著者
中野 和俊 野田 尚子 立川 恵美子 浦野 真理 高澤 みゆき 中山 智博 佐々木 香織 大澤 真木子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.64-69, 2005-04

我々は13例の自閉症患者でビタミンB_<12>(メチルコバラミン:Me-B_<12>)の治療効果をオープン試験で試みた.Me-B_<12>の治療開始時期は2歳3ヵ月から18歳で,Me-B_<12>を25〜30μg/kg/day,6〜25ヵ月間投与した.IQ/DQによる評価では,治療前は45±5.3(平均±標準誤差)であったが,治療後は52±6.0と有意な上昇が認められた(p=0.0199).CARS検査(小児自閉症評定尺度)では,治療前は35.9±1.6であったが,治療後は33.0±1.7(p=0.0008)と改善した.自然経過による改善とMe-B_<12>効果を鑑別するため,患者を年齢,知能でそれぞれ2群に分類し検討したところ,思春期群と低IQ群のCARSスコアーが,幼児・早期学童期群,高IQ群と同様に改善した.自閉症児において思春期は一般に症状改善に乏しく,症状の自然改善は高機能自閉症児に見られることから,この結果は, Me-B_<12>効果は自然経過とは異なると考えられた.検討はまだ予備的段階であるが,自閉症においてMe-B_<12>は治療薬として試みる価値があると考えられた.
著者
永田 智 清水 俊明 大塚 宜一
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

肥満群の便では健常児と比較してビフィズス菌の有意な減少と便中酢酸濃度の明らかな低下が認められた。肥満群は、観察期間の前半6ヶ月を食事・運動療法のみ、後半6ヶ月は乳酸菌シロタ株含有飲料を飲用させたところ、飲用1ヶ月後に有意な体重減少が得られた。また、飲用3カ月後に中性脂肪値の有意な低下、1カ月後にHDLコレステロール値の上昇傾向、飲用3カ月後に便中ビフィズス菌の有意な増加と酢酸濃度の有意な上昇が認められた。以上より、シロタ株には肥満抑制効果があることが示唆され、その効果は、シロタ株が腸内のビフィズス菌の増殖を促進して、その代謝産物である酢酸などが脂質代謝に影響している可能性が考えられた。
著者
近藤 暁子 藤本 悦子 山口 知香枝 松田 麗子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大腿骨近位部骨折で手術を受けた患者のアウトカムに影響している看護援助として、早期離床を促す声掛けを行っていた場合は合併症の発生率が低く、荷重の許可が出た後、荷重をかけることの必要性の説明や、荷重をかけるよう声掛けを行っていた場合は、退院時の歩行能力のみならず、術後 3 カ月後の歩行能力が高かった。看護師がリハビリテーションにかかわることで、患者のアウトカムを向上させることができる可能性が示唆された
著者
谷治 尚子 堀 貞夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.E78-E82, 2012-01-31

近年網膜再生治療研究が進展している。なかでも網膜色素上皮(RPE)細胞移植については、加齢黄斑変性や網膜色素変性症などで失われたRPEの機能を補うために様々な移植方法が試されてきた。,我々は温度応答性培養皿で作製した網膜色素上皮細胞シートの兎網膜下移植について発表した。有色家兎のRPE細胞を温度応答性賠償皿で培養し、色素を持ったRPE細胞シートを酵素処理を行わずに単純に温度を下げるのみで非侵襲的に回収できた。回収したシートは3ポート硝子体手術で白色家兎の網膜下に移植した。移植したシートは網膜下に生着し細胞懸濁液の注射よりも効果的に移植できた。,しかし、この実験ではRPEシートが単層のため脆弱で、広げたまま目的の場所に移植することが難しいことから移植方法の改良が課題であった。工学系の研究者の協力を得て、先端は流体圧の変化によってしなやかに曲げ運動を行うバルーンアクチュエーターで構成された移植デバイスが試作された。シート支持体の上でシートを保持したまま支持体を筒状にシリコンチューブの中に収納し、移動後また支持体をひろげ、角膜、水晶体、硝子体、神経網膜を除去した豚眼のブルッフ膜及びRPE上に細胞シートを貼り付けることが出来た。,今後、脆弱なRPE細胞シートをどのように移植するか、医学と工学の知恵が結集すればRPE細胞シート移植は飛躍的に進歩すると思われる。
著者
石森 紀子 川真田 明子 堀内 喜代美 飯原 雅季 岡本 高宏
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.272-275, 2011-08-25

