺害事件、いじめが原因の自殺者の増加など、世紀末といわれるここ数年に起こった一連の事件の報道などで、すっかり一般に馴染み深いものとなってきた。それは、いわゆる矯正や指導とは異なり、「心理的問題を扱うために専門的に訓練された治療者(カウンセラー)と、なんらかの問題を解決すべく援助を求めているクライエント(カウンセリー)とが"出会っていく"過程において、クライエントが自己理解を深め、より積極的かつ建設的な意志決定に基づいた、自分らしい生き方を歩んでいけるよう、主に言語的交流と人間関係を通して、治療者が心理学的に援助していく営み」である。
著者
内村 和至
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所紀要 (ISSN:05433894)
巻号頁・発行日
no.43, pp.181-197, 1997-12

松亭金水(中村経年・積翠道人、寛政七~文久二・一七九五~一八六二)は、人情本以外にあまり問題にされることのない作者と言ってよいだろうが、私はたまたま、その随筆『太平楽皇国気質』を手にすることがあって以来、いささか金水に興味を抱いている。といっても、それが優れているからというのではない。むしろ、その安易な文章に呆れるのだが、と同時に、こうした作者がかなり広範囲に仕事をしていたことを不思議にも思うからである。そして、ここには無思慮と無邪気が同居しており、それを「思考」と名付けることはためらわれるが、しかし、やはりそれを「日本的思考」とでも名付けるよりほかないような、そんなものが感じられるのである。
著者
佐藤 清隆
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所紀要 (ISSN:05433894)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.53-88, 2016-03-31

本稿は,「イギリスの多民族・多宗教統合と《共生》の問題」を歴史的に考察しようとする研究プロジェクトの一環として,筆者がこれまで進めてきた多民族・多宗教都市レスターの南アジア系,ブラック系移民研究に続き,ホワイト系移民,なかでもとりわけアイルランド系移民の「ライフ・ストーリー」の紹介を通して,彼らの歴史や文化を明らかにし,そこから戦後レスターにおける「好評判」の歴史を再考する足掛かりを得ようとするものである。筆者は,2001年以来,イギリスにおける代表的な多民族・多宗教都市の一つであるレスターに足を運びながら,フィールドワークを続けてきている。2001年時点で全人口約28万を数えるレスターには,数多くの南アジア系,ブラック系,ホワイト系移民が居住し,その年の国勢調査ではホワイトを除くエスニック・マイノリティが101,182人で,全体の36.1%も占めるに至っている。
著者
佐藤 清隆
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所年報 (ISSN:05433908)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.46-47, 1998-07-25

筆者は,これまで近世前期イギリスの居酒屋を中心に研究をすすめてきたが,そこでの検討課題はほぼ次の三点であった。その一つは,当時の支配的な居酒屋像(「サタンの巣窟」)とは異なる居酒屋の「実態」(「飢餓に対する主要な砦」)研究,二つ目は,当時の居酒屋の世界を「変容」させる要因ともなった居酒屋政策の研究,そして三つ目は,そうした居酒屋政策にも影響を与えたと考えられるピューリタンらによる「モラル・リフォーム」の運動である。本研究では,これまでの,こうした近世イギリスの居酒屋に関する研究をより発展・深化させるべく,近世ロンドン(特に16~17世紀前半)を「実証」のフィールドに定め,「モラル・リフォーム」や居酒屋政策との関連で,当時における居酒屋の世界を明らかにしていきたいと考えている。
著者
亀山 照夫
出版者
明治大学人文科学研究所
雑誌
明治大学人文科学研究所紀要 (ISSN:05433894)
巻号頁・発行日
no.41, pp.281-295, 1997

未曾有の荒廃を生んだ南北戦争は良識ある人々に幻滅と無気力さを残し、Ralph Waldo Emersonは日誌に「戦争は慢性的絶望に対しては、慢性的希望を確認した」と記している。(1865年7月)だが続く1870年代には前代未聞の汚職、賄賂が起こり、政治は腐敗をきわめた。これらの無節操さに業を煮やしたWalt Whitmanは「おそらく、今日のように、ここ合衆国において心がうつろな状態になっていることはかってなかった。純粋な信念というものが、われわれを見捨ててしまったように思える。」(『民主主義の展望』1871)と嘆き、民主主義の危機を警告した。また西部で起こったゴールド・ラッシュは最高潮に達し、一攫千金の夢に人々は乗せられ、亀井俊介氏のことば通り「暮らしは高く思いは低し」の軽重浮薄の世情は止まるところを知らなかった。