著者
金子 貞男
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.131-138, 2011-08-31 (Released:2011-11-25)
参考文献数
23
被引用文献数
2 4

悪性グリオーマに対する標準治療は手術摘出,放射線療法,化学療法である.しかしながらこれらの治療を行ってもGlioblastomaの治療成績は非常に悲観的なものであり,平均生存日数は約15ヶ月である.一方,光線力学療法(Photodynamic Therapy : PDT)は一定の腫瘍選択性のある治療方法であり,合併症が少ないという観点から悪性グリオーマに対する局所療法として脚光を浴びている.多くの文献から悪性グリオーマに対するPDTの治療フォーマット,有害事象,利点,問題点等を考察し,悪性グリオーマに対するPDTの現時点における到達点と今後の展望について述べた.具体的にはSam Eljamelはrandomized control studyにおいて標準療法+PDT群が標準療法単独群に比べて生存日数が統計学的に有意に延長した臨床研究を報告した.また,私どもは脳の深部に存在する悪性グリオーマに対して,腫瘍を摘出せず定位脳手術法にてoptical fiberを腫瘍に直接穿刺して組織内照射によるPDTを行い明らかな腫瘍縮小効果を認めた24症例の臨床研究.そして悪性グリオーマがeloquent areaや脊髄にあって摘出困難な13症例に対してPDTを行い明らかな治療効果の得られた臨床研究を報告した.
著者
木暮 信一 斎藤 伸明 高塚 和也 土屋 孔明 阿部 拓也 鈴木 義和
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-25, 2009-04-15 (Released:2010-08-13)
参考文献数
28

低出力レーザー照射(LLI)が末梢神経の伝導阻害を起こし鎮痛効果をもたらすことが報告されているが,その効果の神経線維特異性など不明な点が多い.そこで本研究では,皮膚に触刺激や痛刺激を与えたときの皮膚知覚神経応答を対象として,その応答に対するLLI効果を検討した.実験にはアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の背側皮膚-知覚神経標本を用いた.1標本において3-5本の知覚神経を分離した.皮膚をリンガー液に浸し,脊髄端を糸で結んだ知覚神経を記録電極に装着した.それぞれの神経の受容野を手動のピンセットで確認してから,マニピュレータに装着した外径1mmの針(痛刺激)とボールペン(触刺激)で5秒間の刺激を3回ずつ行い,刺激で誘発する知覚神経応答をマルチユニット活動として記録した.コントロールを記録してから,半導体固体レーザー(532nm, 808nm; 60mW, CW)を受容野に照射して(照射面積:28.3mm2)同様の刺激を繰り返した.分離した1本の知覚神経には数10本の神経が含まれているので,さまざまな振幅(100-1200μV)の,さまざまなパターン(tonic, phasic typeなど)の応答が混在して記録された.S/N比が高く明瞭にユニットとして分離できたものをスパイク・ヒストグラムを用いて200μV毎のユニットに分類した.さらに基準を設定して,各ユニットをtactile-specific(TS),tactile-dominant(TD),pain-specific(PS),pain-dominant(PD),othersに分類した.それらのユニット数はTSが8,TDが26,PSが17,PDが35個であった.532nmのレーザー照射はそれら分類されたユニットの感覚応答を照射前を100%とした場合6-55%のレベルに減弱するまで抑制した(いずれのタイプでも照射前の応答と比較して有意に抑制された:p
著者
遠藤 英樹
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.289-296, 2006
被引用文献数
1

炭酸ガスレーザーは波長10600nmの気体レーザーであり,水分に吸収される特長を利用して皮膚科・形成外科領域では,皮膚小腫瘍の治療に多用されている.腫瘍の大小により,発振モード(シングルパルス,リピートパルス,連続波,スーパーパルス,スキャン)を選ぶことができる.日常の診療においても治療の選択範囲を広げる意味においても大変,有用なレーザーであるが,施術者は機器の特徴と出力設定,副作用について充分に理解しておく必要がある.
著者
坪内 利江子
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.509-514, 2016

<p>汗管腫は,眼囲に集簇あるいは頚部や体幹などに播種状にみられる数mm大の良性腫瘍である.パルス式の炭酸ガスレーザーが治療法として確立されてきたが,従来の隆起部のみ深く蒸散する方法では,直後のびらん,遷延する紅斑や色素沈着,瘢痕のリスク,および再燃性が課題であり,近年フラクショナルタイプの照射が検討されてきている.皮疹の病態に合わせて,蒸散および熱凝固作用を熟考した治療計画が必要と考える.</p>
著者
黄 聖琥 菅原 順 佐武 利彦
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.118-125, 2018-07-15 (Released:2018-10-16)
参考文献数
32