原発性副甲状腺機能亢進症に対しては副甲状腺ホルモン(PTH)を過剰に分泌する病変を摘除することが唯一の治療であり、成功のためには術前の局在診断が重要であるが、異所性病変ではこれが困難な場合がある。通常の画像診断に加えて超音波ガイド下穿刺吸引液のintact PTH測定が術前の局在診断に有用であった原発性副甲状腺機能亢進症の1例を経験したので報告する。症例は58歳、女性。高血圧で入院した際に高カルシウム血症(血清Ca 11.6 mg/dl)が見つかり、血清intact PTH値 105 pg/mlと高値を示して原発性副甲状腺機能亢進症と診断された。局在診断を目的とした頸部超音波検査および頸部造影CT検査では典型的な副甲状腺腫大の所見はなく甲状腺左葉内に内部が均一で血流を伴う腫瘤像を認め、Tl-Tc副甲状腺シンチグラフィでは同部位に集積を認めた。画像所見より甲状腺内の副甲状腺腺腫を疑い、局在診断を確定するため、同腫瘤を超音波ガイド下に穿刺し、吸引液のintact PTHを測定したところ8651 pg/mlと極めて高値を示し甲状腺内副甲状腺腺腫と確定診断した。甲状腺左葉切除術を施行し、術前血清Caは正常化し経過良好である。病理診断は副甲状腺腺腫であった。本症例では、超音波ガイド下穿刺吸引液中のintact PTH測定により甲状腺内副甲状腺腺腫と術前に確定診断し手術にて治癒した。本来副甲状腺病変への穿刺は播種の原因となる危険があり避けるべきとされているが、術前に局在診断を確定し確実な外科治療に臨むためには、適応を十分検討したうえでの穿刺吸引液中のintact PTH測定は有用であると考えられる。
著者
大澤 真木子 近藤 恵里 鈴木 暢子 平山 義人 原田 淳子 鈴木 典子 斎藤 加代子 福山 幸夫 石原 傳幸
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.95-109, 1996-03-25

先天性筋ジストロフィー(CMD)という語は,生下時または生後数ヵ月以内に筋力低下を示し,筋生検ではジストロフィー変化を示す乳児に対し広く用いられてきた.本邦では知能障害を伴う福山型CMDが知られ症例も多い.欧米例は,一般に知能障害は伴わず,筋症状だけを示すと考えられてきた.Nogenが知能は正常であるがCT上白質の瀰漫性の低吸収域を呈するCMD例を報告し,続いて同様の症例が報告され,知能障害は伴わないが中枢神経系に異常のあるCMDの存在が注目を浴びるようになった.1994年にこれらと臨床像が一致する例でメロシンの欠損が認められ,遺伝子座は6q2に存在することが判明した.我々は,生下時より著明な筋力低下を呈し,知能正常,瀰漫性白質低吸収域を呈するCMD例を経験し1981年CMDII型として報告した.さらに,知能正常,生後まもなく筋力低下を示し,筋生検ではジストロフィー変化を呈する同様な例を3例経験した.いずれも生後3ヵ月以前に発症し,定頚が7ヵ月以降と遅れていた.しかしながら,1例を除き坐位保持は1歳未満で獲得しており,いざり這いも可能となった.仮性肥大を認めず,顔筋罹患は軽度に止まり,年長時には顔が細長く見える.1例は, 22歳まで経過観察したが,4歳時および19歳時の頭部CTではいずれも瀰漫性白質低吸収域を認め,両所見に差は認めなかった.最高運動機能はいざり這いで,2歳6ヵ月より11歳まで可能であった.同様の本邦報告例は散見されるが,16年間という長期経過を観察可能であった例は他になく,本邦および欧米例の文献展望を加え,本症の位置付け,分類上の今後の問題点などを検討報告した.
著者
山内 典子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

術後せん妄が遷延した場合、終末期せん妄により家族の体験は一部異なっていた。前者では《見通しのつかない不安と疲労》、《医療者に対する申し訳なさと怒り》、《患者に対する不憫さ》、後者では《元気だった頃の患者との遠ざかり》、《幻覚・妄想に戸惑う》、《妄想の中にある安寧を知る》、《妄想の世界に入り対応する》などのテーマが抽出された。今後、多様なせん妄の体験に即した家族ケアを考案していく必要性が示唆された。
著者
大木 岳志
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

