著者
石原 陽子 中島 徹 富田 幸子 荻原 啓実
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.気管内投与したナノ粒子の体内動態について検討したところ、投与3日目では肺胞腔沈着と肺胞マクロファージによる貪食が、7日目ではI型肺胞上皮細胞や基底膜への沈着や血管腔への移行が認められた。10日目では、I型肺胞上皮細胞、血管腔、肝臓クッパー細胞、嗅球で検出され、沈着部位が広範であることが示唆された。2.ナノ粒子としてディーゼル排ガス暴露実験を行ない、生体影響評価の際の指標を検討した。生理的指標として心拍数、不整脈数、HRV,体温等が、分子生物学的指標としては炎症関連サイトカイン類、ANP,BNP等が選択された。しかしながら、これらの指標と心不全との関連性は、明確ではなかった。3.ディーゼル粒子とその表面を有機溶剤で処理した粒子の炎症性サイトカイン遺伝子発現を指標とした検討では、単位重量当たりの効果は無洗浄粒子に比較して洗浄粒子の影響が強かった。洗浄粒子は無洗浄粒子と比較して単位重量当たりの粒子数が多いことから、この結果には粒子の物理的特性が関与していることが考えられた。4.ディーゼル粒子表面の有機成分の心肺機能と炎症作用について検討したが、心拍数、自律神経、血圧、体温には著しい影響は認めず、気管内投与直後に炎症細胞の軽度な浸潤を認めたが、その影響は速やかに回復した。5.ナノ粒子のリスク評価では、最初の吸入・沈着部位としての肺局所のみならず心臓、神経、脳等への全身影響について、粒子の化学的・物理的特性も充分に考慮して評価する必要があることが示唆された。
著者
伊藤 景一 渡辺 弘美
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(研究1)在宅ケアの質の測定はアウトカム評価に焦点が当てられているが、神経疾患を持つ在宅ケア患者へのケアの効果評価には、長期間のアウトカム指標を開発する必要がある。そこでケアの効果評価に活用する指標を開発し各種妥当性を検証した。指標開発のための追跡調査を2回実施。べースライン:5年間に大学病院神経内科を退院した463名(指標開発の対象者)。初回調査年から2年後フォローアップ:201名(妥当性検証)。開発手順は日常生活行動を遂行する困難度を基に5因子構造の指標項目を構成。構造方程式モデリング(SEM)と一般線形モデルから構成概念及び予測妥当性を検証した。臨床的関連性から指標の利用可能性評価。指標は25項目から成る5指標で構成。SEMから各指標の上位に総合的アウトカム指標を仮定した二次因子モデルのパス係数、適合度指標ともに受入基準を満たした。各指標は、疾病障害対処困難・不安指標、家族介護負担・Strain指標、運動機能不全指標、身体症状発現指標、地域医療・ソーシャルネットワーク利用阻害指標、と解釈。指標が2年後のHRQOLに及ぼす影響を、多重指標モデルで検証。5指標全てが有意に2年後のHRQOLに影響を与えていたが、第1指標と第3指標からのパス係数の値が大きかった。2年間における指標の改善の有無がHRQOLに与える影響をみると、各指標が影響を及ぼしている側面は異なっていた。身体機能と役割機能のドメインの改善群と非改善群間の差が大きかった。指標の改善率は26-40%、安定率は54-70%。第1と第3指標は在宅療養におけるHRQOLの多くの側面に関与することが示され、指標によるアセスメント結果を基に、在宅ケア患者の心理社会的問題の抽出とサービスの改善や新システムの構築に寄与できると考えられた。(研究2)追跡期間中の症状と機能レベルの変化が健康関連QOLに及ぼす影響をSEMによるパスモデルで解析し、先行研究の仮説を検証するべく各種臨床変数とHRQOLのリンケージを試みた。この結果は、Diseases→Symptoms→Change in physical disabilities→General health perception→HRQOLの順序で影響が及ぼされる階層的なパスモデル構造を見出した。
