著者
高橋 信幸
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.165-174, 2005-01-31

日本の対人社会サービスからスティグマを払拭するにあたって、なぜ「措置から契約へ」の転換が必要であったのか。本稿はこの問題意識の下、デンマークと日本を比較することでその解答を見つけようとしている。そのために、まずデンマークと日本のサービス利用の違いを比較し、その違いが生じる要因を分析した。さらに、これらの要因を取り除いて普遍的な対人社会サービスを実現するには、地域からの分権、協働、民主主義、教育が重要であることを指摘した。
著者
圷 洋一
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.93-101, 2003-01-31

本稿では通常の意味での「介護費用」の中身をあらためて確認したうえで、介護保険制度上の各主体の活動にどのような費用(広義の介護費用)が関わっているのかを簡単に整理した。この整理を通じ、今日「介護費用」のあり方を論じるには、介護行為に直接かかる費用以外にも多様な費用を検討することが不可欠であることを示唆した。つぎにこうした「介護費用」との関わりで批判的なトーンで論じられることの多い介護保険制度における「負担」問題について、これを一歩引いた地点から検討するために社会保障全体の財源論について言及した。
著者
小林 徹
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.149-156, 2005-01-31

茶道は平和を追求する作法であり、現代社会に受け継がれている。作法は無駄のない動作と静寂のなかにその価値がみいだされる。武士道は戦う武士が勝利のために規範とするものである。規範のなかに現代人が守り伝えるべき約束事は存在する。しかし武士が存在しない現代においては新しい規範をつくって精神的拠り所とする試みが必要である。
著者
中根 允文
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.205-212, 2007

いま、長崎県における精神科医療の展開に関する歴史を、長崎大学医学部精神神経科学教室の初代教授である石田昇の成果を中心に振り返りつつある。完成させるには今しばらくの情報収集が必要であり、その途中経過として、ここには研究ノートの形で紹介してみたい。現在、長崎県下には39ケ所の精神科病院があり、総数で8,415ベッドが精神科疾患の患者のために準備されていて、入院患者数は7,059人である(図1)。彼等の平均入院日数は440.9日(図2)であり、利用率は83.5%(図3)になっている(いずれも、平成14年6月末現在のデータ)。長崎県の人口と比較したとき、ベッド数は万対55.2床(図4)、入院数は万対51.7人となる。全国の動向と比較したとき、全国でベッド数が万対28.0床、万対在院患者数が26.0人、そして平均日数は364日であり、いずれもその数値が大きく全国を上まっている。医療全体に関わる統計データで、西日本地区が東日本に比して全体的に高い数値をみており(病院数・病床数が多い、個人当たりの医療費が高いなど)、精神科医療では更にその傾向が顕著である。しかし、長崎は同傾向が更に著しくなっているのである。いつの頃から、このような傾向が目立ってきたのであろうか。長崎の精神科医療に関するハードの面が充実していること自体は歓迎すべきであろうが、実際はその内容が問われるべきであることも事実である。ここでは、長崎県における精神科医療の全般について広く言及するゆとりはなく、まずはその展開に大きく寄与した故石田昇教授の足跡をたどりながら、若干の考察を試みてみたい。
著者
北村 光子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.345-355, 2001

本研究は、介護老人保健施設の施設職員を対象に職務内容や専門性、また同僚・上司における信頼関係からくるケアへの影響や施設職員の職務内容に対する理解度が障害高齢者のケアにどのような影響を及ぼしているのかについて考察した。考察のまとめとして、施設職員の職務内容における満足度は心理的ギャップとの相互作用による関係形成から、障害高齢者のケアのあり方を現実にある客観的事実としての環境的諸問題を明らかにし、施設職員の心理的ギャップを考慮しながら前向きに検討していくことが求められると示唆された。
著者
嶋内 麻佐子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.131-141, 2001-03-31

利休歿後,利休の弟子七人衆の一人である古田織部により,その茶が継承された。織部は武将の茶としての展開を遂げ,茶室・茶の形態・露地・懐石・点前に至るまで,武家相応の茶の湯に置き換えることにより,利休の身分平等性を主とする作法やその技法,精神性からの脱皮を計ることに成功したと言える。しかし,その事で草庵における茶の形態だけは,守られたと思われる。そのことは,町人的作法から生まれた利休の茶を改良し,かつての貴族時代に生まれた文化と,武家故実に基づく文化を合流させた慶長年間の武家相応の茶の湯が,織部によって出来上がったと言えるのではないだろうか。
著者
細田 亜津子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-95, 2005-01-31

トラジャ社会は農村社会である。就労者の約80%が農業に従事しており、その他の就労者も兼業が多い。しかし、水田面積は全面積の約10%であり、二期作と棚田での収穫という厳しい現実である。水田形態は、Uma Mana、Uma Tongkonanと呼ぶ一族の共有田と個人所有とがある。共有田の収獲物は儀式など公的儀礼のために使用される。儀式での恩恵は一般大衆にも及び社会的役割を持つ水田である。また、地主と小作の関係は、先祖代々からの関係が多い。土地を所有しない小作は、他地域への出稼ぎを行う。伝統的な収穫物の分配は地主と小作は50%-50%が多く、第二期作は30%-70%になる。この地主-小作の元で働く農夫は、Ikatという稲束の単位により、稲刈りの労働に比例して報酬をうけとる。田植えについては、同じ報酬を受け取る。このように平等性と競争性を取り人れた社会である。一方、農村社会の諸規則は、儀礼との関連が強く、分配や遺産相続に影響する事もトラジャの特色である。
著者
李 昌訓
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-25, 2002-01-31