肝斑に対するQスイッチNd:YAGレーザーによるトーニング治療(以下QYT)の効果は,ケラチノサイト内のメラニン顆粒を除去していく作用とメラノサイトを刺激するサイトカインを一部抑制する作用もあるが,メラノサイトの沈静についてはトラネキサム酸内服を主体にしたスキンケアや遮光などの保存療法が効果的であり,優先される.保存療法下でのQYTは照射頻度など注意すべき点はあるものの,肝斑治療に効果的に働くことが多い.一部QYTに抵抗性の肝斑もあり,対策が必要となる.Low reactive Level Laser Therapy(LLLT)などのSkin Rejuvenation治療が長期的な肝斑のコントロールに有益に働くこともある.画像診断をもとにQYTやその他治療の適応を見極め治療計画をたてることが,Skin Rejuvenationと肝斑治療を両立させるのに重要である.
著者
高沢 亮治 北山 沙知 辻井 俊彦
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.456-461, 2015

最近,日本では高齢者の上部尿路結石症が問題となっている.高齢者では,女性患者,尿路感染の合併患者,心血管系および麻酔リスクの高い患者が増える.高齢者においても,ホルミウム・ヤグレーザーを用いた内視鏡的結石破砕術は有効かつ安全な治療である.また,寝たきり患者の多発性・感染性尿路結石に対しては,適切なドレナージで感染徴候を抑えたのち,内視鏡的結石破砕術を駆使して,「結石の完全除去complete stone free」をめざすべきである.
著者
根本 知己
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 = The Journal of Japan Society for Laser Medicine (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.435-440, 2010-01-30
参考文献数
29
被引用文献数
1

近赤外超短光パルスレーザー光によって引き起こされる多光子励起過程を利用する2光子顕微鏡は,その固有の物理学的,化学的特性のため,生組織や生細胞のイメージングに適している.特に,インタクトに近い組織の深部断層像を,高い空間分解能をもって長時間にわたり観察することが可能である.また開口放出現象の分子基盤やその病理学的研究にも有効であることを示してきた.本稿では2光子顕微鏡を中心に,新しいバイオ分子イメージングについて議論する.
著者
戸井田 昌宏 近藤 真 市村 勉 稲場 文男
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.51-54, 1989 (Released:2012-09-24)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

This paper repots and discusses for the first time the possibility for realizing an optical computer tomograpy for biological subjects using the optical heterodyne technique that has excellent sensitivity and directivity to distinguish one specific direction in highly scattering absorptive media. Employing an optical heterodyne system with a single frequency He-Ne laser, Lambert-Beer's law was demonstrated for directly transmitted beam even in highly scattering media such as milk-water solution and its mixed solution with absorptive dye. We discuss the detection system based on the antenna property of the optical heterodyne receiver for investigating the characteristics of laser beam propagation and its direction as well as image detection in highly scattering media.
著者
楢原 啓之 三村 征四郎
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.39-42, 1995

Esophageal cancer reacts to photodynamic therapy (PDT) markedly and it necrotizes easily besides the ulcer after PDT repairs soon, because it is more sensitive to PDT than gastric cancer. In order to improve the therapeutic effectiveness of PDT with Photofrin II and laser light for superficial esophageal cancer, we employed an excimer dye laser instead of an argon dye laser since 1990. The characteristics of the current laser are as follows: wavelength, 630nm; pulse energy, 4mJ; peak power, 400kW; pulse width, 10nsec; frequency of repetition, 80Hz; average output, 320mW. The entire lesion plus a 5-mm wide perimeter of mucosa was irradiated with an EDL beam at 630nm wave length transmitted endoscopically.<BR>In PDT for esophageal cancer, we had used a front-view fiberscope (model GIF-P10, GIF-XQ20, Olympus, Tokyo, Japan) for five cases with esophageal cancer according to the traditional method of diagnostic endoscopy until 1991. But uniform irradiation was difficult, especially with large lesions, because of esophageal peristalsis and respiratory movement. Since the first trial using a side-view fiberscope in PDT for esophageal cancer in 1992, we used a side-view fiberscope (model GF-20, Olympus, Tokyo, Japan) for five cases with esophageal cancer, not only in PDT, but also in pretreatment examinations and follow-up examinations. Two of them were located in abdominal esophagus (Ea) just above EC junction, where PDT had been considered out of application. In this procedure, patients with a lesion located on the right side can lie in a left lateral position as usual, whereas patients with a lesion located in the left side, especially from 7 to 10 o'clock, must lie in a right lateral position. This enabled photoradiation of esophageal cancer from a 90°angle without any difficulty, besides with less energy intensity of the irradiated laser light. Of these 10 lesions, 9 were cured by initial treatment and no recurrence was proved by endoscopy and biopsy. The final rate of cure was 90% (9/10).
著者
小嶋 秀夫 多和田 昌弘 下山 宏 原田 匡也 加藤 剛
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.357-366, 1999 (Released:2012-09-24)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