食道ESD後の狭窄抑制を目的とした口腔粘膜上皮細胞シートによる再生医療的治療の経験を基に、大腸ESDへの応用に向けて基礎実験を行った。ミニブタを用いて大腸ESDモデルを作製し移植を試みた。当初、ブタ線維芽細胞シートの作製を行ったが、培養不安定なためヒト口腔粘膜上皮細胞シートを使用した。本実験系は異種移植であったものの短時間であれば移植は可能で、大腸でも細胞シートの移植が可能であることが判明した。本法は穿孔の修復やリスクを回避できる可能性があるため引き続き研究を推し進める必要がある。
著者
松田 直樹
出版者
東京女子医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

心臓に伸展刺激が加わることにより、様々な現象が引き起こされることが知られている。洞結節が機械的伸展刺激を受けることにより、心拍数は増加する(陽性変時作用)が、その電気生理学的機序については全く明らかにされていない。一方、カルシウム電流は、洞結節細胞のペースメーカー電位形成において最も重要な構成要素である。本研究では、細胞膜伸展刺激によりカルシウム電流がどのような影響を受けるかを検討する。家兎単一洞結節ならびに心房筋細胞にガラスパッチ電極を用いてwhole-cell電圧固定法を行なった。10mM EGTAを含む電極内液を用い細胞内カルシウムをキレートし、2mM カルシウムを含む外液潅流下で、細胞膜伸展前後における電流変化を測定した。細胞膜の伸展にはパッチ電極を介して直接細胞膜に陽圧を加える方法と細胞外液に低浸透圧液を潅流させる方法を用いた。細胞膜伸展刺激によって内向き電流が増大し、この変化はNifedipineによって完全に抑制され、カルシウム以外にバリウム等も透過し得ることから、既存のL型カルシウム電流が膜伸展感受性を示すことが明かとなった。この細胞膜伸展によるカルシウム電流の増加は再現性をもって認めたが、カルシウム電流のキネティクスには影響を与えなかった。つぎに、細胞膜伸展によるカルシウム電流増加の機序を分析した。カルシウム電流の主な調節はCyclicAMP依存性タンパクキナーゼ(Aキナーゼ)によるチャンネルのリン酸化によることが知られている。Aキナーゼを特異的に抑制するProtein kinase inhibitor存在下でも膜伸展によりカルシウム電流は増加した。このことより、細胞膜伸展刺激は、これまで知られている機序を介さずにカルシウム電流を直接増加させることが判明した。この心筋細胞膜伸展によるカルシウム電流の増加は、既述した伸展による陽性変時作用のひとつの機序となると考えらた。
著者
石井 徹子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、未熟肺動脈平滑筋細胞を用いて、1)脱分極やイノシトール3燐酸刺激による細胞内Ca濃度変化と小胞体からのCa放出を調べ、2)小胞体においてCa制御に関わっている蛋白質(リアノジン受容体、Ca-ArPase, Calsequestrin, Phospholamban)のmRNA発現、蛋白発現を調べた。実験動物:胎生31日の胎仔家兎、生後5日の新生仔家兎、生後6-12ヵ月の成獣家兎を用いた.実験標本:肺動脈単離平滑筋細胞をもちいた.各年齢群の肺動脈で径200ミクロン以下の血管よりコラゲナーゼを用い細胞を単離した.細胞内Ca分布:共焦点蛍光顕微鏡を用い、小胞体のCa分布を調べた.細胞内のCa貯蔵器官からCaを放出させる働きをもつ、カフェインやノルアドレナリンを使用して細胞内Ca貯蔵量を変化させ、細胞内Ca貯蔵量を測定した.小胞体のCaは胎仔、新生仔で、成獣に比べおおかった。カフェインで放出されるCaの量も未熟平滑筋でおおかった。分子生物学実験:肺動脈抵抗血管平滑筋における小胞体においてCa制御に関わっている蛋白質(リアノジン受容体、Ca-ArPase, Calsequestrin, Phospholamban))のmRNA発現をin situ hybhdizationにて調べた。また定量RT-PCRを施行し、PCR産物を定量したが、リアノジン受容体、Ca-ATPase, Calsequestrin, Phospholambanともに新生仔で成獣に比べおおく発現していた。このことは、新生仔ではすでに肺動脈平滑筋小胞体Ca制御機構が完成し、活発に作動していることを示唆する。
著者
原 三紀子 小長谷 百絵 海老澤 睦 寺町 優子 水野 敏子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