著者
石川 烈 吉江 弘正 村上 伸也 栗原 英見 和泉 雄一 西原 達次 岡野 光夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

現在行われている歯周治療では歯周炎の進行を阻止することにとどまり、歯周炎により破壊された組織を健常な状態に戻す再生治療には至っていない。歯周組織の再生研究は3段階の過程として示すことができる。第1段階は組織再生誘導法と呼ばれる処置で、破壊された歯周組織への上皮の侵入を阻止し、周囲の組織からのその部位への細胞増殖を待ち、定着させる方法である。これに対して第2段階の進歩は単に待つのみではなく、成長因子等を加えることにより積極的に再生を導き出そうとするものである。本研究班では川浪らはBMP-2を、和泉らはGDF-5を、村上らはβ-FGFを用いて研究を進め、それぞれの成果を示しているが、いずれも期待させる成果を得ている。第3段階の進歩は再生を導く歯周組織細胞を欠損部に直接用い、更に確実に再生を導こうとする研究である。即ち自己細胞移植を軸とした組織工学を応用した新しい歯周組織再生治療法を世界に発信することである。栗原らは骨髄からの間葉系細胞を用いて、吉江らは骨膜間葉細胞を用い、五味らは歯髄細胞を用い、大石らはヘルトビッヒ上皮鞘細胞を用い、太田らは自己増殖細胞歯根膜組織を用いてその再生機構を追求した。石川らは岡野の開発した温度応答性培養皿を用い、ヒト歯根膜細胞のシートを用いた歯周組織の再生を試みた。この結果、自己歯根膜シートを歯周組織欠損部に移植することにより、ほぼ完全なセメント質とシャーピー線維を伴う歯周組織の再生が得られることを見出した。渡辺はその臨床応用を可能にするCPCを構築した。基礎研究として小方らは石灰化機構に重要な役割を果す骨シアロタンパク質の転写促進機構を明らかにし、西原らはムコ多糖類のコンドロイチン硫酸の破骨細胞分化抑制機構を明らかにした。これらの研究は2回にわたって研究成果報告会として発表され、公開された場で充分な討議を行い、真の再生治療への可能性が高まった。
著者
竹宮 孝子 杉浦 弘子 前原 通代 前原 通代 竹内 千仙
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カイニン酸(KA)は痙攣とともに脳内海馬の神経細胞傷害を引き起こす。本研究では、KAが血管内皮細胞に膜型プロスタグランジンE(PGE)合成酵素(mPGES-1)とアストロサイトにPGE_2レセプターEP3を誘導することを発見した。そして、合成されたPGE_2はアストロサイトのEP3を活性化し、アストロサイト内のCa^<2+>を上昇させグルタミン酸の流出を増やし、神経細胞傷害を悪化させることがわかった。これは血管内皮細胞による新たな神経細胞傷害制御メカニズムである。
著者
寺岡 慧 高桑 雄一 岩本 安彦 馬場園 哲也 早坂 勇太郎 中島 一朗 唐仁原 全 東間 紘 渕之上 昌平
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

膵虚血、虚血再灌流傷害と微小循環障害の機序について、赤血球脂質膜および膜骨格蛋白の構造解析、赤血球連銭形成、変形能、通過能の面から検討し、以下の知見を得た。1.Ektacytometer法による赤血球、赤血球膜の変形能、膜安定性の検討A群(健常対照群)、B群(非糖尿病透析患者)、C群(非腎不全糖尿病患者)、D群(糖尿病透析患者)の4群間において、Ektacytometerを用いたレーザー回折法により、全血、RBCおよびRed Ghosts(RGs)の変形指数(deformability index:DI)を検討した。(1)赤血球、赤血球膜の変形能の検討:全血ではB群のDIはA群と同等であったが、C群およびD群では低下する傾向を示した。赤血球のDIについてもB群はA群とほぼ同等であり、C群、D群では低下していた。しかしRGsのDIについては4群間で差は認められなかった。