著者
石川 健介
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.84-101, 2015
被引用文献数
1

本稿では,2013年7月から2014年6月までの1年間に,わが国で発表された「臨床心理学」に関する研究の動向を展望した。はじめに日本教育心理学会第56回総会の「臨床」部門に発表された論文を概観し,年齢区分ごとに特徴的なキーワードを挙げた。次に,6つの学術雑誌に掲載された「臨床心理学」に関する研究を概観した。この結果,心理的不適応/精神症状では,「抑うつ」に関連する研究が最も多く,「反すう」や「ストレス」,「バーンアウト」を扱った研究も同様に多かった。尺度開発を扱った研究は少なかった。介入プログラムや心理療法では,認知行動療法・行動分析・アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が多く取り上げられていた。
著者
石井 僚
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.229-238, 2013
被引用文献数
4

本研究では, 青年期において死について考えることが, 時間的態度にどのような影響を及ぼすのかについて実験的に検討した。実験参加者である大学生127名を, 死について考える群41名, 生きがいについて考える群43名, 死や生きがいとは無関係なものについて考える統制群43名に分け, それぞれ課題の前後に時間的態度を質問紙によって測定した。時期(課題前・課題後)×課題(死・生きがい・統制)の2要因分散分析を行った結果, 死について考える群においてのみ, 課題後に時間的態度が肯定的になることが示された。死について考えることには, 生きがいについて考えることによっては得られない, 時間的態度を肯定的にするという効果があることが示された。また, 課題に対する自由記述の分析からは, 死について考えることには, 人生の有限性を再認識させ, 時間の大切さについて考えさせるという特徴があることが明らかとなった。以上より, デス・エデュケーションの持つ心理的機能として, 人生の有限性を再認識させ, 現在を中心とした時間的態度を肯定的にするという一側面が明らかになったといえる。
著者
町 岳 中谷 素之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.322-335, 2014
被引用文献数
5

本研究では, 小学校5年生の算数グループ学習における相互教授法(Palincsar & Brown, 1984)の介入効果を, 学習課題達成度(分析1)・グループ学習への肯定的認知(分析2)・発話プロセス(分析3)により検討した。相互教授法による教示を行った介入群と, 自由に話し合いをさせた対照群を比較したところ, 介入群では学習に関連する深い発話が多く非学習関連発話が少ないことや, 学習課題の達成度が高く, グループ学習への関与・理解に対する認知が向上するといった, 相互教授法の介入効果が示された。次に児童を向社会的目標の高・低によりH群・L群に分割し, 児童の個人的特性と相互教授法介入との交互作用効果について検討した。その結果, グループ学習開始前には低かったL群児童のグループ学習への関与・理解に対する認知が, 介入群において向上した。また発話プロセスの分析からは, 相互教授法による話し合いの構造化によって, 向社会的目標L群児童では, 非学習関連発話が抑制されることで, グループ学習への関与が促されるという結果が見られた。またH群児童においても, 学習に関連する深い発話が促されるなど, より能動的な関与を促進する可能性が示された。
著者
阿部 晋吾 太田 仁
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.294-304, 2014
被引用文献数
1

本研究では中学生を対象に, 自己愛傾向の程度によって, 教師からの叱りの動機推測が援助要請態度に及ぼす影響に差異がみられるかどうかを検討する質問紙調査を行った。その結果, 教師からの叱りに対して向社会的動機を推測するほど, 援助適合性認知は高くなる一方, 自己中心的動機を推測するほど, 援助適合性認知は低くなることが示された。自己中心的動機の推測はスティグマ認知にも影響を及ぼしていた。また, 自己愛傾向の高い生徒は, 向社会的動機の推測の影響が弱く, 自己中心的動機の推測の影響が強いことも明らかとなった。
著者
浅野 良輔 吉田 俊和
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.240-252, 2014
被引用文献数
1

知覚された情緒的サポートには, 個人のストレスを低減したり健康を維持したりするだけでなく, 個人の目標追求をうながす効果もある。本論文では, 知覚された目標サポート尺度(Molden, Lucas, Finkel, Kumashiro, & Rusbult, 2009)の日本語版を作成し, その構成概念妥当性を検討した。大学生の異性友人関係(<i>n</i>=173)と同性友人関係(<i>n</i>=211)を対象とした質問紙調査を行った。多母集団確認的因子分析を行った結果, 予測通り, 日本語版知覚された目標サポート尺度は, 促進焦点目標サポートと予防焦点目標サポートの2因子からなることが明らかとなった。これら2つの下位尺度の内的整合性は, 十分に高いことが確認された。下位尺度得点についてはいずれも, 異性友人関係よりも同性友人関係において高く, 男性よりも女性において高かった。情緒的サポートや道具的サポート, 相互作用多様性, 親密性, 対人ストレッサー, 主観的幸福感といった同時に測定した外的基準との関連が, おおむね確かめられた。また, 2つの下位尺度の2週間を通じた安定性や, 2週間後に測定した親密性や主観的幸福感の尺度との関連についても確認することができた。知覚された目標サポートをめぐる心理学的研究や実践的応用について議論した。
著者
鈴木 雅之
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.226-239, 2014
被引用文献数
4