【目的】神経難病患者の心のケアについて、看護師がどのように思い、取り組んでいるかの実態を明らかにし、より良いケアのあり方を検討していくこと。【方法】対象:神経難病患者への看護経験のある看護師20名。調査期間:2004年5月〜2005年3月。調査方法:半構成的面接によるインタビューを行い、質的帰納的に分析した。【結果・考察】対象者は女性19名、男性1名で、平均年齢29.5歳(SD6.03)、臨床平均年数7.5年(SD6.25)であった。大カテゴリー20、中カテゴリー65、小カテゴリー146が抽出された。大カテゴリーは「看護師が思う心のケア」「看護師の心を支えるもの」「心のケアの取り組みを阻むもの」の3つに分類された。「看護師が思う心のケア」は【病気をもちながらも本来の人生の意味を再確認できるような働きかけ】で、【患者がリフレッシュできるような働きかけ】【苦悩の軽減】【告知後の患者の心理状態のフォロー】などに努めることが重要と考えていた。また、【心と体は関連がある】と心身をトータルに捉えることや、【患者の気持ちを察知できるようアンテナを張る】感覚を持つことなどが重要と考えていた。「看護師の心を支えるもの」は【ケアの方法に患者固有の工夫を見つけ出すことが難病看護の醍醐味】と感じたり、【退院に向けて患者・家族と協働する】ことなどであった。また、【難病患者への思い込みが覆されたことによる驚き】によって神経難病患者へのステレオタイプ化した見方が除かれ、患者の理解を深めていた。「心のケアの取り組みを阻むもの」は【身の回りの世話に追われている】【独特なコミュニケーション方法が存在する】【難病看護は期待通りの成果が得られない】など看護体制や神経難病の病態の特性などが抽出された。また、【心のケアに対する苦手意識】【患者の気持ちに触れることが不安なので関わらない】【信頼関係は心のケアの基盤という思い込み】などの看護師自身の思いや、患者の話を【聴きだす技術の不足】が心のケアの取り組みを困難にしていると捉えていた。したがって、心のケアを行うためには神経難病の疾患特性の理解、看護体制の整備に加え、看護師が抱える問題の解決を考慮に入れた看護教育プログラムの開発の必要性が示唆された。
著者
山本 智子 廣井 敦子 柴田 亮行 大澤 真木子 小林 槇雄
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.E25-E36, 2011-03-31

福山型先天性筋ジストロフィー (FCMD) は、筋肉の他、中枢神経系や眼の形成異常を伴う筋ジストロフィーで、常染色体劣性遺伝を示す。原因遺伝子fukutinの遺伝子産物は、基底膜形成に関与するα-dystroglycan (α-DG) の糖鎖修飾に関与する。α-DGは豊富な糖鎖を有する糖蛋白で、基底膜/細胞膜部分において細胞内外の蛋白をlinkする複合体、dystrophin-glycoprotein complex (DGC)、の構成成分のひとつである。糖鎖部分が種々の基底膜構成蛋白の受容体となっている。FCMDの中枢神経病変は、小多脳回に代表され、グリア境界膜でのα-DGの糖鎖修飾低下を伴う。グリア境界膜は、astrocyteの足突起により形成されるため、FCMDの中枢神経病変形成には、astrocyteが大きく関与していると考えられる。Fukutinは、さらに、未熟な神経細胞の遊走を促進している可能性があり、また、成熟神経細胞においては、シナプス機能と関連している可能性も考えられる。Fukutinは、ほとんど全ての組織に発現しているが、astrocyte, 神経細胞以外の中枢神経構成成分や、他の諸臓器における役割は、ほとんど解明されていない。また、ゴルジ装置や小胞体以外に、核への局在も示唆され、α-DGの糖鎖修飾以外の機能を有している可能性もある。今後、遺伝子治療等の先端医療が開発されていくと思われるが、より副作用の少ない、効果的な治療のためには、FCMDの病態やfukutinの機能に関する基礎的な検討が不可欠と考えられる。
著者
岩田 祐輔
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