また赤血球をフェニルヒドラジンで酸化してレーザー回折法を用いて変形能、膜安定性を検討したが、酸化により赤血球の変形能は低下した。またRGs内に酸化ヘモグロビンを封入すると変形能の低下と膜安定性の亢進が認められ、赤血球膜骨格蛋白間の相互作用が変化したことを示唆すると考えられた。(2)赤血球膜の安定性の検討:赤血球のRGsに一定のshear stress(750dyn/cm^2)をかけ断片化を検討した。DIが0.5(50%)となるT50は、A群15.6±2.3sec、B群20.25±2.63sec、C群17.9±4.02sec、D群16.25±1.44secであり、むしろB、C群で赤血球膜の安定性は増加する傾向が認められた。2.連続減衰負圧式ニッケルメッシュフィルトレーションによる赤血球通過能の検討4群間で、赤血球希釈溶液に-50mmH_2Oまでの連続減衰負圧をかけ、径4μmのニッケルメッシュに対する通過能を検討した。Flow Rate-Pressure曲線はB、C、D群ではA群と比較して右にシフトしており、通過能の低下が認められ、とくにD群では通過能の低下が顕著であった。3.赤血球の膜骨格蛋白である4.1蛋白質の生化学的・構造生物学的解析4.1蛋白質はスペクトリン、アクチンとともに赤血球膜骨格の網目状の水平構造を維持する膜骨格蛋白であるが、カルモジュリン/Ca^<++>との結合により、N末端30kDaドメインを介して、赤血球膜リン脂質の脂肪酸と疎水性に結合することが判明した。4.SDS-PAGEによる赤血球膜骨格蛋白の検討上記の4群においてSDS-PAGE法により赤血球膜骨格蛋白を検討したが、Spectrin、Band3などの蛋白については4群間に差は認められなかった。5.赤血球の形態学的検討4群の赤血球についてGiemsa染色により形態観察を行った結果、B、D群の一部に大小不同が認められたが、顕著な差は認められなかった。6.赤血球膜脂質組成の検討赤血球浮遊液にFITC標識annexin Vを添加し、染色後Flow cytometryでannexin V染色性を検討したが、D群において有意にannexin Vの染色性が増強し、通常は脂質2重膜内層に局在するphosphatidyl-serine(PS)の脂質膜外層における表出が認められた。7.赤血球膜荷電の検討4群における赤血球の膜荷電を、陽および陰イオン吸着樹脂に対する吸着性により検討した。赤血球の吸着性における各群間の差は認められなかった。また赤血球は膜表面に存在する糖蛋自側鎖のシアル酸の陰性荷電により相互に反発しあっているが、endo-β-galactosidase処理により膜表面から糖鎖を除去すると、脂質面が露出し、赤血球相互の集合が認められた。さらに糖鎖に特異的に結合する種々のレクチン処理により、赤血球の変形能の低下が認められた。以上より膵腎複合移植の対象となる糖尿病透析患者では、赤血球の変形能および通貨能は低下しており、さらに脂質膜外層へのPSの表出が認められ、赤血球相互の集合が観察された。また酸化的ストレスにより変形能は低下し、赤血球膜骨格蛋白質の相互作用が変化することが示唆された。
著者
新井 寧子 西田 素子 上田 範子 石井 香澄
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

申請者新井は、半規管遮断前後のサル温度眼振の三次元記録より、温度眼振には、対流とは異なったしかし重力に依存する成分の存在を推察した。そこでこれらの現象を明らかにする目的で、本研究プロジェクトを立案した。ニューヨーク大学マウントサイナイ医療センターとの共同研究として、短期間の実験設定およびインターネットを介したその後の持続的交流により、カニクイザルの温度眼振を分析した。左右の全半規管を外科的に遮断されたサルの温度眼振と頭位との関係を調べた結果、管の遮断によっても術前に匹敵する温度眼振が出現すること、この眼振は重力方向に従い変化すること、それらは、半規管神経終末への温度の影響のみでは説明不能なことがわかった。