著者
小茄子川 歩 宗臺 秀明 遠藤 仁 木村 聡
出版者
鶴見大学
雑誌
鶴見大学紀要. 第4部, 人文・社会・自然科学編 = The bulletin of Tsurumi University. Pt. 4, Studies in humanities, social and natural sciences (ISSN:03898032)
巻号頁・発行日
no.49, pp.141-158, 2012-03

本稿は、愛知県陶磁資料館に寄託されている彩文土器に関する調査報告である。前稿(Kaonasukawa et al. 2011; Shudai et al. 2009, 2010)で述べたように、総数133点におよぶ彩文土器は、現在のパキスタン・イスラーム共和国の南西部、バーロチスータン丘陵部に展開した先史文化の所産であると考えられる。この土器群は、紀元前4千年紀後半から前2千年紀初頭までの長期にわたる時間幅と、それぞれに個性豊かな彩文と製作技法によってバローチスターン先・原史文化の多様性を示し、バローチスターン丘陵部で長期間にわたり展開した地域間交流と土器製作技法の復元に多大な考古学的情報を提供するものである。こうした理由から、筆者らは愛知県陶磁資料館に寄託されているこれらの土器群をいち早く共有・活用できるデータとするために、その資料化を進めてきた。 前回までにナール式土器(Shudai et al. 2009)、クッリ式土器(Shudai et al. 2010)、エミール式土器およびクエッタ土器様式(Kaonasukawa et al. 2011)を報告してきたが、今回報告するのは、ケチ・ベーグ式土器やトガウ式土器を含むその他の土器群である。いずれの土器型式も紀元前4千年紀後半頃に位置づけられるバローチスターン先・原史文化における最古級の彩文土器であると考えられている。前者は黒色スリップ上に白色で描く幾何学文様を特徴とし、後者は鳥やコブウシの文様を横一列に連続的に描く彩文手法を特徴とする。ただし、筆者らでは、型式を識別できない一群も含まれており、それらについては個別に土器の特徴を記述するに留めた。資料の増加を待ち、再検討することが妥当であろう。 以下では、愛知県陶磁資料館に寄託されているケチ・ベーグ式土器やトガウ式土器と帰属型式不明の土器群について、特に彩文要素とその構成パターン、および製作技法に着目して報告する。 なお、今回の報告で行なうとしていたエミール式土器とクエッタ土器様式の文化的意味合いを含めた、バローチスターン先・原史文化における土器編年についての検討は、次号にて詳細に考えてみることにしたい。 また、愛知県陶磁資料館に寄託される人物や動物を中心とする土偶に関しては、機会を改めて報告する予定である。
著者
勝村 聖子
出版者
鶴見大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、種々の犯罪資料における迅速かつ信頼性の高いDNA検査法の開発を目的に施行された。複数男性が関与する強姦事件を想定して作製した男女混合試料から、精子を単独回収した。そこから得られたmitochondrial DNA(mtDNA)について検討した結果、特定男性の関与の有無を判断できた。皮膚に付着した唾液などに対しても有効であることが示され、犯罪捜査における鑑定法となることが期待される。
著者
大地 宏子
出版者
鶴見大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

銘酒澤亀の醸造家で堺酒造株式会社の設立など堺市産業界の重鎮であった宅徳平を祖父に持つ宅孝二は、幼少時より邦楽や芸事を嗜み育った。パリ留学後、最初に奉職した東京女子高等師範学校での舞踊曲の作曲や、東京オリンピックの女子床運動におけるピアノ伴奏など、彼にとっての音楽は身体運動と呼応しあう存在であった。また、数多く手掛けた映画音楽には幼少時代に体験した邦楽と晩年に傾倒していったジャズへの憧憬がみられ、それらが彼の創作活動の基底をなしているものと思われる。
著者
平川 澄子 仲澤 眞
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

女性スポーツに少なからぬ影響を及ぼしているメディアとジェンダーの関係を中心に研究をすすめた。メディアで醸成される身体や運動・スポーツに関わる言説は、筋肉に象徴される逞しい男性の身体と、無駄な脂肪の少ないしなやかな女性の身体という、性によって異なる理想の身体像をつくりだした。その背景には、スポーツの産業化の進展によるフィットネスクラブの急増、テレビメディアを介してのスポーツの氾濫があった。「フィットネス」は、より積極的に理想の身体を獲得するための営みとなり、改造可能な身体観がもたらされた。1980年以降のBMIの推移をみると若い女性のスリム化傾向は著しく、男性は体格向上ないしは肥満化傾向にある。身体のジェンダー化は着実に浸透している。身体を重要な要素とするスポーツはジェンダー化された身体像の影響を大きく受けている。スポーツを題材としたテレビコマーシャルの映像分析を行った結果、男性が主人公となるCFが64.8%で女性の14.3%を大きく上回っていた。質的にも異なる描写がなされ、男性スポーツ選手はメディアを介してより偉大に描かれていくのに対して、女性スポーツ選手は矮小化されていくことが明らかになった。女性スポーツ発展のためには、ジェンダーにとらわれない個性ある身体を見直すこと、メディアを批判的に読み解き、是正する声をあげることの重要性が示唆された。また継続して考察を進めてきた女子サッカーリーグの運営と観戦者に関する日米比較研究からは、女性ファンの開拓、スター選手のメディア露出、女子サッカーのプレイ環境の整備などの課題が示唆された。
著者
菅野 素子
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究課題は「イングランドの状況」という時代状況の言説と小説との関係をオイルショック後の1975年から英国が福祉国家としての経済社会構造の大変革を経験した1990年までの15年間にわたって研究したものである。「イングランドの状況」は17世紀後半に始まる産業化の弊害として生ずるネイションの分断に対する懸念の表明だが、現在では一般的にも特殊な意味でも使用される。そこで当該研究期間に発行された新聞雑誌などジャーナリズムにおける一般的な用法および同期間に出版された小説を調査の対象とし、その結果を比較検証した上で関連づけた。こうした再検討は当該期間における「イングランドの状況小説」の再構築につながった。