今年度は神経培養の安定化とイブプロフェンを代表とする非ステロイド系抗炎症剤(アセトアミノフェン,サリチル酸誘導体等)の脳神経培養による虚血性壊死障害モデル(NMDA刺激,Kainic acid刺激)に対するメカニズムの解明と投与量の適正化を判定,また無血清化誘導アポトーシスに対する効果判定.準備実験によりイブプロフェンに関してはNMDA刺激,Kainic acid刺激による虚血障害に対して直接脳神経細胞保護効果はないがグリア細胞を介して強力に脳保護作用があることを再度確認し,効果がある非ステロイド系抗炎症剤を選定する予定であった.グリア細胞培養生後1-3日のmouseの頭から清潔に脳を取り出し,髄膜を剥離しDulbecco's Modified Eagle's Medium : DMEM(SIGMA)内で,大脳皮質を分離する.poly-D-lisineにてcoatingしたplateでDMEM,10%FBS(GIBCO),10%HS(GIBCO)のmediumを使用して培養は順調であるが,脳神経細胞混合培養妊娠13-15日のswiss-webstar mouse胎児の頭より脳を取り出し,DMEM,5%FBS,5%HSのmediumを使用して用意したconfluentのグリア細胞培養に散布し培養するもの,ニューロン培養ニューロン培養はグリア細胞の含有量が5%未満である.poly-D-lisine, Laminin(Invitrogen)でcoatingしたplateに,同様のmediumを使用してニューロンのみを培養し,グルタミン酸刺激過剰試験等に使用する予定であったが,培養が不安定で実験に即した正確なデータが得られるレベルに到達できずにおり.引き続き細胞培養の安定化に努めている原因としてはFBS,HSが考えられ変更し,改善しつつある.
著者
坂本 貴彦 黒澤 博身 岩田 祐輔 村田 明
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

以前におこなった研究結果(Miura T, Sakamoto T, et. al. JTCVS: 133:29-36,2007)を踏まえて、軽度低体温〜常温体外循環中の脳循環生理を把握し現在汎用されている体外循環法の脳組織に及ぼす影響に関してpreliminaryな慢性実験を施行した。【対象と方法】Yorkshire pig(生後4-5週目、N=6、8.4-14.0kg)を用い、気管内挿管下に実験を開始、近赤外線分光器(NIRS: NIRO300,浜松ホトニクス)を前額面に装着した。全身麻酔下に、右開胸にて心臓に到達し、大動脈送血、右房脱血にて体外循環を確立した。脳循環生理に大きな影響を及ぼすと考えられる潅流因子の中で、臨床上汎用されている軽度低体温下でのalpha-stat strategyの脳組織に及ぼす影響を中心に実験をすすめた。軽度低体温(34℃)体外循環を90分間、Hct値30%、alpha-stat管理下に施行した。実験終了後、体外循環から離脱しカニューレを抜去し閉創をおこない、その後循環呼吸管理をおこない、人工呼吸器からの離脱をはかった。一週間経過観察をおこない、その間に毎日、実験内容を知らされていない獣医による行動評価をおこなった。行動評価にはNeurological Deficit Score(NDS)およびOverall Performance Categories(OPC)を用い、また一週間目に動物を犠牲死せしめ脳組織の顕微鏡的観察をおこなった。病理組織的診断は実験内容を知らされていない病理医がおこない、細胞レベルの虚血の有無を点数化し実験のendpointとした。【結果】NIRSは特別異常な経過を示さなかった。NDS, OPCともに一週間正常値を示し、豚は外見上異常行動を認めなかった。しかしながら脳組織Neocortex, Hippocampusを中心に虚血性変化を認めた。【考察・結論】Hct30%、軽度低体温下の小児体外循環において、現在多くの施設で汎用されているalpha-statstrategyでは組織レベルの脳障害を惹起している可能性が示された。行動評価が正常範囲内であることから、臨床上問題とならない軽微なものである可能性が高いが、脳高次機能の点では疑問が残り、良好な脳循環を確保しやすいpH-stat strategyの導入がこれを解決することが期待される。今後、血液希釈の程度との相互作用についての慢性実験の重要性が示唆された。