そこで(1)温度変化による神経終末の自発放電の変化、(2)温度による内リンパ液の体積変化が遮断によりクプラへの圧を及ぼすこと、(3)中枢前庭系の速度蓄積機構との和で説明し、シムレーションを行った。その結果この遮断後の温度眼振を再現することができたので、論文にまとめ投稿した。また、内リンパ腔の立体構築を明らかにする目的で、上田がカニクイザル内リンパ腔の三次元再構築をコンピュータ上で行い、学会に発表した。西田は、鳩の頭部を拘束せずに、その動きを二台のビデオ記録した画像より、頭振の三次元解析を行う方法を確立した。ハトでは半規管を骨片でブロックすることができないので、両側の外側半規管を挫滅した後フィブリングルー内で切断し、まず回転後頭振の変化を記録した。その影響は固体差が大きく期待したものではなかった。一方、明所での回転中頭振は、正常ハトでは薄暗がりでも活発であるが、外側半規管切断後は明所のみで回転中頭振が活発であった。そこで、回転中および回転後頭振への明るさの影響を先に調べる必要がでて、検討中である。
著者
武重 徹 矢口 有乃 花房 茂樹 原田 知幸 鈴木 忠
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.400-409, 2006-11
被引用文献数
1

PMX-DHP (direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber)は1994年にエンドトキシン吸着療法として日本で認可された治療法であり,現在敗血症症例を中心に広く臨床応用されているが,その臨床的有効性の評価および機序については今も議論のあるところである.筆者らは当センターでPMX-DHPを施行した敗血症症例に対し,近赤外線法(NIRS)を用いて測定可能なcytochrome a,a3 (Cyt a,a_3),酸化ヘモグロビン(Oxy-Hb),還元型ヘモグロビン(Deoxy-Hb),総ヘモグロビン(Total Hb)をPMX-DHP前後で比較することにより,細胞レベルでの組織酸素代謝と血液量の再分布の変化を検討した.対象は東京女子医科大学救命救急センター集中治療室に入室し,PMX-DHPを施行した18症例である.近赤外線装置は前額部,前腕部の2ヵ所に装着し,PMX-DHPを中心に約3時間連続して計測した.また,全身の組織酸素代謝の指標としてSwan-Ganz catheterを使いVO_2 (oxygen consumption), DO_2 (oxygen delivery), O_2EI (oxygen extraction index), SVRI (systemic vascular resistance index), SvO_2 (mixed venous oxygen saturation)を測定し,血液検査からはblood lactate concentration, base excess, IL-6を測定した.前腕部の近赤外線法による結果はPMX-DHP前後でCyt a, a_3(p<0.05), Oxy-Hb (p<0.01), Deoxy-Hb(p<0.05), TotalHb (p<0.01),すべてに有意差をもって増加した.前額部の前頭葉の近赤外線法による結果は,PMX-DHP前後でCyt a,a_3, Oxy-Hbに変化はなく,Deoxy-Hb (p<0.01), TotalHb (p<0.01)は,有意差をもって減少した.また,VO_2, DO_2, O_2EI, SVRI, SvO_2, blood lactate concentration, base excess, IL-6はPMX-DHPの前後での有意差は認めなかった.結論としてPMX-DHPにより全身の組織酸素代謝の指標に変化を認めなかった.しかし近赤外線法による測定結果は前腕骨格筋での血液量は増加し,さらにミトコンドリア内における電子伝達系の酸素代謝は亢進した.また前頭葉の血液量の分布はPMX-DHPにより改善された.これらの結果はPMX-DHPの有効性を示唆していると考えられた.