通常の光学顕微鏡にはない特徴を備えた顕微鏡として,レーザ光を用いた新しい顕微鏡が各方面で注目されるようになってきた.本論文では,共焦点走査型レーザ顕微鏡走査型近接場光学顕微鏡光音響顕微鏡にっいて,それぞれの顕微鏡の動作原理,特徴ならびにいくっかの応用例を紹介する.同一試料を異なる測定法により同時に計測し,多方面から分析可能な複合装置の開発が,今後重要になるであろう.
著者
森山 一郎 大山 勝 昇 卓夫
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.9-14, 1992 (Released:2012-09-24)
参考文献数
14

癌温熱療法とは, 41℃以上に腫瘍の温度を上げ, 悪性細胞に何らかの影響を及ぼし有用な効果を期待する新しい治療法であり, その加温法により全身温熱療法と局所温熱療法とがある。耳鼻咽喉科領域の腫瘍の特徴は, 解剖学的に骨, 腔洞, 筋, 軟部組織などの複雑な構造の中に発生し, 比較的表在性, 孤立性であることが多い。そのため癌温熱療法としては, 局所温熱療法, 特に組織内刺入型の温熱療法が容易に利屠され得る。組織内刺入型癌温熱療法の加温の方法としては, 安定した熱供給の得られる接触型Nd: YAGレーザーが最も適している。すでに, われわれはNd: YAGレーザーを用いたレーザーハイパーサミアすなわちレーザーサーミアの実験的ならびに臨床的研究を試みて来た1) 2) 3) 4) 5)。その結果, 抗癌剤や放射線療法などとの併用で特に優れた効果が得られたので, その手法と成績を報告する。
著者
岡田 裕之 清水 良幸 吉川 悦次 江田 英雄 尾内 康臣
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
pp.jslsm-36_0015, (Released:2015-04-30)
参考文献数
23

高周波領域非可聴音を含む音楽の刺激で若中年者と健常高齢者にハイパーソニック・エフェクトが発現するか,PET (Positron Emission Tomography)による脳イメージング,脳波(Electroencephalogram:EEG)計測を用いて検証した.対象は平均年齢36.8 歳SD±7.7 歳(27 歳~48 歳),男性3 名,女性5 名,合計8名の若中年者健常ボランティアと平均年齢 77.6 歳SD±4.1 歳(72 歳~88 歳),男性5 名,女性10 名,合計15 名の健常高齢者である.高周波領域非可聴音刺激は脳幹を刺激し,後頭葉のα波を増大させたことから,ハイパーソニック・エフェクトは若年者だけてなく高齢者においても発現することが分かった.
著者
陳 明裕 浅見 勲零 吉位 尚 藤田 邦夫 寺延 治 石井 準之助 寺尾 牧 浜田 充彦 平田 たつみ 島田 桂吉
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.5-11, 1993
被引用文献数
1

矯正治療におげる歯牙移動時にはしばしば疼痛を伴うことがある。 近年, 低出カレーザーによる除痛効果は一般臨床において広く認められている。 <BR>そこで本研究では矯正治療における歯間離開時に発生する痛みに対するレーザー除痛効果の有効性を二重盲検法を用いて検討した。 歯と歯の間隙が正常範囲内 (50μm-110μm)で, 予め左右対象であることを確認した28例の被検者の両側第三大臼歯近心, または近遠心にエラスティックセパレーターを挿入直後に左右どちらかの第1大臼歯のみに低出力Ga-Al-As 半導体レーザー (波長830nm, 出力20mW) を2分間, 歯根相当部頬側歯肉より接触照射した。 その際, 二重盲検とするため, 左右どちら側を照射するかは, 乱数表に従い, 検者被検者双方に判らないように決定した。 疼痛評価には, Visual analog scale (VAS) を用い, 次来院時に被検者自身により記入された用紙を回収した。 その結果, 28例中重7例において, レーザー照射側の疼痛軽減が認められた。 また, VAS平均値も2%の危険率で有意の差が認められた。以上の結果から低出力Ga-Al-As半導体レーザーは矯正治療における歯牙移動時に発生する痛みに対しても有効であることが判った。
著者
陳 明裕 寺尾 牧 浅見 勲 吉位 尚 藤田 邦夫 寺延 治 石井 準之助 島田 桂吉 浜田 充彦
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.1-7, 1994