本研究では, 大学入試場面における競争の機能を高校生がどのように捉えているか, すなわちどのような受験競争観を有しているかについて検討を行った。また, 受験競争観によって学習動機や受験不安, 学習態度がどのように異なるかを検討した。まず予備調査を実施し, 受験競争観尺度を作成した結果, 受験競争観には, 心身の消耗や学習意欲の低下, 友人関係の悪化といった「消耗型競争観」と, 自己調整能力や学習意欲の向上, 友人関係の親密化といった「成長型競争観」の2つの側面があることが示唆された。そして高校2年生576名を対象に本調査を行った結果, 高校生は消耗型競争観よりも成長型競争観を強く有しており, 大学入試における競争をそれほど否定的には捉えておらず, むしろ肯定的に捉えている可能性が示唆された。さらに, 消耗型競争観を強く持つ学習者ほど外的な学習動機や受験不安が高い一方で, 成長型競争観を強く持つ学習者ほど学習の価値を内在化し, 受験を乗り越えるためだけの学習を取らない傾向にあることが示された。これにより, 大学入試における競争が学習者に与える影響は, 受験競争観によって異なることが示唆された。
著者
奈田 哲也 堀 憲一郎 丸野 俊一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.324-334, 2012
被引用文献数
3

本研究の目的は, 奈田・丸野(2007)を基に, 知識獲得過程の一端を知り得る指標としてエラーバイアスを用い, 他者とのコラボレーションによって生起する課題活動に対するポジティブ感情が個の知識獲得過程に与える影響を明らかにすることであった。そのため, 小学3年生に, プレテスト(単独活動), 協同活動セッション, ポストテスト(単独活動)という流れで, 指定された品物を回り道せずに買いながら元の場所に戻る課題を行わせた。その際, 協同活動セッション前半の実験参加者の言動に対する実験者の反応の違いによって, 課題活動に対するポジティブ感情を生起させる条件(協応的肯定条件)とそうでない条件(表面的肯定条件)を設けた。その結果, 協応的肯定条件では, エラーバイアスが多く生起し, より短い距離で地図を回れるようになるとともに, やりとりにおいて, 自分の考えを柔軟に捉え直していた。これらのことから, 課題活動に対するポジティブ感情は, その活動に没頭させ, さらに, 相手の考えに対する柔軟な姿勢を作ることで, 新たな視点から自己の考えを捉え直させるといった認知的営みを促進させる働きを持つことが明らかとなった。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
小林 敬一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.199-210, 2012
被引用文献数
3

本論文では, 大学生による紙上討議(論述文の中に産出された, 複数テキスト間の論駁的関係に対する応答), それとテキスト間関係の理解との関係, そしてこの2つの過程に及ぼす読解目標の効果を検討した。大学1年生95名に, 論争の構図を理解する読解目標(論争理解目標)条件か争点に関する自分の意見を生成する読解目標(意見生成目標)条件かのいずれかの条件で4つの論争的なテキストを読んでもらい, それから争点に関する自分の意見を論述してもらった。主な結果は次の通りである。(a) 論述文の中でどの論駁的関係にも応答していなかった者や論駁された論者の議論をその論駁に対する反論なしに利用した者が半数以上いた。一方, 全ての論駁的関係を踏まえてそれらに応答した者はほとんどいなかった。(b) テキスト間関係の理解は論駁的関係に対する応答を予測した。(c) 論争理解目標群は意見生成目標群よりもテキスト間関係の理解が優れており, この効果は論駁的関係に対する応答にまで及んだ。
著者
弓削 洋子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.186-198, 2012
被引用文献数
1

本研究は, 教師がひきあげる機能と養う機能という, 2つの矛盾した指導性機能をいかに実践して統合するか, 統合のあり方を各機能に対応する指導行動内容から捉えることを目的とした。小学校教師191名を対象に, 指導行動内容, 学級児童の学習意欲と学習理解度, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性について質問紙調査を実施した。その結果, 高学年では, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動「理解」との間に正の相関があり, 教師がいずれの行動も多く実施するとき, 児童の学習意欲, 規律遵守意欲, 規律遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。中学年では養う機能の指導行動「理解」を多く実施するとき, 規律遵守意欲と遵守度, 学級連帯性の評定値が高いことが示された。但し, 担任学級4~6年児童(34学級, 1,037名)による学習・規律遵守意欲, 学級連帯性評定では, 学級連帯性のみ教師評定と一貫した結果となった。高学年において, ひきあげる機能の指導行動「突きつけ」と養う機能の指導行動との相互促進的な実施が機能統合の具体像として示された。児童の資源や課題性にみる学年の違いが影響したと示唆される。