観光者行動による観光地選択は,いままで多くの研究がなされて来たが,必ずしも十分であるとはいえない。本論文は潜在観光者がある観光目的地を決める時,その観光地に対して持っているイメージが決定要因として作用するという観点より,ハウステンボスに対する観光イメージを形成する要因について,韓国の若い新世代大学生を対象に分析した。その結果,魅力性,経済性,都市体験,非日常的体験,親近感,そして利便性の6つの要因が抽出された。また,ハウステンボスの訪問意図に対する動機づけに彼らが抱くハウステンボスへのイメージが少なからず影響していることも示された。
著者
坂本 雅俊
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.165-173, 2002-01-31

養護学校における福祉教育のあり方の一考察として,今回,平成12年度に実施した,「全国の養護学校の「福祉教育」の担当教師に対するアンケート調査」の結果を示し,若干の論考を加えた。さて,結果からみられたことは,「福祉教育」は,その教育対象で分けると,社会人に対する社会教育やボランティア教育と学校における教育(児童・生徒に対する学校教育,大学における福祉専門職養成の専門教育)とに分けることができるが,その内容は共通する項目も多く含まれるものの,学習内容で分けると,社会科学的認識能力の学習,ボランティア学習,車椅子を押すなどのいわゆる福祉的な体験学習,人権学習,などに分けられ,さらに,目的内容で分けると,文化教育,人権教育,職業教育,道徳教育などの側面で分かれるようである。現在の教育現場においては,これらの整理がなされないまま,「福祉教育」についての方法や目的・内容が混在していることがわかった。そして,今後は義務教育において「福祉の体験」といった学習が本格化する。本論では,こうしたことについて,教育現場の先生方の意見を集約することで,そのあり方について些少ではあるが現状報告を行った。特に養護学校における「福祉教育」は,子ども達の発達段階が多様である事情から,「福祉教育」の目的や方法が,「社会福祉教育の基礎」を踏まえつつも多様であることが望まれるところである。こうしたことについての基礎的検討をおこなった。
著者
北村 光子 山崎 久子 大江 千恵子 綿 祐二
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.185-193, 2003-01-31

我が国は高齢社会に入り様々な社会問題や生活問題を抱えている。その中でも介護に関しては、施設介護や在宅介護に限らず注目されており、現場で働く介護職の量と質の向上に各方面から力が注がれている。介護職の中でも、国家資格保持者である介護福祉士は、単に身辺介護に留まらず専門性をもって、利用者をとりまく生活全般の改善・向上に努めている。しかし、このように介護の現場で専門の知識と技術を提供している介護福祉士の認知度や、過酷な労働でありながら業務の評価については決して高いとは言えず、"やりがい"と"現実"の間でジレンマを起こしている状態である。よりよい介護を目指して、介護職のリーダー的役割を担う介護福祉士の職業意識や社会的地位、あるいは就労意欲について、もっと客観的に評価する必要があるといえる。そこで本研究では、介護福祉士の現状を調査し、さらに介護福祉士の就労意欲に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする。調査の結果、就労意欲の現状においては、仕事面で「身体的負担」「精神的負担」を感じると就労意欲を欠き辞職を考えるようになるという結果を得た。また、その理由として「賃金の低さ」や「仕事内容のきっさ」「運営方針への不満」「社会的地位の低さ」などが挙げられた。また、介護福祉士にとって、職場内に「良き理解者」が存在すると介護福祉士の「将来性」や「職に対する誇り」が得られるという結果を得た。この「良き理解者」について詳細な記述はできなかったが、このことは介護福祉士の役割を他職種間で共有することの重みを現しているといえる。今回の調査では、良き理解者が存在することが自己研鑽に直接結びつくという結果は得られなかったが、もっと介護福祉士の就労意欲や社会的地位を向上させるためには、自己研鑽できる環境設定や講習内容の充実が必要と考える。
著者
眞保 潤一郎
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.87-104, 2004-01-31

アメリカ合衆國戰略爆撃調査團の報告書『日本戰爭經濟の崩壊』は、日本戦争経済機構を解剖する病理学である。占領軍が賠償上の目的で、「日本國民の平時の需要はだいたいにおいて1930-34年の時期と……〔復興した日本国民の〕生活水準と同じであるべきだ」とする政策に基づく、輸入計画は厳しく1950年民間貿易再開を通じ、世界市場へ復帰した時点で、經濟自立達成の見通しは暗かった。朝鮮動乱の勃発は、この情勢を一変し外貨準備高を急増せしめ、經濟自立の重要さを蔑ろにし、「もはや戦後ではない」との名言を遺し、『神武景気』と言われる好景気をもたらし、偏向した消費性向を助長し、仮想した「經濟大国」へと向かわせた。ニクソン・ショックはその過ちを認識させる最初のシグナルであった、が。
著者
西村 貴直
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.185-194, 2005-01-31

1980年代以降、様々なかたちの社会変動プロセスが同時的に進行していくなかで、多くの社会的葛藤が生じてきている。なかでも、富める者と貧しい者との二極分化が「豊かな」先進諸国の内部でも深刻化しており、「新しい」貧困問題を形成しつつある。本稿では、わが国における「新しい」貧困問題の一端を構成する「フリーター」問題に関し、英米における「新しい」貧困問題に言及する"アンダークラス"の概念と対比させながら、特にその言説にともなういくつかの問題を浮き彫りにすることを目的としている。
著者
實原 隆志
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.143-153, 2007

雇用状況の変化に対応する社会保障制度にはいくつかのものがあるが、基本所得制度はそのうちの一つである。基本所得制度については活発な議論が続いているが、その根拠の問題についてはあまり検討されていない。基本所得制度の前提問題として法律的な問題と基礎理論的な問題を解決する必要がある。