矯正治療時の疼痛は殆どの場合-過性ではあるが, 有効な対処方は少ないのが現状である。我々は, 矯正治療時の疼痛緩和を目的に, Na: YAG レーザー, Ga-Al-As 半導体レーザーを応用し, その有効性を報告してきた。しかし, レーザーは波長によってその作用が異なるためHe-Neレーザーについて同様の実験を行い, その有効性について先の半導体レーザーでの結果と比較検討した。被験者は, 神戸大学病院矯正部外来患者および同医局員で, 平均年齢20.7歳であった。予め歯牙接触関係等に左右側で, 差が無いことを確認した同顎左右第1大臼歯を被験歯とした。被験歯近遠心もしくは近心に同じ厚みのエラスティックセパレーターを挿入し, 挿入直後にレーザーを片側にのみ近心根, 遠心根の各中央相当部頬側歯肉に各々1分間ずつ計2分間接触照射し、反対側を非照射対照側とした。なお, 照射に際しては被験者に, 照射側が判別されないよう努めた。レーザー装置は, 波長632.8nm, 出力6m W のSOFT-LASER 632<SUP>R</SUP>を連続波で2分間用いた。調査はアンケート用紙にて行い, 疼痛の開始時期, 消失時期, 最大疼痛の時期およびその程度を患者自身に記入させ, 次の来院時に回収した。疼痛評価はVisual analog scale (VAS) を用いて行い, 各症例の非照射側を対照として比較した。その結果22例中14例で照射側VAS値の滅少を認め, VAS平均値も照射側2.33, 対照側3.91と有意の差を認めた。疼痛時期については両群間に差を認めなかった。半導体レーザーとのVAS値の比較も有意の差を認めず, 何れのレーザーにおいても同程度の除痛効果が得られたものと考えられる。
著者
陳 明裕 藤田 邦夫 石井 準之助 島田 桂吉 平田 たつみ 藤澤 肇
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.269-272, 1991

We applied low power laser irradiation on cultured dorsal root ganglion (DRG) which was excised from mouse, Continuous wave Ga-Al-As diode laser of 830nm wave length and 20mW power output was irradiated for 5-15 minutes. Neurite elongation from DRG was inhibited significantly by laser irradiation. It also inhibited neurite elongation of single neuron isolated from DRG. Especially that of small diameter neuron was significantly inhibited.<BR>By immunostaining, neurites including substance P and/or CGRP were shown to he affected severely. These results suggest that inhibitory effect of laser irradiation on neurite elongation may relate to the mechanism of pain attenuation.
著者
板谷 正紀
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.146-159, 2007-07-15 (Released:2008-07-16)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

光干渉断層計(OCT)は,さまざまな眼底疾患の病態の理解を促進した.OCTは,また,網膜厚や網膜神経線維厚を計測することができ,早期緑内障診断,疾患進行のモニター,治療効果の評価に有用である.最近,フーリエドメイン(スペクトラルドメインまたはフリークエンシードメインともいう)検出により撮影速度および撮影感度が,著しく改善した.撮影速度は,標準のタイムドメインOCT(TD-OCT)に比べ40~100倍速い.スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)は,網膜病変の3次元解析を可能にする.すなわち,網膜硝子体界面の3次元可視化や網膜内部構造の包括的観察が可能になる.SD-OCTは,網膜神経線維層,網膜内層,または視細胞外節などの網膜層構造をセグメンテーションすることを可能とし,その肥厚や菲薄化をモニターできる.SD-OCTは,ドルーゼン,網膜色素上皮剥離,漿液性網膜剥離のセグメンテーションを可能とし,疾患の進行や治療効果の評価をTD-OCTより精密に行うことが可能となる.SD-OCTは,3次元画像を,眼科診療で使用する眼底カメラや蛍光眼底造影のイメージとレジストレーションすることが可能になる.このように,SD-OCTは,眼底疾患や緑内障の診断における光干渉断層計の潜在力を著しく高めるであろう.
著者
本多 典広 寺田 隆哉 南條 卓也 石井 克典 粟津 邦男
出版者
特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.115-121, 2010-07-30 (Released:2010-11-14)
参考文献数
21

光線力学療法(PDT)の治療計画において,生体組織内の光の侵達度や照射線量分布を定量的に把握することは,治療成績を向上させるために重要である.生体組織内の光の侵達度は,生体組織の光学特性である吸収係数 [mm-1],換算散乱係数 [mm-1]等により理解できる.一般的に,レーザー照射により生体組織の光学特性は変化する.そこで,我々は,PDT前後の腫瘍組織の光学特性を算出することを目的として基礎的検討を行った.Talaporfin Sodiumを用いたPDTをマウス皮下腫瘍モデルに対して行い,双積分球光学系とInverse Monte Carlo法を用いて波長350~1000nmにおける腫瘍組織の光学特性を算出した.PDT実施7日後,Talaporfin Sodiumの吸収極大波長664nmにおいて,換算散乱係数はPDT前に比べて0.64mm-1から1.24mm-1に増加し,結果,腫瘍組織への光の侵達度はPDT前に比べおよそ44%減少することが見積もられた.以上より,追加のレーザー照射によるPDTの際,PDT後の光の侵達度の減少を考慮し,レーザー照射条件を調整することが必要であることが示唆された.